「おにぎり」らしき物に、塩少々追加で
期待を胸に、包む布の結び目をほどき、ゴムのバンドを外して、ぱかっと弁当箱の蓋を開ける。
「…………………………っえ?」
「っう…………頑張ったんだよ? これでも……自分なりに、ちゃんと……」
曲げわっぱの弁当箱。
和の趣があって、その見た目だけでも美味しそうに見える。
ただし、蓋をした状態のままであったなら、という条件付きだったのだと、蓋を開けた今、思い知る。
俺の弁当を作ってくれると言い、昨日はとても機嫌良さげに張り切っていた彼女だが、今現在、俺の隣でしゅんと項垂れ、両肩を下げ、目玉をつつかれたカタツムリのように縮こまっている。
それもそうだろう。
弁当箱の中には、俵型らしき、どでかい、お握りとおぼしき物体が1つ。
それは、海苔がぐしゃっと、べたっと貼り付けられた状態で、海苔の上にもご飯粒が数粒まばらにくっついている。
俵……型? どうだろう、三角形の頂点がある……と言えばある……のだろうか……?
まぁ、要するに、弁当箱の蓋を開けると、そこには見た目が残念極まりない多分お握りだろう物が1つあったとさ。
横を見る。
俯いた彼女の目に、どんどん涙が溜まっていく。
「ああぁーーーーーーーー」
「…………………………何?」
「食べさせてよ」
「あっ! 待って、除菌シートで手を拭くから」
さすがは今の時代、衛生面への配慮が求められる。
俺もシートを1枚貰い、指と指の間まで丁寧に拭いた。
彼女は爪の周りまで熱心に拭いている。
……………………………………………………ふぅ、やっと気が済んだらしい。
今にも崩れ落ちそうな海苔とご飯の塊を、99.9%除菌されたかもしれない彼女の手がそろりと持ち上げた。
手も指も多分お握りも、全てが小刻みにふるふる震えていて、ギリ保っているであろう形状が震動により崩れるのではと、内心ヒヤヒヤする。
そう、ならば、崩れる前に食べ尽くせばいい。
ガブリ、……モグモグ、むしゃむしゃ
ガブリ、……モグモグ、むしゃむしゃ
「うん、意外といける」
「………………本当に?」
「うん、いけるいける。でも、もうちょいと塩が欲しい、かな?」
ちゅっ、ぺろっ
「へっ!?」
「うん、いけるいける」
結局、彼女はお握りを握り潰してしまい、三角形か俵型か元々判別困難だった謎の形状の物体は無惨にも崩壊した。
しかし、曲げわっぱの弁当箱の中に落下した為、俺はご飯粒を1粒も残すことなく、綺麗に完璧に平らげた。