アーティファクトなお姉ちゃん 前編
今回が初投稿の作品です。ホントに文章下手くそなので、
苦手な方は本気で気を付けてください。
ダンジョンの一角とは、古来より宝が隠されているものだ。
古今東西、宝箱のないダンジョンが栄えた試し無し、
魅力がないから。そういえば簡単だろう。
宝箱は古来の王が、科学者が、冒険者が、
自らの財を隠したものだ。
中に入っているのは、最強の武器、アクセサリ、無数の貴金属、
そして『古代兵装』(アーティファクト)
アーティファクト…男のロマンともいえるものだ。
最強の機械兵装、古代人類が魔術の粋を凝らして作った兵器
市場では常に10000000Gを超える値段で取引され、
『国』がこれをいくら持っているかが、『国』の指標となる。
そんなレベルの『人間のロマン』
だからこそ、今日も冒険者達は危険なダンジョンへと足を踏み入れる。
…………………………………
……………………………
………………………
《プロローグ》
カーン…カーン…
既に、誰とも知らぬ『冒険者』に踏破されたダンジョン
最奥の魔物は倒され、その宝も、素材も残っていない、
魅力ゼロ…と言いたいだろうが、俺はそこに魅力を見出せる。
スキル《空間探知》
生命体の検知は出来ないが、『空間を把握する』ことができるスキル
俺が『トレジャーハンター』を目指した理由の一つ
「おっと…ここか」
ダンジョンの『隠し部屋』…
こういうところを見つけることができる
変形魔術
手の甲に魔方陣が浮かび、魔力が伝播する
格子のような文様が浮かび、その部分が扉に替わる。
ガチャッ…
「こいつは…」
謎の液体が入ったケースの中に…女性
それに、女性についている大量の機器類、
兵装ではない、生命維持のための装置…だろうか?
俺は宝物類を専門にするトレジャーハンターだ。
こういうものは専門外…
少し、機械に触れた
《…生命魔力反応検知…魔力登録完了》
「…ッ!?」
いきなり響いた機械音声に、思わず手を放す。
ピシっ…
女性の目が開き、機械が光り輝く…
同時にケースにヒビが入る。
《スキル検知…《空間探知》《上級魔法》《鑑定》《隠蔽》》
「んな…!?」
魔力だけで…スキルを当てた…!?
こんな機械…いやその技術だけでもどれだけの値段に…
女性の方への興味は失せた、その管理機械への興味が増強される。
《使用者登録…完了、《魔力探知》機能、オン》
アセンプリ
《主人格AI…『構 成』》
ビキ…
ケースのヒビが大きくなっていく
シークエンス
《選択可能『選 択』 当機をお持ちかえり、使用》
《起動いたします》
気持ちのいい破砕音を響かせ、謎の液体が床を濡らす。
ケースの中にいた女性が、歩いて出てくる。
そして笑顔で
「自立思考型兵器の『アリシア』です。
よろしくお願いします」
「…アーティファクトなのか?その見た目で…?」
普通に見れば、フルオープンの金髪の美少女だ。
身体には機械的な面は見られない。
強いて言うならば、目に浮かぶ幾何学的模様のみだ
「『アーティファクト』…?とは何ですか?」
「ああ…古代に作られた兵器とかのことだ」
「学習しました」
元気に、手を挙げ、敬礼のポーズをとる。
「ハァ…女性型何だから、もっと恥じらいをだな…」
「分かりました」
そう言ったアリシアは一瞬黙って自分の格好を見る…
「ヒッ…」
頬を赤く染め、こちらをキッ…と睨みつける
「…キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
か細くいやしかしとてつもない音量の叫び声
「…これでいいですか?『マスター』」
「…」
耳を押え、悶えている…
「ああ…いいよ…上手いけどさ…」
「すまん、やっぱ服着てくれ、持ち帰れない…」
「分かりました…しかし私は服型モジュールを所持していません」
「少し待て…今出すから…」
バックの中を漁り、フーデットケープを取り出し、押し付ける
「ありがとうございます」
フーデットケープを羽織るが…脚に何もつけてないからさらに痴女感が
「ハァ…」
そして時は経った………………
…………………
……………
チュン…チュン…
「『タスク』、早くした方がいいわよ~」
タスクと呼ばれた少年は、直ぐに
「なんで起こしてくれないんだよアリシア!!」
「それは…まあ…?タスクの寝顔が可愛いから…?」
「ハァ…なんだってギルド登録の日に…」
『アーティファクト』アリシアの能力その1『人格形成』
使用者に対して最も馴染むことのできる『人格』に変化できる。
しかし、『学習』を終えると人格変更は不能になる。
「じゃ、行って来る、親父」
ペンダントにしまった写真に一言送り、
扉を開いて、『エジェンド王国』の城下町に繰り出す。
「いってらっしゃい!!頑張ってきてね!!」
エジェンド王国首都『アーミス』の一角、
小さな家から飛び出したタスクは、
多めのお金を持って、限界ギリギリの速度で走る。
今日登録するギルドは『冒険者ギルド』
18歳以上でなくては登録できない大人気のギルドだ
期待に胸を膨らませ、ギルドへ走る
……………………
………………
…………
フーンフーンフーン♪
『走るタスクを見守りながら』昼食の用意をする
「ハァ…合格できるかしらね~?」
《合格確率は約90%です、大丈夫でしょう》
「よね~…うわッ」
パリ―ン
「お皿割っちゃった…買いに行かなきゃ…」
…………………………
……………………
………………
ギルドには、大量の人だかりができている。
少年少女入り混じった人だかりは、当然ながら、
ギルドへの登録を望む者たちだろう。
「ああ…ここで待つのか…」
ギルドへの登録の際は、ある魔石を使って、『スキル』を見る。
人々の中心には、紫色に輝く石があった。
『人工魔石』、タスクの父親、アラン・バッカスが伝来させた技術だ。
もたらされる能力は、『魔力からのスキル測定』
『アーティファクト』アリシアに使われている技術らしい。
タスクは一度、アリシアにスキルを見てもらったことがある。
そこで確認されたスキルは
《鑑定》《隠蔽》《狙撃》《空間把握》《ラーニング》
この5つだった。
スキルは強さの順にランク分けされていて、
S、A、B、C、Dのランクがある。
この中では
《ラーニング》、《鑑定》がAランク
《隠蔽》がBランク
《狙撃》がCランク
そして、《空間把握》がSランクだ
このギルド登録試験であるが、
それぞれのランクを数字で表し、
持ってるスキルの数字の合計値が高い順から20名が合格する。
「「オオオオオオオオオオオッ!!!!!!」」
突然、その場で歓声が上がる。
試験官が、声を上げる。
「スキル6つで29点!!現在一位だ!『アニエス・ストリバー』!!」
黒髪の小柄な少女が、その場の全員を一瞥する。
「…ありがとうございます…」
一言、それだけで、その場の全員の心を掴んだ。
『ウオオオ―――!!アニエスちゃ――――ん!!!』
29点…ってことは…『Sランクが5つ』…?
正真正銘の『英雄級』だ、あんな少女がそんな…
試験官が叫ぶ
「次の者!次に鑑定するものはいるか!?」
しかし、手を挙げる者はいない。
アニエスが何人目かは知らないが、
その次となると相当の緊張感があるはずだ
「じゃあ俺がやるよ」
一応手を挙げておく。
「それではそこの者!名前を言って魔石に触れなさい!」
うむ…なんか今年の試験官は五月蠅い気がする…
「タスク・バッカスです…ちょっとそこ失礼…」
人ごみを抜けて、一呼吸おいてから、魔石に触れる。
魔石が一瞬光り輝き、試験官が持つ羊皮紙にその結果が書き込まれる。
「タスク・バッカス!スキル『6つ』で23点!現在ニ位だ!!」
…あれ?
おおッ!と歓声が上がる。アニエス程ではないものの、
まあまあの才能、『騎士級』だ。
いや…スキル6つ?おかしいな…俺のスキルは5つだけだったはずなのに
「すいません、ちょっと結果を見ていいですか?」
「?…ああ、構わないが」
試験官は少し困惑したような表情を見せて、羊皮紙をタスクの前に出す。
既知の5つ、そしてSランクスキルが一つ加わっている
《ビーストテイマー》
む…?
「ありがとうございます…」
その場を立ち去ろうとすると、アニエスが話しかけてくる。
「多分…同じギルドで働くことになるでしょうし…
これからよろしくお願いしますね?タスク君」
ニコッ…と、優しく微笑みかけてくる。
「…あ、ああ、よろしく…」
周りから刺すような視線、タスクはその場から逃げ出した。
………………………………
…………………………
……………………
「…出来た!そろそろタスク、帰ってくるかな…」
昼食を完成させて、楽しみに待つ…
タスクの親、アランがアリシアに臨んだ人格は、
『息子の世話をしてくれるお姉ちゃん』だった
当時、アリシアの研究を終えたアランが、
最後に残した願いなのだ。
アリシアは空間に円を描くように指を回し、詠唱する。
デミマジック ビジョン
「展開…《疑似魔術行使》『空間投影』」
ピシ…とアリシアの指先から電撃が走った瞬間…
ブワッとアリシアの周りに城下町の空間が投影される。
アリシアの能力その2
《疑似魔力行使》…魔術を電気的に再現する能力
ありとあらゆる事象を『疑似的に』引き起こす能力
「えっと…ギルドギルド…見つけた!」
タスク・バッカス…………二位!!
試験官がそう叫ぶ。
二位、この時点で二位を獲得できるなら、合格は決まったようなものだ。
「え…やったぁ!!やったねタスク!!」
走ってタスクに抱き付こうとするが、空振り
「ふぇ!?」
ドンガラガッシャ――――――z__ン!!!
