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クロスロード  作者: 睦月心雫
第5章 銀の里 ティワイナリ
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素直じゃないなあ

漆黒の闇の中、目の前では焚き火がパチパチと心地の良い音をたてて燃えている。


右隣ではグレーテルがスースーと穏やかな寝音をたて、左隣ではタグが険しい顔をしながらベルサノンの王宮から持ってきたという古文書とにらめっこしている。


そこに私たちが探している宝玉の在りかがかかれているらしいのだけど、解読にはもう少し時間がかかるみたい。

私は文字を学んだことがないからよくわからないけれど、今は使われていない古い文字で書かれていているんだって。


あまり無理をしないように、といったけれど、この調子では朝までずっと起きているんだろうな。


「ちょっと歩いてくるわ」

焚き火を挟んだ私の目の前で爪の手入れをしていたセレナが不意に立ち上がる。

ポンポンと土埃を払うと、まっすぐ林の方へ歩いていく。


タグは古文書に夢中で気づいていないみたい。

……セレナにはいいたいことがあったし追いかけてみようかな。

なんて思うと慌てて立ち上がりセレナの後を追いかける。


ここはベルサノンから遠く離れた場所にあるごく普通の街道で、道を外れればすぐに林が見えてくる。

セレナはまっすぐ林の中へ入っていく。

なんだかプライバシーノシンガイな気がしてきた……。


《《プライバシーノシンガイ》》の意味はよくわからないけどなんだかそんな感じ。


けれど、セレナと二人きりになれるチャンスなかなかないし、今いいたいし……。

なんて色々思いながら慌てて駆けてく。


暫く林を歩いてくと、月の光を映してキラキラと輝いている小川が見えてきた。


セレナはその小川の手前の岩にストンと腰をおろすと、ふいに林の陰に隠れている私の方を見やる。


あれ?私のこと見てる?気づかれちゃってるのかな。

そう思ってドキドキしてきた心臓をおさえるように林の影に必死で隠れこんでいると

「いるんでしょ。出てきなさいよ。」

と言われる。


「うっ……」

母さんにスタルイトのパイをつまみ食いしたことがばれた時みたい。しずしずと林の陰からでてセレナの元へ向かう私。


「ここ、きなさいよ」

自分の隣の岩をトントンと叩きながらそういうセレナは特別怒っているようには見えない。


けど内心は違ったりして……。

なんてビクつきながらもセレナの隣の岩にストンと腰を下ろす私。


「で、何の用」

「え?何の用って?」

「あたしに言いたいことがあるんじゃないの?」

「……え?セレナ、気づいてたの?」

「当たり前でしょ。ベルサノンでてからずっとチラチラこっち見ては口パクパクさせてたし、今さっきだってチラチラ私の方見てなんか言いたそうにして一向に寝ようとしないし」

「じゃあ、セレナはわざわざ二人で話せるようにって?……」

「別にそんな深い意味でもないけどね。あんたが追いかけて来なければ来なかったでここらへんぶらつくつもりだったし」

「そっかぁ」

そういいながらセレナが私の意図を察してくれたことや私のことを気にかけてくれた優しさがあたたかくてホクホクした気持ちになってくる。


「で、用件は何よ」

改めてそういうと足を組んで岩に手をつくセレナ。


月光の下、セレナの白い肌はよく映えてとても綺麗だ。


「うん、あのね……」

改めてこうやって面と向かってみるとわざわざいうことじゃない気がしてきた。

あんなに気にしてたのに不思議だな。

そう思いながらチラリとセレナを見やると、セレナは特になにも言わずにキラキラした小川の流れを目で追っていた。


……きっと、いざこうしてみるとセレナを傷つけるんじゃないかって思えてきてそれで私はこんなにも怖いんだ。

けど、言わなきゃ。せっかくセレナが機会を作ってくれたんだから。


「セレナは救われた?」

肝心なところは抜けてたけど、セレナはその意味を瞬時に理解したようだった。

少しひそめられる形のよい眉。


「救われた、なんて思ってない。ただ、私は後悔はしていないわよ」

そういうとセレナは遥か遠くに浮かぶ月を見上げる。

「私があの日抱いた感情を自分が今数え切れないほどの人から向けられてることを私は私なりに理解しているつもり」

セレナの瞳にうつった光はぶれることがない。

「そして私はその全部を背負って生きていくわ」

「…………」

そんな言葉を聞いて私は自然とこう口にしていた。

「じゃあ、セレナが背負うその荷物半分私にちょうだい」

「……はあ?」

私の言葉に少し間を空けてから訝しげな顔をと共にそんな声をあげるセレナ。

「一人じゃ重いでしょ?だから私にももたせて欲しいの」

「……そんな……持たせてっていったって……」

そういってプイッと反対方向に顔をやるセレナ。


「たまにでいいの。セレナの気が向いた時いつでもいい。だからね、いつでも私に話して。セレナの心の荷物軽くしてあげたいから」

「…………なっ、あ、あんたバカじゃないの。そういうこと素面でいうのほんと……」

そういうとセレナの、エルフとはまた違う形をしたとんがった耳が暗闇でも充分わかるくらいに赤くなる。

「……と、ともかくはやく戻るわよ!」

そういうとスッと立ち上がり一切こちらを振り返ることなく林の中へ歩いて行ってしまうセレナ。


やっぱり嫌だったのかな。

私なんかじゃ頼りないかな……。

そう思いながらも慌ててセレナを追いかける。


「たまに……ね」

「え?」

セレナが不意にボソリと呟いた言葉。


よく聞き取れなくって聞き返すと、セレナはバッとこちらを振り返る。


セレナの漆黒の髪がふいに鼻先をかすめて甘い香りが鼻腔をくすぐる。

そして目の前にはセレナの真っ赤な顔。


「たまになら話してやらなくもないっていってるのよ!」

そういうとまたプイッと前を向いて歩いて行ってしまうセレナ。


暫く状況がうまく整理できずにポカーンとしていた私だけど、暫くするとニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


ほんと、セレナは素直じゃないなあ。

でもそんなところも可愛いかも。

なんだかラナの気持ちがわかるなあ。

なんて、そんなことを思いながら私はまた慌ててセレナを追いかけて行ったのだった。

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