表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスロード  作者: 睦月心雫
第7章 天使の楽園 ウィザード・ガーデン
76/119

お姉ちゃんとお姉ちゃん

「ん……んん……」


目を覚ますと体がひどく気怠く、重い。

これ以上ないくらいの倦怠感が体全体を包んでいる。


……私、竜巻を起こしてルナを呼び出そうとしていたんだっけ……。ぼんやりとそんなことを考えていたら不意にタグの顔が視界に映る。

険しい表情でどこか一点を見つめているタグ。そしてその方向からはひどい爆発音のようなものが幾度も聞こえてくる。

もう首を起こしてそちらを見やる気力すらなくて(情けない話だけれど。私はまだ上手く魔法を使えないから無駄に体力を消耗してしまうみたいだ)何がそこにあるのかはわからない。


そして今頃になって自分がタグの膝の上に頭をのせていることに気がつく。

重いよね、早くどかなきゃ、そう思って慌てて頭を持ち上げようとする。けれどやっぱり力がでなくて頭をどかすことはできない。

けれどタグは私が起きたことに気がついたみたいで

「ベジ!体は大丈夫?」

とハッとしたようにたずねてくる。


私は、首を上げる余力もないなんてなんだか情けないなあなんて思いながら苦笑いを浮かべる。

「うん、大丈夫だよ」

そういって。

そんな私の言葉を聞いてタグはひどく安堵したような表情を見せる。

「よかった……」



そんな時だった。不意にズキリと頭が痛んで……


『裏切った?俺がいつそんなことをした。これは俺らが目指すべきもののためだ。仕方がないだろう』


『なに……いってるの……。裏切ったに決まってるじゃない!あなたは私達みんなのことを裏切ったのよ!なんでそんなこともわからないのよ!』


そんな声が頭の中で響いてくる。

走馬灯のようなそれは、最初の声があの、玉の記憶を見るとき必ずいる男の人の声だった。


私は拙い頭ながらなんだか思い当たることがあって、すぐそこで聞こえる爆発音も耳に入らず必死にそのことを考える。


私が玉で見ていたあの人は、もしかしてーー


『ーーあなたには魔王の名が相応しいわ』


魔王。

私が玉の記憶の中で見ていたあの人は後の魔王だったんだ。

明確な証拠はないけど何故かハッキリとそう思える。

そして私が今こうして少しずつ思い出している記憶は……きっと魔王のもの。


やっぱり、私は本当に……。


「危ない!!」

そんな声が聞こえてきてハッとして顔をあげればこちらに向かってくる(吹き飛ばされる形で)セレナがいた。

私は咄嗟に立ち上がりそんなセレナを受け止めた。

体の辛さも気怠さも仲間の危機においてはなんの意味も持たない。


セレナを受け止めながら頭の中で思うのは先ほどの会話。

裏切ったって、そういっていた。

この間私の命を狙ってきた人達も魔王の裏切りがどうのといっていた気がする。

ぼんやりとした頭の中。

でももう自分が魔王の生まれ変わりなのだということは自分の中で受け入れられていた。

ハッキリと理解したのは今だけれど気づかないところで薄々勘付いていたのだと思う。


「……そういえば、セレナはなんでここに」

そう呟いた矢先セレナは自らの力で立ち、目の前に向かって駆けていく。

どうやら私の声は届いていないようだ。


セレナを受け止めていたのなんて嘘みたいに途端力尽きてヘナヘナと座り込む私。


「ベジ!!」

そんな私を支えてくれるタグに私は力ない笑みを向け「ありがとう」という。


「ところで、ルナは?それにセレナは……」


頭の中はずっとモヤモヤしていてぼんやりとしながらそう問う。


「ルナはあそこ。セレナの手前。セレナはベジの危機に駆けつけてくれたんだよ。それで今は二人とも」


「己の信念をかけた激闘ってやつをしてるぜ」


途中からは少し後ろで腕を組みながらセレナの行った方を見ているソウくんがいう。


「ほんと……こんなのバカみたいよ。私のお姉ちゃんはセレナって決まっているのに」

そういうのはソウの隣で膝をつき苦虫を噛み潰したような表情をするラナ。


「もうベジも起きたわ。そろそろ仲裁に入っていいかしら」


「いいけど……」


「木をつつくキツツキのように気をつけてな」


「……理解不能」

短くそういうとスタスタとセレナの方へ歩いていくラナ。


私はタグの腕の中、ぼんやりとその様子を見つめる。


魔王、裏切り……。


「ベジ、ボーッとしてるけど大丈夫か?体調はたいちょうぶ?」

そういういつものソウくんには思わず笑みがこぼれる。


「うん、大丈夫だよ」



「一つ、あんたに聞きたいことがあんのよ」

不意にそんなセレナの声が聞こえてきて、皆んな耳をすます。

ここからだと暗くてぼんやりとしか姿が確認できないからどんな表情をしているのかハッキリとはわからないけどとても強い声音だ。


「……なんですか」

その後に続くのは不機嫌そうなルナの声。


「あんたは親がこの子に虐待してるのを黙って見てた上にこの子に嘲笑を浴びせてた。違う?」


「…………」


「なんとかいいなさいよ!」


「セレナ、もういいから。私、別に」


「いいわ。話してあげる」

不意にそう、高らかに宣言するようにいうルナ。


