第5話・黒い正義はどう見ても悪
書こうとした小説も書けず、
アイスの当たり棒も引き換えに行けず、
綺麗に斬ってもらった袋とじも見ないまま、
俺はただ天井を見つめていた。
俺が思ってた「ツッコミどころ」って何だったんだろう。
多分、俺と同じスーパー戦隊をよく知らない誰かが言いふらした有りもしないツッコミどころがいつの間にか耳か目に入ってて、それをまた、別のよく知らない誰かの耳か目に放り込もうとしてしまってたんだろう。
俺はなんてバカだったんだ。
「そうだ、貴様ら人間はバカでマヌケな下等生物だ」
そうそう、満足に袋とじも開けられない下等生物……って、背後からこれまでとは随分と毛色の違う声が聞こえてきた。
振り向くとそこにいたのは、全身黒い鎧に包まれ、光る目と犬歯剥き出しの口で、さっきのザシキワラシさんと違って一目で人間じゃないとわかる顔のキャラクター。
もしかして、あんたがザシキワラシさんのお友達のえっと……ブルクダンさん?
「あんな牛野郎と一緒にするな!」
牛野郎?
あー、なるほど、ブルって牛のことだし、件って牛の妖怪って何かで読んだことある。
あんたは確かに牛ではないな。
じゃ、誰?
「私は悪魔帝国デモンダイムの大幹部・バアルだ!」
悪魔!!
ついに悪者まで来ちまった!
「悪者だと? それは貴様の基準で言っているだけだろ。正義の反対は悪ではなく別の正義という言葉を知らんのか?」
いや、あんたら大量殺人とか平気でするんだろ?
そんなの「別の正義」とかで許せるわけあるか。
「人間など何匹死のうが特に問題は無い」
あるわ!
あんたらの世界征服のために罪も無い人が殺されるのは問題ばっかりだ。
「世界征服?」
あ、そういやヨーカイジャーは敵の目的が世界征服じゃないんだったか。
「昔は世界征服のために活動していた連中もいたようだが、我々の場合は偉大なる支配者サタン様復活のため人間どもの負の感情から生まれるエネルギーを集めている。な? そのために人間どもを痛めつけているのだ。死ぬことがあってもかまわんだろ?」
な? じゃねえよ。ひとかけらもな?じゃねえよ。
「他にも、地球を汚して自分達の住みやすい環境にするためだとか、ボスの後継者になるための勝負だとか、不死身のボスが仕掛けた退屈しのぎだとか、色々な目的で動いていた奴らがいたらしいが……世界征服が目的だったのは随分昔の奴らだな。人間どもに代わって地上を支配したいという連中は最近もいたようだが、所謂世界征服というのとは少し違うやり方らしい」
悪者の目的は世界征服だけじゃないのか。
「だからその悪者というのを……」
じゃ、ヴィラン?
「…………それならいい」
横文字ならいいのかよめんどくせえ。
じゃ、ヴィランはなんで、戦闘員はいっぱい出すのに怪人は1回の戦いで1体しか出さないの?
「組織によって違う事情がある。既に居る怪人を送り込むタイプの組織の場合、我々デモンダイムがそうだが、怪人を送り込むことにエネルギーを消費するから1体ずつにしているとか、さっき言ったようなボスの後継者選び等で怪人同士が競い合う関係にあるので基本的に1体ずつで行動しているとか」
一気にみんなで攻めてこないのにも理由があるんだな。
「怪人を作るタイプの組織の場合、戦闘員は沢山作れるが、怪人は戦闘員よりコストが掛かるから1回の戦いで1体だとか、怪人を作る担当の幹部が芸術家だからインスピレーションが湧かなければできないだとか、そんな事情があるらしい」
インスピレーション……そんなんで作るの遅れたらボスに怒られない?
「あまり遅れすぎると怒られることもあるようだ。それと、そもそも組織ではない侵略者や破壊を好む野良の怪獣なんかもいる」
完全に個人的に活動してる奴らもいるのか。
じゃあ、そんな組織のヴィランも個人のヴィランも、なんでみんないつも地球の日本の関東地方しか狙わないの?
「貴様、広い宇宙の中で地球だけが狙われているとでも思っていたのか?」
他の星も狙われてるのか。
「宇宙の星々を荒らし回っている組織が今度は地球をターゲットに決めた、というのはよくあることだ」
じゃ、地球の中で日本の関東地方しか狙われないのは?
「身近で起きることにしか目を向けられないのが貴様ら人間どもの愚かなところだ。日本以外に怪獣やなんかが現れることもある。こっちの世界ではそれを『作品』で見られるんじゃないのか?」
また俺が知らないだけか……
「何人かの怪人がそれぞれ支配した町で列車で移動してくるヒーローどもを迎え撃つだとか、それと似たようなことを宇宙の星々で宇宙船に乗って来るヒーローども相手にやるだとか、そんなことをしていた奴らもいたらしい」
関東しか狙わない悪も……ヴィランはいないの?
「活動の目的によってはあまり広い範囲を狙う必要が無い場合もある。我々の計算によれば、最も効率よく負の感情を産み出せる人間は…………喜べ、貴様ら日本人だ!」
喜べるか!
「よって我々の場合、最も多くの日本人が生息している場所で主に活動している」
もしかして、国民一人一人が武器とか持って無いのも関係ある?
「貴様らの武器で攻撃されても虫刺され程度にしか感じないが、虫刺されも少ないに越したことはない」
確かに。
だったら、虫刺され程度じゃ済まない攻撃をしてくるヒーローがいるところにわざわざ行く理由は?
「ヒーローどもがいるところに我々が行くのではない。我々が行くところにヒーローどもが現れるのだ」
そうか、ヴィランが来るところだからそこにヒーローが現れるのか。
「そう、我々がいるからこそ、ヒーローどもには存在価値がある。だからヒーローどもは我々に感謝するべきなのだ」
それは違うな。
「なに?」
医者がウイルスに感謝するか?
警察が犯罪者に感謝するか?
自衛隊が震災に感謝するか?
しねえよ。
お前みたいな目的のためなら人が死のうがどうでもいいなんて言ってる奴らがいなきゃ、ヒーローは命掛けの戦いなんかせずにもっと普通の生活して幸せに生きていけるんじゃねえの?
そりゃどんな生き方でも辛いことはあるさ。
でも誰が好き好んでお前らみたいな、戦隊よりも大勢で襲ってきたり、変身中も攻撃してきたり、死んだ部下まで巨大化させて利用したり、そんな酷い奴らと戦わなきゃいけない生き方選ぶんだよ。
普通嫌だよ。
でもそれをあの人達はやってるんだ。
ヨーカイジャーさん達と話してやっとわかった。
だからヒーローはかっこいいんだよ!
それにさっきから気になってたけど、お前、他の悪の組織のこと話すとき、「らしい」とか「ようだ」が多いよな?
ヨーカイジャーさん達が他のヒーローのこと話すときはもっと自信もって言い切ってたのに。
直接本人達から聞いた話じゃなくて、資料を読んだとかが多いんだろ?
だって悪い奴らは、ヒーローにやられていなくなっちゃうもんな!
お前らデモンなんとかも絶対そうなるに決まってる!
「ほう…………なるほどなるほど素晴らしいスピーチだった。それだけの言葉を並べられる想像力があるからこそ、この私をこちらの世界へ導くことができたわけだ」
…………は?
「褒美にこの世界での生け贄第1号にしてやろう!!」
おい
待て
やめろ
離せ!
どこ連れてくんだ!
わあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
【to be continue……】