第3章20話 『あっとほーむ』
「おぅ!ピトスちゃん、今日は何買ってく?」
「えっと……じゃがいも5つと、あとビーツを1つににんじんを2本——」
1週間の献立が頭に入ってでもいるのか、さほど迷う様子もなく大量の食材を買い込んでいく。対応する八百屋の店主も慣れた様子で、次々と野菜を籠に放り込んでいく。
「銅貨16枚と小銅貨5枚ですね」
「おう」
十円玉くらいの大きさの銅貨と、ひと回り小さく、指で捻じ曲げられそうなほど薄い小銅貨を、ピトスが袋から取り出して店主に渡す。
支払いが終われば、ピトスは次の店へと向かう。
「バイソルのお肉を——」
「小麦粉を1袋——」
ピトスは淡々と買い物を済ませていく。別に特別口数が少ないとか、態度がおかしいだとか、そんなことはない。ただ——なんというか、口数が多いわけでもないのだ。
そこそこ田舎の、そこそこ小さな村の商店。もう少しアットホームな雰囲気をイメージしていた。
「誰にも話しかけてもらえない……」
「それなら、自分から話しかければいいじゃないですか」
小麦粉と野菜の入った籠を背中に背負ってげんなりとする俺の顔を覗き込んで、何がおかしいのかピトスは笑いながら口にする。
「俺だって村の人たちと話すの楽しみにしてたのに……!ファーストコンタクトをシュミレートしてきたのに!——思ったより忙しなくて口挟めないんだけど!!買い物ってそんなに急ぐものなの!?」
ぐったりと曲げていた背中をのけぞらせて、地団駄を踏んで叫ぶ。だいぶどうしようもないな、この醜態。ファーストコンタクトをシュミレートしちゃった時点でどうしようもないよ。
——ピトスの柄でもない爆笑が空に響いた。
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「じゃなー!」「ばいばーい!」「また今度遊ぼうねー!」
「ファーストコンタクト…… しゅう、っりょう……!」
「めちゃくちゃアットホームだった……っ!」
買い物の途中で村の子供たちに捕まり、買い物を続けるピトスと別れてかれこれ3、40分は経っただろうか。
10歳前後の子供とはいえ、肩車して走り回るのは流石に疲れた。抱っことおんぶに肩車、マックス3人乗っけた俺のキャパシティを褒めて欲しい。
「ゆーて1人12、3歳くらいだったと思うんだよな……」
あとの男の子2人は小学校低学年くらいの印象だったが、お姉ちゃん的な子が1人居たのだ。同年代の子供はこの3人しか見かけなかったのは小さな田舎村の悲しき運命か……
「一応俺も年が近いといえば近いし、人恋しいんだろうなぁ……」
そう思えば、はしゃぐ2人を諌めながらも最後には2人に倣って俺の背中におぶさった行動も納得できる。……流石にちょっと重かったけど。
初対面の相手に抱きついたりよじのぼったりするあのコミュ力だけは見習いたい。俺が見習ったらただの変態だけど。




