裏方
くそ……
なんでこんなことに……
そもそもあいつ、リリは本当に玉を手に入れるつもりなんだろうか。
なんてそんなことが頭の中をグルグルしてる僕は今、青の国の衛兵に両腕を掴まれて牢獄へ連れてかれてるとこ。
なぜかといえば、リリのーー辻斬り犯の仲間だから。
とはいっても僕はただ演技としてイヤイヤ刃物を振り回しただけで誰も傷つけてないし、……いやまあ刃物振り回してたら捕まって当然か。
はあ……ほんと、僕はなにをやってるんだろ。
リリのいうことは全てにおいてよくわからなかった。
けど唯一なんとなくわかったのは、
僕が汚れ役として捕まって、それを他のメンバーが見つけてくれれば、僕が連れてかれるであろうその場所に玉があるはずだからそれで玉のありかにたどり着けるということ。
そしてその間リリは衛兵の注意をすこしでもひくために昔のように人魚をぶっ倒している……ということ。
後半は特に理解しがたかったけどなんとなく理屈はわかるような気がした。
ただそうそう運良くベジたちがぼくが捕まってるところを見るだろうか。
それに……考えたくはないが見たとしても助けに来ないことすらありうる。
あのセレナがいるから。
それにティアナも、再会してからずっと冷たいし……全然ありうるな……。
でもあいつ、セレナは辻斬りだとか暴力沙汰だとか聞いたらおもしろそうだと駆けつけてきそうだ。
なんてそんなことをゴタゴタと考えていたら牢屋についていた。
しまった。道とかちゃんと見ておくべきだった。
牢に入れられ、何もすることがなくボーッとそこらへんを見やる。
無機質で人から考えという概念を奪ってしまいそうな、無の空間。
なんか嫌だな。
ここにいたらまた前の僕のことが思い返されそうになる。
そう思ったけれど不思議とそうはならなくて、それにしても僕はあのときから随分と変わったな、なんてそんな思いが湧いてきた。
……それもこれもきっとベジと出会ったから……。
なんだか今までの旅のことがいろいろと蘇ってきて笑みがこぼれてくる。
そんな時。
「なに一人で笑ってんのよ、気持ち悪い」
そんな声が耳に入ってきてハッとする。
この声。そしてこんなことをいう知り合いは一人しかいない。
「セレナ」
「なによ。助けに来てやったんだから礼のひとつでもいいなさいよ」
紅い唇が意地悪く歪められる。いつもの光景だ。
そして僕が入れられてる牢の鍵をいつものようにひとつ指を鳴らすだけで簡単に開けてしまう。
「ありがとう……」
「なに、今日はやけに素直じゃない。気持ち悪いわね」
「……あのなあ、きみが礼をというから……」
「あんたの幼馴染はよく知らん坊主を追いかけてったわ。ベジは今さっき玉らしきものをみかけたっていうからそっちに行かせたの」
僕の言葉を遮ってそういうセレナに若干呆れながらも
「わかった」
という。
本当はティアナが追っていったという少年のことや何故ベジを一人で玉のもとへ行かせたのかとか色々と聞きたいことはあったけれど。
聞いても答えてくれそうにないし
鍵があけられた牢から抜け出すとなんだか空気がいいなあなんて思って思い切り伸びをする。
そんな僕の姿を一瞥してから泳ぎ始めたセレナが不意に振り返る。
サラサラした黒髪が鼻先をかすめて、なんだかいいにおいが微かに鼻腔に残る。
「助けに来たのが私で悪かったわね。」
どこかツンとした言い方でそういわれて最初は頭にハテナマークを浮かべた僕だけどすぐになんのことか察しがついて
「別にいいよ」
という。
なんだかセレナがそんなこと気にするのがおかしくて少し笑いが含まれてる感じになったんだけれど大丈夫だろうか……。
と思った途端に首根っこを掴まれた。
「ねえ、坊主」
笑顔、なのだけれどとても怖い、そんな顔を首根っこを掴んだままこちらに近づけてくるセレナ。
「な、なにかな」
