お別れはスタルイトの味
「じゃあ……世話になったね」
そういって目を細めるカーラとその後ろの翠の海の人魚さんたち。
セレナはみんなが碧の海へ入れるように魔法をかけて、ただそれだけやって、もう地上に戻るわよ、とそういった。
「うまくやるのよ」
短くそういうと1番先にいってしまうセレナ。
それからグレーテルが「それでは……」とぎこちなくいって、タグがどこか躊躇いがちに、でもはっきりと
「あの、僕、リリを見ました」
という。
そんな言葉に驚く私。
けど誰より驚いてるのはカーラで、目を見開いてどこかポカンとしてタグを見ている。
「リリはちゃんと元気に生きてます。むしろそのお姫様の方をのっとっちゃうくらいの勢いで、すごく元気にやってます。」
そんな言葉にカーラの表情が、少しずつ少しずつ変化していく。
あたたかな表情が滲んでいく。
それからタグは躊躇いがちに言葉を続ける。
「けど、今は地上にいるんです。だから、その、僕リリのこと見かけたら絶対カーラさんのこと、伝えます。……なんていうか、安心……してください」
それからタグは少しぎこちなく「では」といってみんなの方にいく。
私もカーラたちのほうを見やって
「ありがとう。元気でね」
と、それだけ言う。
そしてみんなと同じように地上へ向かって泳ぎだそうとしたらすぐそこにカーラが来ていてギュッと手のひらを掴まれた。
「?カーラ、どうしたの?」
「これ。持っていっておくれ。あんたらにせめてものお礼さ」
そう言われて手を離されると手の中に何かがあった。
キラキラと光る、小指の爪ほどの大きさもない小さな貝殻が4つ。
「これはね、人魚の世界じゃほんとに値打ちもんでめったに手に入らないようなもんなんだ。」
「そんないいものをいいの?……」
「いいんだよ。あんたらに持ってて欲しいんだ。これは一種のお守りみたいなもんでね。ただ変わってるのが自分の身を守るわけじゃないんだよ。」
「?」
「大切な人を守ってくれるお守りなのさ」
そういわれて改めて貝殻をみる。
「カーラ、ありがとう……!」
「いいんだよ。喜んでもらえてなによりさ。さて、私らもそろそろいくかね。元気でね、ベジ。あんたに出会えて良かったよ」
「……!うん、わたしも!カーラに出会えて良かった」
カーラも、私もニッと笑ってそして仲間の元へ向かった……。
「ふ〜ん。あいつにしては洒落たもんをよこすのね」
「……君は相変わらず失礼だな。にしてもほんと、綺麗だね。ただ小さいからなくしそうでこわいけど……」
「ほんとですね。大切な人を守るお守り……いいですよね。これで僕もヘンゼルのこと守れたらなあ」
「なに惚気てんのよ。それにそこはお守りなんかに頼らず自分の力で守るっていいきりなさいよ」
「すっ、すいません……」
そんな会話をする仲間たちを見ているとやはり、胸が痛む。
やっぱり、限界かな。
碧の玉を見た時点で決めてたこと。
でも、いざ実行することを考えると、悲しい。
「……ジ、ベジ!」
「……え?」
「大丈夫?ぼーっとしてるみたいだけど」
「う、うん。大丈夫。それよりもう夜だね。今日はここら辺で寝ようか?」
ぎこちなくなってないといいけど……
そう思ってる矢先にもセレナの眉間のシワがしかめられる。
「あんた、この浜辺で寝る気なの」
「え……ダメかな?」
そういうとなぜかタグもグレーテルも、セレナまで呆れたようなホッとしたような表情をする。
「ここ最近様子がおかしい気がしてたけどベジはベジ、ね。ちょっと安心したわ。仕方ないわね。今日は特別にこの私が直々に腕枕してあげるわ」
「ほんとっ?!」
腕枕、なんて久しぶりに聞く単語だ。
小さい頃お父さんやお母さんにしてもらった腕枕はとてもあたたかくて気持ちよくて……。眠らずに、いつまでもそうしていたかったな。
「なーんて嘘よ。とりあえず火を焚きましょ。」
と続けるセレナ。
がっかりしながらも、まあそうだよね、なんて納得する。
私ももう大きくなったし、セレナのあのか細い腕に私の頭がのったら折れてしまいそうだ。
そう思ってたらタグが隣に来ていた。
なにかいいたそうにしているけど躊躇っているみたいで口を開けようとしては目をそらしている。そんなタグを横目にみて不思議に思ってると
「ベ、ベジ、良ければ僕の腕を、か、貸すよ」
甲高い声でそういうのはセレナ。
少しだけタグの喋り方と似ていた気がする。
「セ、セレナ!お前!」
結局なにも言わずにセレナの近くに行ってしまうタグ。
どういうことだろう。
なんて思っているうちにもうセレナの前にあたたかな焚き火ができていた。
「さ、ちゃちゃっと食べて寝るわよ」
いつものように、みんなで焚き火を囲んで座る。
