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再び、共闘

 基本的に生徒は旧校舎に立ち入らない。別に立ち入り禁止にされている訳ではなく、単純にここで行われる授業が少ないというだけだが。


 授業以外で用もない校舎で時間を過ごす生徒というのは珍しい。多くの学生にとっては大事な大事な青春時代。こんなところで油を売っている場合じゃないんだろうな。


 だからここでは《自我》を思い切り使ってもいいと斉藤は判断したのだろう。後ろを振り返ると、思い切り振りかぶっているのが見える。


「《死球式(ファーストブレイク)》っす!」


 辺り構わず縦横無尽に暴れる硬球。一見、さっきまでと同じに見えてしまうがこれは違う。


 これまでのボールはある程度計算して的確にこちらを狙っていたように思えた。ところが、今放たれたものはそんなものはどこ吹く風とでもいうように無秩序に動く。見えない、さらに動き回る俺に対してとにかく当てるつもりか。しかしボールはあまりに無茶苦茶に動くので壁にめり込んでしまう。


「隙ありだな」


 そう言って《真奈》を構え、《不可視ん条約》を解く。そしてよく狙いをつけようとして……やめる。攻撃の代わりに大きくバックステップ。何故そうしたかと言われると正直言って何となくだ。何となく身の危険を感じたんだ。

 

 恐らく気のせいだろうが、一瞬、あいつの顔に笑みが浮かんだような気が……。


「君、カンがいいっすね」


 突如、辺りに響く爆音。その言葉を聞いた時には横の壁は木っ端微塵になっていた。


「何だよ、これ……」


 直径1メートル程だろうか。そんな穴を空けられるとかおかしいだろ。こんなの喰らったら死ぬ気がするんだけど。


「僕が《回転》を掛け続けている限りこの球は止まらないっす。壁を破壊しながら進んでも減速なんてしないっすよ」


「くそっ!」


 毒づきながら苦し紛れに何発か発砲。そのまま近くの教室に入り込む。


「あれ、そんな所に入って大丈夫なんすか?また行き止まりっすよ?」


「ここに道があるだろっ!」


 窓をものすごい勢いで開け、飛び込む。レナの見取り図にはベランダが描かれていた。それがここ。俺はそのままベランダを進み隣の教室へと移動する。


「簡単には逃げられないっすよ!」


 《死球式》は壁を破壊し斉藤はそこから現れた。下手にベランダに回っている間に逃げられる可能性を考えたのだろう。だが残念だったな。


「これは……」


 今、斉藤はこの教室に逃げ込んだ俺を視認できていない。ベランダからこちらへ移動したあの短時間で隠れたから。さて、バレずに済むだろうか。


「早く出てくるのが身のためっすよ」


 何だそりゃ。悪役みたいな台詞を吐くなあ。まあ大人しく姿を見せるのが身のためだってのは分かる。でも、まだそれには少し早いんだよな。


「そうっすか。出てこないっすか。とりあえず、怪我しないように気をつけて欲しいっす」


 それだけ言うと、辺りの人が隠れられそうな所を手当たり次第に破壊する。ロッカー、教卓、1クラス30人程のための机。全てが瓦礫に変わる。役目を失った無生物が山を織り成す。だが、そこに非リアという名の生物はいなかった。


「これは……どういうことっすか!?」


 斉藤が叫ぶ。


「レイジが相手だったらすぐにバレていただろうな」


 天井から飛び降り照準を斉藤に合わせ引き金を引く。


「そこっすか!」


 吠えながら斉藤は両足を浮かせる。支えを失った体は急速に地面へと吸いつけられる。弾道は虚しくその上を通り過ぎるのみ。流石の運動神経か。どうやら身のこなしではレイジと引けをとらないらしい。


「くそっ!」


 俺は回転しながら着地して衝撃を減らす。その勢いを利用して教室のドアへタックルをかます。ドアを張り倒し、脱兎のごとく廊下を駆ける。まさか奇襲が失敗してしまうとは。


 本当はここで仕留めておきたかった。しかし今更そんなことを後悔しても仕方ない。やむなくこの鬼ごっこはしばらく続くこととなった。すぐにでも追いかけてくるであろう斉藤から少しでも距離を稼ぐため、速度を上げていく。


