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駅の改修工事

作者: 武内 修司

 何の為なのかよく判りませんが、駅構内で改修工事が始まりました。あちらこちらと傷んでいるので修繕するのでしょう。ホームのほぼ中央に、仕切りで囲まれた一角が設けられます。その両側に、向かい合う様に階段がありました。仕切り上の隙間から、向かいの階段を昇降する乗降客の姿が僅かに見えました。

 夜勤の中年男性が、階段を降りてきました。既に終電間近という時間で、駅構内には人影もまばらです。少々重い足取りで、中年男性はぼんやりと前を見ていました。天井と仕切りの隙間、何か赤いものが過ぎるのが視界に入りました。女性の赤いワンピースの様です。季節的には肌寒いだろうに、とぼんやり考えながら、ホームに降り立ちました。電車を待つ間、何気なく周囲を見回しますが、あの赤いワンピース姿の女性は見掛けられません。ホームは相対式で、彼の背後には薄汚れたコンクリートの壁しかありません。あれ、と思った時には電車到着のアナウンスが流れ、彼の意識はそちらに向かいました。

 何日か経ち、ほぼ同じ時間に男性はホームに降りてきました。ふと気付くと、目の前の階段を降りてくるワンピース姿が。直ぐに仕切りの陰に隠れました。先日の事をふと思い出した男性は階段を降りきると、ホームの反対側を覗き込みました。壁と仕切りの間に、人影はありません。間もなく電車の到着を告げるアナウンスが聞こえてきました。腑に落ちないものを感じながら、男性は乗車位置に向かいました。

 また数日後、男性は階段を降りていました。すると三度あの赤いワンピースが。彼は一気に階段を駆け降りると、仕切りの向こう側へと向かいました。そこで初めて、男性はその女性をまともに見る事が出来ました。女性の視線はどこも見ておらず、ホームに降り立つと、真っ直ぐ仕切りへと向かいます。そして、彼の目の前で、仕切りの中へと吸い込まれる様に消えてゆきました。

 ネット検索で、彼はあの女性の正体らしきものを発見しました。十年以上も前、その駅で酔っ払いに絡まれた女性が揉み合いのすえ転倒、ベンチに頭をぶつけ亡くなった、というものでした。恐らく、その頃にはあの仕切りで囲まれた辺りにベンチがあったのだろう、と男性は想像してみました。十年以上も、あの女性はあの場所に縛り付けられているのかと、やるせない気持ちになったのでした。


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