『モンテ・クリスト伯』は「なろう」である。~古典的名著に見る「なろうテンプレ」的要素~
ノリとヤケクソでこのエッセイを書きました。
※あくまで先人の偉大な作品に胸を借りたジョークです!
【はじめに】
小説家になろうに小説を投稿するようになってから、色々なまとめサイトを見るようになりました。
最近特に気になるのは、いわゆる「なろうテンプレ」に対する反応です。
そういうサイトでは、なろうで奴隷ヒロインが人気なのは女性にモテない独身陰キャが作者読者に多いからだとか、追放復讐系は作者読者の悲惨な学校時代のイジメ体験が元になっているとかいう意見が多い気がします。(気がするだけで具体的データは無いです。こっから先もただの印象だけで話すので勘弁してください)
まるで「なろうテンプレの流行は現代社会の闇である」かのように、高らかに言う人もいます。しかし、果たして本当にそうなのか。
「〇〇ってなろうじゃね?」という風に、あらゆる有名作品になろうテンプレ的要素を見出そうとする動きもあります。しかしこちらの場合は逆に、いわゆるなろう的なテンプレが、あらゆる層に好まれる普遍的なインパクトを持ったものであることを暗に示そうという狙いがあるかのように思います。
そんなまとめを見ているうちに、筆者も似たようなことをやりたくなりました。
即ち、このエッセイのタイトル通り、世界の古典的名作に含まれている「なろうテンプレ」的な要素を見てみることで、「なろうテンプレ」と呼ばれているものの多くが、昔から人々に好まれてきた一般的なテーマであることを示せるのではないかと。
具体的には、フランスの傑作小説であるところの『モンテ・クリスト伯』が、いかに「なろう受け」する要素をふんだんに備えているかを分析し、「人間の嗜好って結局あんまり変わってないよね」ということを証明したいと思うものです。
※ ここまで真面目なふりをしていますが、実際には100%冗談で書いています。筆者には小説家になろうにおける全作品と『モンテ・クリスト伯』のどちらも貶める意図はないということをご理解ください。
※ テーマの性質上、以下には『モンテ・クリスト伯』のストーリーのネタバレを激烈に含むので、未読の方はご注意願います。
【本文】
『モンテ・クリスト伯』は「なろう」である。これは間違いのない事実です。
なぜならば、同作品にはなろうテンプレに見られる要素がこれでもかと盛り込まれており、仮にもし現在なろうで連載したならば、日刊ランキング1位はもちろんのこと、年間ランキング1位は固いと思うからです。
では、どんなところが「なろう」的なのか? 早速見ていきましょう。
※ ①と②は『モンテ・クリスト伯』既読の方には当たり前の情報しか書かれていないので、読み飛ばしても何ら不都合がありません。しかし、そもそも既読者以外がこのエッセイを読もうと思うのでしょうか。それは疑問です。
① 概要
まず本作の概要ですが、『モンテ・クリスト伯』は、フランスのアレクサンドル・デュマが1800年代中盤に書いた小説で、当初は「デバ」という新聞に連載されていたという、いわゆる新聞小説の形態をとっていました。(作中で登場人物が「新聞ときたらだんだんと下らなくなってくるな」というウィットにとんだ皮肉を飛ばしてくれるあたり、フランスのお国柄を感じさせます)
デュマは本作の他にも『三銃士』等の有名作品を書いており、同時代一の人気作家であったことは疑いありません。父親はナポレオン配下の将軍で、息子もまたオペラ『椿姫』の作者であるなど、そうそうたる一族というべきでしょう。
日本では明治時代の翻訳者、黒岩涙香(くろいわ るいこう:超かっこいいペンネームですね)が名付けた『巌窟王』の名でも知られています。
『巌窟王』というと「それってGONZOのアニメじゃないの?」、「面白いアニメだけど目に優しくないよね」、「終盤のロボット同士の戦闘は要らなかった」、「フランツぅぅぅぅぅ!」と思った方もいらっしゃるでしょう。しかしもちろんデュマの小説がそれの原作であり、アニメ版もFGOもその後にあります。
② 作品のあらすじ
作品序盤のストーリーをざっと書くと以下のようになります。
主人公の船員エドモン・ダンテスは婚約者メルセデスとの結婚式の当日、警察に逮捕され孤島の監獄ユフ城に幽閉される。罪状はナポレオンの復位に関する密書を預かった罪。その裏には、メルセデスに恋する漁師フェルナン、ダンテスの出世を妬む会計ダングラールの卑劣な罠があった。更にダンテスが無実と知りながら終身刑を宣告した裁判官ヴィルフォールを加えた三人に対して、ダンテスは牢の中で復讐を誓う。
