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不可視の非リア  作者: 新島 伊万里
ニセモノ
33/33

奪うモノ

 変わり果てた街を俺達は進む。何ができるか分からないが何かやらなきゃいけない。そんな不明瞭な責任感に駆られて。


「これって何……?もしかしてあの人が1人でやったの?これを?」


 いつも軽い口調で話しているレナですら今回ばかりは神妙な面持ちでそう呟いた。それだけでどれだけ異常な事が起こっているかが改めて理解できる。奴は「派手に暴れる」と言っていた。これはそれを有言実行した形になるがそれにしたって理由が分からない。


 《カラー》は睡眠作用のある能力でスリを行ってきたと考えられる。そんな奴がなぜ急にこんなテロリスト紛いの行動を起こしたのか。その理由、動機が不明だ。そしてもう一つ――


「……《カラー》の姿が見えないんですけど……」


 明らかに火災や建物の破壊の原因は奴だろうが、その本人が見当たらない。そのうち駆け付けてくるであろう《イド》でも警戒しているのか。それともまた不意打ちの機会を窺っているのか。何にせよ警戒は怠らずに街中を駆けていく。


「街が全焼した……って訳ではなさそうね」


「それでもこの規模を1人でやったんだ。信じられないよな……」


 近くでその様子を改めて見ながら事の重大さを理解する。消火や救出を、とは思うが既にそれは大人や《自我》の使える人間が行っている。それに加わるべきだとは思うが、俺達はあまり《イド》達に好印象は持たれていない。それだけならまだいいが、変な難癖をつける奴が《イド》に限らずいるかもしれない。そんな目に遭うよりはむしろ元凶を捕らえるべきだと判断したのだが――


「オレの《自我》はどうだ?すげえだろ?オイ?」


 不意に声が降ってきた。その声の主こそが俺達の探している標的にしてこの事件の主犯。聞こえると同時に《真奈》を引き抜き三連続で引き金を絞る。しかしその的は引き金を引いたときには既に別の建物へと移っていた。と思うと俺達の前にふわりと降り立った。


「そんなオモチャじゃオレは捕らえられねえよ」


「じゃあ、これならどうなの!」


 ミハギが開いた手を《カラー》へと向ける。そしてアスファルトを食い破って幾つもの茨が姿を見せる。


「《茨の処女(スオン・メイデン)》!!」


 茨のドームで逃げ場を奪われ、なおも防壁の質は上がっていく。しかし《カラー》はその笑みを崩す事なく表面を軽く撫でる。


「理解したぜ。茨で破らせないようにした牢屋ってトコだろ。まあまあのできだな」


 そう言って、さっき撫でていた手を広げる。緑色の球体がその手には乗っておりそれが一気に風を生み出す。


「ミハギちゃん!」


「ダメ、《茨の処女》が破壊される!」


 その叫びに呼応するように《カラー》を覆っていた牢屋は風圧に耐えきれず骨組みをバラバラにされ砂山が崩れるが如く無に帰した。


「それで次は何を仕掛けてくれるんだ?ア?」


 手をクイクイと動かし挑発するような態度を見せる《カラー》。レナ達はそれに対して有効な手立てが思い浮かばないのか、その場から動かない。そんな中、俺だけが唐突に奴の前へと躍り出た。


「トウヤ君!考えなしに突っ込むのはダメっていっつも君が言ってるよね!?大丈夫なの!?」


「今はとにかくやれる事をやるしかないだろ!」


 半ば捨て鉢になったかのような台詞を吐いたが実際に勝算が無いという訳でもない。いや、正確には相手の能力を調べられるかもという期待で動いているとでも言おうか。そもそもこっちが何か行動を起こさない限り相手だって手札を見せるような真似はしない。ならば今は攻めるべきだ。そして相手の行動を観察する。それならば切り込み隊長はこの俺がやるべきだろう。



 ――《植物》?今見た通り馬鹿正直に使っても無駄だろう。――《麻酔》?俺の弾丸と同じで正面から撃っても捕らえられない。――《接合》?接触しようにもリンカの能力は一度見られてしまっている。難易度は高い。なら、俺の《自我》ならどうだ?どれだけ万能の能力と言っても急に姿を消したとしてそれに対応できるか?