あたたかな時間。
それも、もう……。
「ベジ、あんたの分よ」
「え?あ、ああ、ありがとう」
なんていってぎこちなく受け取ったお皿には私の大好物のスタルイトのパイと野菜がこんもりとのっていた。
「わあ!セレナ、ありがとう。私、スタルイトのパイが大好きなの」
思えばセレナがスタルイトのパイをだしてくれたのは初めてだ。
「知ってるわよ、そんなの。……それ、食べて元気だしなさい。味は保証しないけど」
そういうセレナにうんと頷いて、スタルイトのパイを大きく頬張る。
「美味しい……!」
思わずそうつぶやく。
お母さんのとはまた違うけど甘すぎなくてちょっと塩っけもあってなんだか病みつきになる感じだ。
そんな私の横では
「……ちょっ、なんだよこれ!なんでカエルの形なんだよ!しかもこの色完全に……」
と青ざめているタグ。
タグがセレナから受け取ったお皿には、カエルさんの形にもられた野菜があった……
「大丈夫よ坊主。野菜の下に肉もはいってるわ。」
「そういう問題じゃないだろ」
そういってプルプル震えてるタグを見ていると思わず笑ってしまう。
「美味しいですね」
もう片隣のグレーテルが骨つきチキンを頬張りながら嬉しそうにいう。
「うん」
そう答えてもう一口、スタルイトのパイを大きくかじる。
やっぱり、美味しいなあ……
口のなかでスタルイトの甘さとちょっぴりの塩っけが名残惜し気に消えていったーー。
「お二人遅いですね」
「そうだね〜。まだかかるかもしれないし、私眠れないからグレーテルはもう寝ていて大丈夫だよ」
「……ベジさん」
「ん?」
「ベジさんが、眠れない、なんて天地がひっくり返ってもありえませんよ」
少しふざけたようにそういわれて思わず苦笑いになる。
そんな私は今、勢いが衰えてきた、穏やかな焚き火を前にグレーテルと二人セレナとタグ
を待っている。
二人はなんでも二人きりでしたい話があるそうでどこかにいってしまった。
きっとお互いを好きなタグとセレナだから、二人きりで愛の言葉を交わしたり、恋人みたいななにか……するのかな。
そう自然と頭に浮かぶと胸が痛んだけれど、仲間の幸せも祝えないのは悲しすぎるし、私はこれでいいんだ。
なんて思う。
「だから僕も起きてます。」
はっきりとそう続けるグレーテル。
体は小さいのにしっかりしてるなあ。
「なんだかグレーテル、私よりも大人みたいだね」
そういうって微笑む。
けれど返答は得られず眠っちゃったのかなと思ってグレーテルの方を見やると先ほどまで持っていた焚き火を突く枝を手放し呆然として目の前を見つめるグレーテルがいた。
その視線の先を追っていくと……
「ヘンゼル?」
そこにいたのは、ヘンゼル。
久しぶりに見たけどあまり変わっていない。
強いけれど少し虚ろな目でこちらをボーッと見て立っている。
かと思ったらついてきて、というようにどこかへ歩き出す。
それをみてグレーテルが慌てたように立ち上がる。
「ごめんなさい、ベジさん。僕、ちょっとだけいってきます!」
そういうと慌ててヘンゼルの元へ向かうグレーテル。
「あ、うん」
なんて答えて手をあげかける。
そして高くかかげることもそれから力なく落ちることもできずになんだか中途半端にとまる手。
「……一人だ」
ポツリと呟いたら悲しくなった。
魔王はみんなのために頑張ったのに、一人になった。
魔王に味方してくれる人もいた。
けど心がどうしようもなく一人だった。
それはとっても悲しいこと。
「君は一人だ」
そんな声にハッとする。
右を見たり、左を見たり前を見たり、でもその声の主は見当たらない。
空耳かな?
「ここだよ」
そんな声にハッとすると後ろに人が立っていた。
フードを深くかぶっているし、横目ではよく見えないけど誰だろう……
と思ったら次の瞬間その人は私の横に座っている。
「こんにちは。魔王」
陽気にそう声をかけてくるその人。
私は、なんだか直感でその人が誰かわかった。
「君が一人になるのずっと待ってたんだよ」
白いマントーーそれはー白閃の約束のひとたちが身につけていたもの。
そしてこの人はその組織のリーダーーー。
「あなた」
何故か言葉が震える。
何故か、じゃない。
私は、怖いのかもしれない。
「預言者の生まれ変わり、でしょ」
預言者ーーあの夢のような空間で私をまっすぐに見つめてきた不思議なひと。
そして魔王の記憶を垣間見た今ならわかる。
大事な幼馴染だった、けど、世界から全ての生き物を消しさろうなんて馬鹿げたことを本気で願って実現させようとした。
そして、魔王を破滅に陥れたひと。
フードを被ってよく見えないそのひとの顔に笑みが宿った気がしたーー。




