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クロスロード  作者: 睦月心雫
第3章 悪魔の郷 エンライナ・ドワーラ
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本当の心

『嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


そんなこだましたようなくぐもった声が聞こえてきて、私はハッとして目を覚ました。

背中にひんやりと冷たさを感じて振り返ると大きな石板がある。


見上げるほどの高さのそれには私には読めないいかにも難しそうな、ソウくんが読む本にでてくるような文字が刻まれている。

なんて書かれているんだろう?それにしてもこんなに大きな石板があるなんて、すごいなあ。

辺りを見回すと、切り立った岩岩が乱立していて、岩場から見えた谷底の部分にいるようだった。


「起きたのね」


そんな声とともにヒョコリと石板の影から顔をのぞかせたその人は、羽もなくなり(セレナみたいに出したりしまったり自由なのかも)普通の可愛らしい女の子に見える。


白い髪の毛はクルンと内巻きでグレーがかったブルーの瞳は先程までの狂気も一切なくなりどこかおっとりとした印象をあたえる優しげなたれ目になっている。


肌も白く、セレナ同様にスタイルもいい。けれどセレナよりかは少しスレンダーで細身な印象も受ける。セレナも充分細いんだけどね。この人はそれ以上っていうか……。


セレナが魅惑的な女性ならこの人は神秘的な女性って感じで、

「綺麗……」

思わず口にだしたその言葉に、その人はクスリと笑ってみせる。


まるでさっきとは本当に別人みたいだ。


「ありがと。あなたもとても可愛らしいわよ」

そういうその人に疑問をそのままぶつけてみる。

「あの、さっきと別人みたいなんですけど」

そういって。

すると、その人は困ったように笑った。


「そうなのよね。私、よく暴走しちゃって。正直にいうと、あなたをここに連れてきたのが私なのかすら定かじゃないの」


「えっと?……」


「私、この石板の近くにいる時だけはこうして自我をたもっていられるの。けど、なにかスイッチがはいると……気づいたら記憶が飛び飛びになって、さっきまで自分がなにをしていたのかわからなくなる。」


その人はひどく悲しげにそういった。


「これだから、セレナにも嫌われちゃうのよね」

そこまでいうと、私の隣に歩いてきて、私から少し離れたところに腰をおろした。


「セレナが郷へ帰ってきた。そう感じてすごく嬉しくなって……大体そこらへんから記憶がないのよね」


「ああ、えと……」


彼女はセレナのことが大好きなのに、記憶がない間にセレナを傷つけてしまったと知ったらきっとひどく悲しむだろう。

なら、なんて言えばいいんだろう。


「いいわ、無理しなくて」

そういうとその人は白い手をかざしてみせた。

そこには鮮血がべっとりとついている。


「これ、見ればわかるよ」


「あっと、それ、私の」


「ううん、わかるの。これ、セレナのだよね」


その人は私の声を遮るとそういった。

私はなんだかいたたまれなくなってとりあえずなにか口にしようと

「あなたの名前はなんていうの?」

なんて言った。


「私?私はね、ライレナ・ソイレイユっていうの。セレナはラナって呼んでくれるわ」


「そうなんだ。じゃあ、私もラナって呼んでいい?」


「別に構わないけど、呪われても知らないわよ」


そういうラナは冗談めかした口調というより真面目な口調でそういう。

?よくわからないんだけど……。

でも、

「ありがとう、ラナ。」

そういって微笑む。


「あなたは?」


「?」


「名前よ、名前」


「ああ、私はね、ベジっていうの」

そういうとラナはこちらをどこかまじまじとした瞳で見つめてくる。


「あなたってどこか抜けてるわよね」

そういうと独り言を言うように

「セレナってそういう子が好きなのかしら……」

と呟く。


「?どういう意味?」


「……なんでもないわ。それより、あなた……」

そこまでいうとズイッとこちらに身を乗り出し私の頬を人差し指でそっとなぞるラナ。

なんだかくすぐったくてクスクスと笑ってしまう。


「……ラナ?」


やがて動きを止めジッとこちらの瞳をのぞきこんでくるラナ。

目前にはラナの整った顔があって、ラナのグレーブルーの瞳に間の抜けた顔をした私の姿がうつっている。

「あなた魔王の血をひいてるのね」


「あ、えへへ。ラナにはお見通しなんだね。最近わかったことなんだけどね」


「……………………」


「ラナ?」


「……ちょっと昔を思い出しちゃっただけ。なんでもないわ」


そういうとラナはフイッとよそを向いた。

昔……昔かぁ。そういえば、

「ラナとセレナはどんな関係なの?」


「幼なじみで家族で親友」


今みでの私の問いかけにはどこか思案したような様子で少し間を空けてから答えていたラナがびっくりしてしまうくらいの即答でそういう。


「そうなんだぁ。幼なじみで家族で親友……」


私とソウくんとも、私とタグとも、私とセレナとも違う、私にはない関係性。


ラナにとってそんな関係性を全て持っているのがセレナなんだ。


「素敵だね」

そういって微笑むとラナは

「でしょ」

そういって少し笑んでみせた。


そのラナの笑みがとても綺麗で、セレナもラナも本当に美人さんだなあと思う。


「…………ねえ」

少し間を空けてからラナがそういう。


「なぁに?」


そういってラナの方を見やると、ラナはどこか空虚な瞳で地面を見つめていた。


「あなた、気づかないの?」


「ん?」


「なんで天使の私が悪魔のセレナと幼なじみなのかって」


「……あ〜、言われてみるまで気づかなかったや。けど、私は二人が幼なじみで家族で親友ってことがすごく素敵には思えるから、その訳とかあまり気にならないかも」


いつものように何も考えずに言葉を紡いでしまい慌てて

「あ、ごめんね、失礼だよね」

そういう。

しかしラナからはなんの返答もない。

うち、お父さんも普段は優しいけど怒った時はこうやって喋らなくなる人だったから自然と冷や汗がでてくる。


「……ラナ?」

つい名前を呼ぶとラナは下げていた顔をゆっくりとあげた。

綺麗な横顔に可愛らしい笑みが宿る。


「ふふ、あなたって本当に面白いわね。……初めてかも。人間の子を私のモノにしたいと思ったの」


「え?」


「なんでもないわ。けど、やっぱりセレナはセンスがいいわね。……だから、とても欲しくなる」


そういってラナはひどく楽しそうに笑った。

私も、なんだかよくわからなかったけど、ラナが楽しそうにしてるのが嬉しくて気づいたら一緒になって笑っていた。

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