無自覚な人気者
探索者協会のお偉いさんが帰っていった後、竜王の素材含め、今回の氾濫ででたモノは全て作戦に参加した探索者の所有という決定が下された。
その後、探索者間で竜王の素材をどうするのか少し揉め事は発生したが、お裾分けしたい煉が粘り勝ち、探索者に十分な素材が行き渡った。
「まったく。今回の報酬全て煉坊が独占したとしても誰も不満にすら思わないってのに」
「素材は探索者に行き渡ってこそでしょ? 自分が独占しても使いきれませんし」
「オークションに出せば一生遊んで暮らせるような金が手に入ったのによ」
「一生遊んで暮らせる場所があるので、まあその遊び相手へのプレゼントでもと思って諦めてください」
「そうか。なら俺たちももっと鍛えないとな! 着いていけなくなっちまう」
「さて、自分はそろそろ遊びに出掛けますね。後1日半しかここにいれませんし」
「馬鹿か! 今日明日は休養に決まってるだろ! しっかりと精密検査を受けてこい!」
「ええ!」
「当たり前だ!」
結果として、煉の三連休特級ダンジョン満喫ツアーはイレギュラーにより、1日半で幕を閉じたのだった。
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火曜日、学校に向かう煉の足取りは重かった。知らない人に声を掛けられたり、名前を呼ばれることが何故か増えたのだ。
途中から本格的に面倒になったので『気配遮断』を使い、声を掛けられないよう工夫して登校した。
「おい」
「うわっ! な、ああ煉か。びっくりした」
「大袈裟だな」
「いきなり目の前に人が表れたらびっくりするでしょ。それで何? 凄く不機嫌そうだね」
「そう見えるか?」
「どうせ前より知らない人に声かけられて、また僕がなにかしたと勘繰ったんじゃない?」
「そうだ」
「そんなことしてないよ。煉がやらかしただけ」
そう言って優弥はとある動画を見せてきた。それは煉自身が竜王と戦闘している映像であった。そしてその画角を煉は知っていた。
「ダンジョン速報か?」
「そうだよ。さすがダンジョンの事は詳しいね」
「で? これがなに? ただの戦闘映像じゃん。何か特別なことでも起こるのか?」
「無自覚って凄いな。まあ普通の人から見たらこの映像が特別なんだよ。だからこの映像に映ってる煉を認知した人が多かったってわけ」
煉は首を傾げる。同じ探索者がこの映像を見て何らかの反応を示すのは理解できるが、ダンジョンに行ったこともない人がこれを見て何を感じるのか分からない。煉は優弥からゲーム配信の神業とかいうモノを見せられた際、一ミリも興味が湧かなかったことを思い出すのだった。
「それでさ、チャンネルの登録者も凄い数になってきたんだよ」
「へー、おめでとう」
「他人事だね。それで視聴者から生配信をしてほしいって要望が多いんだ。あとオフ配信とか」
「生配信は分かるがオフ配信ってなんだ?」
「まあ煉の場合はダンジョン以外での撮影ってことになるのかな?」
「ほう。嫌だな。というかやる意味がわからん」
「だと思った。まあでも、やる意味を答えるとすれば需要に合った供給をするのは商売の基本でしょ?」
「よくわからんがやらない」
「分かった。今回はこの特級ダンジョンの映像で我慢しときます」
煉はあくまで探索者であり、配信はあくまでも探索初心者に向けた解説が主である。煉が渡した映像を色々と編集してよく分からない動画等も投稿しているが、煉が配信をする目的は当初からブレてない。
オフ配信とやらはその目的に寄与するモノではないため、煉は即座に断るのであった。




