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クロスロード  作者: 睦月心雫
第6章 妖精の王国 ノーチルターン
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敵対

手を懐にいれ短刀の持ち手を握りながら、ベジの首にかぎ爪をあてる狼人間の言葉を改めて考える。


ベジが魔王の生まれ変わり?そんなバカな。

ベジは魔王の血族というだけなはずだ。


「うっ」

かぎ爪が少しずつ喉にくいこみ苦しそうな呻き声をあげるベジ。

隙をついて短刀を抜き今すぐにでも助けようとしたが無駄だった。


「……」


僕の腕と足に水でできた足枷がかされている。

こんなことできるのって……

でもまさか……

そう思って振り返ったら、案の定頭に浮かんでいたその人がいた。


「ティアナ!お前こんなところで何やってるんだよ!」


「なんだ、知り合いか?」


僕の言葉を受けて訝しげな表情を浮かべる狼人間。そんなそいつに

「いいえ。違います」

とハッキリ答えるティアナ。


その言葉がやけに冷たく氷のように心にのしかかる。

けどそのことを気にしている場合でもなかった。

ベジはもちろん、寝ているセレナまでーー。



「こいつあのセレナ・ミス・デ・ビルよ!腹立つから蹴っときましょ。ふふふ!いい気味!」

なんていってるのは既にトラウマと化してきてきている妖精で、セレナの顔あたりでブンブンと足と腕を振り回している。

けれど体自体親指ほどなのでセレナは痛くも痒くもなさそうだ。




「お前たちは一体なんなんだ!」

そういって改めてその三人をみやるとみんな同じローブを身に纏っていることに気が付く。


白を基調としたそれには金色でなにかの文様が描かれている。


金色……っていうとやっぱりエルフの王族たちを連想するけれど彼らは皆んな光と闇の大戦で闇側についた種族のはずだ。

そういう意図ではないのだろうか。

でもそれにしたっておかしい。


この世界の暗黙の了解ーーそれは言わずもがな光と闇の大戦のことだ。

なんの種族がどちらについたかなんて皆んな物心ついた時には知ってる。

それによって差別やらいじめやらが起こるのも日常茶飯事。


そして皆んな、互いのものを嫌っている。

例えば闇側のものが言わずもがな金のエルフを嫌うように光側も闇側のものを忌み嫌う。



だから普通闇側の種族のものが光側の代表的な色合いの服を着るなんて考えられないのだ。


「なんだ、この服が気になるのか」


ベジの首にやったかぎ爪はそのまま。

僕の視線の行き先と表情から察したようにそういう狼人間。


僕は不本意ながら大きく縦に頷く。

けれど狼人間は笑うだけ。


「悪いがそんなことをペラペラ話してる暇じゃねえんだよ。そこの悪魔が寝てる間にこいつを殺るからな」


「ちょっと、話が違うじゃない。リーダーは生きたまま連れてくるよういったのよ?」


僕の隣で慌てたようにそういうティアナ。

その一瞬の動揺ーーその瞬間僕はーー。


「っつ!」


僕は一瞬ゆるまった水の手枷やら足枷やらからなんとか抜け出すと短刀を握りしめ、それをまっすぐティアナの手首にあてた。

勢いよくやりすぎて血がでてしまった。

心の中でごめん、ティアナと呟く。


「それ以上ベジに爪を立ててみろ。こいつの命はないぞ」


ことさらに冷たい声でそういう。

でないと知り合いかと疑われている僕が本気でティアナを傷つけるとは考えないだろうから。


「そんなとこにナイフあててなんになんの」


後ろーーセレナの方から甲高い妖精の笑い声が聞こえてくる。


「知らないの?君。ここには結構大きい血管が通っていてね。場所さえ間違えなければ一発であの世行きなんだよ。そして僕は医者の卵だ。血管の位置くらいよくわかる」


こんなの嘘だ。

けど今は嘘をついてでもこの状況をなんとか打破しないと……。


「ちっ。ったく、お前がヘマしたせいだぞ」


「ごめんなさい」

そう答えるティアナの白く細い手がギュッと握られる。

ティアナが何故こいつらと共にいるのかはわからないけど、とりあえず好き好んでいるようには思えない。


「あーあ。わーったよ。じゃあ、そっちの悪魔殺すか」


「はあっ?!何を言ってぐっ」


思わず動揺したその瞬間に短刀を握っていた手を逆手にとられ思い切り捻られる。

やってきた張本人であるティアナは何食わぬ顔……というか一切感情をうつさない顔で狼人間がセレナに近づくのを見てる。

狼人間から解放されたベジはというと、妖精がかけたらしい炎の呪文の檻の中でただでさえ先ほどまで喉を閉めかけられていたので余計に息ができずに苦しそうにしている。


「あははっ!言い様ね、魔王!私たちはずっとこの時を待っていたのよ!」


そう叫ぶ妖精にはやはり違和感を覚える。

妖精も狼も銀のエルフもみんな闇側で魔王をリーダーに据えて光側と争ったというのに、なぜその慕っているはずの魔王(の生まれ変わりだと思っているベジこと)をいたぶって楽しんでいるんだ?