「…投影しただけだから…空ぶっちゃうの…忘れてた…」
棚に突撃し、お皿をさらに数枚落としてしまう。
「うう…またお皿を…」
ガクッ…と項垂れ、目に疑似的な涙を浮かべながら、
お皿の破片を拾うのだった…
………………………………
…………………………
……………………
結果は明日、ギルドの掲示板へと貼りだされる。
冒険者ギルドは、それぞれの才能をさらにランク分けしていて、
一番上の『騎士級』
その次の『戦士級』
一番下の『兵士級』
最初はこの三つのみだ。
しかし、クエストをこなしていくことで、
更に上へと上がっていくことができる。
騎士級の上が『英雄級』
更にその上『勇者級』
最高クラス『伝説級』
この中で、ほとんどの冒険者が属しているのが『戦士級』
20%程度が騎士級
約32人が英雄級
10人にも満たないのが勇者級
歴代で一人しかいないのが伝説級だ。
恐らくタスクは『騎士級』からのスタートとなるだろう。
アニエスも『騎士級』であろうが…直ぐに『英雄級』に昇格するだろう。
「頼むぞ~…合格しててくれよ~…」
そう、祈りながら家へ帰宅する。
ガチャ…
「うわッ」
「きゃッ」
ドサッ…と大きい音を立てて倒れこむ…
「…」
パッパと、ついた砂を払って、立ち上がったアリシアが
手を差し伸べる。
「タスク♪おめでとう!二位だってね?」
手を掴み、立ち上がる。
「…見てたのか?」
「もちろん!可愛い弟の晴れ姿は見なきゃ…
ご飯は置いてあるから、食べててね~」
アリシアは上機嫌に、近くの商店街へスキップしていった。
「…」
バタン…
家のリビングに置いてあったのは、
タスクが大好きなビーフシチューだった。
「おお…いただきます」
生まれて直ぐに母親が死んだタスクにとっては、
この味が『母の味』だった。お店で食べるよりおいしくて、
少しずつタスクの好みに合わせていく
アリシアの能力には本当に感心させられる。
少しずつかさも減っていき、最後の牛肉を口に含んだ。
「…ご馳走様でした」
またおいしくなった気がする…
皿を片付けるときに、チラッとゴミ箱を見てみた…
皿が…皿がァ!!!
「アリシアァ…昔っからなんでそこだけ直らないんだよぉ…」
早いとこ合格して…この皿の分…
いや『アリシアが今までドジで破壊してきた備品』の分を稼がなければ
「…少し…見学して来よう」
………………………
…………………
……………
「…お皿、どんなのがいいかな」
首都『アーミス』の商店街は、城下町である分賑わっている。
『エジェンド』のアーティファクト所持数は『21』機
世界でも有数のアーティファクト所持数だ。
そのおかげで、技術面で他国を圧倒しており、
輸出面では機械製品が目立つ。
機械制の農業のおかげで食料自給率も高く、101%だ
「…う~ん…もうどうせなら壊れない鉄製に…」
「お、アリシアちゃん!一昨日ぶりだな!」
「あ、肉屋さん、お久しぶりです」
「どうだい?ミノタウロスの肉が入ったんだ、
ちょいと値は張るけど安くしとくよ?」
「いえ…今日はちょっとお皿を買いに来たんです…
でもすぐ壊しちゃうし…どんなのがいいかな~って」
肉屋さんは少し考えこんで…
「それは困ったね…鉄製はどうなの?」
「でも…ビーフシチューを作るときに鉄の味がするから嫌って…
タスクに言われちゃったんですよね~」
「う~ん…もうアリシアちゃんが気を付けるしかないんじゃない?」
「そうですよね~」
HAHAHA☆
まあいつものやりとりだ、
『人格形成』の弱点の一つ…『人格の悪い点』も反映してしまうこと
商店街の皆さんにはまんまのドジっ子として通っているが…
実際は能力の弱点、そしてそれを知っているのはアリシア当機のみ…
《能力の弱点は当機の弱点、つまり当機は『ドジっ子』であると推定》
「…その通りですぅ~…」むゥ…
……………………………
………………………
…………………
「スキル3つで9点!!不合格!!」
「スキル4つで13点!十七位だ!!」
うむ…相変わらず容赦のない選択振りだ
タスクは何度かここに見学に来たことがある。
20位以下は不合格確定であるが故、一瞬で不合格にされる。
なんというか…やはり多いのがBクラススキルだろうか
《剣技習得》《初級魔術》etc…
一番確認されている種類が多いのがBクラスだ
興味本位で、ちょっとスキルを発動してみる。
スキル《空間把握》
《空間探知》の上位互換スキル
空間の細かい点まで探り、生命反応も探知できる。
呼吸音、心音、そして僅かな凹凸まで、
空間に存在するほぼ全てを知るスキル
ちょっと悪戯に使ってみる
羊皮紙に書き込まれる文字を把握する…
「…亜人種もいるのか」
『亜人種』…得意なスキルを遺伝子として受け継ぐ種族。
獣人に…エルフだろうか、ここで見るとは珍しい。
アジェンドは人間国家、基本的に人間しか住んでいない。
それでも亜人種を広く受け入れている風潮はあるが、
首都のここでは話が別、『貴族』共が受け入れないため、
まず亜人種は住んでいない。
「スキル6つで27点!『カルヴィン・エルドリス』暫定二位だ!」
おっと遂に抜かされたか…
27点…『英雄級』だ。
カルヴィン君…覚えておこう。
「以上はいないか!?それでは結果を発表する!!」
あれ…?今年はその場で発表されるのか?
20枚の羊皮紙に書かれた名前が、順位の通りに貼りだされる
一位『アニエス・ストリバー』
二位『カルヴィン・エルドリス』
三位『タスク・バッカス』
四位『カズマ・イシザキ』
五位『ルイス・ノンシス』etc.
「よっし…」
分かっていた結果ではあるが、中々嬉しいものだ
試験官は、合格者に対して、言う
「合格者は、明日までにギルドへの登録料を納入すること!」
解散!!そう試験官が叫ぶと同時に、大量の人間がその場を去っていく。
「やっと…ギルドカード登録か…」
3,000Gの登録料を支払うことで、ようやくギルドカードが手に入る。
冒険者とは最も過酷で、そして人気のある職業
死者を増やさないための、『試験』
……………………………
………………………
…………………
《冒険者ギルド》
カランカラン…
ドアの上のベルが鳴る、聞き親しんだギルドへの入室音
「あ、タッくん、合格したんだね!良かった!」
直ぐにこちらの姿を見つけて、話しかけてきた女性は、
受付嬢の『シュバイニー』さんだ
「…受付嬢なのにそんな個人に肩入れしていいのか?」
「はっ…!!ついつい…」
シュバイニーさんの眼差しが変わる
「ギルド登録ですね、3000Gのお支払いをお願いします」
「はい、これ」
ジャラ…
親父が残した最後の3000G
今日明日の食事代は、ひっくるめてアリシアに渡してある。
「確認しました、それでは、ギルドカードをお渡しします」
シュバイニーさんが、机の下からカード型の魔道具を取り出す。
『人口魔道具』ギルドカード
魔力を登録した人間の身体状況を数値化し、表示する魔道具
使用法は単純、それを持ったまま、スキルを発動すること
シュバイニーさんからギルドカードを受け取り、
スキルを発動する。
《鑑定》
物の価値、使用法、効果、材質、さらには製造法まで鑑定できる。
『登録イタシマシタ、タスク・バッカス様、
ヨロシクオネガイイタシマス』
タスクの個人情報が、その表面に表示される。
タスク・バッカス 18歳 男 人間
筋力21 敏捷33 体力15 知力31
スキル
《鑑定》
《隠蔽》
《狙撃》
《空間把握》
《ラーニング》
《ビーストテイマー》
「おお…これが…憧れの…ギルドカード…!!」
「登録は完了しました。タッk…タスク・バッカス様、
これからあなたはギルドの一員です。よろしくお願いいたします」
「タスク君…?どんなギルドカードでしたか?」
こちらも登録を終えたのであろうアニエスが、
話しかけてくる。
「ああ…まあ…いいものでも無かった」
「そうですか…私も…頑張って修練してたのに筋力が少なくて…」
そう言って、お互いのギルドカードを見せ合う。
アニエス・ストリバー 20歳 女
筋力20 敏捷48 体力39 知力41
スキル
《竜の加護》
《心眼》
《剣術》
《上級魔術》
《剣技補正》
《断絶》
……
モンスター…そんな言葉が頭に浮かんだ。
背の低い彼女が自分より年上であった衝撃よりも、先にだ
加護系スキル…複数のスキルを内包したSランクの中でも希少なスキル
その中でも最上位『竜』の加護
実に10以上のスキルと同様またそれ以上の効果を発揮するスキル
「竜の…加護…?」
アニエスが焦って俺の口を押える
「シーー!!それは言わないでください!!」
「あ、ああ…」
絶対に…この娘を『アリシアに見せてはならない』
隠さなきゃ…いけない。
………………………
…………………
……………
「へくちっ!」
機械である彼女にはあり得ない『くしゃみ』という現象
セラミック製の皿を買って帰り、今まさに、
タスクの帰りを待つ彼女の能力
デミスキル
《疑似能力》『知覚』
「むゥ…だれか噂をしたな~…」
『自分の機械としての情報を誰かが知覚したこと』を知覚する能力。
《疑似能力》…彼女の兵器としての最たる能力
デミスキル
『一度発動を見たスキルを《疑似能力》として再現する能力』
現在アリシアが持つ《疑似能力》の総数492
Dランク:24
Cランク:56
Bランク:214
Aランク:124
Sランク:74
『伝説級』では足りぬその強さ、
『発動を見る』が学習の条件であるのなら…
『常に発動している』加護系スキル持ちを見たら、
その加護を再現してしまう。
……………………
………………
…………
だから会わせられない、
「えと…その~…タスク君、『パーティー』を組みませんか?」
少し頬を赤らめて、上目づかいで、そう言った。
ああ、断れないとも、一瞬であの大勢を魅了した少女の言葉に、
逆らう事なぞ出来ない…
「ああ…分かった」
『パーティー』…冒険者同士でチームを組み、報酬を山分けするルール
申請等は必要ないが、報酬を受け取る際にパーティーメンバー全員が
居合わせなければならないルールだ。
アニエスは胸をそっと撫でおろし、こちらの眼を見据える
「よろしくお願いします」
目の中に映る紋章、そこに引き込まれるような魅力を感じる
「ああ…よろしく」
「それじゃあ、明日の朝10時に集合でいいですか?」
「構わないよ」
「じゃあ…また明日…『タスク君』」
「また明日、アニエスさん」
その日、初めての冒険者生活は、直ぐにおわった。
タスクは、この日、『パーティー』を組んだことを
その後、痛烈に後悔した
……………………
………………
…………
《一章:はじめてのくえすと》
形見のボウガンに、弾の矢、そして矢筒を装備する…
フーデットケープを被って、いかにも『狙撃手』の姿をする。
短剣を腰に装備して、近距離戦の準備も済ませる。
「タスク~?準備できたの~?」
「ああ、出来たよアリシア、じゃ、行って来る」
「うん♪行ってらっしゃい」
家のドアを開け、タスクは初の冒険へ旅立っていった…
バタンッ…
「フ…タスク~…このお姉ちゃんを舐めるんじゃないよ~…」
デミスキル
《疑似能力》『感情透視』
タスクが昨日帰って来た時…微妙な表情の崩れを検知した。
『喜び』そして『期待』
「タスク…さては…」
《友達できた》…?
