蠱毒ダンジョン
とあるニュースが朝のニュース番組を独占した。それは渋谷の英雄として連日話題になっている神埼煉が自身を優先させ、外国からの派遣要請を断ったというモノであった。それに対しての世間の反応は様々であった。
年配のコメンテーターは、煉を辛口で批判した。曰く
「困っている者の気持ちを考えられないのか」
逆に若者の憧れとして紹介されたモデルの女性は、
「要請は断る権利があるってことは、渋谷の1件でみんな知ってるし、断っただけで批判されるのはどうかと思う。あの事件も少し前の話なのにまた煉くんに依頼するのは頼りすぎてる気もする」
とコメントし、両者の意見に共感する者が発生した。
しかしこのニュースを流した者が予想外だったのは、煉を批判する者の方が少数意見であり、煉に頼りすぎてる協会や政府にも批判の声が多く上がったことである。今までこういったニュースが出ると、要請に応じない探索者に批判が殺到していたのだが、今は時期が悪かった。渋谷の1件でみんな、再認識させられたのだ。ダンジョンの怖さと探索者の存在のありがたみに。しかもその渋谷の危機を救った本人を非難の的にしようとは土台無理な話である。
更に煉が配信活動をしているチャンネルの広報用のSNSでとある投稿が成された。
それは動画投稿を暫しお休みするも言った投稿であった。そのため今回の件があって休養となったのかと思われたが、その投稿の内容が波紋を呼んだ。
【お騒がせしております派遣要請の件ですが、煉本人及び私、友人の希望もあり、探索者協会からは門前払いとなり、私たちに直接依頼という形での要請があったクリアフィダンジョンへの派遣要請を受ける運びとなりました。現在、煉本人は現地に向かっている状況となります】
すぐにクリアフィダンジョンを調べると確かにダンジョンブレイク寸前であることが分かった。しかもそこは貧困地域でありまともに探索者を呼ぶことも出来ない状況であった。
そのため疑問に思った有識者が今回煉が断った派遣要請の詳細を調べてみると、緊急性は薄いが報労金の額は大きい依頼であった。そのため煉関連でまたしても協会側の不祥事ではないかと世間は感じるのだった。
―――――――――――――――
クリアフィダンジョンの特徴はダンジョン内のモンスター同士が日々争いあい、強さを磨いているため探索者が遭遇するモンスターは、通常のダンジョンにいるモンスターより数段洗練されているという、蠱毒の壺のようなダンジョンである。
「蠱毒ギミックのあるダンジョン。おそらくその特徴のお陰でまだダンジョンブレイクが起こってないんだろう」
同種なのに洗練されているモンスター。どうやればそのような仕組みが可能なのか分からないが楽しみである。
「特級になったときに取得した探索者ビザって初めて使ったけど便利だな。その国の許可を取れば探索活動が可能なんて凄い話だ」
ダンジョン国際法に定められた法律であり、特級探索者は希少な存在のため国際的にも優遇されていた。
「さてと。学校をサボるのは気が引けるが優弥が何とか言い訳してくれるだろ。さて飛行機の時間だ」
そういって煉はクリアフィダンジョンへと飛び立っていくのだった。




