リスクヘッジ
『もしもし、こちら株式会社MSSの者です。加藤様のクレジットカードについて利用確認をさせていただきたいのですが、お時間よろしいでしょうか?』
「え、あ、はい。どうぞ……」
『昨日、遊園地のペアチケットを購入されましたか?』
「んー? ああ、あそこのですね! はいはい、しましたよ」
『えっ』
「え?」
『あ、加藤様のカードが不正利用された疑いがあり、お電話させていただいたのですが』
「えっ……あー、これあれですよね。普段買わない物を買うと確認するとかいうやつですね。ははは、大丈夫ですよ」
『はい、それで本当にご購入されましたか? ペアチケット』
「え、はい」
『お一人で行かれるのですか?』
「ははっ、そんなわけないでしょう。ペアチケットですよ。はははは」
『ではどなたかにプレゼント、あるいは親族の方などとご一緒に』
「いや、普通に彼女と行くんですよ、ええ」
『彼女……?』
「ええ、恋人ですよ。いやーははは、最近正式に付き合うことになりましてねぇ」
『ああ、そうでしたか』
「そうなんですよ、ははははは!」
『本当に?』
「ん、はい?」
『本当に彼女ができたんですか?』
「いや、本当ですよ! なんですかもーはははは」
『彼女? できた? あなたに?』
「いやいや、ちょっと! あんた、さすがにさっきから失礼じゃ――」
『アダルトグッズ』
「え」
『アダルトグッズ。先月、ウェブサイトでご購入されてますよねぇ。それも一人用の』
「そ、それは、まあ、そんなことも」
『たーくさんね』
「う……べ、別に個人の自由でしょうが! だ、大体、それが彼女ができたと嘘をついている証拠にはならないでしょう!」
『加藤さん……見栄を張らずに正直になりましょうよ。嘘をつくなんて、お母さん、きっと泣いてますよ?』
「だから嘘じゃないですって! それに母は関係ないでしょう!」
『カツ丼……食べたくはありませんか? よく注文してましたよね? インスタントの。またぁ……注文したくはありませんか?』
「う……いやいやいや! 彼女はいるって! なんなんだよ!」
『……私じゃ駄目ですか?』
「……え?」
『加藤さんの彼女。私じゃ……駄目ですか?』
「え、え、ええ!? いや、駄目とか、え、え?」
『実際に会ったことないと……無理……ですよね。愛なんて感じませんよね……』
「い、いや! そ、そんなことはない! 会わなくたって! 声やメッセージのやり取りだけでも愛は伝えられる!」
『そんなの……幻想ですよ……』
「そ、そんなことないって! その証拠に、俺は彼女とまだ会ったことないけど、確かに愛はあるって!」
『彼女と会ったことがない。一度も?』
「ああ、そうだよ。でも、ふふふっ。そうそう、それで今度こそ、そのペアチケットで会うんだぁ」
『今度こそ?』
「そ、前にも買って送ったけどドタキャンされちゃってね。まあ、怒ってないけどね。ほら、俺って度量広いし」
『一度も会えず?』
「ん、ま、まあ、ね……」
『頻繁にプレゼントを?』
「まあ、はい……」
『大事な物も送ってませんか?』
「えっと……」
『今月に入ってからペアチケットの他にブランド品のバッグや時計、お酒など多数購入されていますが加藤様、クレジットカードを誰かに郵送したとかしてませんか? そう、彼女さんに。最近、似たようなケースが多発し、お認めにならない方が多いので、失礼ながら揺さぶりを掛けさせていただいたのですが』
「……愛、なんだ……これは……あぃ……」
『不正利用分は請求されることはありませんのでご安心ください。
カードは利用を停止させていただき、別番号にて再発行させていただきますが、よろしいですか?』
「……はい。……あ、あの、へへ、それで、あなたが俺の彼女にという件なんですけど、あの、あれ? もしもし? あの、おーい……リ、リスクヘッジ……」