牢獄内でダンテスが出会ったのは、莫大な財宝の隠し場所を知ると言い、看守たちに狂人扱いされていたファリア神父。彼によって教育を施され、言語・物理化学・歴史等のあらゆる知識を得たダンテスは、神父の死を機会にしてユフ城を脱出した。地中海に浮かぶモンテ・クリスト島の財宝を手にし、「モンテ・クリスト伯」となった彼は、彼が幽閉されている間にフランス社交界で成功を収めていた三人に対して、遠大な復讐の計画を実行するのであった。
長い。ですがこれでも序盤のあらすじです。
何せ一般的な文庫版で全7巻あるから仕方がないですね。
面白いか面白くないかで言えば、超絶面白いです。筆者はこの作品が最高のエンターテイメントであることを疑っていません。何回繰り返して読んだか分からないほどです。読んでない方は今すぐに全巻購入して読みましょう。これがこのエッセイで最も伝えたいことです。
③ なぜ「なろう」なのか
『モンテ・クリスト伯』がなろうであると判断する根拠は複数あります。思いついたものから列挙していきましょう。
A:俺Tueee!
『モンテ・クリスト伯』は俺Tueee!作品です。主人公のモンテ・クリスト伯(以下伯爵)は、はっきり言って現在のなろう主人公がかすむほどにチートじみたスペックを持つ超人です。
例えば、伯爵は当然のようにあらゆる学問・戦闘技術・文化芸術に精通しています。
剣を使えば当代最高の剣術師範を打ち負かし、銃を使えばゴルゴ13顔負けの命中精度を発揮します。その戦闘能力は襲ってきた数十人の盗賊を逆に一網打尽にして捕らえるほど。
バイリンガルどころではなく、少なくともフランス語・イタリア語・英語・ギリシア語・近世ギリシア語(古代だったっけ?)・ラテン語・アラビア語等を方言なども再現しつつ操ります。薬品調合のスキルを持ち、園芸や地理に詳しい様子も見せます。生産・内政系のなろう主だって楽に務まるでしょう。馬術・操船・釣り等々、とにかく伯爵にできないことはありません。
知略にも優れ、復讐相手を遠大な計画をもとに追い詰めるさまは見事としか言いようがないです。他にもカリスマ性がやばい、暗視能力がある、イケメンであるなど、伯爵にはおよそ弱点というものが存在しません。筆者のようにストレスに弱い読者もこれなら大満足です。
もちろん莫大な財産も標準装備。
これを俺Tueee!と言わずして、何を俺Tueee!と言うのでしょうか。
B:奴隷ヒロイン
『モンテ・クリスト伯』のヒロインは奴隷です。ギリシャの王女だったエデは、色々あって奴隷落ちしていたところを伯爵に購入されます。それからはもう、彼女は伯爵に盲従的なまでの愛情を寄せます。
エデは細っこい超絶美少女で、誰もが見惚れる美貌を持っています。その辺り、なろうにおけるエルフの扱いを想起させます。
エデかわいいよエデ。
200年前のフランス人も、奴隷ヒロインが大好きだったんですね。
奴隷ヒロインを好むのが陰キャだとすると、フランス人も陰キャです。
陰キャ=フランス人
え、だとするとつまり私はフランス人? そうだったのか……。
追記:
『モンテ・クリスト伯』にはもう一人奴隷ヒロインがいたことを失念していました。それはアリです。
アリは口のきけないアフリカ系の黒人奴隷で、伯爵に絶対の忠誠を誓っています。
これはもう奴隷ハーレムですね。アリはムキムキの男性ですけれども。
追追記:
作中のエデの扱いは真剣に分析しようと思うとかなり興味深いです。
例えば、伯爵がエデを「お前はもう奴隷ではないんだよ」と諭し、エデが「それでも私を奴隷でいさせてください」と懇願するシーンがあります。
なろうで見たぞそういうシーン。
C:おっさん主人公
これを忘れてはいけません。伯爵はおっさんです。20歳で捕らえられた彼は、釈放時に30半ば、復讐開始時に40前後だとされています。間違いなくおっさんですね。
対するヒロインのエデは16歳。
40歳前後のやさぐれたおっさん主人公が、16歳の奴隷ヒロインに愛され癒されるストーリー。
200年前のフランス人は尖ってますね。源氏物語といい勝負です。
D:寝取られ要素
あらすじに書いたからもうお分かりでしょう。この作品はザ・寝取られです。寝取られた元ヒロインには子供も生まれています。
その子供に近づいて、伯爵は寝取った男と元ヒロインを同時に苦しめます。
もちろん元ヒロインは、まだ伯爵のことを愛していますよ。
メディアによってはメルセデスをメインヒロインに改変しているものもあります。寝取り返すんですよ!
