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人でなしのリア充

「さて、街まで来たけどどうしよう?」


「冷静に考えたら人が多いところで襲ったらすぐに周りのリア充が加勢する気がするよな。それは避けたいんだけど」


 勢いで近くの繁華街まで来たものの、こんな所に俺達の居場所なんて無かった。むしろ完全アウェーだし。


「リア充は1人見つけたら30人はいるよ。ここはちょっと危険かもね」


 ゴキブリみたいな喩えはやめろ。そんなにいてたまるかっての。


「じゃあどうするよ?」


「そうだね……トウヤ君のお気に入りの狩場はどうかな?」


 狩場って……あっ。


「なるほど、あそこならありだな」


 そうして俺達は俺のホーム、レナと初めて会った場所へとルート変更した。



 例の閑静な公園。悪くないデートスポット。俺からすればカモの巣窟なんだけど。ここはリア充の足が絶える事は無い。それでいて人が多すぎるというシチュエーションにはなった事がない。


 少なくとも俺が足を運んだ時にはなかった。やはり周りのリア充が空気を読んで来ないようにしてんのかな。実は予約制度があったりとかして。


「で、どうする?レナは不意打ちとかやりたくないんだっけ」


「いや、そうでもないよ。ただ、奇襲じゃどうにもならない相手がいるからそのための経験を積みたいって思っただけだよ。でも、たまには奇襲も悪くないよね?」


 どうやらその手の経験はあるらしい。まあ、レナの《自我》を考えたら奇襲メインになるのは当然か。

 俺のペイント弾を自動生成できるようなもんだしな。言うが早いかレナは即座に姿勢を低くし周囲への警戒を始める。


 それでいて殺気を漏らすような真似はしない。指の隙間には既に《麻酔針》が挟まっている。こいつ手慣れてるな。


 俺も《真奈》を構え、それに続く。2人と言ってもやる事は変わらない。淡々とリア充の動きを封じるだけだ。レナはベンチに座っているカップルを見つめている。


 という事は俺はブランコに乗ってる奴らか。了解。そしてレナは針を挟んでいない手の平を俺に見せ、指を1本ずつ折っていった。


 カウントダウンに合わせりゃいいのか。程なくしてレナが握り拳を作る。それに合わせて《不可視ん条約(ノーアグリッション)》を使い、《真奈》の引き金を絞る。


 閑静なこの場所だと音がよく響くが、カップル程度の相手なら反応されないだろう。その弾丸は空気もムードも全てを切り裂く。しかし


「させないからぁ!」


 かん高い女の声が聞こえ、突如長い紐のようなものが背後から現れ俺の弾、レナの針を絡め取った。意思を持ったように動くその紐はこちらへ向けてそれらを投げ返した。


「トウヤ君、当たらないでよ!」


「分かってる!」


 アレの危険性は俺達が1番良く知ってる。一発でも擦れば終わる。当たらないように必死で躱す。とにかく絶対に当たっちゃいけない。大きく飛んで弾の届かない範囲まで移動する。とりあえず何発か撃って牽制しないとな。


 受け身を取り、狙いを女に向ける。髪は背中まで届く程長く――レナのように結んではいなかった――やたらと明るい茶髪。


 非リアの俺でもこいつが化粧をしてるのが分かった。それだけ見た目が派手だった。


 こいつ、鬱陶しいな。本能的にそう感じ、《綾》を構える。多少の怪我は甘んじて受け入れてもらおう。


「はっ……?」


 だが《綾》のトリガーを引けない。


 いや、それ以前に全く体が動かない。まさか《麻酔》に当たったのか?だがアレは針であるが故に痛みを伴うはず。じゃあこれはあの女の《自我》なのか!?


「あの子に、注意を向け過ぎなんですけど……」


 そう言いながら後ろから誰かが出てくる。こちらはさっきの派手な女とは対照的だった。身長は小さくショートヘアの黒っぽい茶髪と組み合わさった見た目は少女のようなイメージを持たせる。大人しそうな雰囲気はあの女と一緒にいるのが不自然なくらいだった。


「リンカの《自我》からは離れられないし!」


「困ったね~どうしちゃう?」


 他にも5,6人の仲間がやってきたようだが、正直言って紐を持ってる女と区別がつかない。俺に触れている奴以外は全員が全員派手なだけでまるで金太郎飴のようだ。違いが分からない。


