恐怖
「…………っ!」
ふと目を覚ますと頭がグラングランして、身体中に鳥肌がたっている。
その上メガネがなくて周りの様子を思うように確認することすらできない。
ぼやけた視界の中でなんとか状況を確認しようとする。
……自慢じゃないが僕の視力は相当に悪い。
メガネをかけていなければすべてのものがぼやけて見えて、それがものか生き物かすら判断できない。
おかげで状況判断なんてできないどころか不安からくるイライラが増すだけだった。
腕と足には縄かなにかが巻かれているようで動けないし。
口元にも布かなにかが押し当てられているから声をあげて僕がおかれているこの状況についてたずねるわけにもいかない。
なんなんだよ、これ
そう思った瞬間眠る直前の記憶がフラッシュバックしてくる。
そうだ。僕は妖精たちに群がられてそして……。
虫を連想させるあのゾッとする、羽音が無数に重なる音がまざまざと思い出され思わず身震いする僕。
じゃあ、ここはなんだ?僕は妖精に捕まったっていうのか?
そんな……なんでセレナじゃなく僕なんだよ
なんて思っていたらあの聞き覚えのある超高音が聞こえてきた。
「わあ!起きてる、起きてる!ちょっちやっぱイケメン!」
「サラサラの金髪に幼いながらも鋭いスカイブルーの瞳、素敵すぎるう」
なんとか聴き取れた言葉はそんなもの。
なんのことだ?意味がわからない
よくわからないままに懸命にこちらに近づいてくるモヤモヤたちをにらみつける。
この場合、どうせ妖精だろうけど。
「やだ♡こっち睨みつけてるよお。可愛すぎ」
「ほんとだあ。超かわいい」
そんな声の数々にゾッとしてこれ以上ないくらいに鳥肌がたってくる。よく、眉間にしわをいれつづけてるととれなくなるなんていうけど、この調子じゃあ、僕は一生鳥肌男として生きていくことになりそうだ。
なにせ妖精に捕まってから今の今まで一度も鳥肌が落ち着いたことがないんだから……。
「お前たち一体僕をどうするつもりだ?!」
怒っていったのにその声はひどく弱々しいものになる。
心の奥では怖くて仕方ないみたいだ。
「あら、そんな怯えなくても大丈夫よ」
他の声とは少し一線を画すすごい高音でそういうその人に、ほかの妖精たちの雰囲気が明らかに変わる。
その人のためにスッと道をあけたようで、目の前にあった沢山のモヤモヤは端ににうつる。
そして、なんとか姿を確認できるくらい近くに鼻先数センチにやってくるその人。
「やっぱり可愛いわね。」
そういって小さな小さな手で僕の頬に触れる。
僕はこんな風に手足を縛られ捕まってる上抵抗もなにもできずに頬に触れられることになんだかひどく腹が立ってきてイライラしてきてより、その人をにらみつける。
けれどその人は一切臆しない。
それどころか逆にその人がイライラしだしたようだ。
「……だというのにエルロン組の奴ら、インテリ系だなんて馬鹿なこといって。ほんと信じられないわ。」
そう吐き捨てるようにいうと周囲の妖精の方を向き、
「メガネはちゃんと捨てといたかしら?」
という。
「もちろんです!」
「は、はあ?!ふざけるな!なんで勝手に捨ててるんだよ!」
それを聞いてハッキリとした怒声をあげる僕。
僕はあれがないと本当になにも見えないのに。
「あらら。怒っちゃって可愛い」
「…………」
こっちは本気で怒っているというのに可愛いなどと侮辱にも程がある。先程からずっとそうだ。
僕はあまりの怒りでなにも口にできなくなった。
「チ、チルノ様っ!」
そんな時、ひどく慌てた声が聞こえてきて、僕に触れたリーダーらしき人ーーチルノーーはそちらを振り返る。
「どうしたというの。今大事な時だと見てわからないのかしら」
イライラとした口調で紡がれるその言葉に臆することもなくその人は言葉を続けていく。
「イフィリンとナガサの組に新しいコが来たみたいです!大変なんですよ、ほんと!」
「はあ……。なにが大変だというの。新しいコが来るのなんてそう珍しいことではないでしょう。」
呆れた調子でそういうチルノに
「違うんです!今回のコはなんか別物っていうかで」
と返すその人。
「ああ、もう意味がわからないわ。第一、あなたはこの組に属しているというのにほかの組のコに傾倒しているというの?もし本当にそうなのだとすればそれは条約違反に値するわよ。」
最終的に静かな怒声を向けられたその人だがそれでも一切気にした様子はない。
「いいから来てください〜」
「ああ、もう」
そういいつつ、仕方なく腰をあげるその人。
なにが起こっているのかはよく分からないがこれでぼくは奇妙な頬撫でから解放される。
ホッとしてチルノのという人の背を見つめる。
けれどそんな安堵した気持ちも一瞬で終わる。
「ああ、もう我慢できないよお〜!」
「ほんと、ほんと!私も撫で撫でしたい〜っ!」
そんなキンキン声と共に飛びついて来る妖精たち。
「や、やめろおおおおおっ!」
そんな叫びなんてもろともせずに僕の体に張り付き撫で回す妖精たち。
僕はまたも、意識を手放した……。
想像もしたことがないくらい鳥肌がたって、自己防衛的に意識を手放してから暫くたった頃。
周囲の様子が明らかに変わったことを察知しゆっくりと瞳を開く。
目の前には整然と並ぶ妖精たちの姿があり、
そして遠くからは気絶しても忘れはしない、チルノの声が響いて来る。
「皆んな落ち着いて聞いて……」
珍しく動揺したような声でそういうとひとつ間を置いてから
「先程女王がお見えになり、数十年ぶりの決闘を開くことをお決めになりました。参加するのは我が組とイフィリンとナガサの組です。」
という。
それから暫く身が痛くなるような長い沈黙が流れる。
妖精たちが一体どんな感情でいるのかが伝わってこなくてなんだか怖い。
しかしそれから暫くして
「きゃああああ!!」という耳をつんざくような声が辺りを満たす。
しかもその声が何百と重なっているように聞こえる。この場にそれぐらいの数の妖精がいるのか反響しているのかはわからない。
とりあえず僕はなんとか、意識を保つ。
妖精たちは悲鳴を上げた後はこれまた耳が痛くなるようなキンキン声でそれぞれ別々のことを一斉に喋りだす。
「決闘に見合うようなコが現れたのは本当に久しぶりよね。百年は経ってそうだわ」
そんなチルノの言葉に妖精たちはまた一斉に何かを喋りだす。声のトーンからして賛同しているように聞こえるが本当のところはよくわからない。
だって妖精たちは怒っていようが喜んでいようがおんなじ高音で喋るからだ。
「それじゃあ、決闘に勝つためにもササッと洗脳してしまいましょうか」
そういうチルノに一瞬頭が真っ白になる。
…………今、聞き間違いでなければ洗脳って言ったのか?……。
そう思っているうちにチルノはすぐそこにまで迫っていた。
「さあ、坊や、楽になりましょう」
そういってその人が僕に触れたその瞬間。
体中に電流のようなものが流れて段々と視界が揺らいでいく。
なんだよ、これ。
一体なにを……。
そんなことを思いながら僕はまた、自らの意識を手放したーー。




