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クロスロード  作者: 睦月心雫
第7章 天使の楽園 ウィザード・ガーデン
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番外編 白い時

セレナちゃんに酷いことをした。


でも心から『酷い』とは思ってなかった。


だって、セレナちゃんが私のこと見てくれないのがいけないんだもの。


セレナちゃんは私だけのものでいてくれればいいんだもの。


セレナちゃんと寄り添って笑うのは私だけ、そう、決まっているんだから……。



なのにセレナちゃんはそれを「狂っている」という。

セレナちゃんは私を避けた。

避けられたことがすごく悲しかった。

なんで?どうして?私は何も間違っていないのに!








私とセレナちゃんが初めて会ったのはずっと前。

私が生まれて二十年そこら経った時。

私は両親からの虐待の末天界から悪魔の里へと落とされた。


その時のことが未だに忘れられない。

生えたての羽を懸命にだそうとしているのに何故か片方しかでなくて地がせまってきて焦って……そして結局そのまま地に落ちた。


グシャッとひどく嫌な音がなって羽が痛くてでももう感覚も麻痺していて空はやけに蒼く見えて涙が滲んでその瞬間心が壊れた。

限界だった。

両親からの理不尽な暴力も姉からの嘲笑も……。


私には何十歳か上の姉が一人いた。

彼女は天使の中でも優れた力の待ちぬしで人気者で両親からもよく可愛がられていた。


その反対に私は……

こうやって天界から落とされる始末だ。


悲しいとも辛いともなんとも思わないのに何故か涙が出る。

不思議だ。


そう思っていたら遠くから声が聞こえてきた。

きっと悪魔だ。

悪魔は天使のことを大層憎んでいるというから私はきっと彼らに死よりも恐ろしいことをされるのだろう。

もう、そんな風にしか物事が考えられない。


私は意識を保つのも限界で気づかぬ間に気を失っていた……。








「大丈夫?」


「…………」


ゆっくり瞳を開くとクリクリした漆黒の瞳を心配そうに歪めた、姉くらいの年頃と思われる少女がいた。


その周りにも何人もの人ーーいや、悪魔がいる。

私は何をされるのか怖くてその女の子を思い切り突き飛ばした。

そして恐怖でブルブルと震えた。掛けられていた毛布を抱きしめて。


「怖がらないで。私、悪いことなんにもしないから、ね」

そういって突き飛ばされたことなど微塵も気にしていないように可愛らしく微笑むその子。


姉も以前こういう笑みを浮かべてくれたことがあった。

でもその直後に崖から突き落とされた。その他にも酷いことを何回何十回と……。


背中ーー羽が生えていた場所がひどく痛い。

ズキズキズキズキと痛みが止まることはない。

もう消えてしまいたい。いっそのことこの人たちの誰かの手で……


「見て……ないで……殺せば……いい」


震えながらもハッキリと言葉を紡ぐ。


「なんでそんなことするの?」

すると漆黒の髪に漆黒の瞳のその少女がそういう。


純粋に不思議だというように。


「お友達になろうよ」

そういってその子が手を差し伸べて、周りのみんなも同じような言葉を述べてこちらに手を差し伸べてくる。


私は耳を疑った。

友達……っていったの?今……嘘でしょ




そうよ、嘘に決まってる。

きっと友達と嘘をついてなにか酷いことをするつもりなんだ。

そう考えた私は布団にすっぽりと包まる。




そんな私にみんな最初はめげずに言葉をかけていたけれどやがては諦めたようで声は一つもしなくなった。



私はその間ずっと背中の痛みに耐えていた。


ほんと……こんなのもう無理。

友達になって騙されてしまえばよかった。

なんてそんなことを思いながらゆっくりと布団をあける。

あたりは真っ暗。夜になったみたいだ。



周りには誰もいなくてシーンとしている。


「起きたんだね、おはよう」

そんな中唐突に隣から声が聞こえたので飛び上がる私。


そんな私を見てクスクスと笑ったその人は昼間、私に一番に声をかけた、姉と同い年くらいの漆黒の瞳をもつ女の子だった。


「ずっと……そこに?」


「ううん、少し長老のところに行ったりもしたよ。それでね、これ作ってきたの」

そういってその子が掲げたのは丸い入れ物にはいった、暗闇の中で光っている液体……


「……いやっ」


「ダメだよ!これ塗れば痛いのなくなるんだよ?」


「…………」


それは本当なの?

