衝撃の告白
夜は気温が低くなる。そのため、音が遠くまで届くのだそうだ。だから今この瞬間、この叫び声を聞いた人間がもしかしたらいるのかもしれない。
――《イド》の叫び声をな。
「があああああああ!!!」
「動かねえ、ふざけんな!!」
「金髪の針に当たるな!気をつけろ!」
「お前らはそっちに気を取られすぎなんだよ!」
視界に入るリア充を手当たり次第に倒していく俺とレナ。打合せ通り《麻酔》と《不可視ん条約》不可視ん条約による不意打ちはかなりの戦果を挙げている。
《不可視ん条約》は攻撃する瞬間に姿が見えてしまうために、一撃を加えた後に反撃を受ける可能性が高い。だから本来なら何回も使って肉弾戦なんてしない。喧嘩には自信が無いから。――本来だったら。
今、俺の手にはレナからもらった麻酔針がある。これを使えば、始めにコイツで相手の動きを止め、好き放題に殴るという荒業ができる。さっきからこれを繰り返しているが正直言って凄く気持ちいい。癖になりそうだ。こんなことを続けてたらいずれレナみたいな思考回路になりそうで怖い。
「ぐっ、卑怯だろ……こんなの……」
「非リアを舐めすぎなんだよなあ。さしものリア充さんも油断とかしちゃうんだー」
かなりテンションが上がってしまいつい変な煽り方をしてしまう。深夜テンションとかあるし致し方なし。
そんな快楽に浸っていたせいで後ろに《イド》が迫っていたことに俺は気づけなかった。声を出されて初めて気づく。
「言ってるそばから油断とか、非リアはすぐ調子に乗るからダメだなあ!」
「伏せて!」
《イド》の人間が腕を振り下ろそうとするのと、そんな声が聞こえたのはほぼ同時だった。即座に前転し、地面に倒れこむ。俺の頭上を何本もの針が飛んでいく。その後に何が起きるかなんて確かめるまでもない。その証拠にレナがこちらを見向きもせずに走り出す。俺もそれに続く。
「ありがとう、助かった」
「もうちょっと気をつけてよね。油断は禁物だよ?」
「ホントに返す言葉もない……ところでどこを目指しているんだ?」
「そろそろ着くんだけど……あっ見えてきた!」
木々をすり抜け、細い道を進んだその先には草が生い茂る広場のような場所があった。
「ここがこの山で1番拓けた場所だよ。ここで迎え撃とう」
「それはいいけど何で姿がバレる所に来たんだ?さっきみたいに見通しの悪い場所で戦っても良かったと思うけどな」
「ああいう場所じゃ狭すぎて後ろから誰かが来ても気づかないでしょ」
ついさっきの俺の失態がフラッシュバックする。そんな事を考えて動けるとはやっぱり地の利はあるな、と思う。とは言えド正論過ぎて何も言えねえ。コメントに困っていると、
「まっ、ここならその心配は無いからね。頑張ろうね!」
とレナがフォローしてくれる。
「もうそろそろいいかい?」
突然声が聞こえた。先刻の言葉通りアイツがやってきたわけだ。レイジ。本当ならいきなり襲いかかって俺を捕えることもできただろうに。そういう事をしない正々堂々としたところは流石リア充といったところか。
「まさか逃げるだけじゃなく、あの水無川さんを連れてくるなんてな。しかも、いきなりあんな風に動けるなんて正直驚いた。それでも、問題児をまとめて捕らえられると考えるとラッキーかも知れないな」
「ところで問題児とか言ってるけど、トウヤ君が何をしたって言うの?補導にしてはやりすぎだと思うんだけど」
そうだ。それはさっきから俺も疑問に思っていたことだ。てっきり《イド》は怪しい奴を執拗に追ってくる組織だと思っていたがどうやら違うらしい。というか今、俺の名前をバラさなかったか……。
「ん?そこのトウヤだっけか、そいつから聞いてないのかい?そいつはペイント弾で他人を眠らせて金品を盗む最低の窃盗犯なんだぞ?」
――《自我》の攻撃よりもその言葉は俺に《衝撃》を与えた。