 ――分からない。分からないという事は可能性が残っているという事。それはすなわち勝算が残っていると同義だ。


「ア?やっと正面からやる気になったのか?男らしいじゃねえか。いいぜ、かかってきな!」


 あまり恵まれてない体格のせいで迫力こそ伴わなかったが、それでも俺が玉砕しに来たわけではないという事を察した《カラー》は口を歪ませ俺を迎え撃つ。その表情はどこか楽しんでいるようでもあった。


「見せてやるよ、これが俺の《自我》だっ!」


 思い切り手を前に出して如何にも攻撃を行うぞ、という意思表示を見せる。実際には見せるだけだ。《不可視》そのものに殺傷能力なんて大層なものはついていない。だがそれを知るのは一度能力を見た後だ。


 《カラー》は俺の《自我》についての知識はない。だからこそ自分の腕を交差させて腰を低くし、踏ん張るような防御姿勢を取る。そう、俺の目論見通りに動き、そして罠に嵌った。


「やっぱそう来たか!俺が正々堂々戦うかっての!」


 その台詞と共に姿を隠す。さっき前に突き出した勢いに身を任せて受け身を取るように前転。そのままスライディングで流れるように《カラー》の右斜め後ろ、死角まで一気に移動する。さらに腰を捻りる事でスライディングの勢いを殺さないまま蹴りへとシフトする。それは虚を突かれた奴の脚へと綺麗に吸い込まれ、俺はそのまま足を振り抜いた。


「チッ、そこかッ!」


 右足にクリーンヒットし、体のバランスの均衡が崩れる《カラー》。しかし彼はただ黙ってやられる程甘くはなかった。好機とばかりにレナが《麻酔》を飛ばすも、左手で落ちていた植物の欠片を持ち、風を起こす。それと同時に右手で俺のいる位置を予想して、掴もうと手を伸ばす。


 咄嗟に飛び退き、辺りを走り回りながら適宜弾丸を撃ち込んでいく。こちらをある程度警戒すればそれだけでレナ達が狙われる危険が減る。だがそれでも《不可視》の寿命は後2,3分といったところだろう。こうしている間にもタイムリミットは近づいてくる。何か、何でもいいから手がかりが欲しいところだが……。


「ね、《カラー》君だっけ。本名が分からないからこう呼ばせてもらうけど、どうしてミハギちゃんの出した植物に触れたの?絶対に気まぐれや挑発ではないよね?」


 ポツリと、そうレナが尋ねる。しかしその目は疑問の色を湛えていない。どちらかというと答えの確認をしてくれと教師に頼むような目の色だ。


「……まさかオレの《自我》を理解したか?」


「断片的だけどね……7割くらいは分かった気がするよ。多分、風は緑色でしょ?」


 そんな訳の分からない言葉を聞いた《カラー》は数秒間、呆気に取られたように固まりそしてまた動き出す。肩を大きく上下に動かしながら。


「ククッ……ハハハハアア!いいぞ!面白いぞ!理解したぜ!アンタらは最高だ!奇襲に推理と退屈しねえ!」


 ひとしきり笑った後、さらに口を歪ませて《カラー》は言った。


「折角だ!お前らにはオレの能力の全てを見せてやる!有難く聞いていけよッ!」


 言うが早いか《カラー》はその場にしゃがみ込み、アスファルトに描かれた黄色の表示を一撫でする。するとさっきまで描かれていたはずの表示がその場から消え去る。


「その《自我》は好きなものを消し去る事までできるの!?反則じゃない!」


 ミハギと同じように俺達も驚愕した様子を隠せない。ただ1人、レナを除いて。


「いいから黙って聞いてな。この文字は別に消えた訳じゃねえ。色が消えただけだ。この手を見れば分かるように黄色はここに集まっている」


 そう言って右手を大きく掲げた後、その手をまるで居合の構えのように左の腰へと持っていく。ちょうど抜刀のような構え。


「そしてッ!コイツはこうやって飛ばしッ!」


 そのまま一回転して、手に溜めた黄色を辺り360度全てへ巻き散らす。しかしそれだけで何も起こらない。


 と考えたのは俺だけのようで、


「トウヤ君、逃げて!」


「先輩、まずいわ!」


「位置が……バレるんですけど……!」


 突っ立ってる俺にそんな警告を口々に飛ばしてくる仲間がいた。その警告通り《不可視》がまだ効いているはずの俺へ的確に指を指して《カラー》は続ける。


「姿の見えないチキンの位置を把握する事ができるッ!そしてコイツの真の力は別にあり!こんな事だってできるんだよ!」


 その叫びに合わせて辺りに飛び散った黄色は電流へと姿を変え手当たり次第にうねり始める。


「ああっ……!ちくしょう……!」


 電流が暴れ出したのとほぼ同時に俺の右足に痛みが走る。そこには巻き付く電流。さっきの意趣返しのつもりなのか執拗に俺の右足から離れない。


「さっき、位置が分かったのは俺の体に色を付けたからって事か……」


「ああそうさ。透明な体を新しく塗り替えたってところだ。その《自我》はオレとの相性は最悪のようだな」


 そのまま動けずに右足を抑える俺へゆっくりと近づき、見下ろしながら声高に叫ぶ。


「いいか!これが色を奪い自在に操るオレの芸術的な《自我》!その名も《奪色(だっしょく)》だッ!!」


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