「いつの間に後ろに……」


 俺のその問いには例の紐の子、恐らくリーダー格であろう女が口を開く。


「アタシたちぃ、校門出た所からずっと後をつけてたからぁ。最後まで気づかないとかマジで無いわぁ」


 ずっと尾行されてた事に衝撃を覚えた。そんな執念深い奴はリア充にはいないと思っていたからだ。


「何が目的なんだ?」


「決まってるっしょ。どうせ卑怯な手を使って先輩達をやったんでしょぉ。だから私達がアンタ達を倒してそれを証明すんのぉ。実力じゃ決して勝てない弱虫だって事をっ!」


 いちいち声がカンに触る。教室で聞こえてくる分には寝たり音楽聴いたりで無視できるがこの状況だとそうもいかない。


「そんな紐ごときで俺らをやれるとでも思ってんのかよ」


 鬱憤を晴らして冷静になるべく挑発してみる。あわよくば能力を喋らないかという期待も込めている。


「これは体操で使うリボンなんだけどぉ、アタシ達の《自我》ならこんな事ができるのよぉ!!」


 その合図と共に派手な女全員がリボンを取り出し、振り始める。始めは到底俺まで届くような長さではなかったのにそれは再現なく伸びていき、そしてしなる。


 俺の体へ容赦なく叩きつけられる布地。それは布とは思えない程の威力を持っていた。平手打ちのような感覚もあるがそれ以上に鋭い痛みがある。紙で指を切るようなものだろうか。ぱっくりと裂けた傷口が見える。


 間違いない。リボンを垂直にして俺にぶつけてる。


「トウヤ君、今行く!」


「そんな事させる訳ないっしょ」


 助けに来てくれようとしたレナの前に他の女がリボンを使い、それを阻む。柔よく剛を制すと言わんばかりに変幻自在の動きでレナを足止めする。


 おかしい。それにしてもおかしい。相手は複数だし攻撃回数が多いのは頷ける。


 だが今まで見てきたリア充はこんなネチネチとした攻撃だっただろうか……? 痛みに耐えながら考える事しか出来ない。何故か体を動かせないせいだ。


 何故というか原因は恐らく俺の服に触ってるこいつだ。さっき誰かが言ってたな。こいつの《自我》からは離れられないって。という事は触れてるものを動けなくする能力か。それにしても解せない。


「お前、俺の動きを止めてるんだろ。攻撃に巻き込まれてるけど平気なのかよ」


 そう、こいつはずっと俺に張り付いてるため共にリボンの餌食になっている。しかもあの女達がそれを気にしてる様子はない。


「別に、友達だから、耐えられるんですけど……」


 ――嘘だな。本当は痛くて仕方がないくせに。


 そんな事は俺は言えなかった。目に涙さえ浮かべて痛みに必死で耐えながらそんな事を言う奴に、俺はかける言葉が見つからなかった。ただただ痛ましいその光景は直視さえ躊躇われる。


 ……リア充にもこんな奴はいるんだな。いっそ俺が降参してやればこいつを救えるんじゃないだろうか。早くしないとレナにも危害が及ぶ。なら降参するのが最良の選択か。


 しかし、「俺の負けだ」そう言うよりも早くこいつに限界が来たらしい。


「きゃっ……」


 小さな悲鳴――元々声が小さいためかそれともダメージを必死に隠そうとしているのか――と共に彼女は倒れ、俺の服からその手が離れる。


 ――動く!


「レナ!一旦態勢を立て直すぞ!」


「トウヤ君、足!リボン来てる!」


 ハッとして下を見たが一足遅かったようだ。次はリボンが俺の足に絡みついている。


「逃がさないよぉ」


 例のリーダー格の女。どこまでもしつこい。さらにそいつは続ける。


「リンカぁ。早く立ってこの男を止めてよぉ。友達なんだし頑張ってよぉ」


 こいつ、絶対におかしい。リア充以前に人としてどうなんだ。


「ふざけやがって!」


 今は足が動かないだけ。つまり《綾》で反撃はできる。何が何でも一発お見舞いしてやらないと気が済まない。そんな怒りのような感情に突き動かされた影響か、恐ろしく速く腰の《綾》を抜けた。そして恐ろしく速く狙いが定まった。