 ところで、レナは上手くやっているだろうか――。






「おいおい、もっと攻めてこいよ。針ごときじゃ俺は倒せねえぜ?」


「この……っ!」


 あんなことを言われても今の私には愚直に針を投げることしかできない。そもそも柴田の攻撃を避けるので精一杯なところもある。サッカーボールそのものが大きいから攻撃範囲が広い。ボールの周辺から放たれる衝撃波も相まって凶器と化していた。


 ほら、そんなことを思ってる間にまた飛んでくる。軌道を考えると上から下へと叩きつける感じかな。その後、床を突き抜けて下へ行くだろうし、そこで反撃を浴びせようかな。ボールが飛んでくるタイミングに合わせ体を傾ける。


「甘えよ」


 何?急に回転速度が落ちた。威力を落とす必要がどこにあるんだろう。それじゃ私を倒せない……。


「あっ……」


 いや、違う。威力を落とすのが目的じゃない。威力が落ちれば当然床を抜けなくなる。そうしたら……。


「きゃあっ!?」


 床、天井とバウンドした後、本来の回転速度を取り戻したボールが私を襲う。出来るだけ受け流そうと思った時には何メートルか先に飛ばされていた。


「ううっ……」


「倉庫でもバウンドさせてたろ?使い方はアレと同じだ。もう少し注意力があれば良かったな」


 それには答えずに背を向けて走り出す。とにかく離れないと。


「逃げられねえよ」


 柴田は冷徹に、口調と同じく淡々と私を攻め立ててくる。


「流石にこれは避けられないかな……」


 回避は諦めてガードを固める。上手く衝撃を殺して受け身を取って体勢を整えないと。


「だから甘えって言ったろ?」


 それからの挙動は予想外のものだった。ボールが、その勢いに任せて私を吹き飛ばすものだと思っていた。けれど、実際は強烈に回転速度を上げたボールが私を捉え、さらに回転数を上げていく。


「これって、まさか!?」


 そう、これは始めにグラウンドでトウヤ君が受けていた――


「きゃあああっ!?」


 次の瞬間には、私は教室のドアを突き破り、奥の壁まで飛ばされ、その場にうずくまる。反撃用に構えていた何本もの針が床に散乱する。いつの間に移動したのか、私の目の前に柴田はいた。鋭い目で私を見据える。ただ、その目は侮蔑を湛えている訳ではないような気がした。


「お前、あまり戦闘経験のようなものを積んできていないだろ」


「私だってこれでも多くのリア充を倒してきたつもりなんだけどね」


 少し棘のある口調になってしまった。馬鹿にされたのに腹が立ったってのもあるけど、それよりは――


「俺が言いたいのはそこじゃねえよ。気づいてるんだろ?その《自我》で一方的に勝つことはしても、純粋な戦闘そのものはしてないんだろ?だからお前は今こうして倒れているんだ」


「……」


 何も言い返せなかった。確かにほとんどは《麻酔》を使い、《自我》を発動させる前に倒していた。その辺りはトウヤ君と似ているかもしれない。だからさっき指摘された事は正しい。そして、自分は強いんだって思い込んでいたところもあった。そして今、実際にどうにもできていない状況に立っている。でも、


「まだ、負けてないから……」


「お前もかなりしつこいな。それなら、負けを認めさせてやるよ」


 そう言って柴田は足を思い切り後ろに引く。多分、本気でボールを蹴って、私が気絶するくらいの一撃を浴びせるつもりなんだろうな。でも、そうはならないから。パリン!と透き通る音が聞こえる。