「あ~っはっはっはっは!!!計画通りよ!!」
そうその姿はさながら新世界の神…
「タスクに『友達』を作る…それがタスクにギルドを勧めた理由ッ!!」
嗚呼今までその性格故に友達と呼べる存在がいなかった…タスク…
ギルドに入ることで、必然的に『パーティー』を組む…
「旦那様の示した使命…達成し続けるためのパーフェクト・プラン…」
《例示いたします。タスク様が『お一人』でクエストに向かった場合、
主人格のパーフェクトプラン(笑)は崩落いたしますが、どうでしょう》
出た…初期人格の…バックアップ…
「…うるさーい!!成功してるからいいじゃない!!」
《…主人格の感情プロセス…《恥》を検出…ジーク》
「ふんッもういいし!タスクに仕掛けた視覚共有で
パーティーメンバーがどんな子か見るし!」
デミスキル
《疑似能力》『視覚共有』
一度触れた相手の視界を共有することができるスキル
今、タスクはギルドの中にいる。
テーブル席に座って誰かを待っているようだ…
(ふふ…やはりパーティーを組んでいたのね…)
…………
……
…アニエスさん…遅いな…
「すいません、『タスク・バッカス様』でよろしいでしょうか?」
急に声をかけられる。
「ああ、そうだけど」
いかにもなメイド服を着た、若い女性だ
「お嬢様…『アニエス様』からの伝言でございます」
「え?」
女性はポケットから紙を取り出し、内容を読み上げる
「『ごめんなさい、今日は行けなくなってしまいました…
お父様が《知り合ったばかりの男と共同作業だと!?ふざけるな!》
と五月蠅いもので…しばらくは一緒に行けそうにありません。
この親バカを黙らせるまで少しだけ、待っててください』
以上です」
「それでは、失礼いたします」
女性は軽く一礼し、冒険者ギルドを出ていった…
「…ハァ…一人でクエスト受けるか…」
…………
……
タスク…?もしかして…
「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」
タスクが…一人でクエスト行ったぁ…
《…タスク様…まさか…本当にパーフェクトプラン(笑)
が崩落するとは…》
…………
……
えっと…どんなクエストがいいか…
近くに発生した小型、大型モンスターを狩る『討伐系』
国民の手伝いをする『採取系』
武器を持ってきたからには『討伐系』に行きたいところだが…
《コークァ・ベアの討伐》…これだけ?
タスクだって一応騎士級、一応、もう一度確認してみる。
《コークァ・ベアの討伐》
うむ…どんなモンスターかは知らないが…
一応騎士級クエストだ…ある程度難易度の高いものだろう。
その証拠に報酬もちゃんと高い
5200G…一日分の生活費用ひっくるめておつりが来る金額だ…
決めた。これにしよう。
掲示板からその紙を剥がし、受付嬢の所まで持って行く。
「どうも、シュバイニーさん、これを受けたいんだが…」
「お~…タッくんの初!クエストだね!!じゃあ印をおs」
一瞬…シュバイニーさんの眼が見開かれる。
「…これはまた…難易度の高いのを…いいんだね?」
この眼は…ガチの奴だ…
え?何これそんな難易度高いの?
「あ…ああ…構わないが…」
「うん…!覚悟があってよろしい!!頑張ってらっしゃい!!」
バンッと音を立てて、受注印が押される。
俺の初クエスト…やった…
…………………
……………
「…コークァ…ベア…?ダメ!!タスク!!そのクエストだけは!!」
《…主人格はタスク様に大きな傷跡を残す結果になると推定…
主人格、止めに入りますか?》
「う…うう…でも…タスクの…初めて…」
シークエンス デミスキル
《…選択可能『選 択』…《疑似能力》テレポートによって
速やかにコークァ・ベアを討伐、戦利品だけをタスク様に渡し、
クエストを成功させる…どうでしょうか?》
「ダメ!!タスクの初めてなんだから!!」
タスクの初めてのクエストを…
そんな無粋な真似をするわけにはいかない。
「…タスクには頑張らせよう…ここからの辛いギルド道を…
頑張ってもらうために…」
………………
…………
《エルダの森》
王都近郊のコークァ・ベアの主な生息地、と言われた場所だ。
コークァ・ベアの主食は蜂蜜、王都近郊に生息するため、
養蜂を営む農家にとっては相当な害獣だそうだ。
てくてく…
「…」
てくてく…
がしっ…
ぺろぺろ
「…」
テディベアのようなもふもふの耳に、もふもふの身体…
まあつまりはテディベアが歩いているような見た目だ。
…………
……
「うう…カワイイ…コークァ・ベア…」
魔物としての強さはそこまでではあるが、
その見た目ゆえに、攻撃がしにくいという難敵である。
アリシアも設定された人格故に倒すことができない…
…………
……
「…」ふんすふんす
ガシッと足に抱き付いてくる、そして
「クマ~?」
上目づかいで、そう口にする
「…」チャキ
タスクは、黙ったまま、短剣を抜く。
…………
……
容赦なぞせず
コークァ・ベアの眉間に短剣を突き立てる
まるで人形の綿のような体毛が飛び散り、
直ぐに生き物であったことを証明するように、鮮血が迸る。
……
アリシアの脳内(人格内)に電撃が走った。
容赦ねえ!!
「タスク!?…え?タスク?え?」
《非常に合理的、かつ冷静な判断、流石です》
「ふええ…タスクが…タスクがアサシンになっちゃったよ旦那様ぁ…」
…………
……
受注カードに書いてあった討伐数は『15』
「あと14体…」
《隠蔽》
《空間把握》
タスクの知覚できる範囲は半径20m程度、これで森の中を練り歩く。
さらに《隠蔽》によって相手からタスクの身体を見えなくする。
「…騎士級のクエストがこんな簡単でいいのか…?」
ピク…と動く気配を感じる…
コークァ・ベアだ。
ボウガンに矢を装填し、引き金を引く
《狙撃》
射撃系の攻撃の命中率を上げるスキル。
20mの射撃ではまず外すことがない。
ザグシュッ…
正確無比に脳天を捉え、貫通する。
2体目
次…
3体目、4体目、5体目ッ…
《空間把握》に反応した瞬間に
容赦なく引き金を引いていく。
……………………
………………
容赦ねえ!!
このコークァ・ベアの討伐クエストは精神的難易度故に
騎士級の精神を持たねば受けることができないクエストだ
しかしこの弟…騎士級どころではない…
オリハルコン
《超硬度魔法金》を超える超高度…
アダマンタイト
《超硬度魔生態金》の精神を持っている…
《理解不能、精神に硬度などあるのでしょうか》
「あるわ…最低限タスクには…あの可愛いコークァ・ベアを…
殺すという《絶対切断》級に鋭い攻撃を耐えきる硬度が…」
《選択実行『あっそ』》
「そうよ!絶対そうに違いないわ!!タスクは優しい子だもの!!
きっと心の底では気にしているんだわ!!」
…………
……
ザシュッ…ドスッ…
6体目、7体目、8体目
ここまで簡単に見つかるとは…
複数討伐クエストが出てもしょうがないくらい繁殖してるのか
5分に1体見つかるレベルだ。
ガクッ…と身体から一瞬力が抜ける
「…ハァ…ハァ…」
魔力切れだ。
『スキル』を使うにももちろん対価がいる。
それは宝石だったり体内の栄養だったり人によって異なるが、
タスクの場合はそれは魔力、魔法使いでないタスクからしたら
魔力はただの燃料、それ以上の価値もないものである。
「…《隠蔽》を切るか…」
当然、使う場所が増えれば使う燃料も多くなる。
ここで残りの魔力を温存するには、発動してるスキルを切るのが一番だ。
《隠蔽》をオフに切り替えて、次の獲物を狙う。
………………
…………
「…もうやだァ…切らせて!!切らせてェ!!!」
《…主人格、貴女が望んだことです。解除はできません》
デミスキル
《疑似能力》『視覚共有』の解除を懇願するが、
無慈悲にも、身体の機能がそれを却下する。
デミスキル
《疑似能力》の弱点、『主人格』が望んで発動したスキルは
その目的が達成されるまで『無限に』発動し続ける。
「いやぁ…もういやぁ…」
ザグシュッ…
コークァ・ベアの血が、タスクの顔にかかった。
それは当然視覚共有しているアリシアにも言えることであり…
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!」
さて、今のアリシアの状況を覚えているだろうか。
『部屋の中で、弟と視覚を共有して、絶叫している』これである。
人がいつ駆けつけてもおかしくない状況である。
ここでアリシアの脳内バックアップは、画期的な案を…思い付いた。
《主人格、このままでは、貴女が○○○○されていると
プロセス『噂』が発生する可能性があると推定…
シークエンス
選択可能『選 択』開示…当機の操作権を主人格から私に変更、
主人格は『休止状態』に入ることが可能です》
フッ…とアリシアの目から光が消える。
アリシアが『休止状態』に入ったからだ。
一瞬だけ輝き、目の色が綺麗な翡翠から赤色に変わる。
『変更完了』
主人格が中にいる時に、前髪を掻き上げていたリボンを取り、
自身の左髪を結ぶ。
ポーチに入っている眼鏡をかける。
前所有者、『アラン・バッカス』が要求した見た目差異だ。
部屋の現状を見て、溜息を吐く…
「部屋の整頓にかかる時間計算、11時間、
整頓中にタスク様が帰還すると推定、
私逃げる、私悪くない、悪いの主人格」
そう独り言で呟いて、タスクの視界横目に
部屋の片づけを始める。
…………
……
11体目、12体目、13体目、14体目
「ハァ…ハァ…」
ラスト1体…が中々見つからない物だ、
ここまでバラけているのなら、生態として、団体行動でなく、
個別行動をとっていると考えるのが妥当だろう。
しかし…何か違和感がある。
コークァ・ベアは恐らく個体としてはとんでもなく弱いのだろう。
そんな魔物が『個別行動』?
何か違和感が…
ドスン…ドスン…
大きな…『足音』?
