聖剣の鞘
連載予定は無いです。思い付いたままに書いてます。
この村では、騎士になる事が、騎士になる者が一番の憧れだった。
俺も努力した。けど、俺だけが選ばれなかった。何故なら俺だけがルーンという力を授からなかったからだ。
幼馴染みのディック、リリアン、オリアナは騎士になれた。
「くそっ、俺だって!」
そう言って村の周辺に出る魔物を狩っていた。
ある時、森に異変が起きている事に気付いた。いつも狩っていた魔物が居ない……いや、これは、
「狩られている?」
この時間帯に狩りに出ているのは俺くらいだった。なのに誰かが狩りをしている。一体誰が……
『アアァァー!!』
「なっ!?」
違う、人じゃ無い。狩りをしているのは……
「……ルーイン」
この世界を守る騎士達がいる。彼等が仕えているのは、忠誠を誓っているのは、この世界の女神。
それに敵対するのがルーインと呼ばれる特殊な雰囲気を持つ魔物。普通の人間には倒せない、騎士となり加護を持つ者にしか倒せない魔物。
「俺を狙っている?」
どこに移動してもこちらに向かって歩いて来る。俺では勝てない、騎士を呼ばないと、でも今は、この場から逃げないと。この場から逃げなければ助けを呼ぶ事すら出来ない。村に行っても奴に喰われるだけ……そうか…村か、
「……こっちだ!」
どうしてそんな事をしたのかは分からない、村の皆が奴に喰われるのだけはどうしても避けたかった。
『グォオオ!』
走る、走る。村から離れる様に、出来るだけ遠くへ、例え俺が喰われても、村の皆に被害が無い様に出来るだけ遠くへ。
「…はぁ、はぁ…あいつは?」
そう思って振り返ると、
ブンッ!
「がぁ!?」
俺の腹に奴の拳があった。
「…く…そ。」
身体中が痛い、奴は笑っていた。おそらく俺は遊ばれていた。
剣を構える。身体は限界に近い、内臓をやられたのか口から血も出ている。騎士になったら、騎士になれたら、こんな奴には負けないのに。
奴は拳を振りかざした。それに合わせて、剣の腹で受け止めた。だが剣の軋む音と共に剣は折れ、そのまま殴られる。
「…ここまでか。」
満身創痍、もう戦える状態じゃ無い。そう思った時、
(…と…れ…)
「え?」
声が聞こえた。振り返ると、そこには綺麗な剣が台座に刺さっていた。
(生きたいのなら、私を取れ!)
ただ言われるがままに剣を取った。奴が近付いて来る。
(私が合図をしたら斬れ!)
剣から声が聞こえる。それに従い俺は構える。
(今だ!)
剣を振った。瞬間、光が走った。たった一振り、それだけで奴は絶命した。
(やれやれ、資格の無い者でも、最低限の力は出せたか。)
最低限?今のでか?
「あんたは…一体?」
(私はグローリー。対ルーイン用に創られた聖剣だ。)
これが、俺とグローリーの出会い、そして旅の始まりだった。
ーー聖剣の使い手を探す?
ーーそうだ、君には私の鞘になってもらおう。
ーーおい、俺は騎士になれない人間だぞ?
ーーその騎士とは何だ?
ーーくそっ、貧乏くじを引いたみたいだな。
ーー気負うな、私がいる。
ーー待て、俺は勇者じゃない!この剣の使い手を探しているだけだ!
ーー今のお前なら、そこら辺の魔物に負ける事は無い。私抜きでな。
ーー久しぶりだな、相棒。
これは一人の青年と聖剣の物語。