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クロスロード  作者: 睦月心雫
第8章 人魚の住まう海底都市トリトルン
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青の海へ

「あー、もう、よくもやってくれたわね、坊主。あんたのせいで計画がめちゃくちゃよ」


「……その計画とやらを僕らは教えられてないし、それにあの場ではああするしかなかったろ?」


「あ、あの、これってこの緑の海と青の海との戦争……みたくなっちゃいませんか?参加する人数にもよるでしょうけど。みんな青の海の人達に怒ってるみたいですし……」


「とりあえずカーラが戻ってくるのを待とう。それからだよ」


僕ら四人は顔を付き合わせてヒソヒソと内輪揉め(主に僕とセレナが、だけど)してるところ。

そもそも計画なんて聞いてないのにそれをめちゃくちゃにされたって言われても困る。


「……でもまあそうね……」


やがて何か考え込むような仕草をしながらニンマリと意地の悪い笑みを浮かべるセレナ。


……嫌な予感……。


「戦争になったらすごく面白そうだし……あんた、なかなかやるじゃない」

そういわれて苦笑いを浮かべる。


「言っとくけど僕は別に戦争にしようと思ってしたわけじゃないからな」


「はいはい、わかってるわよ」


セレナが面倒そうにそういうのでこちらもうんざりしてくる。

そんな時ふと視界にひどく悲しそうな表情をしているベジがうつる。


「どうかしたの?ベジ」


「え?う、ううん。なんでもないの」

そういうとニコリと笑うベジ。

だけど、明らかに無理をしている。


「ベジ、僕にはなんでも」


「待たせたね!」


ちょうどそこでカーラが戻ってくる。


暗かった海も今は幾分か明るくなっている。

おかげでカーラの後ろにズラリとならんだ人魚たちの姿が丸わかりなのだが……

なんだかもう「人魚」のイメージからかけ離れすぎてる彼らを見て絶句するしかない。


カーラもカーラであんな鋭い槍を持っているし荒々しい雰囲気だったけれどそんなの序の口だったのだと思い知らされる。


彼らは耳や尾ひれにピアスを開けてるものがほとんどでおおよそ美しい人魚像とはかけ離れたボロボロの衣服を見に纏い、体中傷だらけでそれが誇りだとでもいいたげな雰囲気をしてる。