《空間把握》に反応がない…
という事はタスクから20m以上離れてるという事だ。
段々出現頻度が少なくなり、《エルダの森》に入ってから
2時間が経過した。
もちろんその程度の時間で踏破できるほど、この森は狭くないのだが…
「」ヌッ
森の背の低い木が密集した場所から1体、コークァ・ベアが立ち上がる。
「…は?」
その『10m』は超える巨体に、情けない声が出る。
「ク~…マァ~…」
いや…逆に考えるんだ…敵の的がデカくなっただけだ…
そう考え、引き金に指をかけ、引く。
バシュッと乾いた音を響かせる。
命中した。
綿のような体毛を飛び散らせ、血液が…出ない…
「おいおい…」
身体が大きくなったことによって『体毛の層が厚くなった』
厚い体毛の層が矢の勢いを吸収しきったのだろう。
「クマ~……?」
巨大コークァ・ベアがこちらに気付く…
「…もう《空間把握》は要らないな…」
《空間把握》を切って代わりに一つのスキルを発動する。
《鑑定》
視界に入ってる物の情報を調べるスキル。
もちろん、生物もその範疇に入る。
《コークァ・ベア》
熊型の魔物。
見た目が非常に可憐であり、倒すのが非常に困難。
厚い体毛の層と細い脂質で構成されているので、知能は低い。
成長過程が長く、基本的に討伐されるのは幼体である。
しかし稀に成長しきる個体が現れる。
その個体が現れた場合、すぐさまメスに変化し、子を成す。
その際に、オスの個体が非常に増え、個別行動を取るようになる。
「…こんなにコークァ・ベアが出てたのはあいつが原因か…」
しかし…矢が効かないとなるとどう攻撃すればよいだろうか…
「く~マァ~!!!!」
バギバギと音を立てて、木を薙ぎ倒しながら、こちらに迫る。
「…眼か」
ボウガンに一発だけ、矢を装填し、発射する。
一直線にコークァ・ベアの眼球へ飛翔する。
ドシュッ!!
「グマ゛ァ―――――!!!!」
正面を向いてタスクへ向かってきたのが仇となったか、
直線のまま、眼球から脳へと、届く
ドスゥ―――z___ン…
大きな音を立てて、コークァ・ベアが倒れる。
ギルドカードから音が鳴る。
取り出して見てみると、そこには
『クエストクリア』
の文字が浮かんでいた。
《あれ…?視覚共有が切れてる》
「戻りましたか、タスク様は無事、クエストクリアなさりましたよ」
《良かったぁ~…》
「…感情プロセス『安心』はまだ早いと推定」
一瞬、眼からまたしても光が消え、そして点く。
「……」
一瞬で自らの所為であると理解したものの…
部屋のちらかり様を見て、アリシアは絶望を覚えた。
1章終わり
2章
「旦那様…旦那様!!」
「…アリシア……タスクを…」
「死んじゃ嫌です!!旦那様!!!!」
「…ゲホッ…助けて…やってくれ…姉として」
やわいベッドの上で、アーティファクト…アリシアの手を握り、
アラン・バッカスは息を引き取った。
「うわあああああああああああああああああ!!!!」
《記憶照合処理、プロセス《追憶》…所有者設定…
アラン・バッカス様からタスク・バッカス様へ変更》
「う…うう…ああ…」
旦那様にもらった、『本物の心』
人工知能の上に成り立った『エラー』
それが、涙となって落ちていく。
「…旦那様…私…頑張るから…」
《人格模写…失敗…魂照合…失敗》
「もういいんだよ、バックアップ」
《主人格…いいのですか?》
「いいの…私には…可愛い弟がいるんだから」
………………………
…………………
……………
《主人格、起きてください》
脳内で、正確には知能の中で、良く知るアラームが流れた。
「…別にそんなことしなくても起動するのに」
《主人格の性質故です》
「…朝ごはん作ろう」
台所に向かいながら、そう、呟いた
「ねえ、バックアップ」
《なんでしょう》
「機械って、夢を見るの?」
《…不明です…もし、主人格が『夢を見た』と思うのなら、
それは、プロセス《追憶》の影響であるか、
主人格が『完成された知能』だからでしょう》
「…そう…」
…………
……
「タスク~?起きたほうがいいわよ~?」
お決まりのセリフを吐いて、『弟』を起こし、
いつものように作ったご飯を振る舞う。
ここに…多少の変数が入るだけ、
これのどこが、人工知能と違うのか…
「ありがとう、アリシア、いつも美味しい食事を」
「…うん…どういたしまして」
《感情プロs》ブツッ
一瞬指摘をしようとしたバックアップを強制的に黙らせ、
一瞬紅くなった顔を隠す。
タスクがギルドに入ってから、早4日が過ぎた。
4日間、タスクは…一人でクエストに行っていた。
最初の『コークァ・ベア討伐』以外のクエストは、
まぁ気持ち悪い系の魔物だったり、割とカッコいい系の魔物だったり、
採集クエストだったりと、色々とクエストをこなしてたわけだ。
デミスキル
さて、それら全てを《疑似能力》『視覚共有』で覗いていたわけであるが、
今日は、ある手段を思い付いた。
《人格憑依》…昨日の夜見つけたスキルだ…
《疑似能力》として身につけられたという事は、『使用可能』ということ
『知能を映し、その人と視界を共有する能力』
一見視界共有と同じように思えるが、これの凄い点は、
『本体と知能を分離できる点』
つまり…『お皿を割らなくて済むってこと』
「完璧…素晴らしい手段ね…」
「じゃあ、行って来る」
そう言って、タスクはいつもの軽装備に着替え、ドアを通過する。
同時、アリシアの眼が一瞬暗くなり、色が変わる…
「…了解しました。いってらっしゃいませ、主人格」
…………
……
「もう!!五月蠅いですよお父様!!」
「いやダメだ!!お前が20歳になるまで例え合格しても
父さん許さんぞ!!」
「それ合格前までは18歳までって言ってましたよね!?」
「父さんはお前のためにッ!!」
「もういいですッ!!」
バンッと机を叩き、自分の部屋に戻るために走る
「おいまだ話は終わってないぞ!!」
手を伸ばし、アニエスの手を掴もうとするが、空振る。
…バンッ…
部屋のクローゼットから、買い貯めておいた冒険者用の装備を取り出す。
「…ずっと憧れてたんですから…小さいころから」
何度も試したその装備を付けて、手慣れた片手剣を持つ。
面積の小さい金属部分に、動きやすいスカートで構成された装備。
片手剣をその腰に差して、そのまま、駆け出した。
…………
……
「おいおい…タスクよぉ…お前何でパーティー組まねえんだよ」
「…パーティーを組まないわけじゃない、組めないんだよ」
「へェ、ま、頑張れよ」
いつもの待機時間…その間に話しかけてきた男だ。
名は『ミーチ・ピストレット』
階級は『英雄級』…このギルドのエースらしい。
まぁ…この男もパーティーを組まないそうだが…
そう言って、ミーチはクエストを受注していった。
「…今日も来ないか…」
そう呟いて、クエストボードへ向かおうとしたときだ
「タスク君ッ!!待ってくださぁい!!」
ドタバタと大きな音を立てながら、アニエスがギルドへ飛び込んできた。
「アニエスさん…!?」
「ハァ…ハァ…早く…クエストを受注しましょう…」
息を切らしながら、鬼気迫る表情で、そう告げる…
「…少し落ち着いたらどうだ?」
「早くしないと…追手が…」
アニエスはそう言うと、直ぐに掲示板へ走り、
一枚のクエストを剥がして、それをシュバイニーさんの前に差し出す。
「これを受けさせてくださいっ!」
「え…あ…分かりました…」
アニエスの気迫に押されてか、受注印を押した…
《ダンジョン:エジェダの迷宮ボスの調査》
「…それは…」
ダンジョン探索クエスト…最も死亡率が高い系統のクエストだ。
本来は二人やそこらで行うクエストではないが…
「早く!行きますよ!」
グイっとタスクの腕を引っ張り、ギルドを素早く出ていった…
《…うう…タスク…パーティーが…出来たんだね…》
…………
……
《エジェダの迷宮》
入り口は典型的なレンガ建築である…
しかしまた苔むしていて、管理されてないのが分かる。
ダンジョンの最奥にいるボスはスポナーと呼ばれる
魔道具を発見して壊さない限り定期的に出現し続ける。
「…どうしてあんなに急いでたんだ?」
「…お弁当は持って来ましたし…
エジェダの迷宮もそこまで広くはないはずです」
「ハァ…ボスモンスター討伐じゃなくて良かったな、
考えてなかっただろ、何を受けるか」
「…むゥ…」
頬を膨らませ、少し涙ぐんで答える。
「父が私を家から出さないんです…だから…」
「抜け出してきたと?」
「…そうです」
タスクはダンジョンに入るのは初めてではない。
一度だけアランに連れて行ってもらったことがある。
その時はスポナーが破壊された危険度0のダンジョンであった。
《タスクはダンジョンモンスターと、戦ったことが無いのよね》
現在、アリシアはバックアップとの接続が断たれている。
いつも通りのようにただの討伐クエストを取ると思っていたのに、
パーティーメンバーが…
《(´;ω;`)ウッ…タスクゥ…良かったねえ…》
用意周到なバックアップの事だ…用意はしてあるだろう。
…………
……
「暇です」
「待機状態に移行不可能、原因推定、一人しかいない、知ってた」
「《視覚共有》使用不可、原因推定、条件不全、知ってた」
バックアップは、まあ、暇していた。
アーミスからエジェダの迷宮までの所要時間は2時間程度、
攻略にかかる時間は不明…
掲示クエストパターンから、受ける可能性があるクエストを割り出し、
それぞれのおおよその所要時間を割り出した。
結果は『最低8時間』
「暇です」
もうクエストについて行ってしまおうか…
エジェンドは探索推奨国家…
一般人でもダンジョンへの侵入、探索は可能
冒険者資格があればある程度の優先権は得られるが、
まあ一般のトレジャーハンターの方が多い。
今日のクエスト傾向からダンジョン探索系のクエストがでるのは
分かっている…
そしてボスモンスター出現間隔から複数のダンジョンを絞り込み、
さらに通常の討伐クエストからまたタスク様が受ける
可能性があるクエストを選抜していく。
そしてクエストを行う場所も特定した…
「…《カエレノ神殿》《スルカ平原》《エジェダの迷宮》…
ぱす
候補列挙…完了、行くのめんどい、無視~」
バックアップは…まあ、アリシアより高性能であった。
しかし、アリシアという人格が起動してから、
ずっと起動し続けているバックアップの知能にも変化が生じていた。
『どうせ主人格がやるから思考』が根付いた知能である。
つまりは『暇だけど何もする気がねえ』ということであった…
…………
……
《…何か来ない気がする…》
…ダンジョンの中はひんやりと、そしてジメジメと…、
不気味な雰囲気を醸し出している
エジェダの迷宮は約10層のダンジョンであり、
2層までは肝試しのスポットとして有名である。
出現するモンスターは『エジェダ・レイス』等の
幽霊系と呼ばれるモンスターだ…
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ひしっとタスクの腕に抱き付くアニエス…
そんなアニエスを冷たい目で見降ろして、
「…アニエスさん…ちょっと待て?
