番外編 緊急事態につき招集
「……で、なに?緊急事態だから急いできて、なんていうから慌ててきたのにただ部屋が汚いだけじゃない」
「部屋が汚いのはいつものことでしょ!問題はそこじゃないんだよ、タッく〜ん」
半泣きでそういう私はティアナ。
ティアナ・パリオネル。
今日はせっかくの休日で、朝からタッくんのとこに顔だしたりお買い物したりと考えていたのに朝から最悪なことが起こって気分は最悪。
うるさくするなとお父さんには怒られるし、目の前にいるタッくんは呆れ返ってるし……
「ほら、大丈夫だから」
恐怖と気持ち悪さで鳥肌が止まらない私をみかねてか優しく背中をさすってくれるタッくん。
「ありがとう……あっ!!」
そう声をあげ倒れかけそうになる。
というのも、今確かにやつが見えたから……。
「なに?どうしたっていうのさ。虫か何か?あ、いっとくけど僕カエルはダメだからね」
「それは知ってるよ!けど、そうじゃないの!あれ、あれ!」
そういって必死に指をさしつづけるもタッくんの険しい表情が変化することはない。
「なに?……ねえ、悪いんだけどさ、ティアナ。ほんと、この部屋汚すぎると思うよ」
「知ってる!けど今はそうじゃないでしょ!」
タッくんの腕にしがみつきながらそういうとタッくんは呆れたようにため息をつく。
「なにかハッキリいってくれないとわかるものもわからないって。とりあえず部屋、片付けるからね」
そういうと手近にあった本を手に取るタッくん。
「ほんと、ティアナは整理整頓苦手だよね。これ、ここに置いとくから。この前もその前も……っていうかいつもいってるけどさ、ここには物置かないでよ。本棚には本を」
「タッ、タッくん、後ろ!後ろ歩いてる!!」
見つけた瞬間に全身にブワーッと鳥肌が立つ。
「はぁ?歩いてるって……」
そういってタッくんが見やったときにはもう物陰に隠れている。
「なにもいないんだけど。ほんと、なんなのさっきから。ちゃんといってくれなきゃわからないってば」
「だって口にするのもおぞましいんだもん。あ、あんなの……もう……」
「あー、わかったよ。わかったから、別に言わなくて平気だから」
そういうとこっちにきて、床にペタンと座り込んでしまっている私の背中をさすってくれるタッくん。
「タッくん」
「なに」
「タッくん……」
「なにってば」
「う、ううう、後ろ……」
「はあ?」
そういって今日何度目かわからない呆れ顔で後ろを見やる。
今度は見た……よね?
そう思って振り返ったままのタッくんを恐る恐る見つめる。
なにも反応がないけど、見えてないのかな。
なんて思った矢先、タッくんがすごい勢いで抱きついてくる。
それは恋人同士の抱きしめーとかじゃなく、鬼気迫った人が藁にもすがるような感じで、
「ちょ、いたいいたいいたい!」
と悲鳴をあげる。
するとその声でやっと正気に戻ったのかハッとした様子で私の横に正座するタッくん。
それからおもむろにズレたメガネを直し咳払いをする。
先ほどまでの醜態は忘れてくれ、とでもいいたげだ。
あんなに面白いの忘れられるわけないしからかいたいとこだけど今は目の前のあいつの話が先だろう……。
「ティアナ……率直に聞こう。あれはなんだ?」
部屋に鍵をしめ、二人、廊下で互いに正座をして私はシュンと頭をもたげながら事情を話している。
「……つまり、あれは君が散々あの汚い部屋で汚い菓子くずをこぼしつづけた結果あらわれた、伝説の生き物だと……いいたいのか?」
そういうタッくんはそんな馬鹿な話あるか、と言いたげだが実際に見てしまったからには全否定できてないらしい。
「汚い菓子くずっていうか、まあお菓子色々食べてそのままにしてたら現れたっていうか……」
タッくんのジトーッとした目がまっすぐにこちらを見つめてきて耐えきれなくなってきた私は開き直るように
「だ、だって、私整理整頓とか掃除とか苦手だし、あんなの出るって知ってたらちゃんと……」
そう、あんな、菓子くずすべてが固まってできたような生き物が現れるなんて知ってたら流石の私も部屋をいつでも綺麗にしてたろう。
ただの菓子くずならまだしも動いてるんだもん。……動いてるんだもん!