 さらに、しゃっ!と切れのいい音が響く。どこからともなく放たれたその弾丸は柴田の軸足へと命中する。


「クソがっ!」


 罵るも、バランスを崩し彼は倒れる。反撃しようにも起き上がることができないようだ。その理由は私がよく知っている。


「それは私が作った《麻酔弾》。しばらくは動けないよ。グッドタイミング、トウヤ君」


 見事不意打ちを成功させた少年は何も言わず、ドアを閉め、再び走り出した。どうしてドアを閉めたんだろうと思っているとすぐに新たな声が聞こえた。


「窓から下の階に行くなんて無茶をするっすね!でも、ボールに乗って移動する僕からは逃げられないっす!」


 その声はどんどんと小さくなっていく。ドアを閉めたのは私達を気づかせないようにしたんだ。割とそういうところ考えてるんだね。


「さてと、私も追いかけなくちゃ……」


 そう言って動かそうとした足が動かない。


「何のつもり?」


 そこには私の足を両手で掴む柴田の姿があった。


「お前の相手は俺だ……!」


 そのまま足を引っ張られ、床に叩きつけられる。


「しばらく片足が動かない程度で倒せると思うなよ。こんなのは毎日の練習に比べたら問題にもならねえよ」


「流石、身体面は伊達じゃないか。でもね、そろそろ限界が来ると思うんだけどどうかな?」


「一体何を言って……!!」


 途端に足に加えられた力が緩む。これを振りほどくのなんて足を払うだけで十分だ。


「私ね、戦闘経験は無いけれど《麻酔》の使い方なら自身はあるんだよね」


 そう言って足元に散らばった、いや、()()()()()()針を指し示す。と言っても形を残しているのは少ないけれど。


「私の《麻酔》はね、気化させることもできるんだよね。吸ったらどうなるかは今、体験してる通りだよ。しばらくここで寝ていてね」


「お前は……どうして平気なんだ?」


「ねえ、有名な漫画にこんな台詞があるのを知ってる?」


 一呼吸おいてからしてやったって顔を作って言う。


「フグが自分の毒で死ぬ?」




「はあっ、はあっ……ったくしつこいんだよ!」


 無駄だと分かってはいるがそれでも時折発砲する。何かの拍子に当たってくれと祈りながら。走り回って頭に酸素が供給されていないのか、思考がかなりおざなりになっている。それでも俺は止まらない。一度止まってしまうと、もう起き上がれない。そんな気がするからだ。


「いっ!?」


 突如、足の動きがおかしくなる。斉藤のボールが膝に当たったのだ。その強すぎる回転は俺の歩みを容易に止める。


 このままでは最初の二の舞だ。飛ばされる前にどうにかしないと。待てよ、二の舞……これだ!


「その動きはっ……!」


「ああ、お前の物真似だ!」


 一気に体の力を抜く。支えを失った体は、斉藤がやってみせたのと同じように床へと飛び込んでいく。そして、俺の足はしなり、流れるようにボールを受け流す。恐らくここでボールはこちらを追尾してくる。しかしそんなのはもう分かってる。延々と疲れを知らずに追いかけると聞くと恐ろしいが、レイジの早すぎる連続攻撃に比べれば何てことはない。

 

 いちいち止まってくれるとか良心的かよ。だから対策だってその場で思いつける。


「はあああっ!」


 着地する直前に両手に力を入れる。同時に体を思い切り丸める。両手が床に着くとすぐに足を伸ばす。後は勢いに任せ宙へ逃げればいい。いや、躱すだけではいつまで経っても勝てない。


 そう感じた俺は《真奈》を引き抜きトリガーを引く。反撃の一発。


 これは流石に避けられなかったのか、斉藤が思い切り仰け反る。頭のヘルメットが飛んでいく。


「側転して避けるなんて中々にかっこいいじゃないっすか。ダンス部が無いのが残念っすね」


「だから入らねえって。そもそもリア充を倒すために鍛えたのに、それをリア充になるために使うなんて本末転倒だろ」


「過程はどうあれ、自分が身につけたものならどんな風に使ってもいいと思うっすけどね」


「つまり、こういう状況ならバットで人を殴ってもいいと言いたいのか?」


「ああ、そう考えるのもいいっすね」


 そう言って斉藤はバットを刀のように青眼に構える。ボールばかり投げていたのは、バットを使うのはタブー視していたからだろうか。いやボールを人に投げるのもダメな気がするが。まあ改造エアガンを使う人間にはそんな事を言う資格は無いんだが。


「行くっすよ!」


 突如、肉薄する斉藤。下がろうとするも背後にはいつの間に放ったのか、ボールが俺の自由な行動を許さない。


「これが本当の牽制球っすよ!」


 ふざけた事を言っているが作戦としては上手い。これには素直に感心してしまう。そんな事に気が回ったのはこれは避けられないと理解したから。諦めの感情に囚われてしまった。案の定、腹に強烈なスイングをもらう。レイジの終わらない衝撃とは対照的に、全身に突き抜けるような大きな衝撃が一度だけ。


