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体育会系な標的

 月曜日がやってきた。イドとの一件で犯罪者のレッテルを貼られていないか不安だったが、幸いなことにそれは無かった。どうやらイドは情報を流さなかったようだ。まあ、不確かな情報を流してもし違ってたらヤバいもんな。


 だから今日の授業はのんびりと過ごせた。誰も俺のことを何とも思わない、そんな日常。不可視を常時発動しているようなそんな毎日。これが、今日で終わってしまうのか……。そう考えると少し切ない。いや、そもそも明日からも変わらず相手にされない可能性の方が高いか。自意識過剰かもしれんね。今日はそんな風な、例えば遠足の前日のような浮ついた気持ちで学生の本分を全うした。



 空は夕焼けに紅く染まっている。同じように紅く照らされた校門で彼女は待っていた。


「遅いよ」


「悪い、サイガさんに《綾》達を返してもらって試し撃ちしてた」


「そうなんだ。それで使い勝手はどうだった?」


「凄いな。もはや兵器並みだった」


 そう言うとレナは自分が弄った訳でもないのに満足そうに頷いた。


「うん、それは良かったよ。兄さんは中の部品を実銃の物に交換してたしね。それくらい当然だよ!」


 ……銃刀法が緩くて助かった。でも、その原因は武器より厄介な自我のせいだからなあ。どちらにせよ、危険人物にはなってしまうのか……。


「じゃあこれからリア充を襲いに行くけどいいかな?」


「それはいいけど誰をやるんだ?」


「野球部の斉藤君とサッカー部の柴田君かな」


 そいつらはこの学校に来たばかりの俺でも知っている有名人だ。どちらも部のキャプテンで高1の頃からチームに貢献、全国大会で二連覇を経験している圧倒的リア充だ。相手にとって不足は無いだろうが……。


「いきなり喧嘩じみた真似して大丈夫なのか?周囲の目もあるのにさ」


 問題はこの攻撃そのものが罪に問われる場合だ。何を今更という感じはするがここは聞いておきたいところだ。ほら、いつもバレないようにそういうことやってたから抵抗があるんだよな……。


「ああ、それなら問題は無いよ。あの手の人間はこういうのを練習の一環だーって感じで相手してくれるよ」


 それはいくらなんでもノリが軽すぎるだろう、絶対練習にはならないと思うぞ。


「それに怪我はすぐに治せるし私達を迎え撃てる自我も持ってるしね。遊びの1つと考える人も多いみたいだね」


 つまりこれはアイツらの学校生活を彩るイベントの1つとなってる訳か。そんな楽しいものにさせておくのは腹が立つな。


「よし、やってやる。泣かせてやる」


 そう言って自分を奮い立たせる。そんな俺を見てレナは、


「張り切ってくれるのは嬉しいけど、気をつけてね。もしかしたらイドの時よりも酷い目に遭うかもしれないから」


 と言って俺を置いて進んで行く。


「おい、待てよ!つーか、さらっと物騒なこと言わなかった?」


 慌てて俺も追いかける。時刻は夕方。彼女の結ばれた髪は夕日に照らされていつもより眩しかった。





 グラウンドでは多くの学生が今日も汗を流して懸命に練習に励んでいる。俺はそういうことは馬鹿馬鹿しいとは思わない。ただ理解ができないだけだ。そんなことをして辛くないのか?しんどくないのか?

結果を出せないとろくに試合も出られないのに何故やるんだ?人間関係も含め、窮屈じゃないのか?


 ただその行動理念が理解できない。だから俺はコイツらを異質なものとして見てしまう。それとは別にリア充という存在が嫌いというのもあるかもしれないが。


 そんな事を考えながら2人して運動部員を眺めていた。するとレナが突然立ち上がってその細い腕を横に降る。倒れる部員たち。間違いない、コイツ……。


「《麻酔》を撃ったな?」


「撃っちゃ悪い?」


「やってることが俺の不意打ちと変わらないじゃねえか!」


「いやいや、本番はこれからだよ?ほら」


 そう言って指し示した先にいるのは2人のクラブ員だ。1人は丸刈りで活発そうな印象を与える野球部員。もう1人は襟につくくらい髪が伸びている。目つきは鋭く野球部とは対照的にクールな感じを漂わせるサッカー部員だ。


「初めまして。僕は野球部主将の斉藤っす。こっちはサッカー部主将の柴田っす。今、僕らの部員を倒したのは君達っすね?」


 斉藤だっけ、そいつがそう尋ねてきた。いきなり《麻酔》を使ったことに対して怒りもしない。さっきのレナの口ぶりから察するに、こういうことには慣れているのかもしれない。


「そうだよ」


 悪びれもせずにレナが即答する。柴田の顔が一瞬険しくなった気がした。その横で坊主頭の少年が言う。


「これはよくある戦線布告とみていいんすよね?」


「そうだね」


「目的は?」


「何というかリア充っぽいオーラを出してるのが不快だから、かな」


「本当にそんな事を考える人達ばっかりっすね、この学校は。いつもみたいに根性を叩き直すっすよ、柴田!」


「俺はこういう奴らはあんまり相手にしたくないんだがな……」


 そう言って溜息をつく。この部分だけみるとあまりリア充らしさは感じられない。いや、さしものリア充さんにも多少の好き嫌いはあるってことなのか。まあ俺ら以外にも似たようなことをしてるのはいるみたいだし。リア充特有の悩みかー大変だなーってくらいには理解しておくか。


