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幕間

 日光が部屋に差し込んでくる。朝か。それでも中々布団から出る気になれない。幸い今日は土曜日だ。もう少し寝ててもいいよな。昨晩はあんな激しいことがあったんだし。


 ……はて?昨晩?昨晩といえば《イド》と激しい戦いを繰り広げた。主に俺が原因なんだけど。


 その後、俺はどうなったんだ?家に帰れたのか?確か構造上、俺のベッドに朝日が入り込むなんてことは無かったはず……。


 そこまで考えてようやく飛び起きる。


「あっ、やっと起きた?もう11時だよ?寝すぎじゃない?」


 デジャブを感じさせながら現れたのはレナだった。プラチナブロンドの髪は今は降ろされている。


「……何で俺、こんなところにいるんだ?」


「何でって、あの後すぐに倒れたんだよ?覚えてないの?それでしょうがないからここに泊めてあげたんだよ?」


 何となくこの後の展開が予測できてしまう。あの人の第一印象は何だ?そう、例えるなら突風。本当に前触れなく登場したよなあ……。


 そこまで考えを巡らせたところで勢いよくドアが開かれる。これが予定調和か。違うか。そんな事をぼんやり考えながら半ば予想できた言葉を聞く。


「どうしてテメエがここにいるっ!?まさかレナと一晩過ごしたんじゃねえだろうなあ!?」


 一晩共に過ごしたのは間違ってないんだよなあ。やべえどう言おう。つかどう答えても実力行使に出られそうなんだけど。


「えっ、ええっと……」


 答えに詰まっている俺を見てレナが代わりに説明してくれる。


「一緒に過ごしたことは間違ってないよ。トウヤ君、《イド》にちょっかいをかけるんだからびっくりしたよ」


「お前、レナをそんなことに巻き込んだのかあ!?怪我とかさせてねえだろうなあ!?」


 ヤバイ怖いもう無理です。そうだ、《不可視》を使って逃げ出そう。どのタイミングで発動するかが重要だな……。などと、逃げの一手を考えている俺の心中を察したのかレナがお兄さんの相手をしてくれる。


「いや、怪我はしてないよ。ちょっと不味いかなーって思った状況もあったけど、トウヤ君が守ってくれたから」


 その言葉を聞いてお兄さんの鬼のような表情が少し和らいだ気がした。


「お前、レナを守ったのか……。言っとくが礼は言わねえ。お前の蒔いた種だからな。だが、この件でお前を責めるのはこれで終わりにしてやる」


「大学生にもなって素直にありがとうも言えないってどうなの、兄さん?」


 そう言われたお兄さんは気恥ずかしそうにレナから目を逸らす。シスコンであろう(これまでの言動から)お兄さんは話題を逸らそうと俺に視線を送る。


「……さてトウヤよ、聞かせてもらおうか。《イド》とどうやって戦ったのか、どうやってそれを切り抜けたのかをな」




「……なるほどな。事情は大体理解できた」


 俺が全てを話し終える頃にはもう午後に差し掛かろうとしていた。


「それにしても急に体が軽くなったってのはどういうことだ?お前の《自我》か?」


「俺は《自我》を使ったつもりはありません。そもそも《不可視》って言ってるのに他の能力が使える訳ないじゃないですか」


「それはそうなんだけどな……」


「私はそれよりも窃盗犯、真犯人と言ったほうがいいかな。そっちの方が気になるかな」


 そうだった。他人の不意を突き、眠らせて金品を盗む。そいつの正体を突き止めないといつまた《イド》に絡まれるか分からない。


「その真犯人が目撃された日にちを調べたんだけどね、トウヤ君が《桜》にやってきた時期とほぼ同じなんだよね。下手するとまた何を言われるか分からないよ」


 《桜》というのはこの辺りの都市群の名前だ。昔は都道府県という括りがあったらしいが、今は大まかな地域を草花の名前で呼ぶようにしている。何でも47の地域に分けて管理する方法が失敗したらしい。