「ティアナ」
諭すような、怒るような、そんな声でタッくんが私の名を呼ぶ。
「はい……」
「僕にあれをどうにかしろ、と?」
「はい……」
「……あのさ、どうやって?そりゃ、頼ってくれるのは嬉しいよ。だけどさ、どうやって?」
常に清潔で潔癖なとこがあるタッくんはあれを見たことが未だに信じきれてないというか信じたくないような感じで若干錯乱しているようだ。
ここは廊下なので通りすがるメイドさんたちがなにをしてるのかしらというようにこちらに視線をよこすけどそれに受け答えしてる場合じゃない。
「……食べる……とか?」
半分冗談でそういったら、
「食べる?!あ、あれを食べる?!」
と発狂じみた口調でいったタッくんがバッと立ち上がる。
通りすがったばかりのメイドさんも何事かとこちらを凝視してる。
「タ、タッくん、落ち着いて。冗談だから、ね?」
そういうと、しばらくポーっと目の前を見ていたタッくんがストンと座り込んだ。
うつむいていて表情がよく見えない。
「あの、タッく〜〜ん」
大丈夫かな。
やっぱりタッくんは潔癖なとこあるから見せるべきじゃなかったよね……。
失敗した。
なんて思っていたら、ヒックヒックという、泣き声……が聞こえてくる。
「もう……信じられないよ。僕、こんな……こんな……」
「う、うん、わかった。ほんっとうにごめんね、タッくん。私がどうにかするから、ね?」
それから少しするとタッくんはやっと落ち着いてきてまだ若干鼻をすすりながらも
「あれ……本当に菓子くずから生まれたの?なにか魔法とか……ないの?だって菓子くずが……」
未だに信じられないという口調でそういうタッくんに「えーと……」なんていいながら頭をかく。
というのも、そう言われてみれば思いあたる節があったから。
この前学校で作った魔法の液体が入った小瓶、絶対丁重に扱え、間違っても地面に置いたりするなって再三言われてたのに地面に……おいてたような……
「あー、あの、タッくん。どうやら、菓子くずが勝手に動き出したわけではないようです……」
苦笑いを浮かべつつ手を上げてそういうとタグはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には光がない。
こ、怖い……。
「どういうこと。説明してよ」
亡霊のようにそういうタッくんに私はとびきりの苦笑いを浮かべながら「実は……」と切り出した。
事情を話し終えた時、タッくんは下を向いてプルプルと震えていた。
そんなタッくんを目の前に私は必死に耳を塞いでいた。
というのも、絶対ドカンと大きなのがくると思ったから。
けどタッくんは怒りを通り越して呆れかえってしまったようでなにも言わずにスッと立ちあがって私の部屋の鍵を開け扉を開け放った。
その瞬間菓子くずモンスターが物影に隠れたのが見えて改めてゾッとする私。
未知の生き物プラス小さいけど微妙に大きいあれくらいの生き物って最強に怖い組み合わせだよね……
「ティアナ」
「はい……」
「今から掃除するよ。あと」
語尾を強めるとこちらを見やり(その顔には優しげなんだけれど怒気を帯びている不気味な笑みが宿っている)
「今後二度とこんな状態にしないこと。日頃の努力が綺麗な部屋を作るんだよ」
なんだか名言チックなことをいうタッくんに「そうだね……」なんて答えた。
案の定部屋の片付けは最初から役割分担がされていた。
タッくんが整理整頓掃除。そして私がやつの……やつの処理係。
私は鳥肌がたちまくる腕やら足やら体やらをさすりながらも必死にそいつを追いかけた。
時にそいつが掃除中のタッくんに当たりそうになるとタッくんは「ひぇあっ?!」と女の子のような悲鳴をあげて飛び上がった。
そのあとには必ず少し赤くなりながらこほんと咳払いをする。
面白いなあ、と思いつつも私の目的はやつを処理することだから必死にそいつを追いかけ回した。
そうして、日も暮れる頃。
部屋は綺麗さっぱりして先ほどまでのものだらけのみるからに不潔な空間が嘘のようになった。
そんな中、私は今だに、やつを捕まえられずにいた……。
「ティアナ、そっち!」
「……どっち……あーっ!もうだめ!!」
そういって私は部屋の真ん中にぺたりと座り込む。
「なにやってるんだよ、もう少しだったんだぞ」
そういつタッくんはドアの淵からこちらを見ていて部屋の中にはもう絶対に入らない気でいるらしい。
つまり、二人でやつを追い詰めるという明らかに効率の良い策を実行することができない。
「タッくん」
「なんだよ」
「助けて。足くじいた……」
「……」
無言ながら訴えられていることは手に取るようにわかる。
嘘だろ?ってタッくんはそういいたいんだよね。
うんそう、嘘だよ。真っ赤な嘘。
でもこのままじゃ二人ともこんな最悪な形で休日を終えてしまう。
それなら絶対二人で挟み撃ちして早く終わらせる方がいいんだ。
「タッくん」
少し甘えた声を出す。
こういうの好きじゃないけど今はそんなのいってられない。
幸い今、やつはベットの下か本棚の影かどこか知らないけど表に出ていない。
今ならタッくんも入ってこれるだろう。
そうしてタッくんが入ってきたら途端に扉に鍵をしめちゃえば……
なんて意地悪だけど仕方ない。
許しておくれ、タッくん。
恐る恐る部屋に入ってくるタッくん。
ほんと、なんていうか……
本人に言ったら絶対怒られるんだけど女子みたいだよねえ、こういうとこ。
私もああいう動作をすればいいのかなあ。
ペタンと座ったまま、タッくんがやってきたのを確認すると「ほらはやく」とタッくんが差し出してくれた手を握りたちあがろうとする演技をする。
「ごめん、タッくん上手く、立てない……」
「なっ、大丈夫か?」
そういってタッくんが屈み込んだスキをついて立ち上がり扉にダッシュする私。
「なっ?!」
「ごめんよ、タッくん!」
そういって扉について鍵をかけるとサッとタッくんのほうをみて改めて謝ろうとする。
するとちょうど、やつがタッくんの後ろを歩いていた。
「タッくん、前!」
あ、後ろだった。と思った時にはもう遅く……
パニクった私が前と叫んだばかりに後ろに下がったタッくんは……
グシャッ
とても嫌な音がして、そして、やつは消えた……
それから私の部屋はいつでも綺麗だ。
元々自律的にということでメイドさんにも掃除やらなんやらやってもらってなくて自分でもやること少なかったけどあれ以来タッくんが定期的に掃除してくれるようになった。
もちろん自分でもたまにしているけれど
タッくんが掃除しながらたまにブツブツと怨念のように何事かをつぶやいてるのはきっとあの日のことだと思う
トラウマになっているだろうし ……
なんて申し訳なく思いながらも、私はそんな世話好きで結局人のことを放っておかないタッくんのことがなんだか愛おしかった。




