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クロスロード  作者: 睦月心雫
第6章 妖精の王国 ノーチルターン
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番外編 生き抜くこと

「みんな……いなくなっちゃったね」

「……そうね」


エルフの王国ベルサノン。

そこの中庭の一角にはかつて世界を救ったエルフの姫の仲間ご一行の墓兼記念石碑が立てられている。


私はたまにここに来ては悪魔の里の近くの花畑で摘んできた花を献花しているんだけれど……。


「『みんな、いなくなっちゃったね』なんてあんたらしくない発言ね。ババアになっていよいよババアらしくなったんじゃない」

「な!ババアババア言わないでよね〜。まだまだピチピチの1500歳ですう」

「どこがピチピチなのよ。家来の蓮中も大変ね。こんなうるさいババアの世話させられて」

「だから、ババアじゃないってばあ!」


私はかつて共に旅した仲間のそいつーーシャーロット(一応エルフの姫で私たち仲間を牽引していたリーダー)のほうへ体は向きながらも目はまっすぐそちらに向けられずに言葉を紡ぐ。


私は何人も仲間が亡くなるにつれてそのことに慣れてきたように感じていたのに慣れるどころかどんどん怖くなって、いよいよ老いた姿を見るのも怖くなってきたみたいだった。


……ほんのちょっと前まではピンピンして一緒に世界を救うような大冒険をしたりくだらないことで大喧嘩したりしてたのに、今じゃすっかりものごしの柔らかいしわくちゃの、今にも死んでしまいそうな婆さんがそこにいるのだ。