 そのまま恐ろしく速く引き金を引いた。あの女が初めて恐怖に歪んだ顔を見せた。ああ、そうこなくっちゃな。少しくらいは痛い目に遭ってもらわないと。


 しかしその瞬間、周りの女は実際には俺よりも速く動いていた。地面に倒れているあの少女をリボンで絡めとり、そして――リーダーの盾にした。


「きゃあ!?……うくっ…」


 突如自分を襲った銃弾に呻く彼女。《重弾(じゅうだん)》と比べればすこぶる低い威力でも今の彼女にはキツすぎる一発だろう。


 俺もレナも何が起きたのか分からなかった。呆然とその場に立ち尽くし放つべき言葉を探す。その静寂を打ち破ったのはやはりあの女だ。


「はー、マジで危なかったよぉ。ありがとうリカぁ」


「これくらい友達として当然だし~」


 他の女もそれに合わせ仲良く笑い合っている。しかしそれは輪の外にいる俺達からすれば奇妙で狂っていて言葉にできない息苦しさがあった。


「……あっ、この人達まだ元気じゃん。みんなぁ、続きをやるよぉ?」


 リボンをうねらせあいつが言う。


「トウヤ君、どうする?……反撃する?」


「そんな事できる訳ないだろ……。」


 反撃をするのは簡単だ。しかしその度にあいつらは盾としてあの子を使うだろう。見ず知らずの人間でもここまでされれば可哀想だと思うのが人情だろう。その部分にリア充や非リアは関係ないはず。


 なら盾に使うあいつらは一体何と表現すればいい?


「反撃しないのなら一方的にやっちゃうよぉ。手加減はしないからねぇ」


「レナ、お前だけでも逃げろ。こいつらは《イド》とは違う!徹底的にやられるぞ!」


「そんなの分かってるよ!だから君を置いて行くなんて出来ないよ!」


「はいはい、美しい恋愛ごっこは他所でやってねぇ。非リアのお2人さん?」


 俺とレナ。2人纏めて倒す気なのか、集団で繰り出されたリボンは無秩序に動き俺達に迫り来る。せめて足のリボンさえどうにかできればレナを庇うくらいはできるのに。このリボンさえどうにか……えっ?


 見るとリボンがそこに生えた木によって引き裂かれている。――今ならば。


「間に合えっ……!」


 赤いマガジンを《綾》にリロード。ねらうはリボンの中心ただ一点。それでいて女の集団を狙わないように。今度ばかりは盾にさせてはいけない。


「《重弾》!!」


 レナの正面に割って入って引き金を引く。銃口からはサイズに合わない破壊力を秘めた切り札が、そしてそれに見合うだけの衝撃波が放たれる。俺とレナが踏ん張れる程ぬるい衝撃じゃないと豪語したのはサイガさんだったか。

 

 切り札足り得る威力を重視したんだっけか。派手に背後に吹っ飛ばされながら、リボンが爆散する様子を見る。


「驚いたけどぉ……まだスペアのリボンくらいあるんですけどぉ!」


 新たにリボンを放つ女。その時、突然バキバキと音がした。地面が割れた。そこから巨大な木が生えてきてリボンを遮った。俺のリボンを引き裂いた木によく似ている見た目だ。


「いい加減にリンカちゃんを虐めるのは止めてくれない?」


「はあ?アタシはこの子と友達だしぃ。いつまでもコソコソ後を追ってるアンタなんかよりずっと友達なんですけどぉ」


「勝手な事を言わないで欲しいわね」


「何ぃ?アンタも今ここで倒してあげよっかぁ?」


「出来もしない事を言わないで。悪いけど今はアンタ達よりもこの人達の方が気になるの」


 そう言って赤い長髪をなびかせながら闖入者は手を軽く振り、それが描いた軌跡から花びらが生まれる。恐らくこれが闖入者の《自我》か。


「こっち」


 手を引かれて彼女について行く。さっきの奴らと因縁がありそうだったしついて行って間違いは無いだろう。


「あーあ、逃げられちゃったぁ。追うのは面倒だしやめておこうよぉ。どうせその内またやってくるだろうしねぇ?」


 そんな言葉を背中に受けつつ、必ず痛い目を見せると心に誓いその場を後にした。




「ねえ、一体どこまで行くの?」


 流石に逃げ疲れたのかレナが問いかける。


「もう着いたわよ」


 そこは人気のないカフェだった。中に入り、ここまで連れてきた彼女とテーブル席につく。


「あ……さっきはありがとう。助かった」


 まずは礼を言っておかなければ。間違いなく彼女がいなかったら詰んでた。


「別にいいわよ。逆にこっちこそお礼を言わないといけないくらいよ。最後の弾丸、わざとマリア達を狙わなかったんでしょう?リンカちゃんを守るために」


 マリアってのがあのリーダー格の名前か。しかと覚えたぜ……。


「なあ、アンタは誰なんだ?あのマリアって女の集団とリンカって子とどんな関係なんだ?何があったんだ?」


「自己紹介が遅れたわね。私は黒谷(くろや)ミハギ。最近有名になった旭トウヤ君と水無川レナさんにちょっと頼みたい事があったんだけど。その前にまずは話を聞いてくれない?」


 そう言って彼女は昔話を語り始めた――。



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