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クロスロード  作者: 睦月心雫
第6章 妖精の王国 ノーチルターン
54/119

妖精

「…………!」


「うわあっ!」


唐突にパッチリと目を見開くベジとそれに驚いて悲鳴をあげる僕。

そんな滑稽な僕の様子を見て嘲笑をうかべたセレナが

「やっとお目覚めのようね。朝ごはん食べたらさっそくノーチルターンに出発よ」

という。


「ええと……ノーチルターン?」


寝惚け眼といった様子でそう復唱するベジにセレナはニィッと口の端をあげてみせて

「ええ。妖精やら精霊やらが住む国ののことよ。紅の玉はそこにある。そしてここからだとそこが一番近いのよ」

という。


「うんうん」

そう答えるベジだけどはやりまだ寝ぼけた感じで目がトロンとしている。


「セレナ、ベジはまだ寝起きなんだからあとで言えばいいじゃないか」


ぼくがなだめるようにそういうとセレナはそれもそうねというように小さくため息をついて指をパチンッと鳴らす。


出てきたのはベーコンエッグの乗った星形のパン。


「いつも思うんだがこのパンの形、色々と食べづらいんだよなあ」


そう小さくぼやいた瞬間ぼくの前に置かれたパンが10角形に変化する。


「こういうの、好きなんでしょ。特別に角を増やしといたわよ」

そういってフフンと笑うセレナを睨みながら10角形に変化したパンを持ち上げる。


上にはプルプルと震える卵。その下には今にもこぼれ落ちそうな肉厚のベーコン。これをどう食せと。


「あら、珍しくお腹が空いてないみたいね、ベジ。お望みならばタグと同じ形にしてあげてもいいけど」


「いや、やめろよ!」


すかさず突っ込みをいれる僕。

ニヤニヤした笑みを浮かべるセレナ。

そんな僕らを前に一向に口を開かないベジ。


心配になって顔を覗き込むとボーッとしている表情でどこか空を見つめている。


「ベジ!」


「わっ!」


間近で名前が呼ばれたことに驚いたのかベジが唐突に顔を上げ、ぼくのおでことベジのおでこが思い切りぶつかる。


「いっ……」

そういって頭をおさえこむ僕とは対照的に

「ごめんね、タグ、大丈夫?」

などと、人の心配をしているベジ。


こんなところまでなんだか情けない。

そう思いながらも「大丈夫だよ」と答える。


「それにしても、どうしたの?ベジが朝食に真っ先に手を出さないなんて珍しいよね」


頭はまだズキズキとするものの、ベジは平然としている。

僕だって男だ。これくらい平気だ。そう思い込んで痛みのことは忘れようとする。


「あはは……そうかなぁ。実は眠っている間ずっと不思議な夢を見ていたの。そのことが気になって……」


「夢ねえ……」

そういうセレナは今にも夢なんて非現実的なもの気にするだけ無駄だといいそうだ。


なのに次の瞬間セレナの口から出てきたのは

「夢ってのは目には見えない何かを暗示していたりするのよ」

なんて言葉だ。


驚く僕をよそに「そっかあ」とにこやかな笑みを浮かべるベジ。


結局のところ一番非現実的なものを嫌ってるのは僕ってことか……。なんてポツリと思いながら10角形のそれを頬張る僕。



え?そのあとそれをうまく食べられたかって?

無論綺麗に食べきったさ、と断言したいところだけど残念ながら途中でベーコンと卵が雪崩をおこしたよ……。


まあ、その後起こった惨事は大体想像つくよね。








「ノーチルターンってどんな国なの?」


「そうねえ。いうなれば騒音大国ね」


「どういうことだよ……」


そんなことを話している僕たちは今、朝食を食べ終えじゅうたんに乗り込みさっそく次の玉を探しにノーチルターンへ向かっているところだ。


「妖精どものけたたましい喋り声に何分と耐えられないと思うわよ。とくにあんたとかあんたとかあんたとか」

そういって僕の方にあからさまに視線をよこすセレナ。


ぼくはムスッとして

「別に。僕だって多少は我慢できる。それに妖精ってそんなにうるさいものなのか?僕が文献でみた妖精やピクシーは皆んな綺麗で幻想的な生き物にみえたけど」

という。


するとセレナはあからさまに呆れた仕草をして見せて

「甘いわねえ。そんな文献ごときの知識で実際の生き物のことが測れるわけがないじゃないの。」

という。


「そうなんだあ」


セレナの言葉に妙に納得したように頷くベジ。

僕はなんだか虫の居所が悪くてムスーッとしたまま二人に背を向ける。



それからしばらくした時だった。

はるか遠くに肉眼では確認しづらいぐらいの小さな点が20個ほどあるのを発見する。

しかもそれは徐々にこちらへ近づいてきている。

近づいてきてもやはり小さいそれは何なのかはっきりと確認することはできないけれど。



「セレナ、あれは何なんだ?」


最初は意地を張ってセレナには聞くまいと思っていた。

しかしそれが徐々にこちらへ近づいてくることで恐怖心に負けてしまう。


「は?何のことよ」

そういって藪から棒に振り返ったセレナはぼくが指差す先を見て一瞬大きく目を見開く。

しかしやがて心底意地の悪い笑顔を浮かべてみせる。


「あいつらまだ怒ってるわけ?ほんと執念深い連中ねえ」

なんていうセレナに言わずもがな嫌な予感を覚える。


「おい、セレナ。おまえ一体なにを、」


「んー、そうね。手短にいうとあいつらは執念深い妖精連中で、奴らとは昔色々とあったってとこね」


「その、色々と、を聞きたいんだが」


僕が強い口調でそういうとセレナは呆れたような仕草をしてみせる。


「ほんと、知りたがりな坊やねえ」


「変な言い方しないでくれ!それより質問に」


「はいはーい。昔風船に入れてあいつらの高音波で風船が割れるのか実験したりいあいつらを捕まえてかごに閉じ込めちゃったりしたかもお。あとあいつらを使って空も飛んだかもー。あー、そうだ、そうだ。そうだったんだあ」


