魔王をねらう人々
「えーと、あなた方はなんなんですか?」
「なんなんですか?ってなにそれ!しかも何こいつ魔王のくせしておっとりしたふりしてんの。超腹立つ!」
「本当だぜ。やっぱりあの時に殺っておくべきだったな。ったく、てめえが止めるからだぞ、ティアナ」
「……人のせいにしたいのならご勝手に。ただ、本当にあきれるくらい大人気のない人ですね。」
「あっ?!うっせえぞ、お前」
「きゃはは!面白くなってきたねえ。もっと喧嘩しようよ〜」
「これは……」
そういって隣で苦笑いを浮かべるタグ。
私もきっと意識せずともタグと同じような表情になっているだろう。
この三人はずっとこんな調子だ。
少し口を開けばすぐに口喧嘩になるしそれが止まることはない。
唯一の幸いは三人が縄で縛られていて身動きがとれないってことだろう。
縄がなければきっと取っ組み合いの喧嘩に発展していると思う。
「セレナ、なんとかしてくれないか」
そういってタグが見やる先には爪を研いでいるセレナがいる。
「はあ?今取り込み中なの見てわかんない?」
そういうセレナはかなり苛立っている。
というのも眠っていたところを心臓を刺されるという最悪の形で叩き起こされ終いにはその人たちがずっと口喧嘩しているから……。
確かにそれは苛立って仕方ないと思う。
「でもまあいいわ。あたし拷問は大好きだから」
そういうと研ぎあげた爪を満足気に眺め、終いにはニィッとした笑みを浮かべてみせる。
「さあ、あんたら、覚悟をきめなさい」
そういってセレナが立ち上がり三人に近づいていく。
「うわ、最悪!私こいつのこと超嫌いなの!近寄んなっての」
そういう妖精には思わず突っ込んでしまう。
「にしてはさっきセレナのかなり近くで蹴りいれまくってなかった?」
「なっ!あんた、ニコ様に似てイケメンちっくって思ってたのにとんだ勘違いね!この性悪!」
「僕はただ事実をいっただけさ」
そういうとセレナがニヤリと笑みを浮かべながら妖精の方へと向かう。
「坊主が言ってたことに間違いはないかしら?」
「ち、違うわ!あんなの嘘よ!私があなたを蹴るなんて」
妖精さんがそういった途端にセレナの声音は一段と低いものに変わる。
「……そう。キンキン声でそんな嘘までつけちゃうの。すごいわねえ」
そういうとサッとその研がれたばかりの赤い爪を妖精さんの小さな首元に押し当てるセレナ。
「さっさとあんたらの目的を話しなさい」
「……っ!魔王よ、魔王!」
そういってキッとした様子でこちらを見やる妖精さん。
「えっと、私?」
キョトンとしてそういうと妖精さんは
「なにその間抜け面!ほんと潰したい!」
という。
「で、魔王がなんなの。はやく答えなさい」
そういって変わらずに爪を押し当てるセレナ。
「さっきの見てたらわかるでしょ!みんな魔王が大嫌いなのよ!」
「そういえば君ベジのこと魔王の生まれ変わりっていってたよね?それってどういうことなの?」
不意に考え込むようにタグがそういうと妖精さんはムスッとしながら
「そのまんまの意味よ」
という。
「はあ?なんで生まれ変わりだなんてわかるわけ?あんたらがそう思い込んでるだけでしょ」
呆れたようにそういうセレナにベーッと小さな舌を出しながら
「違うもんね。リーダーがそういったんだもん」
という妖精さん。
「そういえばさっきティアナもリーダーがどうのっていってなかった?そのリーダーって誰なんだ?」
訝し気にそうたずねるタグに皆一様にそっぽを向く。
「それは重要機密。死んでもいえない。けどまあまあハンサムな人だよ!」
「ハンサムな人って知ったところでな……」
タグがそういった、その時。
どこかから音楽が流れてくる。
不思議と聞いているだけで眠なたくなってくる音楽だ。
あれ?これって前にも……
なんて思いながら眠気に逆らうことができずにガクリと膝から崩れこんだ時、目の前をテコテコと何個もの人形さんが駆けていくのが見える。
お人形さんたちはみな一様に三人の元へ行き、そして縄を解こうとしている。
「ったく、最悪。この歌って……」
そういってセレナが見やる先をなんとか見てみれば見知った人がいた。
「ヘンゼル……グレーテル」
閉じかけた瞼と閉じかけた思考の中そう呟く。
そっか。二人は一緒にいられるようになったんだ……。
なんて思いながら私はばたりと倒れ込んだ。
「うっ……」
目がさめると目の前に美味しそうな朝食(卵がのったトーストに湯気の立つ野菜スープ)が置かれている。
