天使さんはどんな人?
「うわあ、楽しかった!ありがとね」
私がそう声をかけるのはここまで運んできてくれた、ラナのお友達らしい堕天使さん。
私たちは今、ここまでラナのお友達の堕天使さんに運んだ来てもらったところ。
「………」
何も言わずに立ち去っていく堕天使さん。
「ひいー、笑いすぎて腹いてえ!」
隣でそういうのはソウくんで飛んでいる時からずっとヒイヒイ笑い続けている。
そして……。
ドサリ
「あらら、この子大丈夫?」
そんなラナの声に振り返れば気を失っている様子のタグがうつ伏せに倒れていた。
「タグっ?!」
慌てて駆け寄るとラナが少し呆れたように
「大丈夫よ。この子、気を失ってるだけみたい。こうすれば目を覚ますわ」
といってタグを仰向けに寝かせて容赦なく頬を叩くラナ。
パシンパシンパシンッ
右、左、右。
ためらうことなく手を動かすラナ。
「おかしいわね」
そういってもう一度左手を振り上げた時……
「うわっ」
唐突に目を開けたタグがプルプルと顔を振る。
「ぼ、僕は……っていたっ」
そういって赤くなった頬をさするタグ。
「タグ、大丈夫?」
「え、ああ……」
私の顔を見つめてしばらくボーッとしていたタグだけど少しずつ何が起こったのか理解していったようだった。
「そうだ……、僕確か気絶して……」
「そうよ。だから私が起こしたの」
表情を一切変えずにそういうラナ。
ラナはいつも無表情でものを話す。
まるで嬉しいとか悲しいとかいう普通の人が普通にもっている感情を持っていないみたいに。
でもことセレナのことに関しては感情が沢山あふれて表情もコロコロ変わる。
「……はあ、ほんと、君ってなんかセレナみたいだよね」
「え?ほんとっ?!」
途端喜びの表情を見せるラナ。
その後ろで
「やっべえ!あれ、なんだ?すっげえ!」
と騒ぐソウくん。
「ちょっと静かにしてよソウ!で、君、私のどこがセレナに似てると思う?」
「どこって……なんだろう。そういうとこ?」
タグがそういうとプクーッと膨れてみせるラナ。
「そんな曖昧な言い方じゃあわからないわ」
「ラナ、ソウくんが呼んでるよ」
セレナとは違い嫌味でなくすねるという行為にでるラナ。
そんなラナの対応に困っているタグをみかねて声をかける。
するとラナはふくれっ面のまま「わかったわ」といってソウ君の元へ行く。
去り際独り言のような小さな声で「やっぱりニコに似てる……」そう言っていたけれどニコって誰のことだろ。
まあいっか。
何かを不思議に思っても考えてわからなそうならそのままでいいかとつい思ってしまうのは私の悪い癖だとは思うんだけどそれをさして気にすることもない。
「ベジ、ありがと」
ふいに優しく微笑むタグにニコリと笑む。
「いえいえ」
それから二人の間に小さな間が生まれて、タグはふと私の後方に目をやる。
「あれ、登るのかな……」
うんざりした口調でそういって目で指し示すのは明らかに険しくきつい岩道。
私達は今、天使の都ウィザード・ガーデンがある宙に浮く大陸の上(島、といったほうが正しいのかもしれないけどあたりは岩だらけでとても島とは似つかなかい)にいる。
タグが険しい表情で見つめるそこ、ボコボコした岩道は上へ螺旋状のように伸びているらしく、ラナによればこの岩道を登ればウィザード・ガーデンにつくという。
何故直接ウィザード・ガーデンに行かなかったのかといえばそれは天使は悪魔と同等かそれ以上くらいには堕天使を嫌っているから、らしい。
ラナの話だと天使は完璧主義で綺麗なものしか好まない人たちの集まりで、そんな人たちが自分の同胞が堕落した姿でいることはひどく許せないことみたい。
だから私達はこうしてウィザード・ガーデンへと続く岩道のずーっと下の方に降ろされた。
後ろに道はないので一からのスタートということになると思う。
そんな険しい岩道から少し目線をずらせば岩場より上の方を指しながらキラキラした笑顔を浮かべラナになにやら一生懸命に喋っているソウくんの姿がある。
なにがあるんだろうと見てみれば、岩道を歩き終えた時にたどり着くであろうその場所(見上げすぎて首が痛いくらいに遠くにある)に金色の建造物がいくつもあるのが見える。
もちろん全景は全くなにも見えないのだがなにか、見たことのないなにかがそこにあるってことはわかってひどくワクワクしてくる。
「ソウは一体なにを見てるんだ?」
メガネをおさえ懸命に目を細めるタグに笑って
「なんだか金ピカのものがあるみたいなの」
という。
「金ピカ?……」
「うん!なんだかすごそうだよ」
「あなたも見えるのね」
うんざりしたような声が唐突に耳元で聞こえる。
「うわぁ!」
気づかぬ間にラナとソウくんが後ろにやってきていて驚く私。
「ソウも見えるみたいだけどあんな遠くのもの普通は見えないと思うわよ。やっぱり自然の中で育つと違うのかしらね」
なんてすこし皮肉めいた言い方をするラナだけど、
「おい!それよかはやくあそこに行こうぜ!俺ワクワクしすぎてワクワクマンになりそうだぜ!」
というソウくんに
「だからあなたのいうことほんとに意味がわからないわ……」
言葉は冷たいかもしれないけど声音はあたたかい。
なんだか二人って、ほんと……。
二人は仲良しさんなんだね、そう言おうとしたのに何故か言葉に詰まった。
「さあ、行きましょう。あのバカがうるさいから」
私達の方を見てそういうラナ。そんなラナの言葉に頷いた矢先
「バカとはなんだ、バカとは!バカっていったらカバになるぞ、なんつって」
というソウくん。
そんなソウくんにラナは肩を震わせる。
「…………もう、その意味わからない発言にはうんざりよ!ちょっと!まちなさい!」
ケタケタ笑って逃げるソウくんとそれ追いかけるラナ。
二人とも気づけば岩道のずっと奥まで行ってしまう。
「……ジ!ベジ!」
「え?……」
「大丈夫?ボーッとしてたみたいだけど」
「う、うん、ごめんね」
気づけばっていうか、私がボーッとしてただけだったみたい。
私、たまに気づかぬ間にボーッとして時間が過ぎていてタイムスリープしたみたいな時あるし、今回もそうみたい。
なのに……なんでだろう。
今回はいつもとなにかが違うような気もする。
なぜか胸が苦しい。
駆けていく二人。笑い合う二人。
頭の中で繰り返し再生される。
なにこれ。こんなの初めてだ。
「ベジ、僕らも行こう?」
そういって私の顔を覗き込み微笑んでくれるタグ。でもその表情はなんだか物悲しい。
「うん」
そういいつつ私は自分の胸の中で疼く感情の答えを出せずにいた。