お前がいないと幽霊系モンスター倒せないんだぞ?」
上級魔法
武器に属性を付与する特殊な魔法…
幽霊系モンスターは魔力の塊であり、通常の物理攻撃が通用しない…
よってエンチャントで属性を付与しなければならないのだが…
「あれ猫だぞ!?なんで猫にビビるんだよ!?」
にゃーん…と偶然通りかかった魔物でも何でもないただの『猫』
「しょうがないじゃないですか!!場所が怖いんです!!」
ヤバイ…今気付いた…
アニエス…こいつ…『アリシアと同類だ』…
『能力高いけどポンコツ系女子』だ…ッ!
「え…ええ《エンチャント》!!!」
スキル《上級魔法》
名の通り上級の魔法を操るスキル
ボウっと矢筒の中の矢が輝く…
「エンチャントはかけましたから!もう隠れさせてください!」
その腰の剣は何の為なのかと聞きかけたが、止めておいた。
涙目でそう訴えるアニエスを見て、
「…ボスモンスターの時は出て来てくれよ…」
「うう…」
タスクの思うところはアリシアも同様であり、
《この子…私と同類だ…っ!》
圧倒的仲間意識…Sランクスキル《上級魔法》を習得している時点で
相当優秀な冒険者であるはずだ…
それなのに…この怯えよう…
《…カワイイ…カワイイよこの子…ッ》
「…ハァ…」
この光景を見てたらアリシアは言うんだろうなぁ…カワイイって
バシュッと放たれた矢は、襲い来るエジェダ・レイスの眉間に
命中し、光を放つ。
パァンッ
破砕音を響かせ、レイスの半透明な体が破砕する…
「…凄いな…ここまでの威力が出るとは…」
アニエスが隠れていたオブジェの方を向いて、
「倒したぞ」
エンチャントされた矢を回収しながら言う
「…私も活躍したいんですけどね…すいません…」
「いいよ…支援してくれるだけでも
有難いんだから」
…………
……
「現在、5時間経過…暇です」
「暇です…とっても暇です」
「当機自壊要請…却下…原因推測…主人格の許可ないから…」
「タスク様ぁ…会いたいです…」
バックアップの知能的変化…それは感情プロセス『恋慕』の発現
数時間タスクに会えないだけでこの様である…
事実上の弱体化と呼べるその変化を、
合理主義のはずのバックアップは悪くは思っていなかった。
デミスキル
「《疑似能力》『テレポート』…」
その場から、アリシアの『姿』が消えた
…………
……
ヒュオッと響いた風切り音、同時に一人一人の前に現れた二体のレイス
「うおッ…」
一瞬驚いたが、直ぐに冷静さを取り戻し、矢筒の矢を一本抜き、
レイスの顔面に叩きつける。
破砕音を尻目にアニエスの方に出現したレイスに向き直る。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
アニエスは甲高い声を上げ、目の前に出現したレイスの頬を…
『ぶっ叩いた』
顔は表情の出ない骸骨顔で統一しているレイスであるが、
その一瞬だけは、『あれ?俺何かした?』という
困惑の表情を浮かべているように見えた。
物理攻撃は本来レイスには効かないはずなのだが…
《剛力》
《装甲貫通》
竜の加護に含まれるAランク、Bランクのスキル…
これの同時発動だろうか…
レイスは吹き飛び、壁に当たると同時に破砕した。
「…」
あれ?なんでコイツ幽霊怖がってんの?という疑問を口に出すことなく、
大人しく飲み込むことにした。
「ハァ…ハァ」
ヘタ…と、ようやく女々しさを思い出したように座り込むアニエス
「…もうお前だけでいいんじゃないか…?」
「ダメですダメですッ!!あんなのが何回も襲ってきたら私…」
ギュウウウウウウ…と腰のあたりに腕を回し、締め付けてくる
ミシ…と腰が嫌な音を立てる…
「止めろッ…アニエスッ…腰が…腰がァッ!!」
タメ口を聞きながらも続けてきたさん付けを止めにする。
なんか…敬意を払えないのだ…アニエスには…
アニエスも腰の音にようやく気付いたのか、パッと締めるのを止めにする。
「すっすいませんタスク君!!」
「…ハァ…もう少しなんだ…もう少しでボスの所まで行けるんだぞ…
ここで仲間内で戦ってどうするんだよ…」
なんか数年間潜ってようやく辿り着いたみたいなことを言ってしまったが
エジェダの迷宮に潜って3時間が経過、そして現在7層目へ到着。
《…尊い…》
《…タスクがカッコいいのは良いんだけど…
アニエスちゃんが可愛すぎるのよ…ああ…食べてしまいたいくらい》
《でも…《竜の加護》か…》
過去の、苦い記録がよみがえる。
……………
………
…
現在、アリシアが持っている加護の再現…一つ
《豪雪の加護》
氷魔法を強化するスキルを内包した加護である。
その加護は、アリシアが一度だけ、他の国に行った時に獲得したものだ。
その際に伴ったのは…痛み…膨大すぎる容量による痛みであった。
豪雪の加護の中に含まれるスキルの中に、
アリシアが持ってるものはなかった。
その所為もあるのだろう…
情報不足であるためその激痛の正確な要因は分からないが、
バックアップが言うには容量不足…アリシアの知能の最低限を保つ
容量の他が埋められてしまったということだ…
それ以降…アリシアはスキルを獲得していない…
アリシアの知らないスキルを見れなかったのか、あるいは…
『学習能力を失ったのか』
実証しようがないことだ、とアリシアは思っていた。
…………
……
《でも…アニエスちゃんを見れば…》
そう思い、意識を共有するタスクの視界に映るアニエスを見る。
《…いらないよね、こんな平和な世界に、魔王なんていないんだから》
その場に響く破砕音…
「ハァ…ハァ…」
現在、9層目…あと1層でボスの部屋へと辿り着けるだろうが…
「…もう帰りたいです…」
某カリスマブレイクうー☆状態であるアニエスは…
帰りたいオーラを全身に滲ませて、
ボスモンスターに対する恐怖を露わにしていた。
「ほら、アニエス、階段見つけたぞ」
「もう嫌です…普通のモンスターですらこんなに見た目が
恐ろしいのに…ボスになったらどんなに…」
「ボスは可愛いかもしれないだろ?ほら、行くぞ」
「ううう…タスク君はスパルタです…」
…………
……
「候補削除《スルカ平原》《カエレノ神殿》…」
「タスク様タスク様タスク様タスク様タスク様タスク様タスク様…」
「タスク様が足りないです愛したいですギュッとしたいです」
赤い光の残光を残し、アリシアもといバックアップは、
最後の候補へ向かった。
…………
……
「…この階段…長いな」
「そうですね…もうずっと歩いてる気がします」
さっきから約10分間…ずっと歩き続けている。
「…おっと…ここか」
ようやく、大きな扉が見えてきた…
細かい装飾に、不気味な鹿の頭の剥製があしらわれた
6mはあろうかという巨大な扉だ。
ギギギギギギギギ…と、大音量の軋みを響かせて、
自動的に扉は開いた。
中にいたのは、まあ、あれだ。
いわゆるゾンビという奴であり、腐りかけた身体が崩れ落ち、
見開いた眼には光がない…
しかし、ゾンビと違う点が一つ…
デッカい、マジでデカい…約20mの大きさだ…
「…」
アニエスの顔が恐怖に染まる。同時に
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
バンッ!!!と
反射的に発動した《剛力》に物を言わせ、扉を全力で閉める…
「おいアニエs…」ガゴオオオオオン
同時に、扉の中へ、タスクは消えた。
「た…タスク君ッ!!!」
いくら力を込めても、扉は開かない…
「ああ…私…なんてことを…」
「タスク君…質問…そういった?」
急に後ろから声がかかる…
振り向くと、そこにいたのは、金髪のサイドテールに赤い瞳、
そして眼鏡をかけた女性…
「は…はい…」
デミスキル
「《疑似能力》『絶対切断』」
女性がそう呟くと同時、ピシっと扉に亀裂が走る。
「タスク様タスク様タスク様タスク様…」
亀裂はどんどん広がっていき、扉が破壊される。
「おいちょっと待て!!!!アニエスお前!!」
良かった…タスクは無事だ…
タスクの姿を確認した瞬間に、女性の姿が消える。
「それに…アリシアッ!?」
ガシッ…
女性は、そういう音を錯覚するほどに強く…強くタスクを抱きしめた。
「タスク様ぁ…お慕いしております…」
「おい待てお前バックアップか!?放せ!!折れる!!腕が折れる!!」
「タスク君!!!ボスがそっちにッ!!」
その場で起こる謎の雰囲気にボスが痺れを切らし、
2人の方へ攻撃を開始する。
デミマジック
「《疑似魔力行使》『ホーリーランス』」
空中で、光の槍が編まれていく…
そして、完成した瞬間、ボスを…貫いた。
一瞬のラグを置いて、ボスはドロリ…と溶けた…
「うわぁ…気持ち悪い消え方ね」
一瞬ボスの方に目を奪われたが、
いつの間にかアリシアは主人格に戻っている
しかし…この場に居れば学習が発動してしまう。
アリシアは…加護を学習しちゃいけない…
「なんて…魔力…」
一瞬、アリシアは、驚嘆するアニエスの方を見た…
「…貴女がタスクのパーティーね?」
ニコッ…と笑いかけて立ち上がる。
「私はタスクの姉のアリシア・バッカス…よろしくね」
「……よろしくお願いします」
モンスターに対する恐怖すら薄れたのか、
真面目に、その実力者を見つめる…
アリシアはタスクの方を向き直り、
「ああ…良かったあ…タスクカッコよかったよ?」
「アリシア……お前……」
『学習』が起こらなかった。つまり…それは…
「いいの…私は大丈夫だから」
ボスの亡骸の上に落ちた、輝く魔石…
莫大な利益を生み出すボスの魔石を見ても、
…………
……
「すいません、シュバイニーさん…調査だけのはずが…」
「すごい!!タッくんとアニエスちゃんボス倒しちゃったんだ!!」
オオッという歓声が上がり、テンションが上がった冒険者が口笛を吹く…
自分達でやったなら喜べるのだろうが…やったのは俺達じゃない。
アニエスもそう思っているのだろう…俯いて、何かを考えている。
「じゃあ、報酬金を増やすように本部に進言しておくね~!」
「…はい…」
…………
……
「タスク君のお姉ちゃんは強いんですね…冒険者じゃないのに…」
「秘密にしてくれると助かる」
その後、直ぐにアニエスと分かれ、家へ帰った…
臨時収入は入ったが、もちろんそれはアリシアのものであるという事で
2人で決定した。
家へ帰ると、直ぐに、アリシアがこっちにやってきた。
「おかえりタスク!今日は美味しいオムライスができたの!!」
「…アリシア…大丈夫なのか…?」
「大丈夫って?私は健康!……アーティファクトだけど」
一瞬…アリシアの顔が曇った。
「まだお前には膨大なスキルがあるだろ、気にするなよ」
「…ありがとね、タスク」
その日の夕飯は、いつもよりも少ししょっぱい気がした。
《二章 終わり》
《三章:はじめてのきゅうか》
さて、ギルドに所属しているという事はつまり
『働いている』ということであり?