だから一瞬忘れそうになる。ついさっきあったことを……。
「おはよう、ベジ。大丈夫?」
そういってくるタグは私の隣で朝食を食べているんだけれど目がトロンとしていてひどく眠そうだ。
「ったく、あいつら……」
そう呟くセレナは私の目の前でイライラしたように文句をいっては髪を振り乱している。
「さっき……なにがあったの?お人形さんや眠くなる歌……あとヘンゼルとグレーテル」
ぼんやりとした頭で言葉を羅列していくとセレナが
「あんなのヘンゼルが操ってる人形とグレーテルの音の魔法に決まってるじゃない!」
と叫ぶ。
その叫び声で目がハッキリしたのか
「おいおい八つ当たりするなよ」
というタグの顔は先ほどの眠気など消え去っているように思える。
「それにしてもヘンゼルはまだわかるけどグレーテルがなんで……って感じだよね」
そう呟くタグにセレナは相変わらずな様子で
「さしずめあいつら全員グルなんでしょうよ。みんな同じマントだかなんだか羽織ってたし。グレーテルは『ヘンゼルがそこにいるならー』とかいってあいつらの仲間に加わったんじゃないの。知らないけど」
と吐き捨てる。
「魔王のことを……」
そこで躊躇うように口ごもるタグ。
タグは本当に優しいなあ。
「恨んでる、だよね。そしてついでに言うと生まれ変わりである私のことも同じくらい」
そう、殺そうとするくらいに恨んでる……。
改めて口にするとその事実はひどく物悲しくて辛くて苦しくなる。
けどこれが現実なんだから受け入れなくちゃ。
「しかもあそこにいたのは皆んな魔王側についた種族よ。訳がわからない」
そういうともう疲れたのか大きくため息をついて立ち上がるセレナ。
「次の行き先は天使の楽園ウィザード・ガーデンにしましょ。あそこは天界にあるから流石にそこまでは追ってこないでしょ。逃げ隠れするついでに玉を手に入れるのよ」
「うん、そうだね。それにしてもあの人たちはどこに行ったんだろ」
「さあね。でもあの調子じゃあ、ベジを捕まえようと躍起になってくるはずよ。とりあえず天界に逃げときゃ足あとくらませるんじゃない」
「まあ、それは一理あるな」
「でしょ。ってことで私、ラナに連絡つけてくるわ」
そんな言葉に私とタグは同時に
「え?!ラナと?!」
と叫ぶ。
「はあ?なによ。なんか文句あるの」
「う、ううん、ただ……」
「あんなに嫌ってたのに意外だなって」
そんな言葉を受けてセレナは呆れた仕草をしてみせる。
「今回あいつを呼ぶのはあいつを苦しめるためのようなもんよ」
「え?そうなのか」
「ええ。……あんたらに話したっけ。あいつが虐待受けて天界から落とされた天使だって。」
そんな言葉に思わず目を見開く。
「そう……だったんだ」
「だから悪魔の里に……」
「そ。その通り。んで、あの子は親から捨てられてからずっと苦しんできた。今だって苦しんでる。だからそれを終わりにしてやるのよ」
「なんだ。結局ラナを助けるんじゃないか」
微笑んでそういうタグに私も心の中で同意する。
やっぱりセレナはツンデレさんだな、なんて思いながら。
でもセレナはひどく冷たい顔で
「私はあの子を親に会わせようとしてるのよ。それがあの子にとって救いになるかしら?いいえ、ならないわね。けどそれでも私はそうしなきゃいけないと思ってる。でないとあの子は私から離れられない。結局のところあの子は私のこと親鳥かなんかだと思ってんのよ。だからいつだって潜在的にくっついてこようとする。でもそれももう終わり。うっとうしくて仕方ないもの」
という。
後半はひどく悲しそうな声音で。
「あと天使の都に悪魔は厳禁だからってのもあるわね」
「変装とかは?」
「無理無理。悪魔と天使は反対ではあれど対等な力をもってるから変装なんて簡単にバレるわ。それにあたし何万と生きてるって前いったけど天界にはこの世界が出来た時から生きている猛者がうようよいるから私の魔力じゃ負けちゃうのよ」
という。
セレナが負けるなんて……
「だからラナにあんたらを頼むわ。どうなるかはわからないけれどあの子も天使の端くれ。あの子がいればウィザード・ガーデンにも入れるでしょ。それにあの子が親に会うこともできる……。ま、会わなければ会わないでそれでいいの。一番はウィザード・ガーデンに浸入してとりあえず身を隠してそして玉を手に入れることだからね。じゃ、いってくるわ」
そういって足早にかけていくセレナの背中はなんだかひどく寂しげだった。




