非リアの残念な恋模様
……なんだろうな、この感じ。上手く言葉にできない感情が心の中を渦巻いている。いや、言葉にしたくないだけなんだろうな。両隣にいるレナやミハギも同じ事を考えているだろう。俺達はそれを制御できずにその感情の片鱗を紡ぎ出す。
「俺は、リンカが……」
「私は、トウヤ君が……」
「……私、は、レナ先輩が……」
しかしそこで全員が全員言葉に詰まる。それはそうだろう。非リアに続きなんて口に出せる訳ないだろ。「好き」だなんて。
俺達はその言葉は口にしなかった。すれば完全にこの関係が壊れる。壊れるというよりは《自我》に逆らえなくなるからか。何にせようっかりでも口走ってはいけない。それは敗北宣言と何一つ変わらないから。それを分かっているのか、それとも恋愛経験のろくにない(であろう)非リアのつまらない意地なのか、どちらでもいいがまだ終わっていない。幸い、奥山は動かない。よく考えれば武器も持っていないし《自我》でこれ以上の攻撃ができるとも考えられない。
どうでもいいがそもそも《自我》は攻撃するための手段でもないというのは誰もが忘れている事実。ならばまずは行動あるのみ。
集中できず体も心も満足に動かせないがそれでもゆっくりと動く事はできる。不自然すぎる動作は承知の上でゆっくり、ゆっくりと体を動かす。奥山はその様子をニヤニヤしながら見つめるだけだ。
「上等だ……ぶっ殺してやる」
普段の学生と話す音量よりさらに小さい声で毒づきつつ《綾》を胸の前に運ぼうとする。よく見るとレナやリンカも思い思いの反撃に打って出ようとしている。
――ところで俺はレナの事が好きだがレナはリンカの事が好きなんだよな。おまけにリンカは多分俺の事が好きだ。《自我》の矢印から考えて間違いないだろうな。……じゃあこういう時さ、俺はどうするのが正解なんだ?
告白するのか?いやそれ以前に負けイベントだって分かってて突っ込む度胸が俺にあるのか?というか告白されたらどう返せばいいんだ?もういっそリンカと付き合えば……いやそんな打算めいた事はなあ……。
「キミ達ずっとそこに立っているけれど、いつになったら攻撃するつもりなんだ?」
「……!」
俺は動いてなかった?その自覚もないまま指摘される。レナ達もその顔に疑問を浮かべる。そのままレナを見つめてるとレナがそれに気づいて見つめ返してくる。
ヤバイなにこれ恥ずかしい。咄嗟に目線を逸らしつつ心臓がバクバク言っているのを感じていたたまれなくなる。
「この《恋愛》は時間が経てば経つほどに相手を意識してしまう。だから恥ずかしがる事はないんだ。もっと自分に素直になりなよ。もっとも三角関係にしてしまったけどね」
ウインクをしながらそんな情報をぶっ飛ばしてくる年下ハーフ。ここまでいいようにやられて黙ってられるか!と叫びたいと思ったがそんな感情はすぐ消えてレナに気持ちをぶつけたいと考えてしまう。心が叫びたがってるんだ。
「さあさあさあ!燃えるような感情の動きをこのボクに見せておくれよ!」
急かすように、そして自分の感情の昂ぶりを表現するように急に立ち上がって両手を大きく広げながら高らかに宣言する。その時、プツンと自分の中で何かが切れる音がした。
気づいたときには走り出していた。別の方向からも同じように動く2つの人影。奥山に殺到する3つの人影。そいつらは手や足、とにかく手段を問わずに奥山を痛めつけていく。誰かに殴り飛ばされたと思ったら飛ばされた先でさらに殴り飛ばされる。まるで穴のないピンボールに閉じ込められたかのような状態で奥山は叫ぶ。心の底から叫ぶ。
「な、なんだってええええ!?」
*
体中にあざをつくり、その上《麻酔》により保健室に逃げ込む事もできなくなった主犯は悔しそうに問いかけた。
「何で、何で《恋愛》が効かなかったんだよ!こんな事はあり得ない!何をやったというんだ!」
髪は乱れ顔もパンパンに腫らせた奥山を不憫に思い種明かしをしようと俺が代表として前に出る。
