これが物語のはじまりとかおかしくないか?
吸血鬼には夢があった。
「この国の女性の血を全て頂くこと」
そして、最後の女性がいるという国の端っこにあるひとつの豪邸にたどり着く。
月光で白く輝く豪邸、一つ一つ丁寧に整えられている庭園。
吸血鬼は一人、豪邸の中に入り込み、自らの夢を叶えるため、女性の元に急ぐのだった。
吸血鬼_______________
それは、一度死んだ人間がなんらかの理由により不死者として蘇ったもの。
美しい女性の血を好み、血を吸われた人は吸血鬼になってしまうという説もある____。
まあ、他にも色々諸説はあるがそんなことは、今はどうでもいい。
俺は、これから超美しい美女の元に行って血を頂きに行くんだ。
あと、一人。
あと一人で、俺はこの国の女性の血を全員頂いたことになる。
「はっ!!今日は最高の夜だ!!なんせ、俺は全ての女性を堕としたのとほぼ変わらないんだからな!!」
はははっ、と高笑いをしながら俺はそれぞれの家の屋根を、一つ一つジャンプしていくように渡り歩いた。
きらめく星。真っ白く輝く大きな月。チラチラと瞬く家々の灯。時々聞こえる住人の歓声と、音楽。
まるで「お前はこの国で1番の男だ」と俺を祝福してくれているようだ。
今日は、全てが輝いて見える!
「待ってろよ...可愛いお嬢さん」
俺はそう呟いて、屋根を渡り歩くのを辞め、暗闇の中に溶け込んだ。
「ここか...」
辿り着いたのは、蔦が絡まり、庭園は荒れ
まさに幽霊屋敷______。
ではなく、月光に照らされ、白く輝く美しい豪邸だった。
「ロマンに欠けるなぁ...」
と俺はガックリと方を落とした。俺の夢は『この国の全ての女性の血を吸うこと 』でもあるが、やっぱり、『幽霊屋敷のような豪邸で孤独に暮らし、外出を禁じられ静かに月を見つめることぐらいしかできず、誰かが私をさらってくれないかしら...と思っていたところに、「やぁ、お嬢さん。あなたをさらいに来ました。」』と俺が颯爽と現れるというシチュエーションに憧れていたのだ。
しかし、この国にはそんな都合のいいことがあるはずが無く。
残念なことに、国の一番端にあるこの豪邸だって、きちんと全てが綺麗に整えられている。
蔦なんかどこにも絡まっていない。
しかし、唯一違和感なのは人影がいないということだ。
門番くらいいるかと警戒していたが、そんな必要はなかったらしい。
「まあ、別の国にでも行けば、そのくらいの幽霊屋敷いっぱいあるさ。まずはここを攻略しないと。」
俺は気を取り直して、2mくらいの高さの鉄の門を押した。
ギィィ...と門の音が響き渡る。
辺りがしんと静まり返っているせいか、その音はやけに大きく聞こえた。
今、君は「いや、門くらい飛び越えろよ」と思ったかもしれない。
ああ、このくらいなんともないさ。飛び越えるなんて朝飯前。
だがしかし、飛び越えたくても飛び越えられないんだ俺は。
なぜって?俺は、ある門ある門飛び越えながら生きてきたが、全部失敗してきたんだ。
後ろにあるマントのせいで!!
引っかかるんだ。必ず!!
想像してみてださい。俺がマントが引っかかったまま、地面に足もつかず、宙吊りになってる姿を。
門番に見つかった時の恥ずかしさは君の想像の域を遥かに超えている。
俺はもう、「なんか急に高いものを飛び越えたくなって...」なんて二度と言いたくないんだ!
