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クロスロード  作者: 睦月心雫
第4章 エルフの王国 ベルサノン
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再開とお別れは突然に

「やっぱり君はすごいね」

「セレナの危機だもの。見逃すわけがないじゃないの。その子はただのオマケよ」

「そっか。僕もベジを救えてすごく嬉しいよ。ありが10匹ありがとう、なんてね」

「…………」

そんな話し声を聞きながら徐々に瞳を開いていく私。

けれど開かれた瞳はまだぼやけていてそこにいる人の顔をハッキリと認識することはできない。

けど、声だけでわかる。

そのあたたかさも話し方も声も、もう二度と感じられないのだと思っていた。

だからーー。


なんとかソウくんと思わしき人の方へ手を伸ばす。だけれど……


「お、そろそろ行かないとね。」

「そうね。セレナを助けなきゃ意味ないもの」

「はいはい、わかったよ。じゃあ、またな、ベジ」


そんな声とともにその人は私の頭にポンと手をおいてくしゃくしゃと髪の毛を乱暴に撫でる。


待って、行かないで、そう口にだそうとするけど、まだ意識がおぼろげな私には去りゆく彼を引き止める程の声も出せず……。





それからまた暫くして、私はようやっとパッチリと目を覚ました。

先刻私の頭を撫でてくれた人すら幻かなにかのように思えてくる。


「夢?……」


なわけない。そうわかっていてもなんだかその出来事はひどく不明確で、ぼんやりとした頭の中ではハッキリと真実だと認識することはできそうにない。


それにここはどこだろう?

そう考えてパッと立ち上がる私。


「っつ……」


落ちる寸前でソウくん……と思わしき人に受け止めてはもらったけれど、空から地へ向かって真っ逆さまに落ちていった衝撃というのはただ事ではないというか……。

ズキズキと痛む身体を押さえながら、私は歩き出す。


どうやら街中の人気のない路地のようだけど、セレナやグレーテルはどこにいるのだろう。

必死に上を向いて歩く。


街中の家々はどれも洒落ていて淡い色合いのものばかり。そこに鮮やかな色合いの花やら緑やらが飾られていてほんとに洒落てる。


道は煉瓦造りで、ところどころにたった街灯は全て金色をしている。

今は警報が鳴り、傭兵さんたちも出動しているので本来街を賑わせている人々も家の中にこもっているようだった。


どこの家も戸締りがなされ、だれもいない街道をーーなにも音のない人の気配すらない街道をーー歩いていると、なんだか自分だけが異世界へ来てしまったような、別空間にいるような感覚を覚える。


「セレナ……!グレーテル……!」


声にだしてみた名前は音のないその空間に染み込んでゆくように、消えていってしまう。


いよいよ不安が頂点へ達したその時。


「ぐはあっ……!」

そんなうめき声とともに宙から傭兵らしき人が降ってくる。


「え……」


まっすぐ私の方へ落ちてくるその人。

私はいきなりのことにどうすればよいのかもわからず、その人が落ちる瞬間までただ呆然と眺めてしまう。

受け止めたほうが良かったよね。

なんておもいながら

「ぐっ」

と呻きをもらしたその人を小さく揺らす。


「あの、大丈夫ですか?」


全身鎧に包まれたその人はうつ伏せの状態で倒れたまま動かない。


ど、どうすればいいんだろう。

傷に効く薬は持ってるけど

そう思った矢先、唐突にその人に手首を掴まれる。


「ひっ」

「……お前……」

「は、離して!」

怖くなってそう叫ぶけれどその人の私を掴む手はビクともしない。


「あいつらの仲間だろう……そのスタルイト色の頭……見覚えが……」


男の人が途切れ途切れにそういった、その時。


「あれは……!」


男の人がハッとしたようにを見上げて声をあげるからつられて空を見やると、人の顔ほどの大きさの火の玉がいくつも上空から降ってきていた。

その火の玉は近づいてくるほどに熱気が感じられ、本体に触ってしまったら火傷どころでは済まないであろうことがずっと田舎で暮らしていた知識の少ない私にもよくわかった。

そんな火の玉がいくつも降ってきてはそこらの家に落ちて、その家々をじわじわと炎で包んでいく。


「そんな……」


「くそっ。あの悪魔め……」


男の人が忌々しそうにそう呟きながら、まだ痛むであろう身体に鞭を入れ無理矢理立ち上がる。


火の手があがった家々から飛び出してくる人々。

泣き声をあげる子供や不安と怒りに顔を歪ませる大人たちに逃げるよう的確に指示を出し始めるその人。


やがて辺りは炎と煙に包まれた。

炎の、赤とオレンジの中間のような鮮やかな色が目に残って消えない。

止まらない煙と人々の悲鳴に胸が痛む。



こんなの間違ってる。

そう思った。

セレナは以前自分の親族は皆殺され、その決断を下したのはエルフだといっていた。

だからこんなことするのかもしれない。


だけどこれは、間違ってるよ。




私は気づくとひしめく人々の間を抜け駆け出していた。


先程の衛兵さんが、「おいお前!」とハッとしたように声をかけてきたのも無視して私はただ駆けた。



こんなの皆んなが苦しむだけだよ

そしてなによりあなたが苦しむことになる

セレナーー。

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