「まず最初にいっておくことがあるわ、ラナ」


「……な、なに」


「私たちの親は、私がこの手で始末しました」


「……え?……」


「彼らは狂ったいましたから」


「で……でも、ルナはすごく可愛がられて……」


「そうですね」

そう答えるルナの声音はひどく冷たい。


「けれど私もあなたと全く同じ虐待を受けていましたよ」


「そ、そんなの嘘よ!」

明らかに動揺したラナの声。


「だってあんなに可愛がられて愛されていたのに」


「……改めて真実を話しましょうか」

そう落ち着いた声音でいうと一つ間を置いてから

「私たちの親は子に大天使ミカエルに就任して幸せに安泰に暮らしてほしいと願っていました。しかし大天使ミカエルは並大抵の者がなれるものではない。特にしがない一般市民であった私たちには……。けれど、それでも、彼らは子に大天使ミカエルに就任して欲しいと願った。それは狂っていたけれど確かな愛でした」

という。


落ち着いた声の中に悲しみや憎しみやいろいろな感情が詰まっている。


「そして彼らは虐待をすることで子の精神力を高めようとした。大天使ミカエルは大変な仕事ですから身体、精神共に強靭にならねばなりません。そのために彼等は暴力をふるった。それに耐えることで力をつけさせようとした……。改めて考えてみても本当に狂った考えです」

そういうと自身を笑うように嘲笑するルナ。


「それからラナ」


「……は、はい」


気の抜けた声でそう返事をするラナに、ルナはひどく優しい声音で

「私も天界から突き落とされましたよ」

という。


「え?……でも、ルナはそこに」


「ええ。私は落ちていく途中なんとか翼をだし天界に舞い戻りましたから。」


「…………」


「そしてその時ようやっと彼等は私を認めた。ミカエルに相応しい天使になったと。これならどんな事態にも対応しうると。……まあ、あれですよ。ライオンの親が子を親離れさせる際に崖から突き落とすようなものです。そんな感覚で、彼等は私とあなたを……」


「……そんな……狂ってる」


「ええ。狂っています。しかし仕方ないでしょう。あなたも時節感じませんか?自分でも抑えようのない強い気持ちの暴走を。そしてそれが世間では狂っていると評される。けれど自分ではどうしようもない。私たちはそういう血統なのですよ」


「…………」


「そして、あなたが生まれた。彼等はあなたにミカエルと同等の権限をもつ大天使ガブリエルに就任して欲しいと願っていた。だから私と同じような仕打ちをした。もちろん私も。私は彼等に、そうすることがこの子のためだと言われそう信じていた。けれどあなたが天界から突き落とされ悪魔などと卑しい者どもの手に落ちた時、私はようやっと己の過ちに気づきました」


「…………」


「何故、彼等の言葉を信じたのかと。結局私は彼等に操られているに過ぎなかった。そして私は、私の全てを狂わせた彼等はここに閉じ込めました」


クスリと笑うようにそういうからとても楽しいことのように思えるけど全然そんなことない。


「なっ……」

流石に驚いた表情をみせるラナ。


「だって、許せないじゃありませんか。私もあなたも確実に彼等に人生を狂わされた。そして私は最愛の妹を悪魔にとられた。」


「それは……」


「その上心に深い傷を負いました。違いますか?」


「…………」


「私たちはもう普通に暮らすことなどできない。幼い心に刻まれた暴力の数々が消えるわけがない。そんなの理不尽ではありませんか?憎くて憎くて仕方なくなってなにもおかしくはないでしょ」


「…………」


「私は遠くからずっとあなたのことを見ていましたよ、ラナ。あなたがここに来るとなったこともあらかじめ知っていました。とても楽しみでした。しかしいざ会って姉とは呼べないとハッキリ言われたら悲しくて不甲斐なくてついこのようなことを」

そういうとホロホロと涙をこぼすような声音になるルナ。


「…………ルナ……おね」


ラナがそういいかけた時

「バッカみたい」

セレナがひどく大きな声でそういう。


「なにが助けてあげられなかった、両親のいうことを信じてしまった、よ。本当の姉なら、これからは私があなたを幸せにしてあげるくらいのこといったら?いつまでもねちっこく過去のことばかり話して。情けないったらありゃしないわよ」

なんだかとても悲痛な叫びのその言葉に私まで胸が痛くなる。

セレナはハッキリと口にはしないもののラナのことを本当の妹のように思っているだろう。だから、こうやって本当の姉に喝を入れてあげるのは本意ではないのだと思う。

けれど、大切なラナの為にーー。


「だから、過去のことウダウダいってる暇あるならこれからこの子に出来ることを考えなさいよ!…………以上。あんたの話聞いてたら興ざめしちゃったわ。あとは勝手にしてちょうだい。その子と、ちゃんと話し合うことね」

そういうとこちらを振り返りスタスタと歩いてくるセレナ。


「おかえり、セレナ」

すぐそこにやってきたセレナに微笑んでそういう。

「ただいま」

吹っ切れたような、でも悲しみに包まれたような声でそういうセレナは、暗闇の中なのにとても美しく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