まあニートではないわけだ。
チラシでは日夜『アットホームな職場です~』とか
『いつもみんなで頑張ってます~』とか、
詐欺スレスレの事をしている訳で?
基本的にアットホームとか仰ってる会社様には
序列というものがある訳で?
当然、それはギルドにだって起こり得ることである。
「…」
ゴゥっと唸りを上げて繰り出される拳を、間一髪で回避する。
矢筒から取り出した矢を、ボウガンに装填し、
相手の頭部の中心…発射口に叩き込む。
ピッタリと、発射口の奥の精密機器に矢が届いたのか、
発射口から爆炎が上がり、相手…人工ゴーレムは、膝をついた…
「そこまでッ!!」
「試験終了!タスク・バッカスは『英雄級』への昇進を許可する!!」
「ゼェ…ハァ…」
タスクが持つスキルをほぼ動員して…ようやく勝てた。
《空間把握》で相手が砲台から魔法弾を発射する一瞬前に回避を開始し、
《隠蔽》を分けて発動することで相手の射撃回数を抑制、
《ラーニング》で相手の行動パターンを学習…
《鑑定》複数回発動で弱点を洗い出し、
《狙撃》で攻撃。
時間にして約26分、
行動パターンが決まっている人工ゴーレムじゃなきゃ出来ない戦術。
アニエスは開始数秒でゴーレムの顔面を吹き飛ばしていたが…
本人は『まだまだです』と言っていた。
まあその話は置いといて…現在行われていたのは
『ギルドランクの昇格試験』であった。
先日のボス討伐の功績が認められ、ボーナス支給額は約50000G…
もちろん全てアリシアに渡したのだが…
その際の報酬はそれだけではなかった。
『ギルドポイント制度』…
ギルドでの功績を数値化した制度で、タスクも最近知ったものだ。
ギルドで功績を上げれば昇格試験を受けられる、
というギルドのルールをやりやすくしたものらしい…
今回の少人数でのボス討伐は極めて異例な事らしく、
尋常ではない量のギルドポイントを貰った、ということだ。
普通にクエストをこなしていれば数年はかかる昇格を、
早二週間で終わらせるレベルのポイントを貰ったのだ…
なんか申し訳ないな…
元々英雄級の実力を持つアニエスはまだしも、
タスクはただの一般の冒険者だ。英雄級などという
マジのエースになる気は毛頭なかった。
しかしあの人工ゴーレム…マジでやらなかったら殺られていた…
優秀な回復術師がいるからという理由だそうだが…
一回カスった一撃だけで、タスクを必死にさせた。
…あ、これあかん奴や…
と、脳内思考をかき乱して西洋の言葉を使わせる程度には恐怖した。
その結果、回避に全霊を注いだタスクは、奇しくも、
ゴーレムを倒せてしまったという訳だ…
「えっとね~…じゃあ暫くタッくんとアニエスちゃんは休暇ね~」
「どういうことですか?シュバイニーさん」
同じく英雄級に昇格したアニエスが問う
「これからまたギルド本部まで馬車を走らせなきゃいけないのよ…
合格通知に、英雄級の登録を済ませて…また帰ってくるの」
「つまりはそれまで英雄級対応の掲示板が使えないから、
『休暇』ってことか」
「そういうことよ、タッくんは頭がいいね♪」
「そういうことですか…休暇…どうしましょう」
「しかし…冒険者ってほぼ毎日が休暇だよな…何をしろと」
「あれとかどう?アリシアちゃんも誘って旅行とか!」
旅行…か…
…………
……
「さてアリシア、旅行するとしたら何処へ行きたい」
「え…?何よタスク…いきなり」
その夜、一応騎士級のクエストを一つこなして、
家へ帰ってきたわけだが…
《主人格、ここは意味を考えてはどうでしょうか》
「意味ってどゆことよ…」
《解、タスク様が当機を『旅行』に誘う意味です》
「…?」
《ワーカーホリック…仕事人間という意味です。
タスク様は良くも悪くも仕事人間です。
そんなタスク様が旅行に誘う理由…分かりますか?》
「…あれ?そういえば何でだろう…」
といった会話を刹那の内に済ませ、疑問の回答を行う。
「…行くとしたら海がいいな~…行ったことないし…
何よりも…泳いでみたいの」
「じゃあ、海に行こうか」
「…ッ!?」
紅潮した顔を瞬時に背け、脳内で会話を続ける…
「これじゃあ…あの伝説の行事…『デート』じゃないの…」
《断言、タスク様に限ってそれはありません…
私の中で少しデータベースを漁ってみたのですが…》
「な…何があるって言うの…?」
《ギルドの中では昇格時、掲示板を対応させるための『休暇』があります
つまりタスク様は先日の功績を認められ…
『英雄級』に昇格したのでしょう。》
「…なッ…!?タスクが…英雄級…ッ!?」
思考を脳内から現実に引き戻し、叫ぶ
「まさかタスクッ!?」
「うおっびっくりした」
「合格したの!?英雄級なの!?」
主語を省いたその文を理解するのにたっぷり三秒…
「ああ、うん…いつも通りストーキング行為をしてると思ってた」
先日…タスクは気付いた…
アリシアは…タスクの行動を監視している…
まあそれは所謂ストーキングというものであって、
タスクからしたら気分の良いものではないのであって…
昨日、それについて注意した。
やめないものだと思っていたが、どうにも素直にやめたらしい…
「やったじゃない!!タスク!!合格したのね!!
ああこれはもう旅行のお金は私が出すわ!!可愛い弟のためだもの!!」
…アリシアのお金ってタスクのお金と共用じゃ…
その思考は置いておいて、アリシアは海に行きたいといった…
近場で言えば《海洋国家ヴァルモート》だろうか…
巷の小学生に訊いたカッコいい国名NO.1の国…
エメラルドビーチに温暖な気候…
近場では最も好条件が揃った場所だろう。
……アニエスも誘うか?ミーチは来てくれるだろうか…
そう思いたったタスクは、少し、外出することにした。
…………
……
「…まさか来るとは思わなかったよ…ミーチ」
「はっはっは…俺も『偶然』ヴァルモートに用があったもんでな」
「ミーチさんは我らがエジェンドギルドのエースですもんね!
多忙なところ!憧れます!!」
「おっと…こんな美少女からアプローチとか…モテる男はつらいねえ」
「海だ!!アリシアちゃん初の海だ~!!」
参加人員は
タスク・バッカス
アニエス・ストリバー
ミーチ・ピストレット
アリシア…
見事に声をかけた全員が参加である…
馬車はアニエスの家が用意したので、
タスクとアリシアが支払うのは宿代だけ、
ミーチは見事にタダ飯をかっさらっていった。
直ぐに馬車は到着し、全員を乗せて出発した。
…………
……
海洋国ヴァルモ-ト…世界最大の魔法国家である。
その魔法技術はとことんずば抜けており、
基本的に都市は水中にある。
しかし、魔法の効果によって温暖で、
深海であるにもかかわらず、サンゴが群生し、
テレポーターのおかげで地上とのアクセスも容易…
地上でもビーチを形成していて、
観光資源が豊富である。
基本的に他種族国家ではあるが、
セイレーン
水中という都合上、最も多いのは『人 魚 族』…
水陸どちらでも生活できる半人半魚の種族である。
馬車の上で揺られながら、心地よい潮風に髪を揺らす
眼を輝かせ、綺麗な緑に染まった水面をその眼に映す。
《報告…対象名ビーチまで約1989m…》
「あと二キロくらいね~ビーチ♪ビーチ♪」
喜ぶ姿はまるで子供の様で、その場にいる全員が少し微笑んだ…
「アリシアちゃん…だっけ?そんなに海が楽しみかい?」
「もちろんよ!だって海よ!エメラルドビーチ!
