性格改変
――私とリンカちゃんは幼稚園の頃からの知り合いだったの。その頃はリンカちゃんはハキハキしてて友達もたくさんいたのよ。むしろ私の方が引っ込み思案でいつもリンカちゃんの後に着いて行ったくらいよ。
そしてとても素直な子だったわ。大人が小さい子供にはみんな仲良くしなさいとか、ポイ捨てはするなとか色々言われるじゃない?あの子はその大人に教えられた、言い方は悪いけど「綺麗事」を忠実に守ったの。他にも大人しい子を虐める子は許さなかったなあ。
「ミハギちゃんを虐めちゃダメ!」なんて言って守ってくれたわ。ふふ、さっきのあの子からじゃ想像つかないでしょ?
私と知り合ったのもそれがきっかけよ。他にもね、いかにも優等生って感じの行動を取って、周りの子を引っ張っていくリーダーでもあり今とは正に対照的だったわ。
ただ、小学校に入ってリンカちゃんは変わったわ。実際には変えられたって言った方がいいのかもしれないわね。
小学校に入って人間関係がガラリと変わったのよ。住所の関係でかなりの友達が違う小学校へ行ったの。これはよくある事だしそれでもリンカちゃんなら友達くらいすぐに作れると思ってた。
でも、現実はそう簡単にはいかなかったのよね。ハキハキしてきちんとした生活を送るリンカちゃんはその学校では所謂「うざキャラ」として見られたの。
友達を作る機会は完全に失われて幼稚園の頃の友達もみんなリンカちゃんと距離を置くようになったわ。そうしないと自分が友達を作れないから仕方ないのかもしれないわね。……小学校なんて友人関係が全てなんだし。
この頃からみるみるうちに口数が少なくなって自分への自信が無くなっていったように見えたわ。塞ぎ込んでた時期もあった。だから今度は失敗しないようにその学校の人間が受けないようなここの中学に進学したのよ。
私も必死に勉強して一緒の学校に受かったわ。勉強は大変だったけど嬉しそうに教えてくれるリンカちゃんを見てると頑張れたわ……。
目論見通り、何人も公立の小学校から進学校へ行けるわけなんてなくて私とリンカちゃんの2人でこの中学へ来たわ。完全に周りの人間関係をリセットする事に成功したのよ。でね、その入学式の日に彼女は私に言ったの。
――今度こそは、ちゃんと、友達を作るから……。
そう言ってリンカちゃんはいつも人が集まってるようなグループに入ったわ。初めはその事を嬉しそうに私に報告してくれてたんだけど、気づいたら私と会う時間が無くなっていったのよ。それ自体は少し悲しいけどそんなものかって思ったわ。
沢山の人と繋がりを持ったら時間がいくらあっても足りないものね。ただ、たまに見かけるリンカちゃんの顔がとても辛そうだったのがどうしても気になって。ストーカーみたいだけどあの子がどんな生活を送っているのか調べたのよ。
そうしたら宿題や掃除当番をやらされたり、何かと奢らされてたり……。しかも複数のグループからそんな事を要求されてたのよ。リンカちゃんは私に何も言わなかった。
多分私に迷惑をかけさせないためなんだってその時は考えたわ。でも私はあの子を放って置くことはできなかった。我慢できなかった。
だから今度は私が助けないとって思ったわ。丁度その頃に私の《植物》って《自我》が目覚めたから、この力はここで使うべきだとも思ったわけ。
それから私は《植物》でリンカちゃんを利用していた人達を片っ端から痛めつけて二度と関わらないように言って回ったわ。ナメられないような口調や性格を意識したり、私自身もこの辺りですっかり変わったわね。
そうして殆どのグループは排除できたわ。ただ一つ、マリアのグループを除いては。ずっとリンカちゃんと一緒にいたから中々接触できなくて。でも最後のターゲットだったからリンカちゃんのいる前に出て行って言ったわ。あの出来事は今でも鮮明に覚えてる。
「これ以上リンカちゃんを利用するなんて許さないから!」
そうしたらね、リンカちゃんがこう返したのよ。
「もしかして、他の友達が話しかけなくなったのも、ミハギちゃんのせい……?」
「ねえ、聞いてリンカちゃん。あの人達は友達じゃなくてただあなたを利用していただけの……」
そこからは信じられない答えが返ってきたわ。
「……そういうの、止めて欲しいんですけど……」
「えっ、リンカちゃん、何を言って……」
「あの人達もこの人達も皆私の友達なんですけど……。私といつも一緒にいてくれる大事な友達なんですけど……。これ以上私の友達を奪わないで、欲しいです……」
