もしかして万能? ぱるぷんて!
窓を開けると、朝日が差し込んだ。
「朝かー」
ガタリと、木製窓をつっかえ棒で固定し、1日の始まりを前に、俺は大きく伸びをした。
今現在、フェルノドーラの街郊外の煉瓦造りの少し古い宿に泊まっている俺こと、カタルヒィン・ドーラは、冒険者である。
まぁ、駆け出しもいいところだが。
フェルトノドーラは、そこまで大きな町では無いため、低い建物が多く、この小さな宿からでも充分に朝日を堪能することが出来た。
朝日を浴びながら、俺は回想する。
それはつい先週のこと。
貴族の家系であった俺は、いろいろなしがらみが嫌で家出をしたのだ。
まあ、貴族って言っても下から数えたほうが早いレベルで、しかも俺はそこの三男だった。ほとんど平民と変わらないような生活をしていたような微妙さ。
だけど、やはり貴族は貴族。
許婚(あんまし可愛く無い)だとか、貴族としての付き合いだとか、作法だとか、そう言った諸々が嫌になった。
元々、貴族として恩恵よりもデメリットの方が感じていたのと、俺が16歳の誕生日を迎えて、成人したのを期に俺は家を出たのだ。
「それに、いろいろ思い出したしな」
自分の内側に集中すると、確かに感じる魔力。
この世界の人間は、16になると成人と認められ、同時に魔法活性化の儀式が行われる。名前の通り、魔法が使えるようにする為に行われる儀式で、外側から魔力そのものを照射するような形で浴びるようにして行われる。
元々内にある魔法が活性化するだとかで、ある程度大きくならないと負荷に耐えられないからという理由から、その時期に行われるのだ。
俺もその歳になり、その儀式を受けている途中で、前世の地球での生活を思い出した。
前世では普通にサラリーマンをしていた。
特段、何かに優れているわけでもなく、かと言って何か劣っているわけでも無い、極々普通のサラリーマンだ。思い返すこともほとんどない。強いて言えば、家族がどうしているかということくらいだろうか。
だから、剣と魔法の世界に転載できたこと自体は嬉しかった。
まあ、あんな中途半端な貴族位のせいで嫌になって家出したんだけど。
「せめて、許婚が可愛ければまだ頑張れたんだけどなぁ」
とかぼやきながら、俺は使い始めて2回目となる魔法を唱える。
「まあ、取り敢えず今日は唱えとくか。『パルプンテ』」
ぎゅいーん、と魔力が吸われていくような感覚がして、魔力欠乏時特有の無気力感が襲ってくる。
パルプンテ。それは、俺が前世でよくやっていたRPGの魔法の一つ。唱えれば、何が起こるかわからない。時には、絶対絶命時の救世主であり、時には逆に絶対絶命に追い込まれるような状況になったり。そのゲームの中でも結構特殊な魔法で、ラスボスが裸足で逃げ出すような存在を呼び出したりできる、ある意味最強の技。
それを何気なく唱えたのには理由がある。
それは、俺のステータス値によるものだ。
魔法活性化の儀式の時に同時に行われたステータス照会。初めてそれを見た時、俺と、両親はとても微妙な顔をした。
というのも、ほとんどのステータス数値が軒並み平均か、それよりちょっと下だったからだ。
ただ、全てがそうでなく、一つだけ特出した数値のものもあった。
それが『luck』だ。
何故か、俺のステータスは『luck』だけがが過去類を見ないような数値を示していたのだ。
と言っても、自分の過去今までに幸運であったような記憶も無く、両親もそれを感じていたようでなんじゃこれみたいな顔をしていた。
俺は週一で、街道の馬フンを踏むような男だ。
それに、運がいいなら微妙貴族の三男になんか生まれてきてない。
まあ、そんなことと、俺が唯一使えると分かった魔法『パルプンテ』を知って両親は、意味のわからないステータス値と意味のわからない魔法とで、少しだけ気落ちしたような顔をしていたのを、今でも忘れられない。
別に、悪い両親というわけではなかったけど、所々俺を腫物扱いするところがあった。
そりゃ、微妙貴族の三男坊ですもの。
長男の替えの替え。丁重に扱えって方が無理な話だろう。
だから、俺が家出したのもそこまで心配してないんだろうな…….
ふぅ、と息を吐き出し、気分を切り替えてから顔を洗いに行こうかと思ったころに外からカラカラと、荷馬車の音がした。
チラッと、窓の外を見ると、馬に惹かれた木製馬車が、デコボコ道をガッタンゴットン走っていた。
年に一度行われる、大オークション祭。
世界中の貴重な装飾品や、装備品。見目麗しい奴隷や、特別な才能持ちの奴隷。それに、ゴブリンや、オークなどの使い道がよくわからない魔物まで。
全てが揃う、最高級のオークションだ。
今は丁度その時期で、朝、昼、晩、問わず、多くの馬車が道を行き交っている。
オークションは、3日かけて行われ、それぞれ扱う物が変わる。今日は、その3日目で、丁度奴隷が扱われる日だ。
俺はこの日を待っていた。
外に乗り出すように伺うと、馬車の格子から人の姿が見える。よくよく見れば、その状況と不釣り合いな程に装飾され、身を豪奢な着物で包んだ、女がたくさんいた。
全員の容姿が、傾国物で、普通に生きてたらまずお目にかからないようなレベルだ。
そして、その馬車が行った後からまた馬車が続き、今度は、屈強な肉体に、実用性高そうな装備品を身に包んだ、如何にもできる男たちが載った馬車が来る。
他にも、エルフだけが載った馬車、妖精族だけが載った馬車など多くが続いていく。
それらを眺め、馬車の行進がひと段落ついたころに、俺はポッケに入れてある皮袋を掴み、その重量感にニヒルに笑う。
パルプンテの効力に気付いたのは、2日前。
今では、一個人としては大金持ち、普通に見ても小金持ちくらいの財産がある。
「パルプンテ様々だな」
俺は、偉大なるパルプンテ様(俺が作った新教宗教の教祖)に深々とお辞儀し、午後から始まる大オークション祭に間に合うようにと、部屋を出たのだった。