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第3章11話 『はじめてのおしごと』

「午前のうちに食器洗い、あとお洋服を洗濯して干して、それに掃除とお庭の修復も進めて昼食の準備もしないといけませんね」


 使用人見習いとしての初仕事。制服の寸法を採ったり、屋敷の案内といったイベントも無いままに、ピトスの恐るべき呟きが聞こえる。


「ピトスさん……?午前中って言ったって、あと1、2時間しかないと思うんだけど……?」


 屋敷の中には普通に時計が設置されている。果たしてこれは、異世界の技術の産物なのか、それとも祐希が持ち込んだ現代技術の産物なのか。時計の針は10時を回っている。


「昼食は1時半なので、3時間あります」


「にしてもオーバーワーク……」


 この屋敷を一人で管理しているとか、労働条件どうなんだここ。karoshi(過労死)は日本の悪い文化だぞ。


 雇用主であるところの祐希に目を向けると、彼女は優雅に天井を見つめる。口笛吹いて虚空を見つめてる奴が優雅でたまるか嘘だろなんなの。


「さて」


 密かに戦慄する俺の気持ちを切り替えるようにして、ピトスが足でドアを開ける。足かよメイドさん。

 ピトスは食器の載った台車を両手で押し、後につく俺は手持ち無沙汰。じゃ、と背後の祐希に手を振り、隣接した厨房に足を踏み入れる。


 あれ、ピトスがもうお皿洗ってる。目離したの一瞬なんだけどなー。

 思考を放棄して遠い目。自分もいつかああなるのかなぁ……。


「ほら、ジュンくんもお皿洗ってください」


「あ、はい」


 客人から使用人見習いにジョブチェンジした結果、ピトスからのくん呼びを手に入れた。距離が近づいたと喜ぶべきか、これから始まるであろう過酷な労働の日々にげんなりするべきか。



「……と、普通に蛇口とか使えんのか」


 石造りのキッチンに、金属製の蛇口らしきものが付いている。割と近代的なんだろうか、この世界の文明。


「井戸から汲み上げるているんです。お庭の噴水と似たような仕組みらしいですよ。……実際は結構違うらしいですし、そもそも噴水の仕組み知りませんけど私は」


 中身があるようで何の情報も入って来なかったな。今の会話。



「次お洗濯するので、洗濯物あったらお庭に持ってきてください」


「……俺、気絶でもしてた?」


「いえ〜、だらだらお皿いじってましたよ〜?」


「辛辣!」


 お皿を数枚洗って隣を向いてみれば、食器は既に全て洗い終わっていた。お皿の数が少ない朝食とはいえ、いくらなんでも速すぎではなかろうか。

 なんにせよ、過密スケジュールを一つ消化。このペースなら意外と余裕を持って終わるかもしれない。




 .                 ❇︎                 .




「……掃除と庭の修復終わんないだろ」


 早速一つ片付いた仕事。この調子なら休憩だってとれるかもしれない。そう思って鼻歌を歌っていた潤は、ふと我に返る。


 目線の先ではピトスが金属製のたらいにお湯を汲んでいる。ただでさえ仕事量が多い彼女に、庭の修復や新人の教育と、更なる負担を押し付けてしまったようで気が引ける。

 今日俺が働くのは午前のみ。午後は戦闘訓練の予定が入っている。


「諸々の分も含めて、精一杯働きますか」


 そう心に決めて、洗濯を始めたピトスに駆け寄った。

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