そりゃ、怖くだってなる。


だいたいエルフが長生きな種族ったって寿命がない悪魔とはやはり訳が違うから時間の感覚が全く異なるのだ。


みんなにとっての長い長い一生が、私にとっては一瞬だと気付いた時には心からゾッとしたものだ。


「ねえ、セレナぁ、一緒にお菓子食べない?」


声は多少しわがれたけど言ってることは大体変わらない。


「いいけど。あんたが菓子を喉に詰まらせても助けないからね」

「もお!ほんと、セレナっていちいち一言多いよね!」

「あらあら、それはお褒めにあずかりありがとうございます、女王陛下。」


クスクス笑いながらそう言って、今日初めてそいつの姿を真っ向から見る。


昨日よりも老いた気がするのは、きっと私がそいつに迫る死の気配を感じて恐れているからに違いない。





「じゃっじゃーんじゃがじゃーんじゃんじゃかじゃんじゃんじゃーん!」

「うるさい」

「ちょっとまだ効果音終わってないよ、ってこら!話し終える前に食べるなあ!」


シャーロットが手を広げた先に並ぶお菓子たちの一つ、星型の小さなクッキーを手に取りモグモグと頬張る私。


「ほんとにうるさいやつねえ。お菓子くらい静かに食べさせなさいっての」

「もー、セレナはいつもそうやって。まあいいや。座ろ、座ろ」

そういって椅子を引こうとするシャーロットだけどしわくちゃの手にうまく力が入らないようで悪戦苦闘している。


「ほら」

「わあ!ありがとうセレナ!たまにはいいところもあるね☆」

「丸焼きと氷漬けだったらどちらがお好みかしら?」

「あ、いえ、なんでもないです」

そんなことをいいながらなんとか椅子に座ったシャーロットを見て小さく溜息をつく私。


老いって怖いわよね。


体もうまく動かなくなるんでしょう。

私はなったことも、なる予定もないから到底わからない感覚。だから余計に怖い。


けど史上最悪の悪魔の恐れるものが老いだなんて小っ恥ずかしいから絶対口にはださない。


「うん、美味し。ほら、セレナもじゃんじゃかじゃんじゃん食べてよ」

「……同じネタをいつまでも引っ張るところがうっとおしい」

「あはは。言えてる」

なんていいながらお菓子を何口か食べて紅茶をすすり目を細めて中庭の方を見やるシャーロット。


昔はここにあるお菓子全部食べ尽くす勢いでバカ食いしてたのに今じゃ何口かでおしまい。


なんだか一つ一つのことがひどく辛く感じられてくる。


「私セレナに沢山嫌がらせされたよね〜」

「なによ、今さら」

「あそこの道を歩いてる時上から水かけられたし、綺麗なドレスに着替えて城から出たはずなのにセレナの魔法ですっごくダサいパジャマに変わってたり」

「執念深いこと。よく覚えてるわね」

そういうと足を組んで目の前に置かれていた紅茶を手に取り口にする。


ここの城でだされる紅茶の味も前から随分と変わったものだ。


そのうち私が今見てるものは何もかも変わってしまうんだろう。


「だってそりゃ、忘れるわけないよ。それにそれ以外にももう数え切れないくらいに嫌がらせされたし」

「そうねえ……。私は全く覚えてないけど」

「ちょっ!ひどくない?!」

そんなやりとりの後しばらく穏やかな沈黙が続く。


私は新しい少し深みのある味わいの紅茶をゆっくりと飲み干しながらずっと中庭の方を見てた。


特にさっき献花したばかりの、仲間たちの死を讃える石碑を。

思えば死を讃える、なんて変な話だけど。


いずれはこいつもーー。

そう考えだしては慌ててその考えを払拭しようとするのになかなかそれは頭から離れない。


それはきっと今にもぶっ倒れそうなこいつが目の前にいるから。


「ねえ、セレナ」

シャーロットがどこが諭すような優しい声音で語り出す。


「なによ、ババア」

「だからババアじゃない!もう……ほんとセレナは」

そう呆れてから一つ間を空けるとハッキリと

「私もいずれは死ぬ」

そう口にするシャーロット。


その言葉にハッとしてそちらを見やると、強いエメラルド色の瞳がまっすぐこちらを見つめていた。


「そうね。そんなボロ雑巾みたいな体引きずり回してるんだものね」


本当にいいたいことは別にあるのに口からでるのはそんな言葉ばかり。


「ほんと。あの時に比べて随分と老いたよねえ」


だってのにこいつはさして気にした風もなく笑顔を浮かべる。


ほんと、これだから。


「それでね、私、考えたんだ」


シャーロットは何かを誤魔化すことが一切ない。

いつだってまっすぐな言葉しか言わない。

だから、なんとなくその後に続く言葉は予想できていた。


「そしたらセレナは一人になっちゃう。私、ずっと考えてたの。仲間や知り合いや家族が誰一人いない世界に自分だけがいるのを。そんなの私にはとても耐えられそうになかった。きっといつだって胸に悲しみを抱いて生きていかなきゃならない。私、そんな辛い状況にセレナをおきたくない。」

「…………だからあんたはずっと、寿命超えても体に鞭打って延命療法までやってボロ雑巾さながらに生きながらえてるってわけ」

「なっ!それは……」

「そんな同情いらないわよ」

「違う!同情なんかじゃない!私はただセレナと」

「それで一人にならないように一緒に死のうとでも言おうとしたんでしょ」

「……それは」

「残念だけど、お断りよ」


あいにく私はお綺麗な心なんてもってないから。いつだってひねくれて相手の言葉をそのまま素直に受け止めることなんてできやしないのだ。


私も多少は考えた。

シャーロットが死んだら自分はどうするか。

そういう選択肢もありだと思った。

今は狂いまくってる家族で幼なじみのラナも私と同じくらいに生きながらえてるし互いに互いが弱点だし適当にいいくるめてどうにかこの世からおさらばする選択をしようかな、なんて。



でも今シャーロットが同じようなことを言おうとしたからやーめた。

天邪鬼だとか捻くれてるとかいいたい奴がいれば勝手に言えばいいんだ。



「私は生きて生きて生きぬく。それこそ未来永劫ね」


「未来……永劫なんて……」


シャーロットが呆然とした様子でフルフルと首を振る。

やがてエメラルド色の瞳に溜まった雫たちがホロホロとこぼれた。


「ごめん、セレナ……!」


私が一度いいだしたら聞かないこと。

人が言ったことの真逆の行動をとること。

それらを言わずと知れた仲間であるシャーロットはただ自分が選んだ言葉を悔やむように何度もごめんとつぶやいた。


だから私はいい加減イライラしてきて

「いいのよ、別に!これは私が私自身の意思で決めたこと!それ以上勝手にうじうじしてたらあんたのことをウジ虫に変えて踏み潰してやるかね!」


その言葉を聞いて大きく瞳を見開いたシャーロットだけどやがていつもの調子で

「理不尽……」

とつぶやく。


「そうね。ま、今回だけは謝ってあげるわ。ごめんねえ、シャーロットちゃん」


わざとらしくそういうとシャーロットは目に見えてプクーッと膨れてみせる。

その様がなんだか若い頃のシャーロットにぴったりと重なって、当然のことなのに驚く私。


なんだ、消えたわけじゃないんだ。


私が今見てるもの、いずれは見えなくなるかもだけど消えるわけじゃないんだ。

当たり前のようでずっと気がつけなかったそのことに、気づけた私はなんだかもう無敵な気分だ。

なーんてバカみたいなこと言葉にしては絶対言わないけど。



それから私とシャーロットはいつもの調子で何時間もしゃべり続けた。



それから数日後。

城へ行くと家来の一人がいそいそと私のもとへやってきた。


「シャーロット様がその……昨夜お亡くなりに……」

いいづらそうに紡がれたその言葉に私は「そう」と短く返事をする。


「最期は……どうだったの」

「それはもう、とても穏やかで、微笑まれながら眠りにつかれたとか」


その言葉を聞くと私は自分でもよくわかるくらいに満足気な笑みを浮かべる。


「そう」

そういうと私はスタスタと中庭へ向かった。


記念石碑に新しく刻まれたシャーロットの文字と、石碑まえに置かれた沢山のクロッカスの花(シャーロットが大好きだった花)。

私はそれらを見やってフッと微笑んで見せた。


「ありがと」


ポツリとそう呟いた時、暖かな風が私の髪をフサリと揺らした。


シャーロットの魂かしら。なんて考え方、明らかにあいつに毒されすぎてるわね。やめた、やめた。


そう思うと私は、しばらく外の世界にでるのも嫌だしラナにストーカーされ続けるのも嫌だしで隠居暮らしをはじめることにした。




だから私は、エルフの王権が銀から金へと移り変わり大好きだったあいつらの記念碑が跡形もなく壊されたことなんて知る由もなかった。

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