そう思ってる間にも狼人間はセレナの元にたどり着いていて握りしめた刀をまっすぐセレナの心臓部分にあてる。


「てめえに恨みはないが死んでもらうぜ、悪魔さんよお」

遠目から見ても剣を握る手に力が込められる。

そして……


「やめろっ!!」


必死に叫んで手を伸ばそうとするけれど何もうまくいかない。

僕はためらうことなんかやめ全身全霊の力を込めティアナの手を振り払い、ついでに突き飛ばし、セレナのもとへかけた。


けれど……


グサッ



そんなひどく嫌な生々しい音がしてセレナの白い胸から赤い血が溢れ出した。


「嘘だ……」

僕は呆然としてそう呟く。

自分の体からも血の気がひいていった。


嫌だ、嫌だ、嫌だ。

嘘だ、嘘だ、嘘だ。



だってセレナは不死身だろう?


けど心臓に、まっすぐ、剣がーー。



「うああぁぁっ」

頭を抱えて崩れこむ。


セレナからもらった短刀が地面に落ちてカランと音を立てた。


ごめん、セレナ。

君とベジを守るために譲ってもらった君の大切な品を一番使うべき時に使うことすらできずに僕はただーー。



「こっちもついでに殺っちゃいましょうよ」


妖精の声。


「だな。必要なのは魔王だ。それ以外はゴミ。消えたところでなにもお咎めはないだろうさ」


狼人間の声。

二人の笑い声。


息が荒くなって目の前が真っ白で悲しくて辛くて怒ってて恨めしくて

呆然として地面に手をついて地面を見つめていた。


「…………」


僕の手前に誰かの気配。


「おいティアナ、そこをどけ。何してやがる、お前」


「関係ない人を殺すのはおかしいでしょう。彼女を連れて帰ればいいじゃない」


「はあ?なに面白くないこと言ってんの。前々から思ってたけどティアナっちって頭固すぎ。そういうのウザいんだよね。楽しいんだから殺っちゃえばいいんだよ。ティアナっち、わかる?これがノリに乗るってやつだよ」


「がははっ。言えてらあ。ほら、どけ、邪魔なんだよ!」


「きゃっ」


目の前の気配が消えて、今度は強い殺気がやってきた。



セレナほんとうに?


でも血……血が……




「さぁてと、こっちはどう殺すかね」


「あっ!こんなんどう?炙り殺しの刑のあとめった刺しにすんの。あとあと」


「おいおいそりゃもう二番目以降死んじまってんじゃねえか」


「あ、ほんとだね。きゃはは」



不思議と涙はでなかった。

ただ脳が懸命に情報を整理しようと必死に動いていて目の前は真っ白でひどく吐き気がしていた。



「んじゃー、まー、サクッといっちまうか」


「そうだねー。なんかめんどくなってきたし。って、あ、ティアナっちはそこ動いちゃダメよ。あんま暴れると火傷するからね。きゃはは」


「!!タグ!」


ティアナの声だ。

今の声は昔と同じ、だ。



背中に当てられる刃物の先端の感触、



ああ、僕ーー。



「グハッ」


「なっ」


「うわ」


そんな声の数々。

背中に当てられていた刃物の感触は消えてカランという地に落ちたであろう音がする。

けれど僕は顔をあげる気にもならない。

なんだかもう何もする気が起きない。

どうしよう。

表情筋が動かない。

ティアナが私笑えなくなったのといって泣いた時、実感というかどんな感覚なのかとかちゃんと理解できなかったけど今はハッキリとわかる。

こういうことなんだ、って。


「きゃっ!なにすんのよーっ!」


「なっ、離して!」


そんな声の数々。

僕はゆっくりゆっくりと顔を上げていく。

目にはじんわりと涙がたまっていた。

セレナが倒れているその場所は見ないようにしよう、そう思ったのに結局チラリと見てしまう。


「え……」


目元をぬぐってもう一回見てみる。

けれど景色は変わらない。


どういうことだ?

セレナがいない。

消えた……のか。

そうか。悪魔は人間やエルフとは違うから。

だから……



「なに泣いてんのよ、坊主」


そんな声にハッとして目を見開く僕。

後ろを振り向く勇気もない。

だって、信じられない。

確かに心臓に剣がーー。


「私は不死身。唯一の弱点は天使。それ以外じゃ死なないって前にも言わなかった?」


そんな言葉をかけられ思わずバッと振り返る。

するとそこにはニイッとしたいつもの笑みを浮かべるセレナがいた。

思わず抱きつきそうになるがやめといた。色々と怖いし。

それにしても、嘘みたいだ。


「ほら、もう治ってるわよ」

そういってグイッと胸元を押し付けてくるセレナ。


「確かに…………ってや、やめてくれ!」


最初は純粋に感心したもののやがて置かれている状況の羞恥さに気づき赤面する僕。


「ほんと、すごいねえ、セレナ」


そういってセレナの背後からヒョコリと顔を出したベジはいつもの感じだ。

僕の視線に気づいたのかベジはこちらを向いて優しい笑みを浮かべて

「セレナがね、治してくれたの」

という。


「そ。んであいつらはあそこ」

そういってセレナが見やる方には縄でぐるくる巻きにされた三人がいる。


「あの縄はドワーフ共に作らせた最高級品だからね。解ける心配はないわよ」

そういうセレナには思わず笑みがこぼれだす。


「ほんと、君って、最高だね」


「当たり前」


「今のって最高級品と最高だねがシャレになってたの?」

ベジのそんな言葉に

「ち、違うよ!」

なんていって、僕はもう一度目元をぬぐった。

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