久方ぶりの協力
走る。とにかく走る。なぜ?――《イド》から逃れるため。
どうやって?――あまりにもみっともない方法で。他の方法を探しながら逃げたつもりだったが、どれだけ考えてもこうするしか方法が思いつかなかい。
「一体どう説明すればいいんだ……」
目の前の建物は今日、正確には昨日俺が拉致監禁された場所。そう、水無川邸。俺は自分で他人と組まないと言っておきながら、他人に助けを求めようとしている。
正直、お前にはプライドが無いのかって感じでずっと自問自答している。こんなに都合よく動こうとする自分に嫌気だってさしている。それでも他にどうにかできるわけでもない。
自分1人ができる事なんてたかが知れている。リア充のデートに水を差すのが関の山だ。そんな事を考えているとやっぱり他人を頼るしかなくて、でも他人を頼る自分なんて自分が自分じゃないような気がして――。
「――っあ、もうどうにでもなれ!」
心の中でのループを強制終了させ、呼び鈴を鳴らした。程なくしてドアが開く。
「こんな時間に誰ですか?……って君はトウヤ君!?そんなにボロボロになってどうしたの!?大丈夫!?」
普通、あんな別れ方をしたら次に会うときにはいくらか気まずくなるものなんじゃないのか。何ですぐに俺の心配ができるんだよ。どうして人に優しくできるんだよ。
「ねえ、聞いてる?」
「あ、ああ、ごめん。えっと、傷に関しては大丈夫――」
「目標、発見しました!」
新たな声が俺の台詞をかき消した。《イド》だ。もう俺を見つけるあたり仕事ができる奴らだ全く。
追手は3人。彼らの持つライトが俺の姿を鮮明に映し出す。
「レイジさん、連絡です!ヤツがいました!場所はっ」
《イド》のそんな報告は先ほどの俺と同様にかき消された。いや、正確には声を出す行為そのものを禁じられた。
水無川さんの針だ。オリジナルなだけあって、さっき俺が放ったものとは似ても似つかない速度。そして正確無比な軌道を描き《イド》を穿つ。
「ごめんね。ちょっと私達、取込み中なの。しばらく眠っていてもらえる?さっ、トウヤ君。中で話をしよ?」
軽々と《イド》をあしらった少女はそう言って俺を迎え入れてくれたのだった。
*
「ふーん、なるほどね。《イド》に八つ当たりした挙句に尻尾巻いて逃げてきちゃったんだ。あはは、中々面白いことをしたね」
水無川さんは本当にそれが面白いという風に笑って俺の話を聞いていた。ちなみに、レイジさんは俺が出て行った後に間もなく寝てしまったらしい。怒鳴られる心配が無くて都合がいい。そのまま水無川さんは続ける。
「それで、助けを求めて私のところへ来たと。何でもいいけど、まず言うことがあるんじゃない?」
「……えっと、水無川さん、さっき、感じ悪く出ていってしまって、ごめんなさい。それと、手を貸してください……」
「1人だけじゃできることなんて限られてるって分かったみたいだね。そんな風に頼られるのはもう少し先だと思ってたんだけど、まあ早いに越したことはないか。いいよ、協力しよう」
「えっ、いいの?」
すんなりと受け入れられたことに俺は驚きを隠せなかった。
「何、相手にしてくれないとでも思ったの?」
「いや、もう少し渋ったり、何か要求でもしてくるのかと思った。そもそも水無川さんにメリットが無いだろ」
「レナって呼んでよ、そっちの方が気楽だし。それと、そんなに言うなら1つお願いしてもいいかな?」
無邪気な笑顔で彼女は続ける。
「私は君が追われている《イド》だけじゃなく、全てのリア充を倒したい。だから、私の計画にも付き合って!」
「まあ、それくらいなら……」
「やった!じゃあこれからは仲間だね!」
それにしてもこの人、リア充に恨みを持ちすぎだろ。まあある程度気が合いそうで嬉しいけどさ。
……仲間なんてできたのは一体いつ以来だろう。