恋敵
「そうなんだよ。俺、昔から本読むの好きでさ。モンスター関連なんかめちゃくちゃ読み込んでたんだよ。でさ、そこに妖精の女王のことかかれてな」
「あーそう。それはいいからはやく手伝いなさいよ、この木偶の坊」
「なっ!木偶の坊とはなんだよ!デクデク歩くわけじゃねえし!」
「……あなたっていつも意味のわからない言葉を発するわよね。理解不能なんだけれど」
「なっ!ひっでえなあ。ラナ、最近俺へのあたりキツくない?」
「気のせいでしょ。それより、ほら、そこの男の子も戸惑ってるわよ。あなたの意味不明な発言に」
「は、はは……」
そんな会話を前にして見え見えの苦笑いを浮かべる僕。
ここは妖精たちの王国ノーチルターンから少し離れた野営地(結構な広さがあって、あちこちに焚き火の跡が見受けられる。どうやら自由に野営することが可能なようだ。今のこのご時世でもやはり旅する人はいるのだなあなんて感慨深くなる)。
妖精の王国からなんとか抜け出せたのは目の前にいるこの二人のおかげだ。
その上ベジとセレナが吸い込んでしまった毒もソウの知識を元にラナが薬草をかきあつめ簡単に解毒してしまった。
本当にすごい二人だな、と思う。
けれどソウはいちいち言うことが寒々しいし、ラナはラナでセレナのことになると感情が激しくなるし。
なんというか、疲れる。
「ほら、顔が疲れるっていってる」
「は、ははは……」
「なんだよ、タグ〜。さっきからはーはーはー言ってそんなんじゃ歯が歯くそまみれになるぞ、なんつって」
そういって自分の腕をドカリと僕の肩に乗せてくるソウには、ほんと、絶句するしかない。
「はははー、そうですねえ」
なんていって、その腕をさりげなくどかすが、さりげなくなっていたかは定かじゃない。
なんというか、僕とソウはあまり相性が良くないように思う。
ソウの突飛な行動には到底ついていけそうにないし、ソウもソウで僕みたいなお固いやつは面白くないから嫌いだろう。
魔法学校に通ってる時もこういうタイプの人間は幾人かいたが、必ず仲間が周りを囲んでいた。
ソウもそういうやつだ。
いつも仲間に囲まれているキラキラしたやつ。
そして僕みたいなやつとは到底似付かわない……。
「なんだよ。タグは素っ気ないなあ。」
「少し静かにしてよ。セレナが起きちゃう」
そういって冷たい視線をこちらによこすラナはたまにセレナを彷彿とさせる。
見た感じラナはセレナに憧れているって感じだから、きっと気づかぬ間に似通う部分があるんだろう。
憧れる人がいれば、それが近しい人なら、余計に、そばで見ているから似ていくものなのだと思う。
まあ僕はティアナの明るさに憧れていたわけだけど……。そこに近づけかどうかはわからない。
ただ、あんな風になりたいと思うことで変わろうとすることがてきた。
そんなことを思いながら、目の前でスースーと寝音を立てているベジの髪の毛を無意識のうちに撫でる僕。
「おやぁ?」
不意にソウが肩を掴み顔を覗き込んでくる。
「おやおやおや、タグくんはベジのことが?」
……セレナもそうなのだが僕ってそんなにもわかりやすいだろうか。
慌ててその手をベジから遠ざけた僕は
「変な勘ぐりはやめくれ。」
と一言言う。
「ふ〜ん、なるほどねえ」
そうにやけていうソウ。
ただにやけているというよりはそこに揶揄いやらなんやらの感情が沢山詰まっているのが目に見えて段々と腹が立ってくる。
「まあ、うちのベジはいい子だよ。俺のギャグセンスは理解してくれていなかったけどさ。すごい優しいやつだから」
「まあ、あなたのギャグセンスは誰にも理解できないでしょうね」
「それどういう意味なんだどう」
「あー、ほんっと意味わかんない。」
「あ、そういやな」
ラナと喋っていたかと思えば今度はこちらをパッと振り返るソウ。
「ベジ小さい頃からこんな感じでずーっと寝ててさ。ある非番の日なんか六度寝してたんだぞ。ほんと眠るの大好きだよな。そんで、そのまた違う日には羊の群れん中で寝てて姿が全然見当たらなくて、夜中になるまで家族みんなで捜索したんだよ。見つけたのは俺だったんだけど、羊の群れん中で寝てるベジがあまりにもベジベジしくてそのままにしといてやりたかったけど、ベジの母ちゃんが気付いてさ、そのあとベジは夜通し説教されたんだぜ」
なんていってケタケタと本当に楽しそう笑うタグ。
僕の知らないベジの話が聞けて嬉しい。
けれど、なんでだろう。なんだかモヤモヤする。
嫉妬……してるのか?僕は。
認めたくないけどきっとそうなんだろうな。
そう考えている合間もずっとベジの話をしているソウ。
善意からなんだろうけどこっちからしたら傍迷惑だ。
「んで、そのスタルイトを家へ持って帰った時にさ」
「そういえば二人はなんで一緒にいるんだ?」
思わずソウが話している途中で口を挟んでしまった。
あからさまにベジの話をしないで欲しいというのを口にだすのも変だしそれにこれは僕自身ずっと疑問に思っていたことなのだ。
するとソウはキョトンとした顔で
「二人?誰と誰のこと?」
という。
「ソウとラナのこと。二人は全然違うじゃん」
少しムッとしてしまいながらもそういうとソウはポンと手を打つ。
「そうか納得したそう」
「…………」
セレナの髪の毛を優しく撫でながらソウに冷ややかな目線を送るラナ。