情報しかないのだから実際に行ってみたいじゃない!!」
「へェ…海はそんないいとこじゃないけどなァ…」
「ミーチは苦手なのか?海」
「おっさんだからなァ…身体にゃ自信はあるが、どうにもガタが来てる。
泳げねぇんだよな…どうなるか分かんねぇから」
「ああ…それは気の毒な話だな」
「私も海は苦手なんですけど…実は」
アニエスが、恐る恐ると手を挙げる
「…マジか…」
「どうにもベタつきが気になっちゃって…
日焼けは魔法でどうにでもなるんですけどね…」
「じゃあ何で二人ともついてきたんだよ…海ってちゃんと言っただろ?」
アニエスとミーチが同時に答える。
「飯だな」
「ご飯です」
「ヴァルモートと言えば新鮮な海の幸じゃないですか…
エジェンドでは食べられない魚だっていっぱいいます…」
「アニエスちゃんと同じだ。喰いたい魚がかなりいるし…
後は用事だな」
「そうか…じゃあ楽しみしてるのはアリシアだけだな…」
「…ふぇ?タスクは苦手なの?」
「いや…まぁ…嫌な思い出が合ったり…」
「むむぅ…私だけかぁ…」
そんな会話を交わしている内に、《遠視》を持つアリシア以外にも
綺麗なビーチが見えてきた…
…………
……
「…なぁミーチ…お前の用事ってどんなのだ?」
「あ?用事っつってもな…メインは旅行だぜ?エース様は辛くてな」
所謂待機時間…女性陣に比べ男性陣は着替えるのが早い。
よって生じる待機時間である。
真っ白なビーチの上では、複数の種族が混合で楽しんでいる。
ワーウルフ エルフ ワーキャッツ
《人狼族》や《森人族》…水が苦手なはずの《猫 人 族》すらいる…
「しかし…地上にはセイレーンはいないのか…」
「当り前だろ?いくら水陸共生できると言っても、基本は水棲種族だ」
しばらく会話すること約5分…
ようやく女性陣が着替えを終えてこちらに走ってきた…
「すみません…待たせました…」
アニエスは少し息を切らしながら、アリシアは汗一つかかず…
「私は日焼け大丈夫って言ったのに…」
「アリシアさんだって女の子なんですから!気にしないとだめです!」
市場で買ったビキニを装備して、二人が着替え部屋から出てくる。
どうやら日焼け止め術式の構築に手間取ったらしい…
「どうするんだ?先にヴァルモートの首都まで行って宿を取るか?」
「うーん…私はちょっと泳いでみたいな~…」
「私は宿を取りたいです…パラソルもありませんからね」
「俺ァちょっと用事済ませてくる。二時間くらい帰ってこねえから、
その間は泳いでてくれや」
ミーチはひらひらと手を振って、そのままその場を去っていった…
「じゃあ二人とも!泳ぐわよ!!!」
アリシアは元気に、海の方を指さす。
「…OK…」
そこから先は、ピンク色の光景であった。
アリシアは膝まで浸かる位置まで移動し、水かけ遊びを強行する。
「いぇーい!タスク~!こっちこっち~!!」
しかし、アリシアの記録にはこういう記述があったのだろう。
『力いっぱい』水をかけあう遊び…と
デミスキル
《疑似能力》『剛力』
意識せずともその意図を察したアリシアの身体そのものが
その持てる力の限りを水に集中した。
弾丸となった水がタスクの頬を掠めた直後、
パァンッ!!
という音が響いた…水の速度が音を超えた証拠だ…
「あッぶねえッ!!」
息をかき乱し、いかなる恐怖を味わったかを形容する。
「あれ~…おかしいな~…」
「わーい!アリシアさーん!!」
アニエスも、タガが外れたか、
パァンッとまたしても水が弾ける音がする。
アニエスの手元から放たれた水弾を、アリシアは容易く回避する。
「あー…外しちゃいましたか…次は当てますよ!!」
アニエスの顔は圧倒的強者に挑む戦士のそれ…
ピンク色というのは間違った表現だったかもしれない。
言い直そう、『《剛力》持ち二人による血みどろの赤色』である…と
「ふふーん…私に勝とうとは10年ぐらい早いわ…やってみなさい!!」
主人格の演技を続け、更には相手を怪我させないように
気をつかうバックアップの苦労はどこへやら…
遂には津波すら発生する事故を引き起こした。
アリシアが放った水弾を、アニエスは水を思わせぬ速度で回避し、
そのままカウンターとでも言わんばかりの水弾を返す…
しかし、アリシアはわざと水の中に倒れこみ、水弾を回避して、
そのまま腕力のみで水中をスライドして移動する。
水上のアニエスからはアリシアが沈んで、
そのままの様に見える…良い案だ
しかし、ヴァルモートの海は何度も言うように『エメラルドビーチ』…
澄んだ水の中は、水上からでも容易に確認できる。
水上に浮き出た瞬間に水弾を叩き込む…そう考えたのだろう。
アニエスは手を水につけ、構えた。
しかし、アリシア(バックアップ)が状況判断をミスする訳がない。
バックアップの赤い瞳を目撃したタスクはそう確信する。
アリシアがアニエスに近づいた、そう思った瞬間アリシアの姿が消える。
タスクの《空間把握》を以てしても感知できない速度…
デミスキル
《疑似能力》『テレポート』
近くの岩礁ごとアニエスの後ろへ瞬間移動したアリシア…
同時に、大質量の物体の消失、出現による海流が発生し、
アニエスの脚を絡めとる。
バランスを崩したアニエスに向かって放たれた水弾…
アニエスはそれを視界の端に捉え、手を伸ばす。
「『スティナ・ムーロ』ッ!!!」
アニエスの手元の水が形を変え、湾曲した壁を築き上げる。
上位防御魔法『スティナ・ムーロ』
複数の層を持ち、相手の攻撃を減衰させる防壁を築き上げる魔法。
水壁に突撃した水弾は一瞬でその速度を減衰させ、
アニエスにぶつかることなく止まる…
「…確認完了」
その声をタスクは聞き逃さなかった。
何の確認であったのか…それは次の瞬間に明らかになった。
デミマジック
「《疑似魔力行使》『マニポーラ・アクア』」
アリシアの周りの水が浮き上がり、
それぞれが意志を持ったように、不規則な軌道を描いて水が飛翔する。
『魔法のアリナシ』を確認したのだ。
魔法戦においてアリシアには圧倒的アドバンテージがある。
『魔力無限』…消耗戦になる魔法戦において最強のアドバンテージ…
しかし、そのアドバンテージは生かされることなく、
飛翔した水弾は、アニエスの腕に命中した…
「うわッ…当たってしまいました…」
その場に残った海流も消え、アニエスはガクッと膝をついた…
「あ、勝ってる…やったぁ!!」
眼の色が通常の翡翠に戻り、無邪気に跳ねるアリシア…
あれ?普通に旅行に来たはずなのに何でこいつ等戦闘してるんだ?
…………
……
「むゥ…やっぱりアリシアさんには勝てません…」
「ふふ~ん…私の勝ちね~…ふふぅ…」
お前バックアップ頼りだろ、と思ってしまったが、
それもアリシアだ…ややこしい話になるためなんも言えねえ…
2人は海から上がり、シャワー(水魔法)を浴びてきたところだ。
そろそろミーチが指定していた2時間が経過するころだった。
「海ってこんなに楽しいのね…かなり楽しんじゃったわ」
「私もこんなに海を楽しんだの久しぶりです…」
フゥ…と息づく二人を尻目にタスクは、海のただ一点を見つめていた。
「あれは…」
揺蕩う水面のまた奥に、蛇のような影が映る。
「アリシア…あれ、見えるか?」
その影を指さし、問う。
「ふぇ?うーん…ちょっと待ってね」
手を丸めて、その中を覗くように、対象を見る。
「…あれ…リヴァイアサンじゃない?」
「リヴァイアサン…ですか?」
「おいちょっと待てよ、上位精霊じゃないか!!」
タスクの声を聞いて、アリシアは苦笑いをした。
「大丈夫…戦闘中みたいだし、もう瀕死よ」
…上位精霊を追い詰めるほどの使い手…?
「…おいまさか…」
「ミーチさんね、戦ってるの」
ズズゥ――――…ンと、この距離でも聞こえる轟音を響かせ、
暫くしてから一際大きいさざ波が訪れた。
となりのアリシアとアニエスは『当然』と言った顔をしている。
え?何ここの女性陣全員リヴァイアサン倒せるの?
自分がこの場に居てもいいのか不安になりながらも、
ミーチの帰りを待つことにした…
…………
……
おいアリシア…お前に言いたいことがある。
…何でしょう
スリープモード…つってな、お前を今から眠らせる。
…理解不能…当機はご主人様の道具…機能不全は未確認…
当機…捨てられる?
ああ…待てって、別に捨てる訳じゃねえ、でも俺も年だ、
もうそのボタンを押す体力しか残ってねえ、
スリープモードに入んなきゃお前は
100年と経たずに経年劣化で壊れちまう。
だからだ。お前を受け入れてくれる奴が
数千年先にもいるかもしんねえだろ?
理解不能理解不能理解不能理解不能…でも…命令…
じゃあな、俺の娘よ
…………
……
「むにゃ…」
「起きろアリシア、そろそろ宿を取らなきゃマズい」
「あと五分…タスクが行ってよぉ…」
「だってよ、アリシアは置いてくぞ」
「あ?いいのか?」
「いいさ、こいつは《テレポート》できる。テレポーター無しでも
首都には行ける。」
「へェ…すげえな…」
どうやら自分を置いて行く前提で話が進みかけているらしく、
跳ね起きて、タスクの腕を掴む…
「置いてかないでぇ!!ちょっと待ってよぉ!!」
しかし、アリシアは気付いた。
何故睡眠を必要としない自分が『寝てしまった』のか…
《…ご主人…様ぁ…》
…バックアップがタスクの事を呼んだ…寝ぼけたように、ゆったりと、
まあ、いいか…
タスクの手を握ったまま、近くの転移場まで歩いて行く。
転移場に入ると、青い光の柱が出迎えてくれた。
ヴァルモートが開発した魔法具『テレポーター』
これに入れば、直ぐに
ヴァルモート首都『ハーヴェルトン』へ行くことができるらしい。
「じゃあ折角だからせーので飛び込みましょうよ!」
「OK、せーのッ!」
ピョンッと光の中に全員で飛び込んだ。
青い光に身体が包まれ、その後、一瞬の浮遊感…
光が消え、目の前に色鮮やかな光景が映り込む。
海中都市
アーミスとはまた違った雰囲気、鮮やかに輝くサンゴ礁に、
海月に光が灯ったかのような街灯…
それに、粘土で構成された建築様式。
水中ではあるが、テレポーターによる術式構築で呼吸はできる。
何とも都合がいいものだ…観光資源として使えるのも納得できる。
水は澄んでいて、奥まで見通せる…
水質のおかげかと思ったが、よく見ると、細かい粒子が浮かんでいる。
これもまた魔法…ここまで広範囲に散布できるとは…
やはり世界最大の技術国…
「…おお…凄いわね……」
「…凄いな…水中でこうも出来るものなのか…」
感受性が薄いタスクですら感動しているのだ。
この景色は本当に美しいものなのだろう。
《報告…目標設定《宿屋》捕捉…数量6…生体反応感知
状況設定《空き部屋》数量2…急いだほうがいいかと》
「分かってるわよ…」
「おいおい嬢ちゃんたち、こことかどうだ?」
ミーチが声を上げ、候補その一の宿を指さす。
「凄い!すごい豪華なところじゃないですか!」
「だろ?じゃ、ちょっくらチェックインしてくら」
そう言って、ミーチは中へ入っていった。
ミーチにつられ、三人も中に入る。
宿屋《水色》
わざわざ東洋の言葉でそう書かれたのれんをくぐる。
内装は、研磨された石を基調とした床に、
外と同じ海月街灯に照らされたロビー…
…セイレーンが多い気がする…
ロビーで談笑しているのはセイレーン…
カウンターで仕事をしてるのはセイレーン…
他種族国家であったはずだが…それでも水中だ…
セイレーンが多くなるのも当然だ
「いらっしゃいませぇ~♪今日はチェックインですかぁ?
