動画出演
長いようで短かった夏休みも残り僅かとなったとある日、煉は原初スキルを付与したアイテムを鋭意作成中の来栖とドリーの元に来ていた。
煉としては、支部長から受け取った許可証を使い各地のダンジョンを回りたかったのだが、来栖からドリーの様子がおかしいので来て欲しいという連絡を受けていた。とある動画を見た後から様子が変化しており、アイテムの作成などに今のところ支障はないとの事だが、放置するわけにもいかなかったため、来栖の研究所に赴くこととなった。
研究所に着いた煉が見た光景は、幼子のようにいじけたドリーを来栖が宥めている様子であった。そんなドリーが煉の来訪に気がつく。いつもなら煉の元に駆け寄ってくるのだが今日はそうする素振りも見せない。確かに様子はおかしい。その理由をすでに煉は聞いているが、煉としてはドリーに気を遣った結果のため困惑が大きかった。
「来栖さんから聞いていたがここまでいじけてるとは思わなかった」
「...別に、しっかりやることはやってるの」
「そこは心配してないが。まあ俺にも原因があるから、出きることなら検討するぞ?」
「...なら私も出演したいの。ウィンディーネだけ出ててずるいの」
ドリーがいじけた原因は先の生配信でウィンディーネの動画を流したことであった。煉としてはドリーとの動画を流すことで『神秘の森』に探索者が殺到する可能性等を考慮した結果、ウィンディーネとの動画を選択したのだが、新参者であり同じ妖精種のウィンディーネに先を越されたため拗ねてしまったようであった。
「...まあ主人側には俺とドリーの関係はバレてるから問題ないが...考えることと言えば撮影場所と内容か?」
「場所は私の森でいいの。内容は...私ができるのは植物さんたちとお喋りくらいなの」
「そうか」
ドリーが動画に出演すれば話題になるだろう。先の生配信の目的であった主人たちから世間の話題を奪うということは完全に達成できる。しかし何の脈絡もなくドリーを出演させれば、何らかの思惑があると視聴者に察せられる危険性がある。既にウィンディーネの動画の件でも勘繰られていると優弥から聞いているのだ。
出演するなら何らかの口実、もしくは煉チャンネルの特色に合致したネタがないと難しい。そんなことを煉が考えていると来栖が口を開く。
「植物と話せるならー薬草とかのー採取方法とかーそういうのをー教える動画なんてどー?」
「薬草採取ですか...確かに良いかもしれませんねそれ」
「薬草なの?」
「新人の探索者だとー薬草の見分けとか適切な採取方法はー苦戦するのー。それをー教えてあげればー?」
来栖の提案はかなり妥当なモノであった。『神秘の森』などの植物系のダンジョンでは薬草など効力がある素材を採取する事があるのだが、探索者成り立てだと薬草と間違えて毒草を採取してしまうケース等も多い。そう言った事を教えるのは確かに煉チャンネルの主旨に則っている。
「採取なの...それはなかなか難しいの。頑張ってみるの」
「そうか? じゃあそんな感じで頼む」
植物のスペシャリストたるドリーにとって薬草の見分けや適切な採取など簡単だと思った煉であったが、ドリーは少し難しそうな顔をしていた。そこに少し違和感を覚えつつもドリーの目はやる気に満ちているため任せることとなった。
後日撮影して届けられた映像を見た編集担当の優弥は頭を抱えつつ動画を完成させた。その動画の内容は何の変哲もないと思われていた薬草を、適切な時間に適切な手法で採取し、適切な保存方法で保存することで、高難易度の植物系ダンジョンのドロップ品でしか見ることがなかった『霊草』として採取ができるという衝撃の内容であった。
そしてドリーが動画の最後に放った一言
「私が最初から育てた子たちなら『神草』にしてあげられるの。この子たちは色々と食べ過ぎなの。もし次回があればそれも見せるの。それじゃあなの!」
『霊草』ですら最高位ポーションの材料として必須のモノである。そんな『霊草』よりも上位の薬草の存在。未だ人類が発見できていないそれを仄めかしたドリーと煉チャンネル。それを世間が放っておく筈はないのであった。