フランス人やばいですね。
E:追放復讐系
まんまです。追放からの復讐のお手本のような物語です。
追放復讐系の話をなろうで探している人はそんな時間の無駄をせずに、今すぐこの作品を読んでください。
F:婚約破棄
登場人物の女の子が、婚約破棄して親友の女の子と逃避行するシーンがあります。
ここで前世の記憶に目覚めれば、婚約破棄もので一本スピンオフが書けます。
G:百合
上の女の子は女子にしか興味がないという風な描写があります。
ついでに言うと、その女の子が婚約破棄した相手は、実はその子の異父兄という倒錯的なことになっています。
H:ざまぁ
伯爵は復讐相手に容赦しません。社会的名誉と家族を奪って徹底的に復讐します。
「ざまぁ」が「手ぬるい」と感想欄が荒れる心配は皆無でしょう。
I:男の娘
序盤にアルベールっていう青年が美しい少女に美人局されて、盗賊に捕まるシーンがあるんですよ。
その女の子はベッポっていうんですけどね。男の娘なんですよ。アニメアレンジじゃなくて、原作がそうなんですよ。
フランス人半端ねぇわ。
J:ホモエロティック
ここまで来たらそう言う要素も必要ですよね。
え? いらない? まあまあ。
アニメ版の清々しいまでのホモホモしさは言うまでもないですが、原作でも伯爵とアルベールの関係にそういう部分を見出すことはできるかもしれません。
ドラマ版で伯爵とアルベールが抱き合った時は、結構それっぽいシーンになってました。
ベルツッチオ×伯爵なんかも界隈で人気出そうですよね。
いかがでしょうか。適当に挙げただけでも、この作品がいかに「なろう」であるかがご理解いただけたかと思います。なんか最後の方でなろうからずれた気がするけど、許容範囲でしょう。
読めば読むほどこの作品は「なろうテンプレ」として隙がありません。
老若男女を問わず引き込むパワーがあります。
まあ実際そうだから売れたのでしょうけれども。
飽きてきたのでこれで証明終了ということにしても良いのですが、その前に、この作品が日刊ランキングを駆け上がるうえで気になる点が2つほどあります。
1つはやはり、伯爵が無双しだすまでの期間が長いということですね。文庫本にして1巻~2巻目の半ばまでというのは長すぎるような気がします。
これではこらえ性の無い読者が、さっさと無双しろと怒り出してしまうかも。
そこをサクッと飛ばす工夫が求められるかもしれません。
2つ目はタイトルです。『モンテ・クリスト伯』だけだと新着でクリックはしてもらえないでしょう。そうするとPVが増えないしブックマークもしてもらえません。『巌窟王』の方がまだマシかもしれませんが、短すぎます。ここはやはり、タイトルを分かりやすく長文化しましょう。
最後に私が考えたタイトル案を挙げて、このエッセイを閉じさせていただきます。
『恋敵に婚約者を寝取られて脱出不可能の牢獄に15年間放り込まれておっさんになってしまった俺が、超絶スキルと超巨額の財宝を手に入れて、娘くらいの年齢の元王女の奴隷美少女にベタ惚れされつつも復讐をする話』(97文字)
とかでどうでしょうか。
駄目ですね。
※ このタイミングでアニメ版『巌窟王』のEDテーマを流すことを強く推奨します。
次回予告
『レ・ミゼラブル』は「なろう」である。
待て、しかして希望せよ。
なるほどと思う部分があったら、ぜひ評価をお願いします。
調子に乗って続編も書きました。
『レ・ミゼラブル』は「なろう」である。~古典的名著に見る「なろうテンプレ」的要素②~
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