お城の中で
「さあ、そちらにお座りになって」
上品な仕草で私たちに椅子に座るよう促すと家来と思わしき人を呼びつけその人の耳元でなにやら囁きかけるルナ。
そんな仕草すら優美だなあ、なんて思いながらすすめられた椅子に座る私。
私たちは今天使の都の王宮の中の一室に招かれていて、丸く長いテーブルに、ルナを前にして四人並んで座っている。
隣のラナはずっと俯いていて、その隣のソウくんは辺りを見回して興奮した様子。もう隣のタグは何かを考え込むような警戒しているような表情をしてる。
「それにしても、光栄だわ」
そういうと私の方を見てニコリと笑むルナ。
私もつられて笑顔になる。
「こうして魔王の生まれ変わりと出会えるなんて」
その言葉に心臓が飛び上がる。
隣のラナも顔をバッとあげる。
「ルナ!」
「あら、なにか文句があるのかしら。私はただ、会えて光栄といってるだけよ。あれだけの大罪を犯しておきながらノコノコとこの場に現れるその勇気には恐れ入るけれど。」
そういいながらもその人が浮かべているのは甘い笑み。
言葉と表情が噛み合っていない。そのことがなんだかひどく怖くて身じろぐ。
「あなたが前世でしたことを教えてあげましょうか」
「ルナ!!やめて」
先程にも増して大きな声でラナがそういう。
ラナが私のことを守ってくれた。嬉しい。
そう思って感動するのもつかの間。
「うるさいわよ!姉さんのことは姉さんと呼びなさい!」
声を荒げそういうその人。
さっきまでずっと穏やかに微笑んでいたものだから唐突に飛び出した怒声に心臓がすくみあがる。
「…………」
黙り込みまた俯くラナ。
「なによ。私のことを姉と呼ばないとでもいうの?あの悪魔があなたの姉だとでもいいたいの?!」
ついにテーブルをバンッと叩きつけるルナ。
ちょうどその時家来さんが盆をもってやってくる。盆の上には湯気をあげているティーカップが五つ。
ルナは家来に気づくと何事もなかったように平然と振る舞う。
「ありがとう」
目の前にティーカップが置かれると気を落ち着かせるようにそれに口をつけるルナ。
私も自分の前にティーカップが置かれると礼を言いとりあえず何かを口に含みたい一心でそれに口をつける。
「……」
なんだろう、これ。味がない?
そんなことを思う私を見かねたようにルナは微笑み、
「これは聖水。ここでしか採れないもので健康にいいの」
という。
まるでさっきまで怒っていたのが嘘みたいだ。
「ところであなた方がここに来た要件は?」
「あ、はい。その、玉を探しているんです。」
「玉……というと、魔王が力を振るった大剣にはめられた六つの宝石のことですか」
考え込むようにそういうルナ。
「はい。ここには真珠の玉があると思うのですが」
隣でそう続けるタグ。
「真珠の玉、ねえ。心当たりがないわ。私がミカエルに就任してから何千年も経っているけれどそんなもの見たことも聞いたこともないもの」
困ったようにそう告げるルナ。
しかしやがてパッと表情を明るくする。
「その玉があるかはわからないけれど、我が都には秘密の場所があるの。もしかしたらそこにあるのかもしれないわ。私は興味がなくていったことがないけれど」
「本当ですか?!」
身を乗り出してそういう私にルナはニコリと笑む。
「ええ。こちらへいらして。そこへ連れていってあげる」
そういって立ち上がるルナ。
私もつられて立ち上がるけれど他の三人は座ったまま。
俯いているラナはわからないけれどソウくんもタグもなにか腑に落ちないような表情だ。
頭の鈍い私にはわからないだけでなにかおかしいのかな。
「さあ、はやく」
「はい!」
でも、ルナは本当のことを言ってるように思う。
少しでも可能性があるならそこへ行った方がいい。
そう思った私はなに一つ疑うことなくルナの後をついてその秘密の場所へと向かったのだった。
それから結局私たち四人は皆んなルナの後をついて城の地下へ地下へと向かっている。ルナによればこの先にその場所があるんだって。
灯りはルナが持つロウソクのみで本当に暗く今にも転んでしまいそうな螺旋階段。
どこまで続くんだろう。
なんて思っていたら不意にルナが声を上げる。
「さあ、着きましたよ」
そういうルナの先にあるのは井戸の底みたいなジメジメして暗い丸い場所。
「ここからその秘密の場所へ行けます。」
「ちなみにそこへ行って戻って来た人っているんすか〜?」
屈みこんで地面に触れながら何気ない口調でそういうソウくん。
珍しくシャレをいっていない。
「いますよ。私は行ったことがありませんから知りませんが家来でも何人か行ったことがあります」
「それで、そこはどんな場所なんですか」
そう立て続けに質問したのは腕を組んで険しい表情をしているタグ。
「だから、私は入ったことがないので知りません」
少しむっとしながらもそう言葉を紡ぐルナ。
ソウくんとタグはまだ何か言いたそうだったけれどルナは有無を言わさずに
「とりあえず行ってみれば良いではないですか」
という。
「……ラナ」
それから少しか細い声でそういう。
ラナはハッとしたように顔を上げた。
「やはり私のことを姉とは呼んでくれないのですか」
「……はい」
ラナは沈黙を生みながらもハッキリとそう答える。
「そうですか。ではやはり行ってもらうしかなさそうです」
それはどういう意味なのか尋ねようとした時
私はそこにいなかった……。
誰もいなくなったその場所でルナは一人冷たい微笑を浮かべた。
「少しでも私を楽しませることです。私は暇で暇で仕方ないのですから」
こんな生活には飽き飽きだというように彼女は深いため息をつく。
それから感情を宿していないような瞳をして「せいぜい岩と土に紛れて安らかに息絶えることですね」
そう、呟いたーー。