でも、今は本当じゃない方がいいかも。

この痛みとおさらばするには消えるしかなさそうだし、悪魔が作ったものならきっとなにかしら天使に害があるだろうし。


「バァバ……長老特製のものだから本当に効くと思うよ!ただ最初はヒリヒリするかも。私も以前大怪我した時に長老のお薬つけてもらったんだけどすごくヒリヒリしてね。でも2日もしたら完璧に治ってたの!すごいでしょ?」

そう興奮したようにいうその子に私は無言で背中を向けた。


その子はそれを了解ととったようで

「いい子だね」

という。


いい子だなんて。そんな言葉で私のことを騙すの。まあいいや。もうなんでも……。


「じゃあ、塗るよ」


そんな声の後冷んやりとしたものが背中の痛みが疼く場所に塗られていく。

最初はひんやりして気持ちいいとすら思えたのにやがてそれはヒリヒリとした痛みへと変化する。


「……っ!」


私、これで死ぬんだ。

天使は不死身だけれど悪魔だけは唯一の弱点だものね。

この痛みが引くころには……

そんなことを思いながら私は意識を手放した。







「…………」


瞳を開くとぼんやりと天井を見つめる。

ここが死後の?

でもそれにしてはやけに……


「あっ!起きた!よかったぁ」

そういって抱きついてきたその人はとてもあたたかい。


抱きしめられたのなんて生まれてきてから初めての経験だ。


じゃあここは本当に死後の?


「よく頑張ったね」

そういって頭をポンポンと撫でるその人。

あの子だ。

こんな私に声をかけてくれて、消えることはないと思った痛みを消そうとしてくれた人。


なにもなかった胸の中にジワリと胸を焦がすくらいに熱いものが生まれた。


「……名前……は」


「え?名前?ああ、そういえばまだいってなかったね。私はね、セレナ。セレナ・ミス・デ・ビルっていうんだ!」







それから私はセレナとよく遊ぶようになった。

セレナの塗ってくれた薬のおかげで背中の痛みは大分引いて、時が経つと痛みなど微塵も感じないようにまでなった。


それから私とセレナは他の子も交えたりしてよく遊んだ。

人間の村に行ったこともあるし花畑に行ったこともある。


どれも以前の生活に比べれば夢のような毎日で私はひたすらに幸せだった。


セレナちゃんは明るくて素直で純真無垢で天真爛漫な女の子で一緒にいられることが楽しくて嬉しくて仕方なかった。




なのに……。


ある日それは起きた。

私たちはよく誘惑する実験体として人間の村に行っていた。

そんな中セレナちゃんは出会った。

同い年くらいの金髪に蒼い瞳をした美しい顔立ちの美少年エルフに。

彼の名はニコ。金髪のエルフ初代にして絶世の美男子。

セレナちゃんとその男の子はすぐお互いに心惹かれた。


少年は呪いをかけられ国を追われここまでやってきたそうでその話を聞いたセレナちゃんは私の時みたいに沢山世話を焼き始めた。


二人は本当に仲睦まじかった。

お互いに美男美女だったけど、どちらかというとお互いの性格に惹かれたようだった。



セレナちゃんが私といてくれる時間は明らかに減った。

最初は我慢していたけれど段々と抑えようもない怒りが溢れてきた。


セレナちゃんは私のものなのに。

なんであの子だけ。

許せないーー!



