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10/12

010 正義を騙る

 



 すべてお姉様の言う通り。


 最初の人殺しをしてから一週間。


 私はすでに、10件以上の依頼をこなしていた。


 そこに迷いや苦悩は一切なく、むしろ――お姉様の役に立てる喜びだけがあった。


 いや、他にも私を虐げてきた権力者たちを見下せるのも楽しいかもしれない。


 とにかく、大金だって手に入るし、お姉様だって褒めてくれるし、私にとってプラスしかないということだ。




「あの男、最後まで命乞いしてましたねっ」


「無様だったわねぇ。今までさんざん色んな人を苦しめてきたでしょうに」




 仕事の帰り道、夜の通りは相変わらずの治安の悪さだ。


 けれど私たちみたいな人間が紛れるにはちょうどよくて、最近はそんなに嫌いはない。




「そういう人ほど薄汚い最期を迎えるものなんですね。ふふふっ、黙って死なれるよりそっちのほうが楽しいですけどっ」


「すっかり慣れてきたわね。クラリスは適応力が高くて優秀だわ」


「お姉様がいてくれるから、ですけど」


「それは私も一緒よ。クラリスと二人で仕事を始めてから、前より何倍も楽しいもの」


「お姉様ぁ……」




 甘えた声を出しながら、私はお姉様の腕にきゅっと抱きつく。


 わざとらしく胸を押し付けて、誘惑してみたりもした。


 まあこんなことしなくても、家に帰ったらたくさんかわいがってもらえるんだけど。




「それにしても――髪の色まで変わると、随分と印象も変わるわね」


「似合ってますか?」


「当たり前じゃない。血のような美しさは、今の貴女にぴったりよ」


「血……お姉様といっしょ……ふふふっ」




 私の髪は、お姉様と同じ赤色に染まっている。


 これは染色したのではない。


 理屈はわからないけど、お姉様の骸炎の力で完全に変えてしまったらしくて、生えてくる髪も赤になっているのだ。


 もちろん髪以外の部分もそう。


 内側もお姉様に染められるのなら、いっそ内臓までお姉様と一緒になれたらいいのに。




 ◇◇◇




 その日の夜、私はお姉様の両腕に包まれながら、眠りまでの僅かな時間を穏やかに過ごす。


 先ほどまでが嘘みたいに静かだった。


 お姉様の甘い香りを吸い込みながら、まどろんでいると――ふいに遠い記憶が呼び起こされる。


 あれは私が両親を失い、孤児院に入った頃のこと。


 なかなか孤児院に馴染めなかった私に優しくしてくれたのは、たまに宣教にやってくるシスターだった。




「……私、最初にお姉様と出会ったとき“懐かしい”って思ったんです」


「あら、誰かに似てたのかしら?」


「幼かった私に、とても優しくしてくれたシスターがいました。今になって思えば、その人がお姉様と似た匂いをしていたなって……」




 天井を見上げ、懐かしみながらそう語ると、お姉様は黙り込んでしまった。


 彼女のほうを見ると、ぷくっとほっぺたを膨らませてじとーっとした目つきでこちらを見ている。


 ……嫉妬してる?