わざとらしくそういうセレナには怒りを通り越して呆れてしまうし、そのことによって口にしようとした説教の言葉もみんな吹っ飛び、

「なにしてるんだ、君は!」

しかいえなくなる。


自分でもバカらしいくらいに頭がカッカしてくる。


「ほんと、なにしてるんだよ!」


まるで問題児の母親か何かのようにモヤモヤとしたやりきれない思いを抱える僕。

だって妖精を風船に入れて遊ぶなんてとても正気とは思えない。


「そんなことしておいてよく妖精の国へ行こうなんて言えたな」


少しずつ落ち着いてくるとそんなことを口にする僕。

するとセレナはフッと口角をあげて笑ってみせる。


「だってあいつらの顔見るまで忘れてたんだもの。」


「そこ、ドヤるところか?あーもうほんと」


後ろを見れば確実にこちらへ近づいてきているその集団。


「あっちは君のこと死んでも覚えてるようだけど」


ポツリと漏らしたそんな言葉も虚しく空へ消えるだけだ。


「でも、謝れば許してくれるんじゃないかなあ?」


のんびりとした声音でそういうベジは、ほんと、らしいなあと思う。


でも今のこの状況からいってそんな穏便に事が済むとは思えない。


玉を手に入れることはおろか国にはいれるかどうかすら怪しいものだ。


「なあ、先に違う国へ行かないか?この状況では」


「無理よ」


「なんで?!」

そういう僕の声は震えてる上に怒声に近い。

情けない。


そうは思うもののやはり怖かった。

不思議と大きな魔物の方がまだマシに思える。


そう言えばルミナスにいた時もたまにそこらの道の端にかたまっている小さな虫の集団に寒気を覚えていたっけ。


やはり小さな生き物の集団というのはなにか恐怖を感じる。


「見りゃわかるでしょうよ。全方面囲まれたわ」


「なっ……」

そういわれて見て見れば前も右も左も全方向に妖精の軍団がいる。


「嘘だろ……」


「現実よ〜」


「なんで君はそうお気楽なんだよ!元を辿れば君の責任だろう」


「まあ、そうねえ」


「そうねえ、じゃないだろ!なんとかならないのか?瞬間移動の魔法とか」


「残念なことに今瞬間移動すればすぐそこに迫ってきてる奴らと一緒に移動しちゃうことになるわよ」

なんていうセレナは爪とぎを始め、じゅうたんは停止する。


「なんで君はそうなんだ!まだ逃げれるはず」


「いいのよ!」


ふいにセレナはそう叫ぶ。

漆黒の髪に隠れてその表情はよく見えないけれど、声音からして明らかに怒っている。

しかし、なんで僕が怒られなくちゃいけないんだ?

フツフツとした思いでセレナの第2声を待っていると

「私があいつらに捕まればいい話でしょ」

なんて言葉が飛び出してくる。


「…………は?なにを言ってるんだ、君は?」


真剣に話しているところとても申し訳ないが、突っ込まざるをえない。

だって、あんな小さい生き物に(いくら何匹もいるっていったって)セレナが捕まるとはとても思えない。

むしろ想像できなさすぎておふざけで言っているようにしか感じない。笑いがこみ上げかけるくらいだ。


「謝ればいいんじゃないかなあ」


さっきと同じ言葉を不安げに口にするベジに僕は頷く。


「そうだよ。ただ謝ればいい。それで万事休す、だろ」

そういうとセレナはバッと顔をあげた。


「はっ。謝る?この私が?しかもあいつらに?死んでもやあよ」

そういうセレナの表情は真剣そのもので流石の僕も言葉をなくしてしまう。


どんだけ謝るの嫌なんだよ……。

もう妖精たちはすぐそこに迫ってきている。

僕は仕方なく覚悟を決めた。

この距離じゃもう逃げられない。

もしセレナだけ連れてかれたら助ければいいし、みんな連れてかれたらみんなで協力して逃げればいい。

よし。大丈夫だ。

目を閉じてその時を待つ。羽音だけを聞くとかなり大きめの虫のようにも感じられ余計に恐怖が増す。

そこでおそるおそる目を開けようとしたその時だった。


「ひっ!」


何故か僕の周りに妖精たちが群がりあちこちから服を引っ張り出した。

しかもそれぞれが超高音でブツブツと言葉をもらしているのでこっちはたまったもんじゃない。

しかし耳を塞ごうにも気づけば僕の腕は妖精が群がりすぎて身動きすらとれなくなっていた。

な……なんなんだよ……これ……


一瞬ではあるもののハッキリと、群がる妖精たちの向こうに呆然とした様子でこちらを見やるセレナとベジの姿が見えた。


なんで僕だけなんだよ……

おかしいだろ。


小さい生き物、群れ、羽音、連想されていく虫の姿。

全てが頭の中でパンクしそうなくらい膨らんでいくみたいな感覚。


僕はやがて、意識を手放した……。

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