紅の玉の記憶
「さて、と、じゃあ、次は妖精の王国ノーチルターンへひとっ飛びだ」
「ひとっ飛び?一体なにで飛んでいくというの?」
「これだよ、これ。魔法のじゅうたんも知らないのか?ほんと世間知らずな姫さんだなあ」
「な、なによ!そんなもの知らなくたって困らなかったんだもの」
「……だろうねえ」
「なによ、その目!全く、この男は!!」
そんな風に騒がしく、でもとても楽しそうに会話する人間の男の人と、エルフの女の人をぼんやりと見つめながら、
あれ?これって前にも見た……と思う私。
そうだ。以前玉をはめて寝込んだ時見た夢。
男の人がエルフの王宮に来て企みを止めるために協力しくれーみたくお願いしてそれでお姫さまと狩猟で対決をして……結局エルフのお姫様が男の人の旅に同行することになったんだっけ。
これはその続きってことかな?
……でも、だとするとこれは夢の中?
私、眠る前は確かーー。
そうだ、女王様がすごく怒っていて妖精さんたちが次々と襲いかかってきて……。
そんな最中、セレナが紅の玉を剣にはめるようにいったから。だから、それでーー。
「妖精にも同じようなことを頼むの?」
「あたり前だろ。これは世界の、世界中の問題なんだから」
「……そう」
「どうしかたか?」
「いいえ。あなたって本当に平等な人なのだと思って」
「平等?そうか?」
「そうよ。今も昔も世界には差別が溢れているわ。一人一人が違えば種族も違う。だというのにその違いが気に入らずにいじめたりする……。とくに最近の若者なんてひどいものよ。預言に書かれている闇と光の大戦を模して、ドワーフや悪魔たちを闇側と蔑んだりしている。」
「城にこもりっきりのお姫さまにしては色々と詳しいんだな」
「バカにしないで。私、これでも市民派の人間だから。色々と文献をあさったり城下をお忍びでたずねたりしているの。父上や母上には……絶対に言えないけれど……」
「はは。違いないな」
「……なんだか腹の立つ男ね、あなたって」
「どうしたんだよ、急に。出会った頃は目ん玉キラキラさせて俺のこと見てたってのに」
「なっ。別にそんなつもりはないもの!それよりはやく行くわよ!」
そんな風に会話する二人はやはり仲良しさんのように思う。
それにしても二人の会話の中にはちょこちょこと首をかしげるような単語がでてくるんだけれど、私が考えたところで何もわかりそうにない。
ここにいるのがタグやセレナならきっとなにか違っただろうに。
そんなことを思っているうちに視界がぼんやりとしてくる。
新しく見えてきたその場所は見覚えのある妖精の国ノーチルターンの姿。
今となんら変わらないその姿にはなんだか安心感のようなものすら覚える。
「ここが妖精の……」
「なんかすごいな。あの木の穴の中ってどうなってんだろう」
「さあ……。でも理論的に行けば妖精たちはあの中に住んでいるんじゃないかしら。だってあの形状からして……って、何よその呆れた目は」
「いやぁ、お姫様は本当にお話が長いなあと思ってさ」
悪びれもなくそういう男の人に女の人がプクーッと膨れたその時だった。
「一体ここに何の用?」
妖精の集団が男の人と女の人の目の前にサーッと音もなくやってくる。
そういえばこの男の人、歴とした男の人なのに何故妖精たちに攫われたりしていないんだろう。
「大事な話があってな。女王様とお会いしたい」
そんな言葉の直後妖精たちはてんでばらばらなことを、ワーワーキャーキャーと喋り出す。
時節聴こえてくる言葉や声のトーンを聞くかぎり怒っているようだ。
「あなたのようなイケメンじゃない方は入国お断りです!それどころか女は絶対入国禁止です!!」
その妖精たちの先頭にいる妖精がむすっとしてそういう。
すると後ろからはいくつもの賛同しているような声が聞こえてくる。
「なっ。そんなのひどいわ。差別よ。それに彼、確かにイケメンじゃないけれど、中身はとってもいい人なのよ。外見だけで人を判断するなんておかしいわ」
「おいおいお姫様。そりゃ褒めてんのか、けなしてんのか」
「あら。せっかく弁護してあげたのだから文句はいわないことよ。それからあなた方」
そういうと改めて妖精たちのほうを向き、そちらをビシッと指さすその人。
「私はあなた方が敬愛してやまなかったという、かのニコ・オデュッセラインの娘です」
「あの伝説の至高のイケメンの?!」
「嘘でしょお!?」
次々にささやかれる言葉。
男の人は女の人にだけ聞こえるような囁き声で
「おい、お姫様さんの父上ってあのじいさんのことだろう?あれが至高のイケメンなのか?」
「違うわ。ニコ様は私の祖母の初恋の人なの。そして妖精界では一番有名なひとなのよ?至高のイケメンとして、ね」
「じゃあ、お姫さんは本当にニコの娘ってわけじゃないんだな?」
「ええ、一切血は通っていないわ。けれどこう言うのが一番手っ取り早いじゃない。少し心苦しいけれど。時には嘘も必要よ」
女の人がそういった矢先、先頭の妖精さんが
「けれど、彼は輝くような金髪だったわ。なのに、なのにあなたは銀髪。それはおかしいわ。」
という。
すると女の人は何も臆することなく柔らかな笑みを浮かべてみせる。
「ええ。魔法でこの色にされたのよ。ほら、あなた方も知っているでしょう?かの災厄、セレナ・ミス・デ・ビルのことは」
唐突に知っている名がでて驚く私。
妖精たちも先ほどにも増して騒がしくなる。
「彼女はあなた方もご存知であるようにニコ・オデュッセラインのことを大変好いていました」
「ええ、そうよ。あの女はあの方を自分一人のものにしようとしたのよ!」
「ええ。そう。その通りです。そのことを知っているのなら話ははやいですね。彼女は彼の娘である私を忌み、髪色を……このように」
と途中から泣き出す女の人には開いた口が塞がらない。
だって、あれ、全てが嘘なんでしょ?