「私はその人の代わりなのかしらー?」


「ちっ、違います! 今まで忘れてたぐらいですしっ」


「でもでもぉ、クラリスが私を好きになってくれたのはぁ、その人が頭の奥底にいたからでしょう?」


「どうなんでしょう……」


「そこは違うって言ってほしかったわ」


「あぅ、す、すいませんっ」


「ふふっ、冗談よ。さすがにもう10年以上も昔のことだもの、子供の頃の記憶って無意識に影響を与えているものよね」




 表情は戻ったけど……本当に気にしてないのかな。




「そんな顔しないの、心配することは何もないわ」


「本当ですか?」


「本当よぉ」


「……じー」


「ほ、本当なんだから……私は平気よ。過去に出会ってたシスターが実は私だったということにすればどうということはないわ!」


「とんでもなくダメージ受けてるじゃないですか。それだったら私も嬉しいですけど、年齢が全然違います……ってあれ、お姉様って何歳なんですか?」


「それ聞いちゃう?」


「気になりますよぅ。もうただの恋人じゃないんですから」


「そうねえ……何歳だったかしら……」




 遠い目をするお姉様。


 肌の張りから言って、20代なのは間違いないと思うんだけど……え、そんなに年上なのかな。


 だとしたら逆にすごいと思う。




「まあ、何歳でも私はお姉様のこと大好きですけどね」


「そのうち教えるわ」


「無理しないでいいですよ。お姉様は不思議な人ですから、骸炎の力で何百年も生きてるって言われても驚きません」


「本当に驚かないの?」


「まあ驚きますけど。受け入れます」


「それを聞けてよかったわ。そのときが来たら、安心して話せそう」




 こうまでして言わないということは、言えない事情があるんだろう。


 お姉様の隠し事なんて珍しい。


 だけど心配はしていない。


 お姉様なら必ず、いつか話してくれるってわかってるから。




 ◆◆◆




 ピオニアスが行方不明になってから、八日が経った。


 今も彼の家の人間が調べ回っているようだが、彼の動向に関する手がかりは掴めておらず。


 元々、“良くない遊び”に手を出していたので、そのせいで足取りが辿りにくいのも大きな原因の一つだ。


 貴重なメンバーがいなくなったことで、リュード率いるパーティの活動も休止状態にあった。


 スイはその日、朝から何となくギルドを訪れていた。


 ピオニアスやクラリスに関する噂話でも聞こえてこないかと、淡い期待を抱いての行動だった。


 すると、似たようなことを考えてか、ナンシーもギルドにやってくる。


 彼女はベンチに座るスイの隣に腰掛けると、けだるげに口を開いた。




「そちらは相変わらずですか」


「相変わらずだね……個人的に調べてみてはいるけど、全く情報が手に入らない」


「フレイアのことも追っているんですよね」


「尾行……しようとしてるよ。けど、すぐに見失う。見失わないように目を凝らしても、いつの間にかクラリスと一緒に消えてる」


「気取られてますね」


「私なんかが気配を消したところで、どうにかできる相手じゃない。一応、最近になって不審な失踪を遂げる貴族や商人が多いって話は聞いてるんだけどね」




 フレイアが活動を活発化させている。


 スイはそんな気がしていた。


 しかし、やはり確証はない。


 掴もうと手を伸ばすと、まるで霧のようにすり抜けて、消えていく。




「弄ばれてる気分だよ」




 スイはうつむき、ため息をついた。


 グリューム教官のことだってそうだ。


 彼がサマエルの関係者だったというのなら、フレイアと繋がっていた可能性もある。


 騎士たちの育成に、フレイアの意志が少しでも介入しているのだとしたら。


 ひょっとすると、自分とクラリスが出会ったことすらも――


 そんなもの、吐き気がするような悪い妄想だ。


 しかし一度考え出すと頭から離れない。




「教会は、集団神隠しの件もあってピリピリしていますからね」


「ああ……カンパーナ様が言ってたよ」




 それは、スイがクラリスと会話した日の出来事。


 しかも、近い場所で起きた出来事だ。


 目撃者すらいないので、正確な時間も、被害者の総数すらも把握できてはいないが――少なくとも十名の人間が消失(・・)した。


 なぜ消えたという表現になるのか。


 それは、その場所に向かう足取りまでは追跡が可能だが、それ以降が綺麗サッパリ消えてしまうからだ。


 一人ならあり得るかもしれない。


 しかし、同時に十名。


 そこには聖女や騎士も含む。


 元々、スラム付近で活動していた、あまり評判の良くない聖女や騎士だったらしいが、それでも消えたとなれば教会は大騒ぎだ。