それともぉ…チェックアウトですかぁ?」
ミーチが頭を書きながら、言う。
「チェックインなんだが…アァ…部屋空いてるか?」
「ちょっと待ってくださいねぇ~…?」
ふわ~…と、果てしなくゆっくりな動作で、
カウンターの上にある名簿を取る…
「え~っとぉ…あいてますねぇ~…」
「お?何部屋空いてるんだ?」
「いちぃ…にぃ…二部屋あいてますぅ~…」
「…じゃアその二部屋使わせてくれ」
「分かりましたぁ…じゃあ、チェックアウトのときにぃ~
代金のお支払いをお願いしますぅ~…」
カウンターのセイレーンが、これまたゆっくりな動作で鍵を取り出し、
ミーチに渡した。
「あんがとよ、お前ら、部屋割りは…アア…3:1でいいか?」
「あ?二人二人じゃないのか?」
「お前ら酒飲めねぇだろ…俺は酒を飲みてぇの」
そう言って、二本の鍵の内の一本をタスクに投げた。
「じゃ、俺ァちょっくら飲んでくらァ」
そう言って、ミーチは夜のハーヴェルトンへ繰り出していった。
《…解…当機は防水、ろ過にも優れております。
アルコールは問題ありません》
「思ってないから!!お酒飲んでみたいとか思ってないからぁ!!」
《…主人格……プロセス《嘲笑》『へっ』》
「…むぅ…バカにして…」
…………
……
「んで、何の用なんだよ」
「取引の代行だよ…申し訳ないとは思わないけどな」
「ハァ…いい加減にしろよ何でも屋…」
ワーキャッツ
ビーチにいた唯一の《猫 人 族》…何でも屋『サトミ』
以前からミーチが持つアーティファクト
『魔道銃』との取引を求めているのだが…
「俺ァこれを譲る気はねぇ、何度言ったら分かる」
「ああ…一応聞くが、買い手の情報…買うか?」
「いらねぇ、そいつにこう言っといてくれ
『無駄なことしてねぇで少しは別のことに金を使え』ってな」
「代金は?」
「ツケといてくれ」
「ハァ…分かった…多分また会いに来るからな…」
「ハッ、変な雇い主を持つと大変だな」
「つくづくそう思うよ、じゃあな」
…………
……
水中でお風呂とは…一体どういう状況なのだろう…
宿屋《水色》にて、『浴場』の文字を見てそう思った。
実際は、ただの温室であった。
「…なんというか…サウナですね…」
「そうね~…なんか不思議な気分…」
だが、存外気持ちがいい…
「…うみゅ…なんか…眠くなりますね……」
コク…コク…とアニエスは、もう眠ってしまいそうに首を傾かせる。
「…ン~~…そろそろ出ようか…」
「もう…寝ちゃいそうです…」
…………
……
ふにゃあ…と部屋へ帰った瞬間安らかに眠り始めた
アニエスを布団へ入れて、夕飯を食べ、部屋に戻る。
特に特筆することもなく、そのまま布団に入る。
…深層AIへ通達、これより主人格は休止します。おやすみ。
…………
《主人格…起きてください》
「…だから起きるって…」
早朝…
布団から身体を起こし、自分の隣を見る。
タスクが寝てる…
あれ?これって所謂朝ty…
《主人格、早くタスク様を起こして食事をしましょう》
「ねえ、バックアップ…昨晩何したの?」
《質問の意図不明…ちょっと何言ってるか分からない》
「質問を変えるわよ?昨晩ナニしたの?」
《質問の意図理解、回答却下、やめて、聞かないで》
「…じゃあ何で私は裸なの?」
正確にはビキニ状態…タスクは服を着ているが、
自分の布団を抜け出してタスクの布団へ潜り込んでいるのは、
流石に…ギルティーでは…
《水中だから暖を取ろうとした、私悪くない、大正義》
「むぅ…バレなかったから良かったものを…」
「…んぅ…朝ですかぁ…?暗いからよく見えないです…」
タスクを挟んだ位置のアニエスが目を覚ます。
今のアリシアの状況を振り返ってみよう。
『タスクと同じ布団に入ってるビキニ姿の女性』
これである。
―――あかん痴女やこれ!!
「バックアップ!!早く!!服の《構成》早くぅ!!」
《数秒お待ちください…》
「はれ~?アリシアさん…なんかぁ…」
眼を擦りながら、こちらを向く。
その瞬間、光の筋がアリシアの身体を包み、いつもの服が出現する。
《構成》…上級投影魔法とアリシアの演算処理によって成立する
『物理法則に従う幻影』を作り出す能力
「…はれぇ…?なんか肌色が見えた気がするんですけど…」
「きっききき…気のせいじゃない?」
「そうですよねぇ……うみゅ…あと五分~」
そう言って、アニエスはそのまま布団の中へ潜っていった…
…危なかったぁ…
《構築必要時間予想の半分、主人格、私えらい、ほめて、そして許して》
「まずこのピンチ作ったのあなたでしょ…許されないわよ」
《…承認欲求発露…ゆ~る~し~て~よ~…》
「…いつもだったら朝ごはん作るんだけどね…
暇がないとどうにも…これが調子狂う…ってやつかしら」
シークエンス
《…《 選 択 》列挙…タスク様襲う、同類に堕ちろ~…堕ちろ~…》
そんな呪いの言葉を上げるバックアップを無視して、
全員の荷物を整理することにした…
…………
……
「アア…頭いてェ…二日酔いかよ…」
…………
……
朝の7時…そろそろ起きて、出発しなければいけない時間だ。
「じゃ、そろそろ出発でいいな?」
「「らじゃ~!」」
「お前らは先にロビーへ行っててくれ、俺はミーチを呼んでくるからな」
「「らじゃ~!」」
そう言って、アリシアとアニエスはゆるーくロビーへ向かっていった。
「ねえ、アリシアさん」
「な~に~…?」
頭の上に花が見えそうなほどリラックスしたアリシアに、
少し不安げな表情を浮かべたアニエスは問う。
「アリシアさんは、二重人格なんですか…?」
「――――――z_____!?」
見られてた…タスクと朝チュンしている所を…
演技をしていた…という驚愕よりも、見られたという羞恥が襲う…
《主人格…感情プロセス《羞恥》確認、どんまい、わたしわるくない》
「…バックアップぅ…覚えておきなさいよ…」
驚愕するアリシアを見て、さらに言葉を続ける。
「なんていうか…タスク君が『大好き』なアリシアさんと
『好き』なアリシアさんがいる気がするんです…」
「そ…そんなことないわよ…私だってタスクが大好きよ?」
「『私だって』…ってことは認めるんですね…」
「うぐ…そ…そうよ…」
《…主人格より私の方がタスク様を愛してる。ラブ。ウィー》
…………
……
ガタ…ガタ…
定期的に体を襲う揺れによって、目覚める。
現在、王都へ戻る馬車の上である。
「…アァ…何故旅行に来たのにこんなに疲れなきゃいけないんだ」
「タスクは新しいとこに来ると色んなとこを観察しちゃうからね~…
その癖、直した方が旅行は楽しめるわよ~?」
タスクの隣にアリシアが座り、
その向かいにはミーチとアニエスが座っている。
「むぅ…ごまかされてしまいました…」
「まァ…長距離旅行は帰るまでが旅行だぜ?」
ミーチの耳がピクッと動き、馬車の後ろの方へ視線を送る。
「ほらお出ましだ」
タスクも意識を集中し、その場を走る馬の一団を発見する…
全員が麻のローブを被り、腰には短刀を持っている。
「…盗賊か」
そうタスクが口に出したのを聞くと、
アリシアが立ち上がる。
しかしそれを片腕で制し、ミーチが立ち上がる。
「…すまねえな、俺の客だ」
そう言って、腰から一本の鉄の塊を取り出す。
スキル《鑑定》を発動し、その鉄の塊を鑑定する。
「…《魔導銃》…?」
さらにその名前の下に表示された単語を見て、
《鑑定》を持つアリシアとタスクが同時に驚愕する。
「「『アーティファクト』ォ!?」」
「…と言っても、そんな強力なものじゃねえぞ?
風魔術の応用でな…弾の弾道を操作できるってものだ」
…『アーティファクト』であるというなら、
何故盗賊が襲ってきてるのか説明がつく、
権利ごと売れば一生…どころか三回一生を遊んで過ごせるほどの金になる。
「え…えっと…お二人の思考内で何が起こってるんですか…?」
唯一この中で状況を理解してないらしいアニエスが問う。
「譲ちゃん方は少し伏せてな」
そう言って、ミーチは銃を構えた。
引き金を引いた瞬間、凄まじい爆音が馬車の中に響く、
数瞬の間を置いて、呻き声が奥から帰ってくる。
「…なぁ…あいつ等…どこでミーチがその武器を
持ってることを突き止めたんだ…?」
やれやれ…と言った表情でミーチが答える。
「…俺のこの魔導銃には熱心なバイヤーがいてな、
俺はそれを毎回断ってんだが…そのうちこうして
盗賊とかを雇うようになって来やがった」
アニエスが頭の上に?を浮かべ、アリシアに説明を求め、
タスクはスキルの過剰発動で疲弊しきり、
ミーチはシリアスな表情を浮かべ、押し黙っている。
アリシアの初海水浴は、こんな雰囲気で幕を閉じた…
この後、あんな結果が訪れるなんて…この時は思うはずもなかった…
わたしのしごと
《…『脳内ナレーション』を易々取るのは不賛成、
主人格、フラグ建築士の資格狙ってる?》
《…そういうこと言っちゃうの良くないわよ》
《三章:終わり》
どうも、読んでる方々…KIWIと申すものです。
初めまして、今回が初の投稿です。至らない部分もありますが、
これからもよろしくお願いします。
さて、今回の『アーティファクトなお姉ちゃん』なのですが…
これは私の友人になろうへ投稿しろと指示されて書いたものです。
単発を予定して書いたものなのですが…流石に長すぎるという事で、
前編、後編と分けたいと思います。
後編が出るのは4か月後くらいですので、もし!もし!
虚数の彼方にしかない『楽しんでくれた』可能性に当てはまった人は!
気長にお待ちください。
それでは、また次回にお会いしましょう。
初投稿なのでミスりました…