捕縛
目の前にはニヤリと笑むカーラと荒くれ者たち。
カーラはすごく気のいいやつだと思ってた。
セレナと似て姉御肌で、だけどセレナと違って毒っ気がなく素直でカラッとしてるいい人だなあと。
なのに……
「ここは残念ながらトリトルンでもなんでもないよ」
カーラが不意にそういう。
セレナ。
セレナなら本気になればこんな状況を打破できそうなものなのにどうして何もしないんだろうか。
チラリと隣のセレナを見やる。
その顔には心底疲れたという感情がにじみでている。
……そうだよな……
セレナは無愛想ながらもカーラのことを少しずつ信用しているように見えた。
それがこんな形で返されたらそうもなるよな。
しかもセレナは僕よりずっと長く生きてるからこういうことが起こったのは今回が初めてってわけではないだろうし
もう疲れきって呆れきって力をだそうにもでないのかもしれない。
「あんたらにはちょこっと小細工をかけさせてもらう。けどそれだけさ」
そういうと挑戦的な視線をこちらにやる。
小細工?一体なんのことだ?
「ざけんな」
「は?」
それは一瞬のことだった。
瞬時に縄も布も取り外したらしいセレナは次の時にはカーラに殴りかかっていた。
しかしカーラはその拳をいとも簡単に受け止める。
「意外とやるねえ。けどあたしに喧嘩売って生きて帰れると思ってんのかい?」
「お前みたいのが一番嫌いなのよ、私は」
ピリピリとした空気が辺りを包む。
セレナに加勢しようと懸命に縄を解こうとするがなかなか解けない。
このままではセレナ一人がカーラとその仲間であろう荒くれ者たちを相手にすることになってしまう。
そんな時だった。
後方の荒くれ者たちがざわつき出す。
男の人魚たちが目に見えて色めき、女の人が目に見えて機嫌を悪くする。
「ちょっとなにここ。むさすぎて息もできな〜い。ねえ、ティアナちゃん」
「……まあ……そうね」
ティアナ?……
不意に荒くれ者たちの間から姿を現したのは暫く見かけていなかったティアナと、そして見知らぬ少女。
見知らぬ少女は人魚で、素朴ながら整った気品のある顔立ちをしている。
服装もどことなく品があるし、どこかのお偉い人なのかもしれない。
けど少なくとも、エルフの王族みたいな煌びやかで金色を前面に出すような感じではない。
だからそれは僕が小さい頃から見慣れてきたそれとは全く正反対の上品さでなんだか息を飲んでしまう。
夜空みたいな深い紺の髪の毛とキラキラ輝いて見えるオッドアイのライトグリーンとライトスカイの瞳。
体は見るからに小柄でこの間第二成長期を終えてグンと背ののびたティアナの隣だとより小さく見えた。
「なんだい、あんた。ここまで来て裏切るつもりかい?」
「裏切る?ふふ。誰が裏切るなんていったのよ。」
人魚の女の子はひどく楽しそうに笑う。
「そもそも最初から仲間でもなんでもないんだから」
そういうと楽しげな笑みをより深くする。
「裏切るも何もないんじゃない」
なにを言ってるんだ?……そう思っていたらスーッとこちらにやってくる人魚の子とティアナ。
ティアナは生まれながらの水の使い手なので人魚にならずとも水中で息ができるらしくヒールをコツコツならせて歩いてくる。
「ふざけんじゃないよ」
そういってカーラが背中の槍を手に取った瞬間水中でも聞こえるくらいのパシンっという音がなる。
「っつ!」
カーラの槍を握っていた手が遠目に見えても赤く腫れあがる。
「ごめ〜ん。ちょっとやりすぎちゃったね」
なんていうのはその人魚の女の子。
悔しそうにするカーラの横を通り過ぎこちらへやってくる。
にしてもさっきのは何をしたんだ?
風の魔法だろうか?
