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失敗の原因

 『蟲の女王』討伐作戦の失敗を知った煉は、獣太と虎太郎にビデオ通話で連絡をとる。2人は特に目立った外傷はなかったが、その表情は明るいものではなかった。


「何があったんですか?」

「…作戦失敗の原因は大きく分けて2つ。1つは思ったより蟻どもが多く、そして強かった点。もう1つは…まあ事前に注意喚起しとくべきだったんだが…」

「何を言い淀んどる獣太! おい煉、蟻系のモンスターが出現するダンジョンで気を付けるべきことを言ってみろ!」

「そんな急に言われても…群で行動することが多い点とダンジョンを掘削して蟻の巣ダンジョンにしてくる場合があるから地図を信用せず奇襲に注意する点…すいません基本的なのしか思い付かないです」

「ほれ、高校生の煉でも基本として知っとる知識じゃ!」

「そうですけど虎太郎さん。煉坊は特殊ですから」

「えーと話が見えないんですが?」

「実はな――」


 獣太が一連の流れを話してくれた。

 『美獣』と『虎穴虎子』を含めた主力チームで進んでいき、他の探索者たちがサポートと残兵処理を行っていたところ、予想以上の蟻の数と強さのせいで主力チームが討ち漏らした蟻をサポート組が処理するのが難しくなってしまった。その結果主力チームの戦力を減らすという本末転倒な状況になってしまった。


「予想外の戦力ですか」

「一匹一匹が下層級、リーダー格は深層級ってところだ。ただそれだけなら俺たちと『虎穴虎子』で対処できた。ただ――」


 それだけなら良かったのだ。しかしサポート組の横っ腹に蟻たちが奇襲した際、蟻たちがダンジョンの壁を掘って進んでくるという情報を知らなかった者たちが動揺し、正常な者たちすら巻き込んで半壊。被害にあったのはサポート組の内の1つだが、深層にも到達していない状況でこれでは作戦続行は不可能と判断した2人が撤退を指示したのであった。


「『蟲の女王』を討伐する作戦で基本事項を知らなかった?」

「一応協会からの事前説明会はあったがの。大方参加せずに来た者共じゃろうて」

「そうですか」

「正直な話、練度が足りなさすぎた。あれでは仮に進んでいたとしても良くて半壊、悪ければ全滅もあり得た。ただな…」


 ネットでは今回の作戦のリーダー役であった『美獣』と『虎穴虎子』を叩く流れが出来つつあり、死人を叩き難いマスコミたちも直接的ではないにしても2チームを悪く書いていたという。

 しかしそれ以上に要請を拒否した探索者を非難した。名前こそ挙げていないが聞いたものは煉を非難していると分かるだろう。


「負ければ賊軍じゃからのう。別にワシらはいいんじゃが。問題はお前さんじゃ。今からお前さんが来て作戦に参加したとして、もし仮に成功させたとして、この炎上は収まらんじゃろ」

「そうだな。煉坊が最初から参加してれば被害は無かったという批判はくるだろう」

「別に気にしませんが?」

「じゃがな…」


 煉のことを気にしてくれる2人の思いが伝わってくる。


「そう言えば、蟻の数と強さの秘密は分かったんですか?」

「ああ、『虎穴虎子』のメンバーの1人に『解析』持ちがいたから蟻を解析してもらったら、全員に共通して付与されてる状態異常があった。効果的にはバフに近い」

「バフのような状態異常?」

「『本能覚醒』だそうだ。効果は『限界突破』の強化版だそうだ。メリットもデメリットも」

「限界以上の強化をする反動に強化が終わると肉体がボロボロになるあれですか。そんなのが全蟻に…」


 煉の興味スイッチが押される音がする。


「…来る気かのう?」

「これを聞いたら煉坊は来そうだとは思っていたが」

「行きますよ。興味深いですし…ただ回りに邪魔されても面倒ですからこっそり行きましょうよ。自分たちだけで」


 煉のとある提案を聞いた2人は呆れ顔である。


「そんなこと独断専行も甚だしいわい。火に油を注いどるのと変わらん」

「ちゃんと協会長に許可もらっておきますよ」

「虎太郎さんも俺もそんな心配はしてないが…」

「これで成功すれば責任がどこにあるのかはっきりするでしょ?」

「…まあいいか。回りを気にせず戦えるのは俺としても有難い」

「しょうがないの。勝てば官軍じゃからの。結果で黙らせるかの」


 煉の悪巧みが何を意味するのか察した2人は、少し照れくさげに了承するのだった。

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