人魚さんの喧嘩
「ちょ、ちょっと待ってくれ!なんなんだよ、これ」
「見ての通り喧嘩よ喧嘩」
「とても喧嘩には見えないんだが……むしろ戦争に近いんじゃないのか」
そんなセレナとタグの言葉を受けて
「ほんとだねえ」
という私。
そして目の前には入り乱れてなにがなんやらわからない人魚さんの大群。
想像していた人魚さんとは何か違うけれど……。
「セ、セレナさん、なんなんですか、これ」
「だーかーらー、見ての通り喧嘩よ、喧嘩。ここは別名ならず者の海、だからね」
そういうと暗い海の中でも十分わかるくらいのニンマリとした笑みを浮かべてみせるセレナ。
「でも、昼間はなんともなかったですよね」
「ええ。これは夜から、だからね」
そんなセレナの言葉にあたりをなんとも言えない空気が包む。
「なによ。私が戦争やらなんやらの血生臭い話が好きだからってここの海を選んだとでも思ってるの?」
「まあ、大方そうだろうとは思ってるけど」
そう呆れるでもなくただ淡々とそういうタグ。
なんだかそちらの方がより呆れている様が表れている気がした。
「はあ?なにいってんのよ、あんた。たしかに私はそういうの大好きだけどそれにあんたらを巻き込むわけないじゃない」
「なんででしょう……すごく嘘っぽいです」
そうつぶやくグレーテルにセレナはいよいよむくれてしまう。
「なによ、あんたら。違うっていってんでしょ」
「まあ、普段の行いが行いだからなあ」
「はあ?もういいわ。ベジにだけ教えてあげる」
そういうとグイッとこちらに体を寄せるセレナ。
花のような甘い匂いが鼻先をかすめる。
「七つの海の中で最も力を持つ海は紺碧の海。玉がある可能性もそこのほうがずっと高い。けれど私らは今この荒くれ者の住まうエメラルドグリーンの海にいる……。それはここにいる荒くれ者たちから玉のあり方を聞き出すアーンドその玉を奪ってきてもらうためなの」
語尾にハートマークがつきそうな勢いでそういうのでなんだかこちらもそんな雰囲気になって流されかけるが……。
「それって玉を盗むってこと?」
私がつぶやくようにそういうとセレナはニヤリと笑ってみせる。
「まあ、そうなるわね。」
今日の中で一番楽しそうな笑顔だ。
だからなんだか私まで笑顔になる。
「おいセレナ。ベジとなに話してるんだよ。変なこと言ってないだろうな?」
「あら、変なことなんてなーんにも言ってないわよー。それともタグくんは心当たる何かでもあるのかしらあ。」
「なっ!う、うるさいなあ君は」
「なによあかくなっちゃって。」
なんて会話するふたりにはなんだか笑顔も苦笑いになってしまう。
実は私、昨日の夜、セレナとタグが会話している内容を聞いちゃったんだ。
途中からだったし会話の内容もよくはわからなかったけど、雰囲気とか声音から充分わかった。
……二人は両思いなんだろうなあって。
前から気があう二人だと思っていたし、特段おかしなことではなかった。
けどなんでだか胸が痛んで、そして私は今頃になってようやっと気づけたんだ。
自分の気持ちに……。
でもそんなのもう遅いってわかっているから
だから……
「二人は仲良いね」
どこか泣きそうになりながらそういう。
なんで私今さらこんな……
「ベ」
「ところでこれからどうするの?セレナ」
「……え?ああ。まずは荒くれ者供を制さないとダメね。奴らは力が絶対の考え方をしてるから」
二人が戸惑ってるのをよそに私はその荒くれ者たちが一同に集っていると思われるそこを見つめる。
「じゃあ、私が行ってくるね」
「は?」
「ちょ」
「べジさん!」
戸惑うみんなの声を差し引いて私はその荒くれ者さんたちが争う渦の中へ突っ込んでいく。
私、ほんとおかしいや。
なんでこんなに……。
どこかムシャクシャした気持ちでその最中に突っ込む。
そこ一体に一つの海流が発生しているようで入った瞬間に体を持っていかれかける。
けどなんとか踏ん張りその海流の中でうまく在るやり方を習得する。
うん、なんとかなる。
そんな中唐突に、目の前に鋭利な刃が突きつけられる。
危ない……そう思った瞬間に体の奥底から湧き出てくる力。
そうだ。これは前にもあった。
ラナに対して無意識のうちに炎を発してしまった、あれだ。
それに気づいた瞬間その力を無理に体の奥にねじ込む。
だから私がその刃に抵抗するすべなどなく……
「あんたの獲物はあたしだろ!」
そんな勇ましい声と共につよく腕を引かれてハッとする。
見れば人魚の女の人が私を後ろに引かせてその刃をつきつけてきた人の相手をしていた。
私はそんなその人をボーッと見つめる。
しかしやがてその女の人の白く力強い腕に大きな傷があることに気がつく。
助けてもらったお礼に治してあげたい……。
そう考えだして生まれた自分の中の一つの力にああそうだ。私の力もこういうことに使えば良いのだと思う。
「来て!」