「はーい。こんにちは、悪魔のセレナちゃん。そして魔王の生まれ変わりのベジちゃん。ヘンゼルちゃんのお友達のグレーテルくん。ティアナちゃんの幼なじみのタグくん」
親しげに可愛らしい声でそういうその人の後ろでカーラや荒くれ者たちが黒いオーラをだす。
「ねえ、リリー、やっぱりやめよう。こんな無意味にカーラたちと争う必要ないよ」
「無意味?無意味なんかじゃないよ、ティアナちゃん。だって知ってる?カーラちゃんたちがなにしようとしてたか」
リリーといわれたその人は子供のように頬を膨らます。
「みんなの事洗脳しようとしてたんだよ。ねえ?カーラちゃん」
「っつ」
「なんでそんなこと……」
セレナが不意に言葉を発する。
「あんたのこと………悪くないやつだと思ってたのに……」
セレナがこんなにもハッキリと相手を褒めるのは珍しいな。
最も、セレナにしては褒めてる方ってだけで、一般的にいうとすると褒め言葉にはならないのかなとは思うけど……。
「私らには私らの事情がある。あんたらにはあんたらの、ね。べつに、洗脳ったってそんなお恐れたことする気は無かったよ。玉とやらも本気で手伝ってやろうとしてたさ」
「いやだねー」
カーラが話している途中で割って入ってきたリリーがうげえという表情でそういう。
「そうやってよくズラズラ嘘つけるよねー。あ、そだ!私はね、白閃の約束の幹部のリリーちゃんだよ〈疾風薫る涙雨〉って異名もあったりしちゃったり?リリーって人魚の古語で涙雨って意味もあってねえーっとあぶなーい!なにするのよ、カーラちゃん」
不意に隙をつくように槍を振るったカーラだけどその一撃は軽くかわされてしまう。
リリー……
見た目以上の実力の持ち主みたいだ。
それに……
不意に隣に来たティアナが口元の布を外してくれる。
「ありがとう……」
以前も毎回のように心地の悪い別れ方をしたからこんな助けてくれるとは思わなかったや。
けどティアナはチラリとこちらを見やっただけですぐにベジの方に行く。
そんなティアナの態度に傷つくが今は聞かなくてはならないことがある。
「リリー」
「なあに、タグくん」
「きみ、白閃の約束の幹部っていったけどそれって魔王の生まれ変わりを……」
そこで言葉に詰まってしまう。
ベジの目の前でこんなこと言いたくないし。
「殺すための組織、かな」
けれどリリーはそれをいとも簡単に形にする。
「うん、そう。けど私はそんなこと思わないよ。ベジちゃんのこと普通に好きだもの」
「え?」
思わず拍子抜けしてしまう。すごく残忍な人に思えていたけど実は優しいのだろうか。
本心がよくわからない。
「とにかくさ、こんなとこはやくでちゃお」
リリーはまたプクーッと子供みたいに膨れていう。
「ちょっと待ちな!!」
そんなカーラの言葉が耳の中で反響する中僕らは風に包まれ……
「はーい、とうちゃーくっ!ここが本当のトリトルン。そして青の海だよ」
そんな声に恐る恐る目を開ければ目の前に壮大な海底都市が広がっていた。あたりは先ほどよりもずっと爽やかで軽やかな雰囲気で次節体を撫でる波の感じもとても心地よい。
「ここが……」
「じゃあ、さっきのあそこは?」
「あそこはまだ緑の海だったんだよー。カーラちゃん幻術も使えちゃうからね」
「…………」
「カーラちゃんたちならず者はね、この海に出入り禁止だから。あなたたちに洗脳で小細工をかけて青の海に一泡吹かせるつもりだったのよ」
ウインクするような調子でそういうからなんだか楽しげな話をしているように感じるけれど全然楽しくない。
「で、君たちの目的は」
「玉をうばうこと」
息を飲むような沈黙。
「一体どういうこと、あんたら。魔王の生まれ変わりがどうのといったかと思えば今度は玉を手に入れたいなんて。なに考えてんのよ」
「うーん。リーダーが何を考えてるのかはわかんないけどとりあえず今の私たちの任務は玉を手に入れることなんだよね」
リリーはうーんという感じでそういう。
「あーそう。生憎あたしらもその玉を探してんのよ。」
「うんうん知ってるよん。だからね、協力しない?」
「あんた……何言ってんの?」
「リリーちゃんたちもね玉見つけたいからさ。それにそれ、見つけたらベジちゃんにプレゼントしようと思ってたの」
「はあ?益々意味わかんないわよ」
そういうセレナにリリーは穏やかな笑みを浮かべる。
「大丈夫、リリーちゃんはみんなの味方なんだから」
そんな笑みになぜか本当に大丈夫なんじゃないかと思えてしまう自分がいたーー。




