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クロスロード  作者: 睦月心雫
第5章 銀の里 ティワイナリ
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鳥人さん

煙がモクモクと立ち上がるそこへ、段々と厳しさを増してきた山道を歩きながら藁にもすがるような思いで向かう。


「もし町だったら宿に泊まれるといいね。タグはちゃんと寝てないから、はやく寝なくちゃだし」

そういって、タグの隣に行くとタグはいつものどこか困ったような、眉をひそかにひそめた優しい笑みを浮かべて見せる。


「そうだね。いい加減山道にはうんざりしてきたし」

「うん。それにしてもタグはすごいよね。あんなに難しい本を解読できちゃうんだもん。憧れちゃうよ」

「あ、ああ、うん。そうだね」

「どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ。ありがとう」

そういうタグは私の胸元あたりの背丈なのになんだか急にお父さんのように思えてきてフッと笑みがこぼれる。

「ほらほらイチャコラしてないで。もう着いたわよ」

そういってセレナは煙がでていたその場所……。


大きなアーチのその先を見やる。

傾斜があってアーチの先に何があるかは全くわからないけど。


人がいそうな気配はする。


「ヘンゼルのこと……なにかわかるかな」

気づけばセレナの隣にいたグレーテルが強い瞳でそうポツリとつぶやく。


「色んな人にお話聞いてみようよ。そうすればなにか少しでも役に立つことあると思う」

そういうとグレーテルの方を見て微笑む私。


グレーテルはそんな私を見て「はい」そういってはにかんでみせた。







「さ、はいるわよ」

そういって一番先にアーチの先へ足を踏み入れたのはセレナ。


「……特になにも起きないみたいね。だとしたら随分とダッサイアーチよね。魔術でも込められてんのかと思ったわ」

そういって呆れたような仕草をしてみせるセレナ。


そんなセレナに続いてアーチの先へ足を踏み入れる私たち。


「ちょっと。あんたなに笑ってんのよ」

「……い、いや、ダサいと魔術込められてると思うっていうのがなんか……ツボにはいってくく」

ひたすらに笑いを堪えるようにしゃべっていたタグだけどセレナに軽く蹴りを入れられて途中までしか言えずに終わる。

「どこでツボってんのよ……。ほんと訳のわからない坊主ね。……さてと、行きましょうか」

そういってスタスタと歩き出すセレナ。


「タグ大丈夫?」

「タグさん大丈夫ですか?」

私とグレーテルが同時にそういうから

タグは困ったようにクスリと笑う。


「大丈夫だよ、ありがとう。ほら、僕たちもいこう」






「うわあ……」

「うへえ……」

「わあ……」

みんなが驚きの声をあげて見つめる先は、煙が立ち上ってていたそこ。


そこには今まで見たことも考えたこともないような奇妙な種族の村が広がっていた……。


「あの人は鳥と人間が混ざってるみたいだしあっちはクマと人間が混ざってるみたいだし……」

「みんな動物と人間とのハーフってわけね」

タグとセレナが感慨深げにそういったそのとき。


「お客様だっわな。ここへ誰かがくるのは随分と久しいだっわね」

そういってこちらへ近づいてくる一人の人。

其の人全体としての形は人間なのだが、幾つかの場所が鳥のようになっている。


口は唇でなくくちばしだし、目は丸っぽい鳥のような目。露出した肩あたりからはバサバサと羽が見えていて、腕にも同じく羽が生えてる。足は鳥と同じ足で、しっぽがはえてる。


鳥だけど人間……。

なんだかすごく不思議。

そう思っていたらグレーテルがポツリと

「喋り方は違うんだ……」

という。


確かにこの見た目だと「◯◯っピ」とかいいそうなのに意外だなあ。


「なんのことだっわね」

「あ、ああ!すみません!!」

慌てて平謝りするグレーテルと、さも面倒くさいといった様子で

「ねえ、そこのあんた、ここの村に宿はある?」

とたずねるセレナ。


見たところ森林を伐採することで街道を押し広げたような縦長のこの村には、あちこちにテントや露店があって色んな種族の人たちがわちゃわちゃしている印象を受ける。


宿らしきものは見当たらないし、ここへ誰かがくることは想定していないという感じで、休めるところがあるようにはあまり思えない。


「それが人にものを頼む態度だっわね?」

「あー、ごめんなさーい」

適当にそう返すセレナをタグが咳払いしながら肘でつつく。


「すいません。あの、ほんと、すみません!」

最初に小さな呟きを拾われたのが効いたのかひたすらペコペコするグレーテル。


「はーふんと。仕方ないだっわね。わたくち宿屋を経営してるだっわね。ついてくるんだっわね」

そういうとスタスタと歩いていくその人。


「はーふんとってなんだろう」

「さあ。大体あいつがしゃべってる言葉は言葉として成り立ってないんじゃないの」

「なんかいっただわね?!」

すごい形相で振り返るその人に私とグレーテルとタグは口を合わせて「なんでもありません」という。


「ほんと地獄耳よね」

ポツリとそういうセレナを「おい」といってタグが制する。


「ほら、はやく追いかけよう」

気づけば人ごみに消えかかっているそのひとを目でさしそういう私。

「そうだね、急ごう」

そうして私たちはその人が経営しているという宿に慌てて向かったのだった。





「ここだっわね」

そういってその人が見上げるのは藁と泥で作ったような景観からして少し泊まるのを遠慮したくなるような場所。


「そういえばあなたの名前はなに?あとここの村はなんてところなの?」

ふと不思議に思ってそうだすねると其の人は一度こちらをギロリとした目つきで見やったあと、

「あたちの名はピンリィ。ここは彷徨えし者の村トューエントだっわね」

「そうなんだね!よろしくピンリィ」

そういって手を差しだすと少し乱暴に手を握られ上下に振られる。

「はいはい。これでいいだっわね」

「うん!ピンリィの羽フワフワだね」

「あ……ありがとうだっわね」

「ううん。だってほんとにフワフワだもん。フワフワで可愛いね」

「も、もういいだっわね。はやく中にはいるんだっわね」

そういうと頬を染めて慌てるように中に入ってくピンリィ。


「さ、行こう」

そういってみんなの方を見ると皆一様にどこか納得がいったような顔をしていた。


「どうかしたの?みんね」

「いや、どんな人もベジには敵わないんだなってそういうことだよ」

「?そうなの?よくわからないけどはやく行こうよ」

そういうと私は、その宿屋に足を踏み入れた。

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