とにかく俺はもう、門を飛び越えることをやめたんだ。
そんなことを誰かに熱く語っていたら、もう門は体をすり込ませるには十分な幅になっていた。
幸運なことに豪邸の住人は気づいてないらしい。
俺は隙間から体をすり込ませて、敷地内に入り込んだ。
月光に照らされているからだろうか、花壇に植えられている花の一つ一つが美しく見える。
真ん中にある噴水も、今は水が出ていないが
この世のものとは思えない輝きを放っているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。
全てがきちんと手入れされている庭。
花の配置もバランスも素晴らしく綺麗だ。
(きっと、心までも綺麗な美女なんだろうな)
そう思うと、俺の心は踊った。
無意識に足も早くなる。
(早く会いたい)
そう思っているうちに、俺は豪邸の扉の前に到着した。
さて、ここからが問題だ。
言っておくが、俺は吸血鬼だ。
勘違いして欲しくないのは、決して泥棒などではないということ。
つまり、豪邸の全体図や下調べをしてきている訳ではないのだ。
だから.....俺は、いくらここに美女が居るとしても、この豪邸の何処に居るかは全くもって知らない。
そう考えると、宮殿の方が楽だったなぁ、なんて俺はふと思った。
この豪邸より広さは何倍もあるが、何しろこの国の宮殿は造りがわかりやすい。
さらに、部屋の内装で、誰の部屋なのかということもわかってしまう。
ひょっとしたら、猿でもわかるのではないかと心配になるくらいだ。
まぁ、門番に対しての言い訳はきつかったが。
一般の家だって、部屋数が少ないから、宮殿と比べればなんてことない。
しかし、ここは別だ。
門番こそいないが、俺は豪邸というのは初めてだ。
外見からしても宮殿とは全く違う造りをしている。
お嬢さんがどこにいるか分からないし、さっきも言ったが、人影が無さすぎて逆に怖い。
みんな気配を消すのが得意なのだろうか。
(扉開けた瞬間、天井から100本ぐらいの槍が降ってきて、1000人くらいのボディーガードが出てきたらどーしよ...)
俺は吸血鬼だから100本の槍が降ってきても多分死なないと思うけど、流石にボディーガードが何人も来られたらマジで困るのだ。
「ここにいるお嬢さんをさらいに来ました」なんてイケメン顔で言ったとしても、効果はゼロだ。絶対。
地下室にでも連れてかれて、一生外の世界を見ることなんて出来なくなる...
(そんなのは絶対やだ!)
俺は心の中で叫んだ。
だがそんなことをしても、何かが変わるわけじゃない。
俺は自分が、焦れったくなって、
「覚悟を決めろ!俺!!ここを攻略しなければ、この国の男にはなれないぞ!!」
と、小さな声で自分を叱咤した。
大丈夫、大丈夫。
何が起きたって、ちょっと変わったことがあったとしても、俺は吸血鬼。
そんなことで驚いたりしない。
思いっきり深呼吸をして、俺は覚悟を決めた。
そして、俺は「失礼しまーす」と小さな声で呟き、扉を少しずつ開けていった。
気づくべきだったのだ。
最初から。
どうして都合よく門が開いているのか。
どうして夜中なのに扉が空いているのか。
今考えればますます、俺は馬鹿なのか、と壁に頭を打ち付けたいくらいだ。
俺は、今でもその時の俺を思いっきりぶん殴ってやりたい。
そう、まだあの時の俺は純粋だったから、気がつかなかったのだ_______________
扉を開けたら、そこには大きな大広間があった。
天井からは、宮殿にもあったような、立派なシャンデリア。
壁には数々の名画か何かの絵が飾られている。
さらには左右に階段が配置されており、階段を登りきった踊り場のようなところには、ステンドグラス製の「聖母ーマリア様」の姿が描かれていた。
俺はギョッとした。
もしかしてここは元々教会なんじゃないかと。
外見からは全然そんな風には見えなかったが、いざ、これを見るとそうではないとは言いきれない気がしてきた。
「教会」にたいして俺はあまりいい印象がない。
すぐに俺を、「悪魔だ、汚らわしい」などと言って、俺を厄介払いするのだ。
ただ、教会の周りが静かだから、昼寝にちょうどいいと思って居ただけなのに。
まあ、今はそれは置いといて、だ。
一体、どうしたものか。
ここにいるお嬢さんが協会関係者だったとしたら、俺はどうなってしまうのか。
厄介払いされるくらいで終わるのなら良いのだが、それ以上のことをやられると、流石の俺も太刀打ちできなくなる可能性がある。
教会の奴らの力は意外と強いのだ。
このまま退散しても良いには良いのだが、それでは、俺の夢が達成されずに終わってしまう。
身の安全を取るか、自分の夢を優先させるか。
俺はしばらく大広間の中央に進みながら、考え込んだ。
考え込んだ末、俺はふと、足を止めた。
そして、思ったのだ。
「夢を諦めるには早すぎないか?」と。
また、「こんなに綺麗な豪邸で、庭園の花をあんなにも手入れしている人が、俺を襲うと思うか?」と。
いざ、何かあったらコウモリにでもなんでもなって、逃げればいい。
それに、俺はさっき覚悟を決めたばかりじゃないか!
