恣意的な作戦
深夜3時、特級ダンジョン入口には煉の他に探索者協会の職員数名、探索者10人ほどが集まっていた。その中には『美獣』の2人の姿もあった。
「お二人も呼ばれたんですね」
「おう煉坊、ここを拠点としてねーお前さんを呼んどいて俺たちが呼ばれないわけないだろ。まあ他の特級パーティや上級パーティは来てねーがな」
「しょうがない、わよね。探索者に探索を強制は出来ないわ。逆にこれだけでも集まったことが凄いのよ」
今回の氾濫による被害は想像を絶するものになると予想されている。その最初の被害者は氾濫を食い止めようとする探索者だろう。誰も生け贄にはなりたくないのだ。現在の時間も考慮に入れれば集まった方である。
そうこうしていると、探索者協会の職員が今回の作戦の概要を話し始める。
「まず初めに、探索者の皆さんを氾濫を止めるため守護者を討伐する攻撃とモンスターをダンジョン外に出さない防衛に分けます」
「なに! 守護者の討伐だと! 正気か? 深層級のモンスターがうじゃうじゃいる場所に突っ込ませた挙げ句、さらに規格外の守護者を討伐する? 無謀すぎるだろ」
「無謀なのは重々承知です。しかしこの人数で氾濫が収まるまでダンジョン入口を防衛というのも無謀です。ならば氾濫を収めるしかないのではないでしょうか?」
氾濫が終了するパターンは2つあり、1つは時間経過により正常に戻るパターン。そしてもう1つが氾濫が起こると、その発生源に現れる守護者と呼ばれるモンスターを倒すことである。
しかし守護者はその特性上、モンスターが異常発生している源付近にいる。涌き出てくるモンスターを掻き分け守護者までたどり着き討伐しなければならないのだ。
「な、ら攻撃班は俺が…」
「いえ、『美獣』のお二方には防衛の要として残って貰います」
「なに!? じゃあ攻撃班は」
「はい。神埼煉さんにお願いします」
「ふざけるな! 一番危険な役目を学生の煉坊にやらせる? 冗談も休み休み言え!」
「冗談ではありません。彼の機動力がなければモンスターの数の力に封殺されてしまうでしょう」
職員の言葉は理にかなっていた。『美獣』はどっしりと構えての戦闘を得意とする。まさに防衛戦などで真価を発揮するタイプである。これが攻撃に回されれば、乏しい機動力ですぐにモンスターに囲まれてしまい守護者まで辿り着けないかもしれない。
それでも大人として危険な役回りを子どもに押し付けるわけにはいかない。そんな思いで獣太は反論しようとする。
「それでも…」
「獣太さん。大丈夫ですよ」
「煉坊…だが」
「任せてください。獣太さんも任せましたよ?」
「…おう!」
しかし煉に遮られる。煉としてはより間近で氾濫を見られる攻撃に回される方が嬉しい。獣太には悪いが。
こうして特級ダンジョンの異常氾濫終息作戦が始まるのだった。
「しかし攻撃が自分だけ、あとは全員防衛ってバランス悪いな。まあ俺は自由に出来て嬉しいが」
直感だが作戦に悪意的なものを感じる煉。とはいえ悪意であろうとなんだろうと、煉としては好都合なので問題ないのであった。