「今、《恋愛》が効かなかったと言ったろ。そこから違うぞ。《恋愛》は完全に効いてたんだ。少なくとも俺には」
「あっ、私も効いてたよ」
「……私もですけど……」
その返事を聞いて増々不思議そうにするので説明を続ける。
「2人とも。もし誰かを好きになったとして……その、お前らならどうする?」
「私なら……その人が一番喜ぶ事をしてあげたいって思うよ」
「……同じく……」
「まあ俺もそんな感じだ。で、これは俺達3人についてだけど、何をしたら俺達を喜ばせる事ができると思う?」
そこまで聞いて奥山がはっとしたように目を開かせる。実際には腫れてるから推測なんだが。そして2人は声を揃えてこう口にした。
「「リア充を倒す事」」
*
「本当に私達が恋愛経験なくて良かったよね!」
結局あの後、イケメンな顔を台無しに腫らしてそのまま校舎前に放置という鬼畜の所業を行ってこうして帰路についた。
「……アレは、一般人には物凄く有利だとは思うんですけど……私達には……」
「ふーん、つまりリンカちゃんは私達は外道なダメ人間だって言いたいんだ?」
「ち、違うんですけど……!」
そんな風にレナがリンカをおちょくる背中を見ながら歩いていた。どうせならあの2人は本当に付き合えばいいのに。とりあえず三角関係のアレは今後一切話題に出さない事になった。誰がそういうでもなくそういう圧を感じたし、俺も放ったってのもある。
ただ、奥山を倒した武勇伝が校内に広まったらあの関係まで広がるのでは……考えるのはやめよう。今は俺を襲ったあいつだ。あいつの事で頭をいっぱいにするんだ。具体的には片思いしちゃうくらい。いや、流石にそれはまずいか?
「そういえば今日さ、2人とも私のところに来たけど何か用事があったの?」
「それなんですけど……先輩?」
呼ばれて我に返る。そうだ。コイツに説明をするんだった。衝撃的な体験のせいで完全に頭から抜け落ちていた。
さしあたっては昨日の出来事を話して、今度のターゲットをコイツにできないか。そしてそれが戦争を起こす邪魔にならないかを聞いてみた。
「私はターゲットにする事には賛成だけど、戦争の邪魔になるっていうのはどういう意味?」
「いや、奥山を倒したんだし知名度も実力も充分知れ渡った気がするんだ。だからアンタは本当はすぐ戦争起こしたいんじゃないか?こんなのに構ってる暇なんてないんじゃないのかと思ったんだけど」
「バレてた?」
舌を出しながらてへぺろ!みたいなオーラを出しつつ特に悪びれる様子もなく答える。
「でもね、私は優先してその人を捕らえるべきだと思うよ」
軽い調子でレナは続ける。
「リア充と全面的に戦うんなら必然的に《イド》は敵になる。その時に例の誤解が解けてなかったら万が一負けた時にトウヤ君、大変な事になるよ?」
例の誤解とは俺がカツアゲ犯と思われている事か。ところで負ける気がサラサラないというところに突っ込むべきなのか。答えを出すより早くレナは続ける。
「それに現状だと多少の強さは知れ渡ってもまだカリスマ性が足りないんだよね。今、私達についてくる非リアなんてそうとうの物好きだよ。だから!トウヤ君の偽物だよ!捕まえて実力を示してイドの落ち度を糾弾してついでに非リアの尊敬も集める!完璧だよこれは!」
「コイツ……俺の境遇をテコ入れに使う気だ!」
こっちは人生が掛かってんだぞふざけんな!
「そこは本気でやるから大丈夫だよ!そうだ、ミハギちゃんも引っ張り出そう!この案件なら来てくれるでしょ。……じゃあまずは兄さんに頼んで銀髪オッドアイの少年を探してもらわないとね。それまではどうしようかなー」
こうしてスマホ片手に着々と手際良く事を進めていくレナ。その様子だけ見ると遠足か何かをウキウキで準備する小学生のようだ。こうして事態はゆっくりゆっくりと動いていく。それを楽しいと感じるようになったのは戦闘狂になったからか、それとも一つの青春のカタチを見つけてしまったからか。どっちだとしても俺はそれを認める訳にはいかないのにな。