そんな矢先、セレナちゃんがうっとりした表情で「私今度真の愛の契りを交わすことになったの」といった。


二人でいつも行く駄菓子屋さんのベンチに座ってコウモリの油煮を食べている時だった。

私はさっき飲み込んだコウモリが口から出てきそうなのを必死に堪えてセレナちゃんがその真の愛の契りを交わすという日をたずねた。

幸いまだ時間はあるようだった。


真の愛の契りとは悪魔の里に古くからある儀式で一般的にいうと結婚することだ。


やり方は複雑なまじないのようなもので、満月の夜、女の子の影を男の子に渡す。

そしてその次の満月の夜に同じ場所で男の子の影を女の子に渡す……。


それで終わりだ。

あとこの儀式は正確には、『未来永劫ーー生まれ変わっても一緒にいよう』という意味がある。


影をとる、なんて芸当悪魔にしかできないことなんだけど、この儀式をすると生まれ変わっても一緒にいられるんだって。

本当かどうかは知らないけど。

どっちにしろ不愉快。


だからこんな計画、私が潰すんだーー。





私はバァバの家でまじない関係の本を読み漁った。なかなかいいものが見つからないままついにセレナちゃんがニコに影を渡す日がきた。


私は急いでいた。

二人がどんな様子か見にいこうかとも思った。

けれどここが正念場だと踏ん張って、次の満月の日までにはと意気込んだ。



そして忙しく時は過ぎその日がやってきた。

男の子の影を女の子に渡す日だ。


私は未だに方法を思いついていなかった。

普通に止めればいい話かもしれないけど、それじゃあセレナちゃんに嫌われちゃう。


だからこそ影からこの儀式を失敗に終わらせないといけない。

と、そんなことを思っている時だった。


「これだ!」

私はその箇所を指差しニイッと笑って見せた。







夕方からニコはそこにいた。


セレナちゃんがまだ来ないことは知ってる。

さっきバァバにお使いを頼まれてたから。


その間に私は……

私の存在に気づいたらしいニコがこちらを見やりフワッと微笑む。


「やあ、ラナ。セレナ見てない?」


「見たわ。さっきお使い頼まれてたの。だからもう少しかかると思うわ」


「そっか」

そういって微笑むニコは本当に美しい。

セレナちゃんに似合うって、認めてあげられるくらいには。


だから多少は申し訳ない。けど、仕方のないこと。

私はスタスタとニコの方へ歩み寄るとやがてニコの目の前に立ち、真っ正面からニコを見つめた。


「なぁに?どうしたの?」

そういって柔らかな笑みを浮かべるその人。


ほんと、セレナちゃん以外には全然表情を変えない。

セレナちゃんの前だと沢山の表情をするのに。

まあ、それは、私も同じだけどーー。


「二人が契りを交わすことはセレナから聞いてるわ。私はセレナには秘密で二人の契りを手助けしたくって」


「……っていうと?」


「こんな服じゃしまらないでしょ。魔法で素敵な衣装を用意してあげるから」


「確かにそうだね……」

そういってニコがみやるのはその美しさとは似つかわないボロボロの服。


「じゃあ、お願い!」

そういって無邪気に笑むその人。


大抵の女なら簡単に落ちるであろうそれも今は憎らしさしか湧いて来ない。


セレナはこれでーー。


私は魔法をかけた。

服を変える魔法ーーではなく、記憶を抜粋して奪う魔法を。

かなり高度な魔法で、できるか心配だったけれど案外うまくいった。

それはなんでも、天使にしかできない、禁忌レベルの魔法だった。


以前バァバがくれた、セレナちゃんのと対になる白いイヤリング。

それは記憶を吸収できる特殊な鉱石でてきている。

そのことに気づけたのもかなり奇跡だっだと思う。


魔法も多少苦戦はしたけれどうまくいった。

彼がもつセレナちゃんに関する記憶はめでたく私のイヤリングの中へとしまいこまれた。


パタリと倒れこむようにして私によりかかってくるニコ。


そしてそこへやってきたセレナ。

いつもより何倍も美しく見えるその姿を満月の光が淡く照らす。

照らし出されたその表情は今まで見たことないくらい絶望に打ちひしがれた表情。


私もセレナちゃんがニコと契りを交わすといった時それくらい悲しくて辛かったんだよ。


セレナちゃんは私とニコが抱きしめ合っているように思ったらしい。

暗かったしそういう風に見えてもおかしくない。

ふと目を覚ましたニコがボーッとした目つきで私を見る。


「ラナ……」

それからセレナの方を見やり首をかしげる。


「どうしたの、君、なんでそんな悲しそうな、ってあっ!待って!」

セレナちゃんは泣きながらかけていった。


そうしてセレナちゃんの初恋は幕をとじた。







それから仲間ができたセレナちゃん。

その仲間の中にはニコの姿もあった。

しかも彼は幼い頃心から恋い焦がれていた初恋の人をエルフの姫のことだと勘違いしていた。


セレナちゃんはそのことに気づいていたのか、私は知らない。

私はただ、セレナちゃんと一緒にいたかっただけだから。

でも、少なくともセレナちゃんはニコのこと好きだけど避けているようだった。

もう恋なんてするもんかって、思ってるみたいだった。

私はそのことにひどく安心してセレナちゃんに避けられてもなんとか我慢して堕天使のみんなと過ごして暇を潰し続けた。




そして何百年も経って、セレナちゃんは今度は、人間と契約して私の目の前に現れてーー。


もうその後のことは知っての通り。

私はベジから話を聞いた、ベジのいとこのソウと契約した。

最初はセレナちゃんのことで契約しただけの関係だったけど今は案外悪くないかもとそう思ってる。


そして私は待っている。

セレナちゃんとまた、いつも一緒に過ごす、楽しい日々をーー。

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