「協会ごときに、何をビビっているんだ、俺は!なんと情けない。俺は夢を叶えるためにここにいるんだ!」
俺はそう言って、再び立ち上がり、右側の階段を駆け上がった。
どうしたことだろう。
散々、あちこちの部屋を見て回ったが、一向に女性の姿が見当たらない。
それに、どの部屋を見ても、誰一人寝ている形跡がないのだ。
そもそもどの部屋にも家具などが置いていない。
(ほんとに居るのだろうか...)
だんだん自分でも期待が萎んでいくのがわかった。
俺の目からは希望の光が消え、半ば半信半疑で他の部屋を見て回った。
最後の扉を開けた時、俺は洞窟の宝を見つけたような気持ちになった。
あったのだ。
ベッドや家具などが!!
家具を見つけて大喜びする日が来るなんて思いもしなかったが、やっと見つけた!
俺の捜し求めていた女性を!!
俺はそろそろと音を立てずに、ベッドのそばに忍び寄り、膨らんでいる羽毛の布団を捲った。そして、俺はすやすやと寝ている女性の首筋に______
ってあれ?
しばらく俺は呆然とした。
首筋に噛み付こうとしたところには、可愛い動物のぬいぐるみがあったのだ。
しかも、狼の。
「えっ」
俺は慌ててベッドの上から飛び退き、体勢を立て直した。
(どっ、どういうことだ...)
なぜ、ベッドの上に狼のぬいぐるみがあるんだ??
俺は混乱した。
(なんで?しかもなぜ狼のぬいぐるみ?コウモリという存在がありながら、どうして...)
俺の頭はますます混乱した。
コウモリではなく、狼のぬいぐるみという衝撃と、それよりも女性がいないという時点で俺は頭がパンクしそうになった。
(ハメられたのか...??)
俺の心と体は憔悴しきっていて、あまりにも大きすぎる衝撃に、俺の足は動かなくなり、ペタリと床に座りこんでしまった。
「やっぱり、人間はコウモリより狼が良いのか...」
もう俺の頭の中には「狼のぬいぐるみ」しかなく
女性のことは頭からスッカリ抜け落ちていた。
そんな時だ。
ふと、視線をベッドの向こう側に向けると、
俺の目はみるみるうちに大きく見開かれた。
そこには 黒く、人ひとりが入れそうな大きな箱があったのだ。
そうまさに『棺桶』だった。
(なんでこんな所に棺桶が!?)
俺は驚きのあまり、棺桶から目が離せなくなった。
寝心地が悪すぎて、最近はこの俺でも使ってないというのに。
まさかコレクションにでもしてるのか?
(いや、待てよ)
俺は一旦考えを止めた。
(まさか、ここで眠ってるんじゃないだろうな)
俺は、じーっと棺桶を睨んだ。
ベッドの上に狼のぬいぐるみでフェイクをしたくらいだ。
只者ではない。
俺はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る棺桶の蓋に手を伸ばした。
蓋の両端を掴み、上に持ち上げると、ガコッと音がして、蓋が外れた。
恐る恐る瞑っていた目を開けてみると...
そこには、鼻息は荒く、目は充血し、その目の下は隈がくっきりとあり、片手にはビデオ、もう片方の手にはカメラという金髪の髪で、白いネグリジェを着た
若い少女がいた_______________。
初めて、小説を書かせていただきました。
読みにくいところがあるかと思いますが、温かい目で見守ってくだされば幸いです。
投稿が遅れる可能性もありますが、そのところはご了承ください。
これからわちゃわちゃとした生活が展開されていくと思います!
もし、ご興味があるのならば、ぜひこの豪邸を覗いてみてください。
きっと、楽しい時間を過ごせるはず!