それってあんまりだ。
セレナのことをそんな風にいうなんて。
「……わかったわ。あなたを通す」
「でも、いいのですか?!」
「あの悪魔に呪われたというのが本当ならこれほど痛ましいことはないからね」
その言葉にみんなが納得する。
女の人も男の人にニコリと笑みを向ける。
けれど私とーー男の人だけは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「何をそんなに怒っているの?」
また場面が変わって今度は闘技場の中にいる二人。
「あんな嘘をついたこと、だよ」
「仕方ないでしょう?これ以外に方法はなかったのよ。嘘をつくかそれかそんなこと不可能だろうけれどイケメンに変身するしかなかった。それなら嘘をついた方が良いにきまっているじゃない」
「……ああ、そうだな」
男の人はもう諦めたようだった。
確かにそうしなきゃ入らなかっただろう。そうは思いつつも騙していることがモヤモヤする。
そんな、男の人の、事細やかな感情が伝わってくる。
まるで男の人とリンクしているような不思議な感覚が体を支配する。
けれどそれも一瞬のこと。
すぐになくなる。
視界が揺れて、気づけば女王の姿があった。
よく見てみれば闘技場の席には沢山の妖精がいてあの時みたいにみんなが同じ言葉を口にしている。
「あなた方?大事な用があるという客人は」
女王様の姿は相変わらず圧巻で見上げるほどのその姿に女の人はひどく戸惑っている。
それに対し男の人はいつも通りの様子だ。
「はい。実は世界に危機が迫っているのです」
そこでまた視界がぼやけ少しするとその暫く後、と思われる場面が映し出される。
「にわかには信じ難い話ね。けれど、いいわ。私たちに何ができるかはわからないけれど力を貸してあげることとしましょう。」
「ありがたきお言葉、心より感謝いたします。あなた方にはただ、その者がやってきて何事かを口にしても何も信じないでほしいのです。そしてやつの企みの手中におさまらぬよう充分お気をつけて」
「わかりました。そうだわ。この子を連れてお行きなさい」
そういって女王が指さしたのは端っこの方で縮こまっている妖精さん。
「この子はなかなか他人に心を開かないから私たちも困っているの。あなた方と旅に出れば少しはなにか変わると思うわ。いいかしら?」
そんな言葉に男の人は大きく頷きニカーッとした笑顔をみせる。
「もちろんです!」
その直後あたりをザワザワした空気が漂う。
「あれ?彼って意外とイケメン?」
「ちょっとタイプかも」
なんて言葉の数々。
「ちょっ、ちょっと、待って!」
それを受けて女の人は怒っているように顔を赤くして
「彼、一ヶ月は下着を変えないし、衣服を洗う習慣もないのよ?歯にはよく食べ物がこびりついているしそれに」
「おい、なにいってんだ、姫」
あたりの空気は先ほど少しでも上がった熱も一気にさがりとても冷たいものへと変化する。
「だって、本当のことだもの」
そういうとツンとした様子でそっぽを向きそのまま妖精の元へ行く女の人。
「さあ、私たちと一緒に行きましょ」
「うぅ……」
怯えて女の人に近寄ろうともしないその妖精さんを見かねて男の人がそばへやってくる。
「あとで覚えてろよー」
そういって軽く女の人の頭をこづくと妖精に顔を寄せ
「ほら、行こうぜ。世界には俺たちがまだ見たこともない、感じたこともないようなすんげえもんがたくさんある」
「……イケメンも?」
怯えたようにそういうその子に男の人はニカリと笑う。
「当たり前だろ。沢山いるぞ。それこそ山のようにいるだろうさ」
「……あたし、行く!」
キラキラした瞳でそう叫ぶ妖精さん。
そこで視界はぼやけあとはなにもなくなる。
ただ白い空間に浮かびながら、繋がっているこの夢の正体は一体なんなのだろう。
そう、考えていた。