「犯人を見つけると言っても手掛かり1つないなら不可能だ。諦めろ」


「そんな事言わずに少しは力を貸してよ、兄さん」


「むっ……大事な妹の頼みなら仕方が無い。一応周りに情報が無いか聞いておくか」


「やった!兄さん、ありがとう♪」


「ふっ、このくらいお安い御用だ」


 カッコをつけてはいるが、表情がだらしないことになっているのを俺は見逃さない。お兄さんもアレだが、うまく操るレナも大概だなと思う。


「おい、トウヤ」


 おもむろに声をかけられてビクッとする。見ると俺の方へ手のひらを差し出すお兄さんの姿があった。


えっと、この手は一体?」


「銃を貸せ。今のお前は《自我》も武装も頼りない。お前の安否なんざどうでもいいが、同行するレナが不安でたまらない」


 そう言ってわざとらしく大きな溜息をついてお兄さんは続ける。


「だから、お前のその銃を改造してやる。それこそ、そこらのリア充を蹂躙できるぐらい強力にな」


「兄さんは大学で武器の研究や開発をしてる専門家みたいなものだから安心して頼めるよ!」


「殺さないギリギリまで威力を上げてやる。なに、心配するな」


 何が心配するな、だ。水無川家の人間はおっかない奴しかいないのか。国でも相手取って戦争を仕掛けたりするんじゃないだろうな。


 とはいえ俺の銃――《綾》と《真奈》と名付けた――が《イド》の連中に効かなかったのは事実だ。だから改造してもらうことに躊躇いは無かった。この際手段なんて選ばない。捕まる心当たりが増えたのはきっと気のせい。そう気のせい。


「じゃあ、お願いします。お兄さん」


「俺はお兄さんじゃねえ。……サイガ、俺の名前は水無川サイガだ。言っとくが改造してやる以上、しっかりとレナの役に立てよ?」


 レナの役に立つ?ああ、例の約束の話か。そういえば、


「俺、レナの立ててる計画を詳しく知らないんだけど……」


「あっ、まだ話していなかったね」


 そう言って歩きながら授業でも行うかのように教師然とした態度でレナは話始めた。


「まず、私達はこれからたくさんのリア充を無差別に襲います。勝ちます。そして有名になります」


 コイツ言い切りやがった。尚も話は続いていく。


「その状態でリア充に全面戦争を仕掛けます。後は私たちに影響を受けた人達と一緒にリア充をボコボコにします」


 こうなることが当然だと言わんばかりに彼女は一息に言って、こちらに笑顔を向けてくる。


「どう?中々いい方法だと思わない?」


「……」


 絶句。それしかない。何というか大雑把にも程があるだろ。


「そんな方法で本当に戦争なんて起こせるのか?すげえ不安なんだけど」


「レナの完璧な計画に文句でもあんのか、ああっ?」


 ドスの効いた声でサイガさんが横から脅してくる。そしてこう付け加える。


「計画に不満があるなら自分でそれを解消できるくらい動け。それでいいじゃねえか」


 サイガさんの言葉に初めて感銘を受けた。そうだ、嫌な環境、状況なら自分で変えればいいんだ。《桜》にもそうやってきたんだっけな……。


「そうですね」


 至って簡素な言葉でそれに応える。余計なことは言わない。後は結果を出して伝えてやる。そう決意してサイガさんを見つめる。


「何でもいいがレナだけはしっかり守ってくれよ」


 レイジさんの返事はやはりぶっきらぼうなものだった。


「じゃあトウヤ君、計画も伝えたことだし早速、明後日の放課後から付き合ってね。」


「それなら銃の改造も間に合う。存分に暴れてこい」


「いくら何でも急すぎないか?まだ体が痛むんだけど……」


「そんなの病院ですぐ治るよ。常識でしょ。善は急げって言うしいいじゃない」


 ――こうして、小賢しくリア充をいたぶる日常は終わりを告げたのだった。


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