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クロスロード  作者: 睦月心雫
第7章 天使の楽園 ウィザード・ガーデン
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探索

「いやはや、それにしたってこれはひどいな」


「ほんと。今が昼なのか夜なのかもなんにもからない」


「まあこんなところだものね……」


「でも先に進んでるんだし大丈夫じゃないかなあ」

そういうベジには三人とも感心したような表情をする。


ほんと、ベジはどんな状況下でもベジだ。


「……ねえ、ベジは玉を探しているのよね?」


「ん?うん、そうだよ」


「玉ってその剣にはめられた宝石のことでしょう」


「うん」


「私、それを見たことあるわ」


考え込むようにそういうラナにみんな自然と立ち止まる。


「記憶が曖昧だけど……」


セレナもそうだけど何万年という途方も無い時間を生きていると自然と記憶がぼやけていってしまうのだろう。


「…………大天使ミカエルに就任した者が授けられる冠…………ええ……きっとそうよ!」

やがて自分でいったことに自分で納得したように大きな声を上げるラナ。


「じゃあここに玉はないってことだな」


「まあどっちにしろこんな暗いとこじゃあ玉がどこにあるのかなんてわからないと思うけどなあ」


「まあ、そうでしょうね。」


それから暫くの沈黙。


「で、どうするよ。実際問題この調子で歩いてたってここから出るのは不可能だぞ」

そういって頭の後ろで腕を組むソウに頷く。


「確かに。なにか対策を考えよう。ここには玉がないってわかったわけだし」


「っていってもここは大陸の内部よ。ただの牢獄ならまだしも……」

そういって若干俯いたラナの隣でベジはいつもの笑みを浮かべてみせる。


「あのね、掘っていけばいいんじゃないかな」


「…………」


「掘る?……」


「はははっ。ベジらしいや。でもどうやって掘るつもりなんだ?」


思わず固まってしまう僕とラナとは対照的にすぐベジの考えを理解し面白いと笑うソウには若干複雑な気持ちになる。


「え〜とねえ」

そう言って考え込むベジ。


どうやら方法までは考えついていなかったらしい。

どちらにしろこの方法はかなり非現実的だしやめよう。そう口を開こうとしたらベジがハッとしたように声を上げる。


「掘る振りをしたらどうかな」


「……どういうこと?」

そう僕がたずねると

「つまりね、ここは大陸の内部だから掘られたりしたら天使さんたちは困っちゃうでしょ?」

というベジ。


「うん」


「それで天使さんたちが困ることになったらきっとルナは止めに来る。だからねその止めにきたルナに頼めばいいんだよ。ここからだしてーって。あと、本当に掘らなくても衝撃を与えるだけでもいいと思う。上手くできるかはわからないけど私の剣の魔法で竜巻を起こせば……」

そういい切ったベジに思わず絶句する。

最後の方の『頼めばだしてくれる』という発想は従来のベジらしさが満載なのにそれ以外はまるで別人みたいだ。


「それっていい方を変えればルナを呼び出して脅迫してここから出させる……ってことだよな」

僕が思っていたことをそのまんま、口に出していうソウ。


ベジは困ったように眉をまげて

「そうなるかも」

という。


その隣でなにかを考え込んでいる様子のラナはポツリと「そういう考え方は魔王とそっくりなのね」などと漏らしている。


「でも、いいじゃねえか!その作戦。ベジ、よく考えついたな」

そういうとニカーッとした笑みを浮かべてベジの頭をクシャクシャと撫でるソウ。


「えへへ」

そういって照れたように笑うベジの顔をみたらひどくムシャクシャしてきて

「それより」

そういって無理にソウの手をベジから引き離す。

ソウは途端何かを察したようでどこかニヤニヤした表情をこちらへ向けて来る。

僕はそれを俄然無視しながら、

「その作戦、はやく実行しよう。上手くいくかやってみないことにはわからないし」

という。


「へへ。そうだね」

そう答えるベジはいつもの笑みを浮かべているけどどこか悲しそうだ。


……あぁ、そっか。またやってしまった。言ってから気づくなんて。

『上手くいくかどうかわからないし』って、どうして上手くいくって、信じてあげられないんだろ。声音だってすごく冷たくなってたと思うし。そう考え暗くなっていたら不意に背中をバシンッと叩かれる。