「いやいや、これも1つの練習っすよ!彼らのためだけじゃなく僕らのためにもなるっすから」


「ああ、それもそうだな」


 ならねーよ!心の中でそう突っ込む。コイツらの思考回路は一体どうなってんだ。こんなのとは絶対分かり合えないねえ。


「ところで、来ないんすか?もういつでもいいっすよ」


「だってさトウヤ君。作戦通りに行くよ!」


 そう言って駆け出す。合わせるように俺も走りだす。レナが視線の先に捉えているのは……サッカー部の方か。レナの標的を察した俺は《綾》と《真奈》に手を伸ばす。試し撃ちした時にも感じたが重量まで軽くされている。流石はサイガさんだ……。


「っ!」


 レナの針を避け、飛び退くリア充2人を睨みつける。狙いを定め発泡。


「な、早いっす!!」


 斉藤は驚きながらも噂通りの運動神経を見せつける。握られたバットは弾の軌道を全て変える。ここまではレイジと戦った時と同じだ。――ここまでは。


「うわっ、思ってたよりも凄いね。もはや有害玩具の域を超えてない?」


「最近はこんなものまで売ってるんすか。危ない世の中になったもんっすね」


レナ、斎藤のコメントを聞きながら斉藤のバットが抉られている事に気づく。さっきの弾丸の威力を何よりも物語っている。数発で折ることは叶わなかったが、これなら折ることもそう難しくはない。そう思えるくらいには強力だった。


「これなら……いける!」


「ちっ、厄介なものを持ってきやがって……」


そのままサッカー部に狙いを変える。二挺拳銃でとにかく撃つ。ある程度狙いはするが本当の狙いは攻撃以外にある。弾速は上がっているはずなのに柴田は紙一重で避け続ける。


 頼む、早く動いてくれ……。瞬間、柴田が左足を上げ、避ける動作を行った。もしかすると《自我》か何かを使うのかもしれないがそんなことは今は関係ない。即座に柴田を支えている右足に全弾を注ぎ込む。


「てめえっ…!」


 上げた左足で飛んでくる弾丸を蹴り返す柴田。痛みを感じないように見えるのは日頃の練習の賜物か、はたまた自我の効果なのか。どちらにせよアンバランスな姿勢で蹴ったのだ。体勢を崩すのは必至。生まれた隙はいくら練習をしようと、どうしようもない。


「レナっ!足だ!足を狙え!」


「分かってるよ、任せて!」


 斉藤を大量の針で牽制しつつ、レナは数本の針を飛ばしてくる。こちらをろくに見ていないにも関わらず、言った通り柴田の足に突き刺さる。誰が見たって絶好の機会。追撃を与えるべく俺は倒れているサッカー部の元へ走って行く。


 走りながら考える。さて、ここからどうする?レナはリア充を倒すとか言っていたが具体的にはどうすれば?幾ら何でも殺したりはしないだろう。じゃあ気絶でもさせるか?いや、ただそれだけでは恨みを晴らした感じがしねえな……。


 やっぱりそれっぽく殴ったりしとくかな。そうだ、威力よりも見た目を重視しよう。派手に攻撃しまくって空中に飛ばそう、レイジみたいに。どうせ反撃はされないしな。まずは蹴りから入ろうか。そしてそこから――


 どうっ!鈍い音、腹部への衝撃。チリチリと音がする。


 音?一体何が起こってるんだ?見ると服にはサッカーボールが食い込んでいて、ということは――


「うわっ!?」


 いきなり俺の体が回りだした。ものすごい勢いで。纏まりかけた思考が霧散する。気がついた時には柴田ではなく俺が空中を舞っていて、そのまま近くの体育倉庫に突っ込んでしまう。だがこれで終わるほど俺は間抜けではない。


「そう簡単に負けるかよ!」


 倉庫の壁に足を伸ばす。よし、ギリギリ届いた。そのまま思い切り力を加える。反作用を受け飛ばされた方向が変わる。いや、変えたのだ。俺が飛んで行く先には、跳び箱で使うマット。薄くて硬い残念なやつじゃなく、分厚くてフカフカしてるやつ。名前は知らない。そのマットは果たして俺の体を包み込んでくれた。かなりの衝撃を受け流すことに成功しダメージはあまり感じなかった。


「それにしてもサッカーボールを使うとか、いかにもな《自我》だな。……もしかしてこれを奪えばあいつは自我を使えなくなるんじゃないのか?」


 そう考え、風穴を空けてやろうと綾を構えようとした時だった。息を吹き返したようにサッカーボールが回転を再開したのだ。ボールは俺を突き飛ばし、そして近づいてきた柴田の元へと戻って行く。


「そういえば何で動けるんだ?針は刺さってるはずなのに……」


「ああ、それなら効いてねえぞ」


 そう言って彼はソックスを降ろす。現れたのはプラスチックの薄い板。これが麻酔針を防いだのか。


「シンガードつって、サッカー部はみんなしてるぜ?調べが甘かったな。……おっと」


 急に柴田が屈んだ。その背後からは、


「きゃあっ!?」


 急にレナが飛んでくる。自分の体とマットを利用して上手く受け止める。


「ありがと、トウヤ君」


「レナもアレを喰らったのか……。中々ヤバいな、こいつら」


「だから言ったでしょ。気をつけてって」


「できれば、能力の説明とかしてほしかったな……」


 見るとスポーツマン2人が入り口を塞ぐようにして立っている。


「どうっすかお2人さん?僕らの《自我》――《回転》はっ!!」


 ここで俺は、ようやく思い出した。リア充を倒すのに生半可な気持ちじゃいけない。こいつらは俺の完全上位互換だ。手段を選んだり、呑気に構えてていい相手じゃなかったんだ。何がそれっぽく殴ろうだ。馬鹿馬鹿しい。


 そうだ、やってやんよ。あらゆる手段でもって、ズタボロにしてやる。



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