蠱毒ダンジョン3
どんどんと近づいてくるモンスターを感知した煉は、剣を構えいつでも次元流剣術が発動できるように準備する。すると
『グオオォォォォォ!』
前方から接近してきたのは巨大なスライム。しかし通常のスライムではなくモンスターを取り込み取り込んだモンスターの姿に形を変える通称『悪食』であった。現在はかなり大量のモンスターを取り込んだのかキメラのような見た目となっていた。
「悪食なら今回ダンジョンブレイクにならなかったのも理解できるが…『空絶』」
普通の物理攻撃は悪食に効果が薄いが、次元流剣術であれば問題なく切り裂ける、筈であった。
「なに!? 攻撃を吸収? 悪食にそんな能力は無いだろ『空間断裂』…ってまた?」
確かに直撃した筈の斬撃は悪食に吸収されたかのように消失してしまう。それだけでも衝撃的であったが、次の瞬間、信じられないことに悪食から斬撃が飛んでくる。
『魔力感知』で感知した煉は『空絶』で相殺する。相殺できてしまう。
「悪食が次元流剣術を? どういうことだ?」
煉は困惑しつつも待っている知識から推測する。
悪食にはおそらく『悪食』と呼ばれるモンスターを取り込みその能力や特徴を再現するスキルがあるのではと言われている。しかし今回取り込んだのはスキルである。スキルを取り込み再現できるのであれば攻撃が通じないことを意味する。しかし『悪食』がそうであるように、この未知なる能力にも限界はあるだろう。
「最悪なのは限界など無い能力で無限に強くなっていくことだが、そうなったら元から勝ち目がないと諦めるしないか」
「グオオオオオォォォォ!!」
と言うことで煉と悪食の耐久戦が始まるのだった。
―――――――――――――――
日本探索者協会本部では、緊急に会議が開かれていた。忙しくていつもなら揃わない幹部の連中も全員勢揃いしていた。
「探索者に関することは貴方の管轄ですし、私たちも特に口を挟む気はありませんでしたよ。しかしこれはあまりにも杜撰ではありませんか?」
「何が言いたい!」
「まずは神埼煉本人に了承を得るべきだという部下の言葉に耳を貸さず、貴方とその仲間内で独断で決定したかと思えば勝手に交渉に行き失敗。挙げ句マスコミを使ってわざわざ自分の失態を世間に晒し上げる。よくもまあこれだけやらかして椅子に座ってられますね」
「うるさい、うるさい、うるさい! 若造が偉そうに私に説教か!?」
「ええそうですよ。私は貴方と同じ部長なので。貴方が偉そうにするなら私も偉そうにさせていただきます」
2人が言い争うせいで会議室の空気は死んでいた。
「まあ、ダンジョン統括部長、探索部長取り敢えず落ち着きなさい」
「会長、しかし」
「統括部長?」
「はい」
「ふん!」
探索者協会の長が場を納める。それくらい協会長には雰囲気があった。
「まずやるべきことはどう対処するか。これは勿論、探索者煉へどうするか、そして責任をどう取るかなど色々とあるが、取り敢えず私と…探索部長?」
「なんですか?」
「2人の辞職で納めるのでそのつもりで」
「な、なん」
「君の首がもう少し重ければ私は大丈夫だったのだが。まあ副会長補佐の件もあるから遅かれ早かれか」
「協会長!」
「これは決定だよ。やはり私のような探索者からの成り上がりにこの役職は重かったよ。それで探索部長?」
「なぜ私が辞めなくては――」
「今回の件で貴方は何を貰ったのかな?」
「え、あの…」
「それを明らかにしたら次にやるべきことが、見えてくれるからね。早くしてね」
会議室の空気は先程とは別の意味で死んでいた。
会議が終わり、協会長が協会室で事後処理を行っていると秘書が入室してくる。
「失礼いたします?」
「ああ、いいよ。何かあったのかい?」
「は、はい。先程、クリアフィから連絡が届きまして特級探索者神埼煉が無事クリアフィダンジョンの氾濫を終息させたとのことです」
「そうか。流石だね」
「それで、その氾濫の守護者の能力が未知のモノである可能性が浮上したらしく。こちらが簡易的ですが資料となります」
「なに? …‥『悪食』の上位能力。まさか!」
「と思われたためご報告に。一言言わせていただくのであれば、これから起こる事態に新人協会長では難しいかと」
「そうか…下がってくれ」
「承知いたしました」
秘書を退室させ書類に眼を落としながら呟いた
「まさかこのタイミングで出てくるとは」