「はあ?ちょ、あんた、離しな!」
そんなことを言われても私はその腕を離さない。
なんとかその人を引きずって海流の外に出る。
女の人は当然のごとく怒っている。
シュッとした線の顔立ちをしたその人は深い青緑色の強い瞳と鋭い八重歯が少しだけ見え隠れする口が特徴的な女の人だった。
また人間なら耳があるその場所に魚の尾鰭のようなものついている。
これが人魚さんなんだなあと我ながら今一度感動のようなものを覚えてしまう。
「なにジロジロ見てんだい。いいから離しな!」
「嫌だよ。その怪我治しちゃわないと。ね?」
「はあ?あんた、なにいって」
私は有無を言わさぬようその人を押さえつけてそしてその大きな傷がついた腕に右手をかざす。
それから自分が今まで無意識のうちに使っていたその力を、その部分を、思い切り意識してみる。
するとポワーッとあたたかな白い光が女の人の腕全体を取り巻いて……やがてその大きな切り傷は跡形もなくなくなっていた。
女の人は目を見開いて私を見つめる。
「あんた魔法が……」
「やっと見つけた!」
そんな声のする方を見れば慌ててこちらに泳ぎやってくるタグ、セレナ、グレーテルがいた。
「ほんとにあの荒くれ者どもの中に突っ込んだのかと思ったわよ……」
というセレナは珍しく心配そうに顔を歪ませていて私はひどく申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい。勝手な行動して……」
「いいわよ、別に。あんたが無事でさえいてくれれば」
そんなセレナの言葉にタグもグレーテルも頷く。
ほんと、いい仲間たちだなあ。
そう思った矢先にもまた魔王を責め立てる仲間の声がフラッシュバックしてきて、今はこうでもこれからは?って怖い考えが出てくる。
だから慌てて
「紹介するね。みんなはわたしの仲間で左からグレーテル、タグ、セレナっていうの」
女の人にそういうと女の人は「ほう。そうかい。」と短くいう。
「で、ベジ、こいつは?」
さっきまでの心配そうな顔も一転していつもの表情が戻ってきたセレナが腕を組んでそういう。
「おい、セレナ、こいつって言い方はないだろ」
そうタグが突っ込んでる矢先、女の人はスーッとセレナの目の前にいく。
鼻先数センチのとこまで顔を近づけるとフンッと鼻で笑ってみせる。
「あんたなんだい?そんなひよっちい身体して。情けないったらありゃしないねえ」
「あらそう?そういうそちらも筋肉ばかりで見栄えの悪いお体つきですこと」
目に見えて仲の悪いオーラムンムンな二人はお互いに間近でにらみ合ったまま一向に動く気配はない。
「二人とも喧嘩はやめて」
いつもならそういって割って入るのだけれどなんだかそれすら怖く感じている自分がいる。
そういってセレナからもせっかく知り合えたばかりの人魚さんからも嫌われちゃったらどうしよう。
怖い。
そう思っていたらタグがスッと前に出て二人を引き離す。
「喧嘩は後。あなたのお名前は?」
そういって人魚さんを見やるタグ。
最初はまだにらみ合ってた二人だけどやがて人魚さんが「あたしはカーラ。ここらじゃ名の知れた武闘人魚さ。あんたらはどっか別の海から来たんだろ。」という。
カーラはひどくサバサバしているようで先程までセレナとにらみ合っていたことなんかなかったみたいにケロッとした顔をしている。
「そう。結構遠くから来てね」
そういうとカーラと向き合う形で
「ところでカーラは玉って知ってる?」
そういうタグは本当に成長したなと思う。
なんだか感慨深い。
体だけでなく心も大きくなったんだなあ。タグは。それに比べて私は……
「玉?なんだい、それは」
「実はすごく値打ちのある宝石なんだけど、どうやら隣の青の国がもってるみたいで……」
悲しそうにそういうタグにカーラは声を荒げげる。
「青の国だって?!またあいつら利益を独り占めしてんのかい」
「そうなんだ。それで僕らは単独で青の国に乗り込むよりも僕らと同じくらい青の国に乗り込もうっていう勇気ある人をこの場で募ろうとしたんだ」
「あたしも行くよ」
カーラは即答する。
その目には先程にも増して殺気が宿っている。
「青の国のやつらにゃあうんざりしてんだ。そろそろ制裁くださないとね。あいつらもあんなことしてる場合じゃないね。もちろん手に入れた玉とやらの値打ち分は山分けだろうね」
背中にかけていた槍(骨か何かを削ってするどくしたものが先端についている。とても鋭利で少し刺さっただけでも大怪我をおいそうだ。)を手に取るとそういうカーラ。
タグはカーラの手にある槍を見て一瞬だけ怯んだ顔を見せたがすぐに「もちろん」という。
一方のカーラはそんな微々たることはどうでも良いのかみんなが争っているところへ泳いで行く。
「ちょっと待ってな」
最後にそう言われて、私たち四人はなんとも言えずに顔を見合わせた。