 だが、この一撃が致命的だ。元々かなり無理をして走っていたのにそこからさらに強烈な一撃ときた。


「がっ……体に、力が入らないっ……」


 立ち上がろうにも足は動いてくれない。まるで脳と神経が切り離されたようだ。


「はあっ……はあっ……」


「無理は良く無いっす。君達は最近絡んできた生徒の中では群を抜いてたっす。それだけでも凄いと思うっすよ」


「はん、アンタに凄いと思われたところで嬉しくなんか無いっての。……それよりもアンタらをボコボコにする事の方が嬉しくなるんだよな」


「それは残念ながらできないっすね。出直してきて欲しいっす」


 地べたに這いつくばって動けない俺目掛けて斉藤はバットを振り下ろす。絶体絶命の時、時間がゆっくりと感じられるというがその感覚が今分かった気がした。


 どこを狙っているのか、どんな顔をして振り下ろしているのか、はっきりと見える。しかし見えたところで体は動いてくれない。反射を起こして飛びのく事くらいできても良かったのにな。


 ……そういえばレナはうまくやったのだろうか。


 最後に教室で見た時には追い詰められていた気がするが、俺の不意打ちが少しは効果があったはず。何とかなっていると信じたい。アレを試すことが出来なかったのも心残りだが仕方ないか。


 バットとの距離はもう数十センチといったところか。もう目で追っても無意味だ。目を瞑る。それは間もなく俺を襲うであろう痛みを耐えるためか、それともこの負けを認めたという現実を直視したくないからか。


 そのまま視覚を遮断していると不意に体が浮くような感覚があった。痛みは無い。痛覚が完全に麻痺してしまったのか。いや、何かに掴まれている感触は分かる。


 つまり痛みが無かったのはあの攻撃を受けていないからか?目を開いてようやく理解した、何が起こったのかを。


「何でここに……?」


 レナだ。彼女は俺に飛び込み、抱き抱えてその場を離脱する。体格が同じくらいとはいえ、負傷した体で俺を抱える時点でかなり無理をしたのだろう。数歩移動して2人して倒れこむ。


 その様子を見て、驚いたように斉藤が言う。


「水無川さん、まさか君は柴田を倒したんすか……?」


「違うよ。今はちょっと眠ってもらってるだけ。もちろん、君を倒した後に片付ける予定だよ?」


 女子が使う言葉としては多少物騒だがこれはサイガさんの教育の賜物だろう、多分。ただ、今はそんなレナが少し頼もしい。こいつに負けないように俺も頑張らないと。


 そう決意すると不思議と立ち上がることができた。


「まさか、あれを受けて立ち上がれるなんて、本当に驚かせてくれるっすね」


「別に何て事無い。2対1なら勝てそうだし、そう考えると元気が出てきただけだ。単純だろ?」


「数がいるだけじゃ勝てないってアドバイスしたいところっすが、君達ならあながち間違ってないかもしれないっすね」


 は?何だそれ。自分が不利なのを認めたのか?俺の考えてるいつでも前向きなリア充とは何か違うな……。


「いや、勘違いはしないで欲しいっす。君達のチームワークに感心しただけっすよ。上手く僕らをバラバラにして1人ずつ狙う。これを思いつくだけでなく成功させたことには賞賛を送りたいっす」


 そこで言葉を切り、片手にボール、片手にバットを構えて続ける。


「けれども僕は自分が負けるなんて少しも思っていないっす。柴田の出番も頂いていくつもりっす」


「だってさ、トウヤ君。今のあの人を倒せばスッキリすると思わない?」


「そうだな。ああいう奴を倒したかったんだよな」


 俺達も戦闘態勢を取る。これで準備は整った。ここまでこぎつけた事に喜びたい気持ちもあるが、それは一旦置いておこう。そういうのは勝った後に楽しむものだ。


 定刻を告げるチャイムが鳴り響く。その音と同時に俺達は、今度は2人でリア充へと襲いかかった。



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