これには流石に私も我慢できなかったわ。
「ねえ、目を覚ましてよ!友達なら私がいるじゃない!ずっと私が一緒にいるから!私が――」
「ねえ、さっきから聞いてたら随分勝手な事言ってくれるじゃん?アタシはリンカの友達だしぃ。大事な友達を利用するなんてできるはずないしぃ」
「勝手なのはそっちじゃない!」
「そうかなぁ?アタシはアンタの方がリンカを利用してるように見えるけどぉ?自己満足のためにリンカの人間関係を操作しようとしてなあぃ?」
「ミハギちゃん、そうなの……?」
「えっ……いや……私は、そんなつもりは……」
「反論できないって事は図星じゃぁん?これ以上リンカに迷惑をかけないでくれるぅ?」
そうして離れていくあのグループ。リンカちゃんも当然それについていって、でも私には止めようがなくて――。
……それからもあの人達の様子は見ていたわ。どうしてもコンタクトは取れなかったけどね。リンカちゃんの邪魔にだけはなりたくなかったから。
*
ひとしきり語り終え口を閉ざす彼女。その沈んだ表情は拒まれた過去を思い出したからだろうか、彼女の状況に同情しているからか。しかし少しの沈黙の後、落ち込んだ口を結びこちらをじっと見据えゆっくりと口を開いた。
「……貴方達は、そんな生活を3年間続けてやっと見つけたあの人達に立ち向かってくれる人。例え動機がリア充への八つ当たりでも、正義感や仲間思いな部分があるのはさっきの一件で分かったわ。だから、どうか私に力を貸してください」
深々と頭を下げた友達思いの少女を見てレナが問うてくる。
「どうする、トウヤ君?」
「……」
そんなの聞くまでもないだろ。こんな風に頼まれて断る事なんてできるかよ、俺に限って。俺だって1人じゃどうにもできない状況に追い詰められて、最終的には助けを求めた。
だから彼女の気持ちが自分だけじゃどうにもできない無力感っていうのが人よりも分かる気がする。
――放っておくなんてできない。
「俺は全力でこいつの助けになる。レナもそのつもりだろ?」
「そりゃあね。この子達の事はどうにかしたいと思うし。おまけに、」
レナは言葉を区切り、こちらに悪戯っぽい笑みを向けて言った。
「誰かさんよりはよっぽど素直な頼みだしね」
「違いないな」
これには流石に笑うしかない。やっぱこいつも同じ事考えてたか。
「まあ、これで方針は決まった。さてこっからどうするかな」
「とりあえず今日は帰ろうよ。今からあの人達を追いかけてもどうにもならないよ。また日を改めよう」
「そうだな。また明日集まるか。それでいいか?えーと……」
ヤバい、名前が出てこない。人の名前が覚えられないのは非リアの基本だがここまで身の上話を語られて、しかも助けられてるのに名前を覚えてないのは流石に非常識ではないだろうか、俺。
「ミハギって呼んでくれればいいわ」
そうだ。そんな名前だった。
「じゃあ、明日もここで待ち合わせしましょう」
こうして俺達は経緯はどうあれターゲットを定める事ができた。その帰り道にレナが呟く。
「私達さ、あの子達を助けられるのかな。仮にマリア達を倒したとしてそこからどうすればいいのかな」
「そこから先はミハギの行動次第じゃないか。俺達は元々部外者なんだしそれ以上の手出しはできないと思う」
「……そうだよね。目に入るリア充は全員倒すだけ。今回もそうするだけだよね。……できれば、ああいう非リアの子を精神的にサポートできたらよかったんだけどね」
そう答えるレナの顔はいつものような明るさは無かった。こんな顔は俺の知るレナには似合わないと思った。ただ、そんな暗い表情を俺は知っている。
――昔の俺だ。原因はもう忘れてしまったが。やっぱりこいつも過去に何かあったんだよな。そこそこ一緒にいるんだしそれについて聞いてみたいと思ったりしてしまう。
が、その好奇心は無理矢理抑え込む。俺は非リアだ。他人の過去なんて気にする人間じゃないだろう。そもそも一緒に過ごした時間なんて普通の人間からすれば微々たるものだ。人付き合いが無さすぎるから長く感じているに過ぎない。だからそれについては触れない。
その代わりに、
「まあ、ミハギだって多分3年間考えなしで過ごしてた訳じゃないだろ。最後はどうにかするだろうさ。あいつの気持ちはきっと届く」
なんてガラでもない事を言って、遠回しに、分かりにくいだろうけど励ます事にした。