しかしソウはそんなこと一切気にしていないようで明るく
「それがさ、俺、魔王の一族の者でな。ちょうど18になる直前の時、つまりは狭間の時に俺は外に出たんだけど、ああ、これはベジも同じな。んで、そん時にちょうどこいつと出会って、つうか待ち伏せされてて、泣きつかれたーってわけさ」
へへん、と自慢げにそういうソウだけど……
「ごめん、ソウ。僕、もう、君が魔王の一族の者だって知ってるよ。あと大人と子供の狭間の時にしか呪われた楔からは逃れられないってことも……」
躊躇いつつもハッキリとそういうとソウはあんぐりと口を開ける。
ソウはいつもほんとにリアクションがオーバーだと思う。
けど、そういうパッパッと移り変わる表情は見ていて面白い。
やがてむくれ顔になったソウは
「なんだよー。つまんねえー」
という。
けどそうかと思えば今度はパーっと晴れやがな笑顔を浮かべる。
「でも魔王の一族ってすごくね?かっこよくね?憧れね?」
「う、うん、そうだね」
あまりにソウが迫ってくるので若干ひきながらそういうと、改めて姿勢を正し、
「それにしても出た瞬間に待ち伏せしてて泣きつかれたってどういうことなんだ?」
とたずねる僕。
「ん?それがな、なんかベジから俺の話を聞いてたらしくて、セレナを夢中にさせたいのーだかなんだかっていって俺にすがりついてきたんだよ。なんでも、セレナの主人であるベジの従兄弟である俺と契約すれば少しでもセレナの気を引けるとかなんとかって理由で」
そういわれて妙に納得がいく。
確かにラナならそんな突飛な理由から突発的な行動をとりかねない。
そういえば、その本人は随分と静かだな。
自分のことを話されているのに気にならないのか?
なんて思ってチラリとラナを見やると優しい頬笑みを浮かべながらセレナの寝顔を見つめていた。
どうやらもう己の世界にはいってしまっていて、こちらの言葉など一言も聞こえていないようだ。
「そういえば彼女、里で会った時とは全然違うな」
不意に漏れるそんなつぶやきにソウは不思議そうに首をかしげる。
「?どういうことだ?」
「彼女、里では本当にイカれててとても言葉が通じるような雰囲気じゃなかったんだ。なのに今は」
「正気、ってことか?」
「うん」
「なるほどなあ。確かにあいつ、里にいる時も大戦の予言ーーつうか、もう起きちまったんだから大戦の記録が記された石碑の近くでしか正気にならないとかなんとかいってたな」
「そうなのか?その石碑って、資格がある者に力を授けるっていうあれか?」
思わず身を乗り出してそう問う。
というのも、ベジはその石碑に記された資格がある者としてあの大剣を授けられたから。
そしてこの間セレナに解読してもらった古文書にも、光と闇の大戦云々とかかれていた。
ソウのいう大戦が記された石碑とベジが力を授けられた石碑は同じものなのだろうか。
あの時は色々と忙しくてよく確認できなかったけれど……。
何かがひっかかる。
「資格のある者に力を授ける……ってあれか、魔王の血族に力やるよーってやつな」
そう納得すると考えこむように腕を組んで
「確か石碑には表と裏があって、表面か裏面かにその魔王の血族に力を授ける云々がかかれてて、もう片方に光と闇の大戦の記録が記されているんじゃないか?」
「……」
「?どうかしたか、タグ坊」
「なっ!その呼び方はやめくれ。これでも君の何十倍もの年数を生きてるんだからね。あと、……君は……すごいね、ソウ」
「ん?なんだよ、タグ坊〜。そんな褒められたら照れんじゃんよお」
そういってベタベタとひっついてくるソウをひどくうっとおしく思いながらも
「……博識なのが君の唯一の取り柄なんじゃない」
という僕。ふざけた感じで言おうとしたのに実際はひどく冷たい刺々しい言葉になってしまう。なのにソウは全然気にした風もなくニカーッと笑ってみせる。
「ほんと、そうだよな。俺、本読むことくらいしかやることなかったしさー」
そういうソウの言葉にハッとする。
「ごめん、なんか僕、失礼だったよね」
そうだ。ソウとベジは生まれながらに囚われていたんだ。
魔王の血をひくがゆえにーー。
そしてエルフを中心とする光側の陰謀によってーー。
「そんなことねえよ。逆に変に気を使われるほうが疲れるし。……そろそろあれだな」
そういうとスッと立ち上がるソウ。
「?どうかしたのか?」
「んー、まあな、俺らは世界中回ってるヒーローなもんでね。次の行き先があるのさ」
そういうソウの言葉はイマイチ理解できない。
「今回もベルサノンのときもベジたちが危機に陥ってるってラナがいったから駆けつけたんだ。だからさ、まあ、なんていうかまた会えるさ」
そういうと少し照れ臭そうに頭をかくソウ。
変なところで照れるんだな。なんて思いながらも「ああ」といって頷く僕。
「じゃあ、ベジは頼んだ」
常に笑みを浮かべているソウがそういう時だけは真剣な表情でそういう。
だから僕もソウと同じような表情で
「もちろん」
と答えた。
それからソウは嫌がるラナをセレナから引き剥がし、そしてじゅうたんに乗ってどこかに飛んでいってしまった。
二人が何をしているのかはよくわからないけれど、本当にヒーローって感じだよなあ、なんて呑気に思いながら二人の背中を見つめていた。