顔には残忍で邪悪な笑みが宿り皆必ず手に凶器をもっている。

中には体中に凶器を身につけているものまでいて刃物やらそこから連想される血やらが死ぬほど苦手な僕は卒倒しそうになる。


でもここで卒倒なんてしてられない。

ベジの様子も気になし、まずは彼らと協力して玉を手に入れなくちゃいけない。


「皆んないくってさ。もちろん、あたしも。荒くれ者ども皆んな駆けつけたんだ」

感謝しな、とでもいいたげなニカーッとした笑みを浮かべるカーラに若干の苦笑いを浮かべる僕。


「じゃあ、早速って感じだけど行こうか」

そんな僕の言葉に続けてカーラとセレナがひどく邪悪な笑みを浮かべて「青の海へ」と続けた……。







「こっから先が青の海だよ。」


「国境とか特に何もないんだな……」

ポツリとそうつぶやくとカーラが呆れた声を出す。


「何いってんだい、よく見てみな」

そういわれてよくよく目の前を見てみればいくつもの渦があった。

それも少し触れたらすぐに巻き込まれて戻れなくなりそうなはやいものがそこら中に……


「この渦で命を落とした奴もいる」

カーラが腕を組んでポツリと呟く。

命を……。

ゴクリと唾を飲む。


「こっからじゃあわかりづらいがね、この渦は暫く続くのさ。それをどう乗り切るか……だねえ。あたしらでも苦戦するようなもんだ。大丈夫かい、あんたら」

そんな言葉に何か答えようとしたらセレナが先に

「当たり前じゃない」

という。


「あーそうかい」

そういうカーラは段々とセレナを見る目が険悪そうな目から好奇の目へ変化してる気がする。

にしてもこの渦を超えるのか……

あ、そうだ。ベジは……さっきから様子が変だったしボーッとして渦に巻き込まれたら大変だ。


「ベジ、よかったらぼ」


「ベジ、あんたは私と来な。」


僕の声を遮るようにして放たれるその言葉。

発した張本人であるカーラを見るが特に悪気はなさそうだ。

そこはセレナと違うんだな……

……悪気がないってのも結構悪質なんだな……。


「え?あ、うん。ありがとう」

なんていって微笑むベジを見てたらつい

「僕と行こうよ」

なんて横槍にいってしまう。


言ってから後悔する。

僕が唐突に放ったその言葉に先程までガヤガヤしてたあたりが静まって荒くれ者ども含めみんなが僕を見やったから。

僕なんか変なこと言ったか?それともタイミング?まあ横槍に空気読めないこと言ったのは確かだけどなにもみんな黙らなくても……

なんて若干パニックになっていたらベジがフワリと微笑む。


「ありがとう」


やっぱりベジは可愛いなあ……って今はそうじゃない

そうじゃな

「なんだい、あんたら恋仲かい?青いねえ!」

唐突にカーラにガシリと肩を組まれてあはは……と苦笑いになる僕。

周囲の荒くれ者どもも一気にどよめきだす。


「あたしらはこんな身なりだし気性も荒れに荒れてる。けど恋愛話しにゃあ目がないのさ」

カーラが耳元でそんなことをいうからぼくは苦笑いをよりいっそう深いものにする。

だから僕が言葉を発した途端みんな黙り込んだのか?にしてもびっくりしたよ……


「じゃ、あんたにベジは任せるよ。けど怪我なんかさせたら承知しないからね」

そんなカーラの言葉に苦笑いもあたたかな笑みに変化する。

会って間もないのにベジはもうこんなに好かれてる。


やっぱりベジはベジだなあ。


そばに寄って来たベジはどこかうつむき加減で表情が見えない。だからよくわからないけど具合が悪いのだろうか?それとも僕と行くのが嫌なのか……流石にそんな理由だったら傷つくけど、ベジの様子がおかしいのは今に始まったことでもないし……


「さて、みんな行くよ。それぞれ青の海で落ち合う。いいね?」


そんなカーラの声に荒くれ者どもの「おう!」という声が響きわたる。


「あんたは私と来なさい坊や」


「えっ?あっ」

そんな声がする方を見ればセレナが問答無用という感じでグレーテルを小脇に抱え渦に向かって泳ぎだしていた。


……なんだろう。渦を超えることよりセレナの小脇にかかえられることの方がよっぽど怖い気がする。





「じゃあ、僕たちも行こうか」


「うん。迷惑かけてごめんね」


「そんなことないよ」

そういってから手が宙を彷徨う。

まさかセレナみたいに小脇に抱えるわけにもいかないし……となるとあれ……だよな

緊張しながらそわそわとベジの腰付近に手をもってく。

それから暫くの間ベジの腰に触れられずにいた僕だけど「タグ?」というベジの不安げな声を受けてようやっと決心をつける。


「行くよ」

短くそういうと僕はベジの腰を強く抱いて渦の中へ飛び出したーー。






渦の中でのことはあまり覚えてない。

あまりに必死すぎて記憶がないのだ。

ただ、今思うと当たり前のようにベジとこれ以上ないくらい密着していたと思う。

幸い鬼気迫った状態で理性が働かないもなにもなかったのでよかった。


なんてそんなことを思いながらなんとか渦を抜けたことを自分でも不思議に思いながら隣のベジを見る。


「ベジ、大丈夫?」


「うん!とっても楽しかった!」


ベジは僕が散々振り回してしまったにも関わらず疲れた風もなくニコニコ笑ってる。


そんなベジを見て自分までニコニコしてたら

「あんたらもなんとか抜けたみたいね」

というセレナの声が聞こえてくる。


そちらを見るといつも通りのセレナとどこかぐったりしてるグレーテル。


「大丈夫?グレーテル。具合悪そうだよ」


ベジが心配そうに声をかけるとグレーテルはうなだれていた顔を上げ苦笑いで「大丈夫ですよ……」という。


……一体なにがあったんだろう。

いや今はなにもいわないほうがいいか。


「お、無事切り抜けたようだね」


今度はカーラの声がしてきて次の瞬間には頭を鷲掴みにされてワシャワシャされていた。


カーラの後方には荒くれ者どもの姿もある。

彼らを見つめる僕の視線に気づいたのか

「あいつらもそうやわじゃないからねえ。こうして乗り込むって話も血が滾って仕方ないだろうしさ」

というカーラ。


「カーラ」


「なんだい」


「君は緑の海のリーダーなのかい?」

そういうとカーラはたちまち大声で笑いだす。手を叩き涙をぬぐい腹を抱え散々笑い転げた後

「私がリーダーだって?どこをどう見たらそう見えるんだい。ここにいるのはみんな荒くれ者。統率なんてとれりゃあしないよ。それに常に相手の持ち物を奪っては傷つけあってんだ。仲間意識なんてのもない。私がそういう風に見えたのは単に私があそこの古株だからだろうよ」

という。


本当に豪快な女の人だなあ、なんて思いながら「なるほど……」と呟く。


「まあ結局のところあたしらにも同族意識があるのかもしれないねえ。みんな青の海の連中を恨んでる落ちぶれもんだからさ」

最後に呟くようにそういうと荒くれ者どもの方へ行ってしまうカーラ。

まだ聞きたいことがあったのだけれど……


「さあ!まだまだ気張ってくよ!」


そんな声に荒くれ者どもも僕らも「おう!」と元気よく返事をしていた。

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