「おいタグ、行くぞ」


「え?行くってどこに?」


「お前話聞いてなかったのか?ベジがこれからそこで魔法で竜巻起こすから離れてろって」


「あ、ああ。そうか」

そういってソウと共に駆け出す直前。

僕は不意にベジの方を振り返る。


弓に姿を変えていたそれを元の姿に戻し、大剣を握りしめるベジ。

出会った頃から随分と大人びたように思う。

おっとりしたエメラルドグリーンの瞳は真っ直ぐ剣を見つめいつも優しい笑みが浮かべられている口元は今はキュッと結ばれている。



「できるよ」

不意に僕はそういう。


これから行うことに集中していたであろうベジがハッとした表情でこっちを見やる。

僕はなんだか気恥ずかしくなってしまってすぐにソウの後を追う。

ほんと、情けない。

少し勇気をだそうとしたらすぐにこれだもんな。


「ありがとう」

ゴチャゴチャした思考を抱えていたら、不意にそんな優しい声音の言葉が返って来る。

僕はジンとあたたかくなった胸を少しもどかしく思いながらソウの方へ改めて駆けていった。







ベジのいる場所からかなり離れたところにくるとベジがそれを確認したようにこちらをみて頷く。

そしてーー。


ベジの手に握られた大剣が強い緑色に光りだす。

そして唐突にベジの方から吹き荒れる突風。

これ、大丈夫なのか?

そう思った直後、いや大丈夫に決まってると思い直す。信じると、そう、決めたんだから。


僕もソウもラナも立っていることすらままならないほどの風。

その真ん中にいるベジの身が心配だ。


周囲の岩壁も最初はなんともなかったが次第にポロポロと表面が崩れかけてくる。


もう眼の前を見ていることなんてできなくて、飛ばされないよう必死に岩部の突起を掴む。



そしてやがて風は止み、辺りに静けさが戻る。

慌てて立ち上がりベジのいた場所を見ればベジが弓に姿を戻した大剣を握りしめたまま、倒れ込んでいた。


僕はそれを見て慌てて駆け出す。


ベジ。無事なのかーー。

そう思って手を伸ばしかけたその時。


「この騒ぎは何事ですか」

そんな地の底から響くような声と共にベジの手前に一人の女性がーー大天使ミカエルが現れる。


こんな状況だというのに思わずホッとしてしまう。ベジの作戦は上手くいったんだ。こうしてミカエルをおびきだせたーー。


「この娘、ですか」

けれど、そう思ったのも束の間。


「前々から忌々しいと思っていたのです。魔王の生まれ変わりなど消えてしまいなさい」

そういってミカエルはためらいなくその手に持っていた杖ーー先端、地面についてる方が剣のように鋭利に尖っているーーを倒れているベジの上に振りかざす。



嘘だろ。

間に合わない。

そう思った。けれど、次の瞬間。



「ちょっと。うちのご主人様をいじめないでくれる?」

そんな聞き慣れた声がしてくる。

思わず涙がでそうになる。


「セレナ……」


唐突にベジの手前に現れるとルナの杖を蹴り上げ遠くへ飛ばすセレナ。

普段ならイラリとさせられる不敵な笑みも今はこれ以上ないくらい心強い。


「けどなんでここに?来れないんじゃなかったのか」


不意に疑問を口にする僕。


「ええ。けどここは天使の都ではない。でしょ?」


確かにここは都ではない。

……そうか。セレナは『自分と同等程度の力を持つ天使が何人もいる都にはいかない』とそういっていたのだ。

今ここにいる天使はルナ一人。

それくらいならどうにかできるという算段なのだろう。


そしてセレナはベジと契約しているわけだから、彼女と離れていても危機にはすぐに駆けつけられるはず。


そう考えると納得がいって「なるほどな」と呟く僕。


「…………っ!」


怒りからだろう。わなわなと震えだすミカエル。


「いいわ……」


やがて静かな怒りをたたえた声でそういう。

「あなたから愉しませてもらいましょ。そして今ここでどちらがラナの姉にふさわしいか決着をつけるわ」

後半はどこか虚ろな瞳でそういうミカエルに僕は出会った頃のラナを思い出した。

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