「何か、とても嫌な予感がするんだ。レイラルクで渦巻いているのは、私が思っているよりずっと大きな陰謀なんじゃないかって」


「そのために、フレイアを押さえたいと」


「彼女は必ず何かを知っている。私は何としても、教会を動かせるだけの証拠を集めないといけない」




 強く拳を握るスイを、ナンシーは心配そうに見ている。


 そのとき、ギルドの扉を屈強な男がくぐった。


 チリンチリンと鳴った鈴の音に反応して、スイたちはそちらを見る。


 眉間にシワを寄せたリュードと目が合った。


 彼は二人の姿を見て軽く驚くと、そちらに近づく。




「3日ぶりだね」


「ああ……すまんな、一人で色々と調べていたんだ」




 パーティの活動が休止している間、スイとナンシー以外はあまりコンタクトを取っていない。


 元々、魔獣討伐のために行動を共にしていただけなのだから、当然の流れである。




「私たちも似たようなものです。リュードさんは何かわかりましたか?」


「いや……相変わらず、あのフレイアという女は影のような存在だ。音もなく、足跡も残さん」




 リュードはスイの近くに立つと、腕を組んだ。




「リュードも彼女について調べてたんだね」


「個人的な感傷のようなものだ。それに部外者を巻き込むわけにはいかないだろう」


「昔、フレイアと何かあったんですか?」




 彼の視線は少し上を向き、遠くを見ながら語りだす。




「サマエルとの戦いでは、冒険者も戦力として駆り出された。その時も俺はパーティのリーダーだったんだ」


「対人戦か……辛いね」


「ああ、魔獣の相手ばかりしていた俺は慢心していたんだろう。仲間たちも俺を信頼していたからな、俺の指示には従ってくれたよ。どれだけ間違っていたとしても」


「どなたか亡くなられたんですか」


「俺以外の全員だ。全員が、俺の指示のせいで死んだ」




 リュードがあまり仲間に干渉しようとしないのは、そういった過去があったからかもしれない――スイはそう感じた。




「だからと言って、フレイアに怒りを向けるのは八つ当たりかもしれん。直に彼女が手を下したわけでもないからな。だが、動かずにはいられないんだ。ピオニアスも俺のせいで死んだのではないかと、そう考えてしまう……」




 わずかに震える彼の声に、スイとナンシーも重い表情を浮かべる。


 結局のところ、誰もが証拠たりうる情報を手に入れることはできなかった。


 己の無力感に苛まれ、すがるようにこのギルドに集まった――ということだろう。


 つまり、残る一人がやってくるのも――




「あ、ルビアさん」




 ――時間の問題だったのかもしれない。


 ナンシーが彼女の名を呼ぶと、すっかりやつれた様子のルビアは顔を上げて彼女たちに駆け寄った。


 そしてスイとナンシーの手を掴むと、目を血走らせながら声を上げた。




「お願い、私を教会に連れて行って! とにかく保護してほしいのッ!」




 いつも外見には気を遣うルビアが、髪もボサボサ、肌もガサガサだ。


 明らかに追い詰められたその様子を見て、“正義”を胸に抱く騎士と聖女が見捨てるはずもなかった。




 ◇◇◇




 スイたちは、ルビアから軽く事情を聞いたあと、さっそく教会へと向かった。


 そして許可を得た上で、カンパーナの部屋に入る。


 ルビアがもたらした情報は、事前の約束もなしにカンパーナが会うだけの価値があるものだった。




「わ、私、見たのよッ! クラリスが黒い炎でピオニアスを殺すところをっ!」




 部屋に入るなり、挨拶もそこそこに大きな声でルビアはそう叫んだ。




「なぜ今日までそれを黙っていたんだ?」




 チェアに座るカンパーナは、デスク越しに問いかける。


 ルビアはその日のことを思い出し、明らかに怯えながら言葉を続けた。




「だって、だってあの女がっ! クラリスと一緒にいたフレイアとかいう女が、私のほうを見て……あの目は普通じゃないわ。完全に、私を殺すつもりなのよっ!」


「落ち着いて、ルビア」


「こんなのが落ち着けるわけないじゃないッ! この一週間、ずっと怖かったんだから。どうやったら生き残れるかって必死で考えて、そして教会ならって、そう思ったから!」


「ここにいる間は、君の安全は保証される。だから落ち着いて話してくれ」


「落ち着くも何もッ……他に、何もないわよ。ピオニアスが変な場所にいたから、どうせまた碌でもない遊びでもしてるんだろうと思って、からかうつもりで後をつけたの。そしたら、そこでクラリスがピオニアスを殺してて……気づかれてないつもりだったのに、一緒にいたフレイアって女は私のほうを見ててぇ……!」




