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第3章6話 『なまくらの意思』

 魔獣が体勢を前傾させる。彼我の距離は5メートルもない。背後を晒せば瞬間食い殺されるだろう。

 右足を負傷し、蹴りは封じられている。残された攻撃手段は腕での攻撃のみか。平たく、膝上程度の高さしかない魔獣相手には不利になる。

 そもそも俺の殴りで相手を戦闘不能になどできるのだろうか。素人のパンチで最低でも気絶させるにはどれほど殴ればいいのか。勝利のビジョンが全く見通せない。


 魔獣が前足に溜め込んだ力を爆発させる。

 足を負傷した俺は、拳を構えて正面から迎え撃つ。

 しかし交錯の瞬間、魔獣はサッと体を横にずらして左脇腹に襲いかかる。

 俺は咄嗟に回避して足をもつれさせ、体勢を崩す。

 さらに追撃する魔獣の牙を避けて右足を横に跳ね上げ、バランスを崩して背後に転倒する。


「——っく」


 倒れた拍子に、花壇の縁石に頭を強かに打ちつけた。後頭部に割れるような痛みが走るが、気にしてはいられない。右足の怪我も無視して立ち上がり、魔獣との距離をとる。

 まるで先程のリフレインだ。対して負傷を重ねるのはこちらのみ。このままではジリ貧だ。


「石……?」


 チラと地面を見れば、花壇の境界を示す縁石として、河原にでも転がっていそうな石が並べられている。

 どれも下半分が土に埋められているが、さして厳重に固定されているわけではない。



 単純短絡一次的。


 俺にこの状況を打開する劇的な戦術など考えつかない。いや、というよりそんな方法、きっと存在しない。いくら考えたところで、結局は実行するためには力が必要だ。単純な物理的力。特殊な異能の類。或いは戦闘の知識。


 それも無いのだから、取れる選択肢はごく限られるのが自然というものだろう。



『神々の伝令』を限られた出力で瞬発的に発揮し、魔獣の突撃を再び躱す。

 相手は野生の獣だ。足を負傷して、ここまで回避などできたのがむしろ奇跡。おそらくは、この魔獣が極度の飢餓によって判断力を低下させているだとか、そんな程度のことでしかないだろう。なんといっても、ここは屋敷の庭園なのだから。魔獣が迷い込んだって、そうそう獲物などいるわけではない。それこそ人間以外には。


 かくいう俺も素人らしく一辺倒に、魔獣から距離を取り、隙を見て足元の縁石を両手で地面から引き抜く。


「原初の武器、石ころの力を見せてやるよ」

なまくらの、いし、です。はいおもしろいー。

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