「あんた案外脈ありなんじゃない」
「……え?ほ、ほんとかっ?!」
「なーんてね。うそ、うそ。坊主は騙されやすくて面白いわねえ」
なんていってポイッと僕の首根っこを離し歩き出すセレナ。
「なっ、セレナお前なあ……!」
僕はいつものように怒りでぷるぷると震えながらもセレナに続いた。
「ここ、神殿……だったんだな」
「ただの神殿、というか廃墟の神殿ね。今は使われてない捨てられた場所。だからでしょうね。いろんなガラクタが詰め込まれてるわ。あんたがさっきいた牢、他に誰もいなかったでしょ?」
「え?ああ、うん……」
「多分ここ、無理やり朽ち果てさせるような呪いか何かかかってるんじゃないかしら」
ひどく楽しそうにそういうセレナのその言葉に思わずゾッとする。
「な、なんだよそれ。」
「だってそこらへんに生えてる草の枯れ方が普通じゃないんだもの」
そういわれて隅の方に生えてる枯れた草を見てみれば確かに、枯れた、とは思えないような、真っ黒いそれがあった。
「つまり君はあの牢に入れられてたであろうほかの人らもみんな」
「朽ち果てさせられたでしょうねえ」
セレナはひどく楽しそうにいう。
「でも、僕は特になにも……」
「まあ、ギリギリ間に合ったんじゃない。よかったわねえ、坊主。それ以上朽ち果てなくて」
「元々朽ちてるみたくいわないでくれ!あ、でもそれでいくとベジは?ベジは人間だし僕らよりも影響が」
「大丈夫よ。私が保護魔法かけといた。というかそんなのかけなくてもあの子は私の主なんだから簡単に朽ち果てさせたりなんかしないわよ。あとまあ一応あんたにもかけといたわよ」
後半はひどく不器用にそういうセレナだけど
「そっか、ありがとう」
そういってセレナの方を向いて微笑むとセレナは何故かさっと顔を背けた。
かと思ったら次の瞬間セレナの手のひらが僕の顔面を鷲掴みにしていた。
「その顔ほんとに腹立つのよあーもう、ほんと腹立つ!」
言葉を紡ぐほどに強まる力にぼくは悲鳴をあげる。
「いたいいたいいたいっ!ちょ、セレナ」
そういってやっと解放された顔をさすりながら
ぽそりと
「ニコみたいで、ってこと?」
とたずねてみる。
するとセレナは
「ええ、そう。ほんと、そう。まるでまんまだわ。なに、金髪のエルフは第一成長期を迎えるとみんなそうなるわけ?」
イライラしたようにそういうセレナに
「いや、みんな、かは知らないけど……」
なんて曖昧に言葉を紡ぐ。
そんな時。
「あ、あそこ!あの先に玉らしきものがあったってベジが行ったのよ。はやく」
そこまでいって言葉に詰まるセレナ。
というのも……
「ちょっ……は、はあ?なにしてんのよ、坊主、離せ!」
「え?あ、ああ、ごめん」
そういって慌ててセレナから離れる僕だけど先ほどまで自分でやっていたことがなんだかとてもじゃないけれど信じられない。
セレナを後ろから抱きしめた。
そんな事実が頭の中をグルグルする。
なんで、といわれたらほんとに僕もなんでかわからない。
別になんの気持ちもないんだけれど、体が勝手に?……
「ば、バッカじゃないの、あんた、ほんとバカ」
そういうセレナは珍しく真っ赤になっている。
知ってる。
セレナがそんな表情をするのは僕がニコに似ているから。
そしてきっと僕もーー。
きっと僕らはニコを介して根底の部分で繋がってるんだろうな……
そう思ったところでふと思考が立ち止まる。
ニコを介して……ってなんだろう、それは、と。
「ちょっと坊主なにボーッとしてんのよ!あたしの話聞いてるわけ?」
なんだかなにか蘇りかけるのにすぐに消えてしまう。
まるでもう少しで満ちそうな波が、もう少しで届くというところですぐにひいていってしまうような、もどかしさ。
「ごめん、ごめん。」
なんてそんな言葉を吐きながら僕はまだ少し赤いセレナと並んでベジの元へ向かった。