 スイは、クラリスがついに殺人を行ってしまったこともショックだった。


 しかしスイまで取り乱しては、さらに場が混乱してしまう。


 それに――彼女はルビアがなぜこうも怯えるのか、その理由を知っている。




「……ルビア」


「何よっ、何なのよっ、私が何したっていうのよぉ!」


「クラリスをパーティから追い出したあの日、馬車を使って殺そうとしたって話は本当?」


「な――スイ、なに、を……言って……」


「それは何の話だ」


「私も興味ありますね。クラリス先輩が追い出された経緯」




 リュードやナンシーまでもが、ルビアに注目する。


 彼女の顔はみるみるうちに青ざめていった。


 ついには頭を抱えてしゃがみこんでしまう。




「私は悪くないわッ!」


「そんなことは聞いていない。ピオニアスが馬車を呼んだ時点で妙だとは思っていたが、殺すとはどういうことだ?」


「た、ただ……クラリスをスラムで下ろして、お金も全部奪っちゃえって……ちょっとした、イタズラを仕掛けただけよ……」


「それって運良く生き延びたとしても、無傷では済みませんよね」


「だから私じゃないんだって! 言い出したのはピオニアスでっ、あいつだってどっかのお店の女の子に作戦を考えてもらったって言ってたし! 私だって、たまたま通りにいた占い師がね、恋を成就させるためには邪魔者を排除したほうがいいってアドバイスしてきたから……そう、そうよっ! リュードのためだったの! 私はリュードのことが好きだからッ!」




 まくし立てながら、リュードにしがみつくルビア。


 対する彼は――




「ふざけたことを言うなッ!」




 声を荒らげ、彼女の頬を叩いた。


 ルビアは床に倒れ、崩れ落ちる。




「う……うぅ……!」


「実行に移したのはお前たちだろう。相手を殺そうとすれば、必ず殺意が返ってくる。それぐらい冒険者ならわからないのか!?」


「やだぁ……わ、私……死にたくない……死にたくないのよぉお……!」




 そして被害者ぶって、涙を流す。


 一連のやり取りを見ていたカンパーナは、ため息をついて頭を抱えた。




「なるほどな。お前たちの腹黒い駆け引きで生まれた心の隙に、フレイアはうまく入り込んだというわけか。クラリスは、元から教会ではいい扱いを受けていなかった女だ。全てに失望し、甘い言葉に騙されてもおかしくはない」


「それでレイラルクが滅びたりしたら、とんだとばっちりです」




 ナンシーも、これにはさすがに冷めた表情を見せる。


 本音を言えば、今すぐこんなパーティを抜けてしまいたいはずだ。




「でも同時に、クラリスがピオニアスを殺したという話の信憑性も上がってしまった」


「スイの言うとおりだ。証言だけでは少々弱いが……良し、フレイアを追うために騎士を動かせないか検討してみよう」


「カンパーナ様……ありがとうございますっ!」


「頭を上げろ、スイ。遅すぎて申し訳ないぐらいだ」




 ようやく前に進む希望が見えてきた。


 スイの口元にも笑みが浮かぶ。


 しかし、すでにクラリスが人を殺してしまった以上、彼女への裁きは免れないだろう。


 だがこれも、全てはクラリスのためだ。


 正しき道を歩むためには、人を殺めた罪を償わねばならない。


 どんな苦痛があろうとも、それが“正しさ”なのである。




 カンパーナは騎士を呼び、崩れ落ちたルビアを部屋の外へと連れて行かせた。


 彼女はしばし教会で保護することになるだろう。


 クラリスの殺害容疑に関しては、断罪できるかは微妙なラインだが――カンパーナはおそらく、何らかの方法で償わせようとするだろう。


 リュードは「迷惑をかけるな」と言って、少し遅れて部屋を出ていく。


 ナンシーも彼に続いて退室した。


 元々、クラリスの一件には関係ない彼女だ、ひょっとすると今後はスイも距離を置かれてしまうかもしれない。


 そして最後にスイが出ていこうとしたとき――扉の取っ手に触れる直前、外から勢いよく誰かが部屋に飛び込んできた。


 スイは「うわぁっ!?」と声をあげ、転びそうになりながら後退する。


 一方でぶつかりそうになった騎士は謝罪もせずに、額に汗を浮かべながら、手に持った紙の内容を読み上げた。




「カンパーナ様、報告ですッ! 巨大な魔獣の群れがレイラルクに向かってきていますッ!」


「な、何だと……? 何だそれは、なぜ急にそのようなことがッ!」




 いつも冷静なカンパーナも動揺を隠せない。


 魔獣が群れをなすこと自体は珍しいことではないが、それが街に向かってくるなど、今まで聞いたことが無いからだ。


 しかも騎士は“巨大な”魔獣と言っていた。




「数は?」


「目視できるだけで100!」


「種類は?」


「最も小さい(・・・)もので3メートルを超えるオーガ、大きいものでは20メートルを超えるサイクロプス。他にもタイタンやイヴィルウッド、グラウンドシャーク、ブラックドラゴンなど……とにかく様々な大型魔獣が混ざっていると」


「何だそれはっ!?」




 思わず彼女は、同じ言葉を二度繰り返してしまう。


 それぐらい馬鹿げた報告だった。


 単一の種族による群れならまだしも、種類すら混ざっていることなどありえるはずがない。




「クソッ……騎士隊は全員出撃準備、街の治安維持に当たっている連中も全員呼び出せ! 軍と連携して何としても食い止めるんだ。聖女長とギルドには私から連絡する!」


「はっ!」




 騎士は汗が乾く間もなく、命令を遂行するべく部屋を飛び出していった。


 話について行けないスイは呆然と立ち尽くす。


 そんな彼女に、カンパーナは命令を下した。




「スイ、すまんがフレイアの件は後回しだ。お前は比較的連携の取りやすいパーティで動いてくれ。ナンシーやリュードはまだ近くにいるはずだ、あのルビアという女も尻を叩いてでも戦わせろ! とにかく戦力が必要だ!」


「はっ、了解しました!」




 状況を飲み込めないまま、スイはリュードとナンシーを探すべく部屋を出た。


 だがわけがわからないのは、カンパーナも同じことだ。




「どうしてこんなときに限って……!」




 スイが思わずそう愚痴ってしまうほど、絶妙にフレイアをアシストするようなタイミングだった。


 考えすぎだとはわかっている。


 だが、まるで神がフレイアに味方をしているような――そう思わずにいられない、異常事態であった。




 ◆◆◆




 お姉様は急に私を家から連れ出した。


 向かった先は、城門の近く。


 お店もなければ、依頼主だってこのあたりにはいない。


 ただただ大きな門があるだけで、他には人の往来があって、見張りの兵士が立っているだけだ。




「ねえ聞こえる?」


「音、ですか? んーっと……」




 目を閉じて、耳を澄ます。


 すると、地面を揺らすような音が遠くから近づいてきているのを感じた。




「地鳴り、ですか」


「そうよ、大量の魔獣の気配がこの街に近づいてきているわ」


「さすがですお姉様、そんな遠くの気配まで察知できるんですね」


「ストレートに褒められると照れるわね。雰囲気からして、大型の魔獣がたっくさん来るみたいだから――稼げるわよぉ」


「最近は暗殺ばっかりでしたもんね。たまには冒険者としての本分を果たさないとってことですか」


「まあ、そんなところよ。相手は強力な魔獣だけど――」




 遠くに、魔獣の姿が見えてくる。


 森でやりあったゴブリンなんかとは、比べ物にならない大きさだ。


 自信がついた今の私でも、怖気づいてしまいそうな迫力だった。




「私たちなら余裕よ」




 でも、恐怖なんてお姉様の言葉一つで消える。


 全ては自信に変わる。


 そっか、あんな巨大な魔獣でも――今の私なら、簡単に殺せちゃうんだ。


 だったら楽しそう。




「さあ、レイラルクを救いましょうか」




 あたりがにわかに慌ただしくなる。


 後方からは冒険者や兵士、教会騎士らしき人たちが、門を目指して走ってきているようだ。


 どうやら、私たちは先頭にいるらしい。


 彼らに追い抜かれる前に――私とお姉様は、まるでデートでもするように手を繋いで、魔獣の群れに向かって駆け出した。




 ――――――――――


 名前:クラリス・レリヌス

 種族:人間

 性別:女

 年齢:19

 職業:骸炎使い

 好きなもの:お姉様、お姉様とのスキンシップ、お姉様と一緒の仕事

 嫌いなもの:男の人、自分の邪魔をする人


 体力:109

 魔力:1203

 器用:101

 魅力:135

 性向:-80


 ・スキル

 殺人Lv.20

 骸炎Lv.80


 ――――――――――




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― 新着の感想 ―
[一言] カンパーナの推測が的を得ていてゾワゾワっとしました(語彙力)
[良い点] あれ、もしかしてリュードが一番まとも…?というか、リョナラー、ビッチ、洗脳マシーンと他がひどすぎるとしか言いようがないですが(苦笑)。 てか、優しくしてくれたシスターとやらまでもしフレイア…
[良い点] 10/10 ・人間サイドがグダグダしててよろしい。 [気になる点] はっや! もう80! [一言] わざとらしく甘える……悪女っぽい
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